12.奪還作戦
※が付いてるセリフは東の国の言葉を表しています。
「今回の作戦で要になるのはディルイさんの演技と、
候補生の子達の素早い行動だ」
翌朝、テルテが作った食事を食べた後、
アミアが夜に作り上げた作戦を説明した。
「つまり、わたしとテルテさんが敵兵の振りをして、
機械武者でこの子達を捕虜として連れていき、
機械武者置き場で敵が乗り込む前に焔玉を全て抜き取る、
という事ですね」
説明した内容をディルイが簡単に復唱する。
テルテが焔玉の重要性をアミアに伝えた事で、
アミアはうまく作戦を立てる事が出来た。
「そうだ。
ただ、敵に怪しまれたり、
捕虜を連れていかれそうになった時は、
透明化したリグムで援護する。
デュエナは反対側の扉から敵の陽動と、
町の人達を逃がす為の手引きをする」
地図を見せながらその動きを説明する。
作戦の実行は夜にした。
敵の大半は寝ているか、酒場等で遊んでいる為だ。
夜の為にこちらも細かい動きは厳しくなるが、
それは相手も同じという事。
20機いる機械武者をどこまで無力化出来るかが、
成功のカギと言えるだろう。
「こいつらはどうするんだ?」
出発前、テルテに放置していた3人の男達をどうするか聞かれる。
眠りの魔法が継続していて未だ起きる様子は無い。
正直殺した方がいいのだが、
他の者がいる手前、むやみに殺す事は出来ない。
「武器や道具は取り上げてある。
縄に切れ込みを入れておくから、運が良ければ生き残れるだろう」
アミアは最低限の慈悲は残しておく。
これですぐに追いつかれる事は無いだろうし、
追いつかれても武器が無ければ相手は無力だ。
普通に考えらば妖魔に殺さるだろうが、
敵まで助ける事は出来ない。
人間を魔法で使役しての作戦も考えたが、
妖魔のように簡単では無いので無理だと判断した。
2機の軽鎧の機械武者は乗っていくので、
残りの1機の重鎧は焔玉を奪って破壊した。
昨日倒した重鎧にも焔玉はあり、手持ちは全部で8つになった。
作戦中にエネルギー切れになる事は無いだろう。
「それじゃあ行こう」
リグムを先頭に、テルテとディルイが乗った2機の機械武者が続き、
女子6人の集団、デュエナが最後に付いて行く。
ルミルはいつの間に仲良くなったのか、
女子の集団に紛れ、遊び相手になっていた。
夕方ぐらいには町の近くまで着き、
一旦そこで休憩して日が暮れるのを待つ。
町の外まで機械武者を出しての見回りはしていないようだ。
時間直前にまず6人の少女達の手に縄を簡単にほどけるように結ぶ。
次にディルイにテルテ特製の薬を飲ませ、声を男性の声に変える。
後は東の国の言葉でうまく会話してもらうだけだ。
日が暮れたので作戦が開始された。
デュエナのみ離れて反対側の正門の方へ回り、
リグムもギリギリの位置で透明化の魔法をかけた。
ディルイの機械武者、少女、
テルテの機械武者の順番に進む。
リグムはその後ろに姿を隠して着いて行く。
ルミルはテルテの機械武者のラックに入っていた。
町は高さ4メートルほどの石壁に囲まれており、
東の正門と西の裏門がある。
ディルイ達一行は裏門から近付き、
門の上の見張りにその存在を気付かれた。
見た目が友軍機なので、特に警戒した様子は無い。
※「ずいぶん時間がかかったな。
もう2体はどうした?」
門の前まで行くと二人いる見張りの一人が声をかけてきた。
※「妖魔と遭遇してな。
二人はその対応で、俺達は捕虜を連れて先に帰ってきた」
ディルイはなるべくはっきりと東の国の言葉で喋る。
※「そうか、お疲れさま。
今開けるから待ってな」
ディルイの言葉も声も問題なく通じたようだ。
『うまく行った』
『了解』
テルテは東の国の言葉が翻訳出来ないので、
アミアが念話で成功を伝える。
門はゆっくりと開き、順番に中へ入っていく。
ここで問題になるのはリグムがどうやって気付かれずに入るかで、
捕虜の少女達とテルテの機械武者の間に入り、
接触ギリギリの位置を静かに付いていく。
夜なのもあり、少女達の後ろの微妙な隙間も、
見張りは気にならなかったようだ。
入った門の左右には槍を構えた機械武者が2機立っていた。
この2機は交替で常に存在していると思われるので、
いずれ戦う必要がある。
デュエナが向かった正門側も同様か、
こちらより数が多いかもしれない。
※「捕虜は俺が小屋まで連れていく。
お前達は鎧を置きに行ってこい」
門番の一人が少女達を引っ張っていく縄を手に持つ。
※「分かった、頼んだぞ」
ディルイはアミアを信じて言葉を返す。
『暗がりのどこかで彼女達は奪い返す。
テルテはディルイに続いてくれ』
『了解した』
門番は少女達を連れて路地を北へ向かい、
ディルイの機械武者は鎧置き場のある東へ、大きな道を移動する。
一同の動きに不信は無いので、
残りの門番も門の横の2機の機械武者も動きは無い。
リグムは消音の魔法をかけて、少女を連れた門番の後を追う。
さすがに夜になっているので、町の路地に人影は無かった。
酒場と思われる建物からは騒いでいる男達の声が聞こえる。
※「少しくらい味見したいなあ。
って、親方に怒られるのは勘弁だしなあ」
門番の男は少女達を見て下卑た笑いを上げる。
少女達は身を震わせた。
(もう少しだけ辛抱してくれ)
門番の男が通りの角を曲がり、一層暗い路地に入った。
(圧縮発動)
タイミングを計っていたアミアは、
その瞬間に男の心臓に圧縮の魔法をかける。
男は声を出す間も無く、絶命した。
「もう大丈夫だ。
鎧置き場の場所は分かるな。
後ろから付いて行くから全力で走れ」
「はい!」
小声でやり取りし、縄を解いた少女達は走り出した。
どの道を選ぶかを先に説明していたので、
少女達は人がいないであろう道を選んでいく。
細い路地はリグムは入れないので、
センサーで行き先に敵がいないか確認しつつ、並行して進む。
運良く敵との接触はなく、少女達は鎧置き場に到着した。
『見張りとかは?』
『横の小屋に一人。
他に人影は無かった』
『了解』
アミアはリグムを小屋の方へ走らせ、
少女達が見つかる前に圧縮の魔法で終わらせる。
鎧置き場は小屋と簡単な柵で囲った正方形の広場に、
機械武者が等間隔で搭乗姿勢で並んでいた。
『あとは時間との勝負だ』
『そうだな』
門番の一人が戻ってこない事、
連れてきた筈の捕虜が来ない事、
鎧を置きに行った二人が報告に来ない事、
のどれかに気付かれるか、
巡回が回ってくるまでがタイムリミットだ。
少女達はその前に大量に休止状態で止めてある機械武者の、
焔玉を全て抜き取れるかがカギなのだ。
6人の少女は決められた位置から機械武者に乗り込み、
焔玉を取って袋に入れる、というのをこなしていく。
焔玉は予備を入れておくラックもコクピットにあり、
そこも確認する必要があるので1体に対して1分はかかる。
ここにあるのは15体の機械武者なので、
6人で3分で終わる計算だ。
途中でリグムの透明化の魔法も解けたが、
この後は隠密行動では無くなるので延長はしない。
そして、位置的な時間ロスを含め、
約4分で少女達全員が手を挙げ、対応が完了した。
『成功だ!
アミア、町の人の奪還に動いてくれ。
テルテはディルイを連れて地下の鎧の起動を』
『了解です、突入します』
『分かった、あとは任せた』
アミアは鎧置き場の前の路地に残り、
機械武者2体と少女達は移動を開始した。
アミアの仕事は鎧乗り場で搭乗しに来る男達の始末だ。
その後に門番の2体の鎧も仕留める必要がある。
地下の鎧が起動してくれれば捕虜となっている人達の保護や、
奉仕をさせられている人達の救出も出来る。
人質扱いされると厄介だが、
アミアにとっては人質では無いので、
その時は犠牲になってもらうしかない。
「!!」
それは本能的な動きだった。
考え事をしていたアミアは背後に違和感を覚えた。
そして、咄嗟に横に飛びのいたのだ。
※「ほー、避けるかね、この攻撃を。
しかし、鼠が騒いでると思ったら、
騎士団の生き残りがまだいたんだな」
東の国の言葉で男の声が背後から聞こえる。
声のする方を見ると、紫色をした小型の機械武者がいた。
リグムを狙ったと思われる小刀が手に握られている。
センサーには反応せず、闇夜を自在に駆け抜ける性能。
こんな物があるとは思っていなかった。
※「俺は心配症でね。
寝る時も近くに自分の武者を置いておくんだ。
夜に逃亡者を捕まえたって連絡を聞いて、
センサーを見てみたら、大当たり!」
これがアミアの一つ目の誤算だった。
門番か横にいた機械武者に何らかの連絡手段がある事、
機械武者にもセンサーが付いている物がある事、
そして鎧置き場以外に手元に鎧を置いておく者がいる事。
しかし、1体だけなら何とでもなる。
リンリは何も言わずに敵に突っ込む。
ハルバードは斜め上から機械武者に向けて振り下ろされた。
(えっ?)
捕らえた感触はあった。
しかしハルバードには何の手応えも無い。
※「遅い!」
背後から左の肩口に向けて斬撃を食らう。
正面にいたと思った機械武者はいつの間にか移動し、
小刀でリグムを切り裂いていた。
1撃の威力は小さいが、その攻撃には確実性があった。
(幻影の魔法だろうか?
いや、魔法ならリグムが見破れる筈。
それだけ素早いのか、そういう技術なのか)
相手は変幻自在に動き、徐々にリグムのダメージを増やしていく。
逆にリグムはハルバードの振りが大きい為、
1回避けられるとその間に2回攻撃を食らう。
相手が素早く小さい事もあってリグムの攻撃は当たらなかった。
そして、デュエナが突撃した事で町中に警報が鳴り、
鎧に乗る為に兵士達が鎧置き場に殺到する。
兵士に攻撃は出来なくても、鎧は動かないので、
リグムの相手が一人なのは変わらない。
(なんで?)
ここでアミアは二つ目の誤算を味わう。
起動する筈の無い機械武者達が一部動き出したのだ。
そして戦う横で集まっている兵士を見て、その原因に気付く。
(予備の焔玉を携帯してるのか)
それが定められた事なのか、たまたまなのかは分からないが、
やってきた兵士の半数近くが腰に焔玉を付けていた。
そんな情報は森で捕らえた男達からは得られなかった。
『アミア、テルテ、兵士が焔玉を持っていた。
動き出したらそっちに向かうかもしれない』
『了解、こっちは順調だから、
外に逃がしたら援護に行くよ』
『こっちはもう少し時間がかかりそうだ』
テルテの方はそもそも戦闘能力が無いので、
敵を向かわせないようにしないといけない。
初めて戦う敵に翻弄されながら、
更にアミアには課題が圧し掛かる。
※「気が散っているみたいだけど、
そんな余裕は無いんだよ!」
紫の鎧の攻撃が胸の装甲を切り裂く。
リグムは全身傷だらけになり、ややヤバい状態だ。
そして、起動した他の機械武者もリグムの周りを囲み始める。
(スピード型なら、これで!)
アミアは覚悟を決めた。
紫の鎧が再びリグムに斬りかかる。
リグムは回避を止め、ハルバードを左手だけで持った。
相手も何かに気付いて、攻撃を止めようとする、
が、リグムの動きの方が早かった。
(捕らえた!)
リグムの右腕には長い爪が伸びていて、
それが紫の鎧の左腕に深く食い込んでいた。
逃げようとしても爪は抜けず、
リグムは左腕のハルバードを持つ手で鎧を殴る。
想像通りスピードに特化している分、
装甲は薄く、殴るだけでもボディがひしゃげてきた。
※「まだだ!」
と、紫の鎧が再び消える。
右手の爪には敵の左腕がそのまま残っていた。
相手は腕を自ら切り離して逃げたのだ。
※「数で押せ!」
男の命令で近くにいた機械武者4機が周りからリグムを攻める。
夜戦用に付けられた機械武者の肩のライトがリグムを照らす。
タイミングを合わせて4機は一気に襲い掛かってきた。
防御しようとしたが、右手に刺さった紫の鎧の腕が邪魔で、
ハルバードが構えられず、避けようとしても、
2機の細身の剣で攻撃を腕と足に食らってしまう。
さすがに行動に影響が出るレベルのダメージになってきた。
(大丈夫、まだ行ける!)
何とか爪を引っ込ませ、ハルバードを両手で構える。
周りの敵の攻撃に合わせて回転し、
ハルバードは4機の機械武者を真っ二つにした。
※「次!」
が、更にその周りに5機の機械武者が集まっていた。
その全ての攻撃を防ぐのは無理だとアミアは思った。
せめて出来るだけ多く道連れに。
そんな事を考えていた時だった。
「助太刀します!!」
少女の声が上から聞こえた。
そう、上から。
そして何かが空から降ってくる。
瞬間、周りにいた機械武者は四方八方へ飛ばされていた。
そしてリグムの目の前には着地の重低音と共に、
朱色と白の見た事の無い機械の鎧が立っていた。
(味方?)
こんな神聖鎧がいるのだろうか?
※「『神装』だと?
なんで神卸しの鎧がこんなところに」
「狼藉者はわたくしエリエ・ヤマタと、
神の使い、アイシンが成敗いたします!!」
少女は語りながら薙刀を鎧の背中から取り出し、
呆然としていた1機の機械武者を切り捨てた。
「味方なのか?」
「はい!一緒に戦いましょう」
敵意は無いようだ。
それに東の国の言葉ではなく、王国の言葉を使っている。
戸惑いはあるが好機は逃せない。
アミアは寄ってくる雑魚は新たに現れた鎧に任せ、
指示を出していた紫の鎧に斬り込む。
※「まさか裏切り者の巫女と手を組んでいたのか。
まとめて手柄にしてやる」
片腕になった紫の鎧は太ももから何かを飛ばしてくる。
小型の剣が猛スピードで飛んで来ていた。
リグムは避けながら近付くが、
左右の足から連続して飛ぶ剣は全ては避けられない。
(でも、ここで怯んだら負ける!)
相手の攻撃はこちらの隙を作る為のものだと感じ、
リグムは傷を気にせず、そのまま突き進んだ。
紫の鎧は構えたまま動かない。
リグムがハルバードを振り下ろす。
それを待っていた相手は攻撃を潜り抜け、
カウンターでリグムの胴に斬り付けようとした。
(そこ!!)
アミアはそれを待っていた。
ハルバードはあえて軌道を甘くし、速度も遅くしていた。
そして敵が懐に飛び込んだところをハルバードの柄の方で打ち抜く。
紫の鎧は吹き飛び、動かなくなった。
相手が軽く、装甲が薄いからこその対応だった。
「お見事です!!」
振り返ると、紅白の鎧は瓦礫の山を築いていた。
『アミアちゃん、大丈夫?
って、誰、その鎧』
デュエナがやってきて状況を見て驚く。
「いや、あたしもよく分からないけど、
この人が助けてくれたんだ」
アミアは声に出して説明する。
「これは失礼いたしました。
しばしお待ちを」
紅白の鎧は止まると搭乗姿勢になり、背中の繭が開く。
中からは胸と腰に下着というか、
布を巻きつけただけの格好の女性が降りてきた。
全身褐色の肌が目を惹きつける。
そして長い黒髪に黒い深い瞳、
何より胸がリンリより更に大きかった。
「わたくし、東の国『トワ』の巫女、エリエ・ヤマタと申します。
予言に従い、あなた達と共に旅をする者です」
深々と頭を下げて名乗る褐色の少女。
少女の言葉にアミアもリンリもただ茫然としていた。
第3部はここで終わりになります。




