4.パートナー
神聖鎧と不死鎧を分けての訓練はそれなりに順調に完了した。
不安があった神聖鎧側の訓練もエリエがアドバイスする事で、
何とかリンリにも講師が務まった。
訓練を始めて翌日の午後には、
神聖鎧と不死鎧のペアでの模擬戦訓練に移った。
ペアの組み合わせは騎士団で訓練していた時に決まっていて、
双子のトリリトとトルルトのペア、
金髪のユーカと無口なシルシの最年長最年少ペア、
暴走気味なムイルと自信が無いニギニのペアになっていた。
訓練用の刃が潰されたり、ゴムなどの素材を使った武器を持ち、
相手チームの機体の胴体部分に1撃でも与えられたらそれで退場、
2機先に退場した方が負けである。
まずは動きを見る為にアミアとリンリのペアで全員と戦ってみる。
エリエには審判として戦いを見守ってもらう。
「最初は双子のペアで」
「はーい」
「はい」
赤と青の鎧が出てくる。
大型の盾を持った、拠点防衛用のコンビといったところか。
『あたしが囮に行く』
『了解』
チーム内の念話でアミアはリンリと話す。
まずは様子見だ。
リグムは広場を双子の鎧に向かって走る。
「行くぞ」
赤の神聖鎧、トルルトの乗るルークスが反応して走り出す。
青の不死鎧、トリリトの乗るアルーニはそれを追う。
ルークスはぶつかる勢いに任せて盾を突き出してくる。
模擬戦とは言え、盾は本物なので、
この勢いでぶつかればただでは済まない。
もちろんリグムもまともに受けるつもりは無く、
直前に横に退避する。
「そこ!」
トルルトはきちんとその動きを見ており、
方向を転換、ルークスの左手の槍でリグムを狙う。
リグムはそれを訓練用のハルバードで弾いた。
「トル、右!」
トリリトが叫び、
トルルトは右からデュエナが迫っている事に気付いた。
「くっ!」
デュエナの剣を何とか盾で防ぐが、体勢を崩される。
リグムはそこを狙おうとするが、
トリリトのアルーニがフォローに来ていて、
槍で攻撃の邪魔をされる。
(トリリトは良く見てるな)
『先にアルーニを潰そう』
『はい』
トルルトの動きは読みやすいが、トリリトは冷静で、
不意を突かれる可能性もある。
リグムはハルバードでアルーニを集中攻撃する。
アルーニは防戦しつつ反撃の機会をうかがっている。
「今行く!」
トルルトは相方が押されているのを見て、
デュエナの攻撃を受け流した後、ルークスで援護に向かう。
横から来たルークスの援護でリグムの攻撃の手が止まった。
それを待っていたアルーニはリグムに必殺の突きを繰り出す。
「残念でした」
しかし、先にダメージを食らったのはアルーニだった。
最初からデュエナはルークスとは本気で組み合っておらず、
リグムがアルーニの隙を作るのを待っていたのだ。
デュエナの訓練用の剣はアルーニのボディに当たり、
アルーニは倒される。
「お姉ちゃん!」
それを見たトルルトは叫ぶ。
リンリは殺気を感じ、盾を構えた。
ルークスの雷光のような槍の鋭い一撃が飛んできて、
デュエナは盾で防ぐが、反動で後ろに飛ばされる。
「2対1になったら終わりだと思え」
しかし冷徹な一撃がルークスのボディを捕らえていた。
リグムのハルバードはトルルトが気付く前に振られている。
アミアはまだまだ未熟だが、
二人とも光る部分があると思った。
「「ありがとうございました」」
トルルトに負けた悔しさはあるものの、
訓練のお礼を双子はきちんと言った。
リンリは戦ってみて気付いた事を纏める。
「二人の機体は防御に優れている。
基本的に自分から攻めず、
相手が攻撃してきた時のカウンターを狙え。
で、相手が隙を見せたら、トリリト、お前が攻めろ」
「え、私がですか?」
双子の姉であるトリリトが驚く。
「元々不死鎧の方が攻める為の魔法も多く、
攻めるのに適している。
それにトリリトの方がよく周りが見えていて、
相手の罠にもかかり辛い」
「じゃああたしは黙って見てろって事?」
トルルトは不満そうだ。
「そうじゃない。
先ほど戦った時のように、
攻撃に転じた時、伏兵がそこを襲う事がある。
お前はそれを防ぎ、姉を守り切れ。
盾での押し返しや不意打ちはそういった時に役に立つ」
「うーん。
まあやってみるよ」
思った通り、このトルルトという少女は姉を守る、
という行為に意義を感じているようだ。
今までの自分のように。
そこを伸ばしていけば、この二人はまさに鉄壁になり、
町などの防衛戦の要になるだろう。
「じゃあ次はユーカとシルシのペア」
呼び出されて金色の神聖鎧と水色の不死鎧が出てくる。
今いるペアの中で一番鎧を乗りこなしている、
主力となる二人だ。
しかし双子のようにお互いを思っているとは思えず、
ペアとしてどこまで機能しているか確認する必要がある。
「すみませんが本気で戦わせていただきます」
ユーカは自信有り気に言う。
シルシは無言のままだ。
『左右から同時に行くぞ』
『はい』
リグムが右に、デュエナが左に分かれ、
左右から二人を挟むように近寄っていく。
「シルシはデュエナを!」
ユーカはそう言いつつ、迫ってくるリグムに対処する。
地面に魔法で穴を開け、リグムの機動力を奪おうとした。
模擬戦での直接魔法攻撃は禁止しているが、
地形への魔法や自己強化は禁止していない。
リグムは方向を変えず、跳躍で黄金の神聖鎧、
オルトスに接近する。
ユーカはリグムが跳躍した事を予定通りと、
着地点の斜めの位置へ移動する。
「はっ!」
スピードのある長剣の一撃がリグムに飛んでくる。
しかしアミアもそれは織り込み済みだ。
着地の直前、魔法で再度上昇し、攻撃をかわす。
と同時に上からオルトスへ攻撃を食らわせた。
「まだまだ!」
オルトスはそれを盾で防ぎ、距離を離す。
アミアは横目でデュエナの方を見ると、
水色の不死鎧、ヴァールは斧を絶え間なく繰り出し、
デュエナが攻撃する隙を与えていなかった。
まあ、こんなものだろう。
『オルトスからやろう』
『はい』
リグムは距離を取りつつ旋回し、
オルトスをデュエナとリグムの間に置く。
オルトスは身構えつつ攻撃のタイミングを計っている。
最初に動いたのはデュエナだった。
ヴァールの斧を受け流し、そのまま蹴りで吹き飛ばす。
ユーカは背後でデュエナが戦っている事は分かっているが、
目の前のリグムからは目が離せない。
デュエナは遠慮せず背後からユーカを切り付ける。
「くっ!」
ユーカはデュエナの接近には気付いており、
ギリギリのところで剣を盾で受ける。
もちろんその隙をリグムが見逃す筈も無く、
ハルバードの一撃はオルトスを吹き飛ばしていた。
「っと!」
リグムはギリギリのところを魔法の噴射で横にずれる。
リグムのいたところにはヴァールの斧が振り下ろされていた。
「・・・凄い・・・」
戦闘中初めてシルシの声を聞いた気がする。
「ごめんね」
今度はデュエナがヴァールのボディに1撃を食らわせていた。
アミアはこのシルシという少女が一番恐ろしいと感じた。
「ありがとうございます、色々と勉強になりましたわ」
「・・・凄かった・・・」
シルシのはお礼の言葉か分からないが賛辞には聞こえた。
「まず、二人はパートナーだという事を意識するように。
お互いがどこにいて、何をしているか、
常に意識の隅に置いておく事。
で、ユーカは積極的に指示を出し、
なるべく自分では動かないように。
魔法で援護し、仲間が危ない時は助けるように動く」
「指揮官の役割ですね。
分かりましたわ」
「で、シルシは的確な動きをしてると思うけど、
それをなるべくパートナーに伝える事。
指示されたら返事をきちんとし、
指示が間違ってるならちゃんと否定するように」
「・・・分かった。
難しいけど出来るだけやってみる・・・」
この二人に関してはまだまだ不安だが、
個々の能力の高さで生存率は高いと感じた。
「じゃあ最後に、ムイルとニギニ」
呼び出されて橙色の不死鎧と緑色の神聖鎧が出てくる。
一番問題の組み合わせだ。
本来ならどちらも突撃型で、敵の部隊を分断したり、
大将を討ち取る重要な役目を任せるところだ。
しかし、ムイルは感情に流され易く、
昨日は防御のみを指示したのに、
我慢出来ずに手を出す事が何度もあった。
ニギニは他のメンバーに比べ能力が劣っている事を気にし、
全てに対して消極的な態度を取ってしまっている。
荒治療したいところだが、そんな時間もないのが問題だ。
『まずは防戦で様子を見よう』
『はい』
リグムもデュエナも積極的に突っ込まず、
徐々に距離を縮めていく。
「行くぞー!!」
橙色の不死鎧、ガルンは予想通り足並みを揃えようとはせず、
1人でこちらに向かって突っ走ってきた。
「ちょっと待ってください」
口には出すものの、ニギニには止められず、
結局遅れて緑の鎧のベリンで後を追って行く。
「せーの!」
走ってきた勢いに乗せて、
ガルンはゴムで加工されたハンマーを横に振り回す。
攻撃の範囲内にいたデュエナもリグムも受けようとはせず、
後ろへ跳躍してそれをかわした。
そこへベリンが追撃すればいいコンビなのだが、
ベリンはまだ後方から走ってきているところだ。
結局追いついたベリンも攻めあぐね、
ガルンはハンマーを敵目掛けて振って、
それを避けられる事を繰り返している。
『せっかくだからアミアは手を出さないでくれ』
『了解です』
隙だらけの1機と及び腰の1機はリグムだけで十分だ。
ガルンがハンマーを大きく空振りしたところ狙って、
リグムはハルバードを振り下ろした。
「え?」
そこでまさかの行動が起こった。
アミアは思わず驚きを口に出す。
今まで背後にいたベリンがリグムやデュエナではなく、
ガルンに体当たりをしたのだ。
ガルンは吹き飛ばされ、リグムの攻撃はそれで避けられた。
しかし代わりに倒れたベリンが目の前におり、
リグムは躊躇せずベリンを攻撃した。
「ニギニ、なんで」
「わたしはどっちにしろ役立たずだから、
ムイルの代わりにって・・・」
それを聞いたムイルは折角のチャンスを生かそうと、
リグムに再突撃をかける。
ただ、威力は有っても精度の低いハンマーの攻撃は、
スピード型のリグムに当たる筈も無く、
結局すぐにリグムに倒されるのだった。
「「ありがとうございました」」
少し不満そうなムイルと、
消え入りそうなニギニの声でお礼を言われる。
ベリンのあのタイミングの体当たりが、
リグムに向かって行えたなら、そこをガルンが攻撃出来た。
やはり問題点は二人の性格だろう。
「ムイルは一人で先行しないように。
ガルンは力は強くても隙も大きい。
1機で戦うにはまだ技量が足りない。
出来ればニギニの指示で動き、
二人で協力して敵を倒すように心がける事」
「それは分かってるけど、敵がいるとどうしてもなあ。
それに、ニギニは戦う気があんまりないし」
ムイルは不満気だ。
「ニギニはもっと積極的に動き、
ガルンを1機だけにさせない事。
チャンスだと思ったらちゃんと声を出して伝えて、
出来ればムイルに指示を出す事」
「でも、わたしが前に出ても迷惑じゃ」
「それこそパートナーが死ぬ事になる。
二人は運命共同体だと思って動くように!」
アミアは言いながら、
教団にいた頃は絶対に言わない事だな、と思っていた。
ただ、こうして指示してみて、
リンリと二人で行動してきた事が身体に沁みつき、
ちゃんと他人の役に立つんだと感じられた。
「じゃあ、この後は交互に2対2で模擬戦を・・・」
『カンカンカンカン!』
アミアの声は町に鳴り響く鐘の音で打ち消されたのだった。




