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婚約破棄されたので世界を護っていた魔力を回収して自由になります  作者: 硝子細工の森


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3

 王都は、文字通り地獄と化していた。


 かつて王都の象徴だった黄金の城壁は、今や魔獣たちの爪によって無残に引き裂かれている。街を覆っていたレイリアの加護の残滓も失われていた。


 アルベルトは、王城の玉座の間で呆然と立ち尽くしていた。足元では、つい数時間前まで高貴な衣装をまとっていた貴族たちが、埃と血にまみれた姿で這いつくばっている。


「嘘だ……嘘だと言ってくれ! なぜだ、なぜルイーザの祈りが通じない!?」


「殿下、もう無理です……! 私の魔力は、レイリア様が張った結界の微調整を手伝える程度でしかなくて……!」


 ルイーザはぼろぼろになったドレスを身にまとい、涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔をしていた。必死に唱えていた癒しの祈りも、魔獣たちにとっては心地よい音楽でしかなかったらしい。むしろ、その微弱な魔力の輝きが飢えた魔獣の嗅覚を刺激し、呼び寄せる結果になっていた。


「私の力は、あの方のように世界を書き換えるものではありません……! 私の聖女の力は少しの怪我を直したり、結界に魔力を注いだり出来る程度なのです……!」


 その泣き言を聞き、アルベルトは愕然とした。


 彼にとって「聖女」とは、レイリアのように強大な力を持ち、世界を支配できるものだったのだ。それが平民出身のルイーザで代替できると信じていた自分の浅はかさが、この国の滅亡を早めた。彼は今さらになって、その事実を思い知らされていた。


 その時、王城の扉が凄まじい衝撃音とともに粉砕された。


 姿を現したのは、かつてレイリアが指先ひとつで追い返していた魔王軍の幹部――二つ名を「骸骨の支配者」と呼ばれる魔族だった。


「……ケケケッ。なんとも滑稽な光景だ。結界の輝きを失った王城など、ただの肉の保管庫に過ぎぬな」


 魔族が歩くたびに床の石材がひび割れ、玉座が粉々に砕け散る。


 アルベルトは震える足で立ち上がろうとしたが、恐怖のあまり膝が笑い、まともに立つことすらできなかった。


「ま、待て! 私には王家の血が流れている! お前たちのような獣が触れていい身分ではない!」


「王家の血? ケケケッ、それはレイリアという女が背負っていた重荷に過ぎぬ。お前自身に、一体どれほどの価値があるというのだ?」


 幹部は太い骨の指をアルベルトに突きつけた。その先から放たれた黒い呪光が、アルベルトの王冠を溶かし、マントを焼き払う。彼は悲鳴を上げ、玉座の陰へと蹲った。


 つい数時間前まで、彼はレイリアを見下し、「お前がいなくても国は守れる」と豪語していたはずだった。そのプライドは、目の前の現実を前にして、ただの道化芝居にしかならなかった。


「レイリア……! どこだ、どこにいる! 戻ってこい、今すぐこの魔族を消し去れ!」


 アルベルトの身勝手な叫びは、虚しく広間に木霊する。


 だが、誰一人として応える者はいなかった。


 彼が婚約破棄を告げたとき、レイリアは静かに微笑んで去っていった。今になって、あの微笑みこそが、彼女が王家に与えた最後の慈悲だったのだと気づく。


 彼女は彼を罰しなかった。ただ、本来の無能な自分を突き返しただけだった。


「残念だったな、坊や。その“化け物”と呼んだ女は、もう二度とお前たちの元には戻らぬ。我々魔族ですら、彼女の魔力には畏怖の念を抱いていたというのに。お前たちは、至宝をどぶに捨てたのだ」


 幹部の冷酷な言葉が、アルベルトの胸に突き刺さる。


 やがて、王城の地下牢へと続く通路が魔族の手で開かれた。


「さて、お前たちのその“尊い血統”とやらが、国境の炭鉱でどれほど役立つか、見せてもらおうか」


 煌びやかな衣装を剥ぎ取られ、薄汚れた囚人服を着せられるアルベルトとルイーザ。


 長い間、レイリアという唯一無二の力を持つ魔法使いに依存していた。なのに彼女の存在を疎ましく思い追い出した。

 その報いはあまりにも重かった。

 王都の街並みが炎に包まれる中、アルベルトはただ後悔だけを胸に抱きながら、暗い地下牢へと引き摺られていった。


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