2.王女からの依頼
アミア達が大戦から帰還した日の翌朝、
城の会議室にはクルク王女と、
王女から呼び出された4人が座っていた。
「それで、あたし達だけを呼び出した、
用件は何なのか?」
アミアは早速切り出す。
王女と見知った顔のリンリ、テルテ、
エリエしかいないので口調に遠慮は無い。
ミルミは呼ばなくても来る事が多いが、
今回は周りに見当たらなかった。
リンリとはなるべく普通に挨拶したが、
互いにどこかぎこちなかった。
「私から、あなた達に直々のお願いがあります。
これから私は西側へ会合に行く予定です。
その際、あなた達も西側に渡ってもらい、
教団を襲ったと思われる、フラーネとメレン、
そしてデレンを討って欲しいのです」
王女の口から出たのは、急な話だった。
「なぜこのタイミングで?
それに彼女らの居場所はドゼビムですら、
分からないと聞いたが」
「この件は急を要する為、
なるべく早く解決したいのです。
西側に脅威が残っていた場合、
ある程度の戦力を西に残す必要が出てきます。
東西の行き来が困難な今、そんな余力はありません。
居場所に関してですが、
私に思い当たる場所があります」
「ドゼビムも分からない事を、クルク王女がなぜ?」
テルテの疑問はもっともだろう。
「それはデレンの過去に関係があります。
デレンは昔、
宮廷魔術師をやっていた時期がありました。
彼女は元々教団の関係者ではなく、
自発的に教団の秘密に興味を持ち、
当時は動かなかった、
神聖鎧や不死鎧を独自に調べていました。
神聖鎧と不死鎧の事は王家に管理され、
時が来るまで封印が解けない状態でした」
大異変前は鎧を使ってなかったと聞いていたが、
王家が関係していた事は知らなかった。
「なので、デレンは本来禁忌に触れる行いで、
罰せられるべきなのでしたが、
私の父、デクスビア王は、
今後の国の為を考え、それを許可し、
彼女を西側の教団本部へと派遣しました。
その際、郊外にある屋敷を自由に使っていいと、
デレンに譲渡した記録があったのです」
「なぜその情報をもっと早く、
教えてくれなかったんだ?」
「それはこの情報を見つけたのが、
昨夜だったからです。
私にこの城の記憶は殆どありません。
2歳の時、王都が制圧され、
私は名を隠して遠くの村に逃がされました。
だから、城に戻ってからは、
なるべく過去の資料を探していたのです。
でも、神聖鎧や不死鎧に関する資料は、
なかなか見つからず、ようやく昨夜、
過去の記録の一部が見つかったのです」
クルク王女が2歳で城を離れた事は初めて聞いた。
タンタも王女より年下なので、
城の事は知らないだろうし、
知っている生き残りは少ないのだろう。
もしかしたら東の国に隷属させられてる人々に、
知ってる人がいるかもしれないな、
とアミアは思った。
「話は分かった。
それで、あたし達に依頼するのは、
戦力的な意味でだよな。
報酬は?」
「現在、私に払える財はありません。
しかし、王国が再建した際には、
それなりの地位と、権利、
そしていずれは報酬を出せると思います。
それにアミア、あなたは・・・」
「ごめん、冗談だ。
その話は今するものじゃない。
フラーネには普通に因縁がある。
喜んで引き受けるよ。
リンリも、だろ」
アミアは昨日の件で気持ちが落ち着かず、
何でも依頼してくるだろうクルクに、
一言言いたい気分だったので、悪ふざけしていた。
が、ここで姫だと、
テルテとエリエにばらされるのは、何か嫌だった。
「私も、もしメレン団長が、
騙されてたとしても、聖女を殺したんなら、
その仇は私が討たないといけない気がする。
だから、依頼を受けます」
「うちが役に立つかは分からないけど、
その屋敷がデレンの隠れ家だったなら、
どういう道具があるか気にはなるな。
付いて行くだけになるかもしれないけど、
うちも引き受けるよ」
リンリとテルテも返事をした。
しかしエリエは待っても答えない。
そういえば、朝からどこか上の空だった。
「エリエはどうなんだ?」
「・・・え?
あ、はい。
すみません、話は聞いてました。
わたくしは巨神討伐の作戦を立てた一人として、
西側の事件にも責任があると感じております。
是非とも参加させて下さい」
「皆さん、ありがとうございます。
期間は私が聖教団の町から代表を連れ、
邪教団の町に入り、会談を終えるまでです。
ですので、2日間でその館に突入し、
調査をして貰います。
もし館に居なければ、
今回の対応はそこまでで十分です」
それが妥当かどうかは分からないが、
細かい地図の情報は後で貰えるだろう。
「一ついいですか。
ラーラにこの話をしても大丈夫ですか?」
「ラーラさんですか。
別に構いません。
情報の元はドゼビム様ですし、
先に伝えておいてもらった方が、
何か情報が得られるかもしれませんね」
「分かりました、この後伝えておきます」
確かにドゼビムが魔法で先に確認し、
そこにいる事が掴めていれば、
無駄足にはならない。
「朝から呼び出してすみませんでした。
この後は西側の方を呼んで、
移動する際の話などをする予定です。
アミアとリンリさんは、
このまま残って下さい」
「分かった」
「はい」
早速テルテが出ていくが、
エリエがまたボーっとして、動かない。
どこかニヤけた顔にも見える。
「エリエ、どうした?
本当に」
「あ、すみません。
ちょっと夕べ、嬉しい事があったので。
いえ、何でもないです。
では、また」
エリエは急いで立ち上がり、
部屋をいそいそと出ていった。
「なんなんだろうね?」
「昨日ミルミを引っ張ってったし、
キスぐらいして貰えたのかもな」
アミアはなるべく自然に、
リンリと会話するよう気を付けていた。
話は急速に進み、その日の午後には、
龍神ドドに鎧を乗せ、西側へと出発した。
その際、クルク王女の提案で、
各教団から二人ずつ、
王都に残ってもらう事になった。
今後西側で共同訓練をする事になった場合、
その方法などを王国騎士団から習う為だ。
いずれは適合者が見つかり、
教団の枠を超えて、2重適合出来るように、
という望みもある。
魔術師達は王都に残り、復興の手伝いや、
妖魔退治のフォローなどを行う事になった。
エリエを除く巫女達は、
一旦東の国の友好的な大将の元へ向かい、
国の状況や、今後の対応について話すそうだ。
ドドの上にはアミア達3人と、エリエ、
同行する事になったラーラ、
クルク王女と護衛としてタンタ、
そして生き残った神聖騎士団7名と、
教団戦闘部隊6名が乗っている。
リンリが連れて帰ってきた時より大分減っており、
アミア達も景色を眺める余裕があった。
ただ、アミアはリンリに誘われても、
どこか冷めていて、
何となく流れる景色を見ているだけだった。
「本当に聖教団の方と話をしなくていいんですか?」
「ああ、時間も惜しいし、逃げられても困る」
アミアはリグムの中から答える。
ドドが聖教団の町に到着し、
クルク王女は聖教団の代表に会いに行こうとしていた。
移動の途中でクルク王女が示した屋敷に、
デレンらしき人物がいるとの情報がラーラ経由で貰え、
アミア達は降りてすぐに向かおうとしていた。
「私も特に会わなくて大丈夫です」
「そうですか。
では、気を付けて行って下さい」
アミア達の行動については、
各集団の代表には伝えられたが、
それ以外には大型妖魔の掃討、
という嘘の情報を伝えてある。
万が一スパイやそれ以外の手段で、
情報が洩れる事を恐れてだ。
『みんな準備はいいな』
『『はい』』
リグムに乗ったアミアを先頭に、
デュエナのリンリ、アイシンのエリエ、
魔導機のラーラ、シウンのテルテと続く。
『“それ”には名前は付けないのか?』
道中、テルテはラーラに魔導機について尋ねる。
『別にあたしの物って訳でも無いし。
便利だけど、特に愛着は無いしね』
『10機の魔導機に違いはあるのか?』
『微妙に形状は違うし、得意な魔法が違うから、
乗り手との相性はあるよ。
あたしのは攻撃魔法特化だ』
そういうラーラはどこか誇らしげだ。
『そういえばラーラが魔法で戦ってるのは、
見た事無いな。
魔導機で大型妖魔と戦う場合、どうなるんだ?』
『状況によるけど、
正面から1対1なら妖魔が苦手な属性が分かれば、
その魔法で1撃で仕留められるかな』
『不死鎧と戦う場合は?』
アミアは興味が湧いて聞いてみる。
『2重適合前の不死鎧なら、
魔法で繭を貫いて、1撃で倒せると思う。
2重適合されたら、
今のあたしだと厳しいかなあ』
『なら、城にいる魔術師は、
2重適合出来る鎧で防げる訳か』
『魔術師に裏切り者は絶対にいないと思うけど、
裏切り者がいたなら、そうかな』
アミアの意図に気付いてか、
ラーラは裏切り者という言葉を使った。
『昔はもっと恐ろしい兵器だったんだよね。
昔の魔術師は強かったって言ってたっけ』
『神話の時代の話だよ。
王国が出来てからの魔術師は、
大体隠れて生きてきた変わり者さ』
ラーラは年齢に似合わず達観した感じがある。
『わたくしは知識は、
十分武器になると思いますよ』
『それは、そうだと思う』
今まで黙っていたエリエに言われ、
ラーラは少しだけ嬉しそうに答えた。
ラーラは知識に貪欲なのだろう。
道中は最短距離を行き、出会った妖魔を倒しつつ、
全速力で進んでいった。
「みんな、お久しぶりね。
元気にしてた?
アミアとエリエは初めましてね」
聖教団の町を出てから半日ほど、
目的の屋敷の数百メートル手前の、
森の獣道に現れたのは、
天才魔術師ことドゼビムだった。
「師匠!
来るなら来るって連絡下さい」
ラーラも知らなかったらしい。
「わたしもついさっきまでは、
来るつもりは無かったの。
ただ、気になる事が有って来ちゃった」
「初めまして。
鎧の中からだけど、アミアだ」
「同じく初めまして。
トワの国の巫女、エリエです」
アミア達も一応挨拶をする。
「それで、一緒に付いてくるのか?
生身だけど、大丈夫なのか?」
「心配してくれるのね、ありがとう。
これでも世界一の魔術師だと思ってるから。
大型妖魔位なら大丈夫だから安心して」
そう言うと、魔法で身体を宙に浮かし、
鎧並のスピードで飛んでみせる。
「師匠の言う通り、
心配しなくて大丈夫です。
何かあってもあたしが守るので、
皆さんは気をかけなくていいですから」
「そういう事。
とりあえず近くに魔法の監視は無いわ。
それじゃあ屋敷へ行きましょう」
飛び入りのドゼビムを加え、
一行はデレンがいるであろう、
屋敷へと突入するのだった。




