5.初陣
※が付いてるセリフは東の国の言葉を表しています。
※「なんでワシがこんな辺境の地まで行かねばならんのか」
旅立ってから数度目になる愚痴を男はこぼす。
豪華な東の国特有の服から見える筋肉は、
中年の男の顔に似つかず逞しい。
男は2機の機械武者に担がれた屋根付きの駕籠に乗り、
絶対防衛ラインの外の荒野をネオンテの町へ向かって走っていた。
※「クロマ様直々のご指名です。
サザ様のお力で一気に取り戻して欲しいと」
駕籠と並走する機械武者の中から、副官が宥めようとする。
※「コマルの馬鹿が油断するからこんな事になったのだ。
騎士団の残党を取り逃すとは愚かにも程があるわ」
※「しかし、裏切った巫女も加わったと聞きます。
油断は出来ません」
※「ワシの部隊は騎士団の残りや巫女など恐れんわ。
まあ、少しは骨のある相手がいるといいがな」
そう言ってサザと呼ばれた男は大笑いする。
周りには数十機もの機械武者が付いてきていた。
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「60機?」
テルテの驚いた声が応接室に響く。
町の緊急の鐘を聞いて、アミア達3人+1匹とエリエ、
ディルイと6人の候補生、
そして町長と偵察から帰った男と防衛部隊の隊長が集まっている。
「はい、丘の上で確認しましたが、全部で60機です。
あのペースでそのまま進めば30分後位には町に到着するかと」
偵察から帰った男が言う。
前回町を襲ったのが30機なので、
倍の数であり、殆どの者が驚いていた。
「急いで対策を立てる必要がある。
しかし、町にはそういった事が出来る者が残っておらん。
すまんがアミアさん、お願い出来ますでしょうか」
町長に振られ、アミアは困惑する。
しかし、そういった策が立てられそうなのは、
アミア以外だとエリエのみで、
エリエの案にはまだ反対する者が多いだろう。
「分かった。
まずは敵の詳細な戦力と、
町で戦える機械武者の数を教えてくれ」
「敵の戦力ですが、見た感じ重鎧が33、軽鎧が27で、
重鎧の1機は他の武者が運んでいた豪華な武者で、
おそらく指揮官用の特別機かと」
「町の機械武者は12機で、重鎧5、軽鎧7です。
テルテさんが直していた鎧はどうですか?」
「ああ、まだ動かないから戦闘は無理だな。
だから、うちも今回は見張りや連絡役になる」
機械武者の隊長の男に聞かれてテルテが答える。
あとは候補生の6機と自分達の2機、エリエの1機で、
合わせても21機、単純な戦力比だと1/3だ。
「町の北側は森があって視認性は低いが、
進軍自体はし辛い、でいいんだな。
あと、機械武者の一般兵用は魔法耐性が無いと」
アミアは地図を広げながら確認する。
「以前にアミア様が戦った機械武者で、
魔法耐性があるのは紫の機体、忍型だけです。
近年製造された機械武者は、
魔法耐性やレーダー機能が追加されましたが、
一般的に普及している機械武者の殆どにはありません。
敵の部隊が60機だとそのうち10機か、それより少し多い、
ぐらいだと思います」
エリエの言う事は完全には信じられないが、
今はある程度事実として進めないと対策は立てられない。
魔法に弱い、というのは大きなアドバンテージだ。
「少しだけ考えさせてくれ」
アミアは迫りくる時間の中、最善策を模索する。
敵が来る前に3機で討って出る、
というのもありだが、強敵が3機以上いた場合、
殆どの敵がすり抜けて町へ辿り着いてしまう。
それでは町と候補生を捨てて逃げるのと変わらない。
また、この戦いは候補生に戦闘を体験させる、
いい機会とも考えられる。
いきなり大型の妖魔とかと戦うよりは、
複数の機械武者と戦う方が生存率は高く、
訓練の延長での戦闘にもなる。
町の被害を気にしなければ町に鎧を配置し、
各個撃破させるのが一番楽なのだが、
今の状況ではそれを良しとしないだろう。
アミアの勘では絶対に敵は戦力を分けて攻めてくる。
敵の方が数が多いのだ、それをしない理由は無い。
敵を町へ近付けず、
どこから来るか分からない大量の敵を警戒し、
候補生達を生き残らせる。
それには・・・。
数分後、アミアの中で作戦が纏まった。
「一応案は考えた。
問題がありそうな点は指摘してくれ。
特にエリエ、機械武者に一番詳しいのがあんただ。
見落としているところが無いか良く聞いて欲しい」
「分かりました」
そして、アミアが大まかな対応策を述べ、
それに対して周りでいくつか案を出し合い、
15分ぐらいで対応策は決定した。
「最終確認だ。
デュエナとアイシンの2体が町の東側、
正面から来ると予想する敵の本体に対して討って出る。
町の東側の壁に5体の機械武者を配置し、
2体が討ち漏らした敵を協力して倒す。
この5体は特に腕の立つので頼む」
アミアの声に機械武者の隊長が頷く。
「次に裏門の西側だが、リグムは主に西側付近に待機して、
巡回しながら敵の別動隊を見つける。
西の裏門前にはアルーニとルークスの2体、
それに機械武者2体で守りを固める」
アミアは双子の方を見て、双子は頷く。
「残りは南と北側。
敵が攻めて来そうな南側は、
オルトスとヴァールで見張ってもらう。
敵を発見したら手を出さず連絡するように。
最後が森のある北側で、ガルンとベリンに守ってもらう。
森の移動はセンサーが反応するので、
見つけたらすぐに報告してくれ」
アミアの言葉に自分の鎧を呼ばれた少女が頷く。
ただ、ベリンの搭乗者のニギニは怯えた顔を隠さない。
「町長とテルテは町の中で待機してくれ。
テルテは念話で連絡が取れるから、
敵の増援で手が足りなくなった時に、
町の中の5体の機械武者を援軍に出す連絡役をしてもらう。
門を開けずに町から外に出られるように、
壁の各所に機械武者が登れる段を作っておいてくれ」
完璧な作戦では無いが、今いる戦力を無駄なく配置し、
かつ、出来るだけ全員の生存率を高められただろう。
「それじゃあ各自配置についてくれ」
「「はい」」
各自、自分の機体へ走っていく中、
アミアはエリエを呼び止めた。
「本当はあたしが主力と戦いたいんだが、
候補生達を守るにはエリエに頼るしかなかった。
すまないが、リンリを守ってやって欲しい」
「いえ、東の国の問題はわたくしの問題でもあります。
それに元々アミア様もリンリ様も助けるつもりでした。
わたくしも全力で対応いたします」
「もし、無事にリンリを守ってくれたら、
あたしはエリエの事を信用しよう」
「ふふ、アミア様は本当にお優しいんですね」
エリエに言われてアミアは少し照れてしまう。
しかし、今出来る事を全力でするしかアミアには出来ない。
「頼んだぞ」
アミアはリグムへと走り出した。
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「デュエナ起動」
リンリはデュエナを起動させ、正門へと移動を始める。
(アミアちゃんは本当に大変だな。
私ももう少し真面目に勉強しておくんだったなあ)
リンリは移動しながら考える。
町の防衛戦などの経験はあり、
教団での講習もあったのだが、
どうしてもリンリは頭に入らず、
ただ指示された場所を守ったりする事しか出来なかった。
もちろん町や人を守りたいとは思ったけど、
どうするのが効率的か、町の被害が少なくなるか、
など同時に考えながら行動するなんて無理だと思ったのだ。
『リンリ様、今回はよろしくお願いいたします』
いつの間にかアイシンが横に並んでおり、
エリエが念話で話しかけてきた。
『様付けはちょっと嫌かなあ。
もう仲良しなんだし、呼び捨てでもいいよ』
『ではリンリさん、で』
『うん、エリエちゃん』
2日間でエリエとは大分打ち解けたとリンリは感じている。
自分よりは真面目だけど、たまに抜けてるところもあり、
エリエとは仲良くなれそうだった。
「開門します」
町民が正門を開け、デュエナとアイシンが町の外に出る。
まだ敵の反応はセンサー内に入っていない。
門の横の機械武者は敵味方の判別が出来るように、
両肩を白く塗り、さらに味方である事が分かる、
発信機が取り付けられ、センサー上も味方で表示される。
ここの騎士団で使っていた物だと聞いていた。
外には街道があり、その左右にまばらに草が生えている。
妖魔の反応も無く、午後を周って外はいい天気だった。
デュエナは聖槍と盾を装備し、聖剣は背中に付ける。
アイシンは薙刀を装備していた。
『もし、大巫女様が攻めてきたら、
エリエちゃんは敵に寝返るの?』
エリエとの個人的な念話でリンリは質問した。
自分は教団を裏切り、何があろうと戻る事は無いだろう。
しかしエリエが同じかどうかが気になったのだ。
『わたくしは予言に従います。
大巫女様の予言で、リンリさん達に付いて行くのが、
わたくしの今の道です。
もし大巫女様が敵として現れたなら、
それもまた大巫女様の意志、
全力で戦う事になるでしょう』
エリエの答えはリンリの想いとは違うが、
確固たるものだと思えた。
彼女がそこまで信じられる何かがあるのだろう。
『リンリさん、敵です。
気を引き締めましょう』
『こっちの配置は完了した。
予定の場所まで敵が近付いたら攻撃を開始してくれ』
『了解です』
アミアからも念話があり、リンリは全体の念話で回答する。
余計な事は忘れて、今は戦いに集中しよう。
せっかくいろんな子と知り合えたんだ、
それを失いたくはない。
『行くよ』
『はい』
予定の場所まで敵の主力が入ったので、
デュエナとアイシンは敵へと走りだした。
『敵の数30、全体の半分です』
『分かった、二人で町まで近付けないようにしてくれ』
『了解です』
接近した事で主力と思われる部隊の全体像が見える。
横に6機ずつ並んだ隊列で、5列あり、全部で30機だ。
機械武者の重鎧と軽鎧をバランスよく配置しているようで、
最初の1列は槍を持った軽鎧でまとまっている。
『エリエちゃんは右側を』
『はい』
まずは魔法の射程まで近付く。
魔法で一般兵の機械武者をどれだけ行動不能に出来るかが、
最初の勝負どころだ。
『雷撃』
左3体の軽鎧に雷撃の魔法を当てる。
3体の動きは止まり、倒れた。
中の兵士は死んだか、気絶してすぐには動けない筈だ。
『邪念滅消!』
エリエも魔法を唱えると、3体の相手が倒れていく。
気絶か束縛系の魔法だろう。
続く重鎧6体も同じ魔法で倒せたが、
魔法に気付いた敵は横に展開し、
纏めて魔法を食らわないように対処する。
ここからが本番だ。
『閃光を使います』
『はい、タイミング合わせます』
『閃光!』
デュエナ自身を光らせ、周りの敵の目晦ましをする。
アイシンは速度上昇の魔法を使い、
近くの敵から次々と薙刀で斬り払う。
デュエナもそれに続き、敵へと突っ込んでいく。
まずはうまく行ったとリンリは感じていた。
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『初陣だ。
緊迫感は持った方がいいが、緊張は解いておけ。
あと、町を守ろうという気持ちは持たなくていい。
建物は壊れても直せるが、お前達の替えは無いからな』
アミアは訓練生達に念話で伝える。
本当は町の人も気に掛けなくていいと言いたいところだが、
この町で暮らしてきた彼女達には余計な言葉だろう。
『『了解です』』
一通り返事を聞くが、
トリリトとニギニは緊張しているように聞こえる。
初陣の死亡率は他の戦闘より高い。
ただ、臆病な方が倒されやすいかというと、
そうでも無く、自信があったり、
調子に乗ったりするとそこを狙われる。
アミアが気になるのは特にムイルだった。
重装甲なのを過剰に信用すると致命打を受ける。
『ニギニ』
『はい』
『ムイルが単独行動しないようによく見張ってくれ』
『え、は、はい』
『さすがに俺だって最初からそんな危ない事しないよ』
ムイルが非難の声を上げるが無視する。
これで多少は抑えられただろう。
『全員ペアである事を忘れるな。
特に今回は無理して敵を追ったり、
トドメを刺す必要は無い。
お互い離れず、必ず二人で1体を仕留めるようにしろ』
『『はい』』
時間があれば、そのペアのちょうどいい距離、
攻撃のリズム感が分かったのだが、
今回は最低限の部分しか見れていない。
ただ、鎧は2体一緒なら大抵の事は防げる。
町に被害が出ても全員生き残ってくれれば、
アミアとしては勝利だと思った。
『主力を半分まで減らしました。
逃した武者も町の方で対応出来てます』
『よし!』
リンリからの報告はいい感じだ。
で、そろそろ敵が動くだろう。
リグムは町の南西辺りへ移動する。
すると、センサーに敵を確認した。
『南西に敵の部隊を発見した。
数は、20。
ユーカとシルシは付いてこい。
双子は町の南西の位置で抜けてきた敵を倒せ。
ムイルとニギニは現状維持。
あと、テルテ』
『なんだ?』
テルテは念話を受信出来る魔法の道具で反応する。
『まだ10体ほど残りがいる。
多分北か西から来る。
すまないが北西の位置で見張ってくれ』
『了解した』
そしてリグムを先頭に、
後ろからオルトスとヴァールが付いてくる。
双子の赤青の鎧もきちんと南西で待機していた。
『初陣ですわ。
シルシ、頑張りましょう』
『・・・うん』
おそらく二人の気合は入っている。
『まずは魔法で倒すか足止めしろ。
そこを抜けてきた敵は、ユーカが隙を作り、
シルシがトドメを刺せ』
『『了解』』
敵影が見えると、軽鎧主体の機動力重視の部隊と分かる。
隊列というより、スピード優先で、
先頭の数体が前の紫色の鎧と同型、
エリエが言う忍型に見えた。
『動きが速い奴は魔法が効かない。
あたしがそいつらは出来るだけ倒すから、
他の奴らを狙え』
『はい!』
そう言いながらアミアは獣化の魔法を唱え、
武器をハルバードから円形の刃の剣に持ち変える。
そして先頭の1機とぶつかる。
相手は素早く短剣を振り下ろすが、
それを左手の剣で弾き、すかさず右手の剣で攻撃する。
刃は軽鎧に刺さり、敵は動かなくなった。
まずは1体。
横では槍を持った軽鎧に対して、
シルシが精神衝撃の魔法をかけ、倒していた。
また、1体の忍型に対して、
ユーカが地面を変動させ、動きを封じている。
あの二人なら大丈夫そうだ。
アミアは2体目の忍型に組み合うが、
その横を1体の忍型が抜け出していく。
ユーカ達も他の敵の対処をしていて、
食い止められそうにない。
『双子の方に1機速いのが行った。
魔法は効かないから、何とか倒してくれ』
『任せて!』
『分かりました』
アミアは双子を気にしつつ、
組んでいた忍型を斬り払い、
横にいた槍を持つ武者を魔法で倒す。
双子は盾で忍型の鎧の攻撃を防御、
交互に攻撃を繰り出すが、素早い為に当たらない。
が、姉のアルーニが爆発の魔法で隙を作り、
妹のルークスが何とか槍で敵を仕留めた。
この二人も敵が数体行ったとしても大丈夫そうだ。
あとは残りの敵がどこから出てくるか。
アミアは不安を感じつつ戦っていた。




