1.東の国の巫女
ネオンテの町にある元王国騎士団の応接室に、
6人と1匹がテーブルを囲うように座っていた。
いや、一匹の妖精は宙に浮いてはいるが。
応接室と言っても質素なテーブルに椅子が並んでるだけで、
調度品は無く、建物自体も老朽化している。
「エリエさんでしたかな。
この度は町を救う事にご助力頂き、
本当にありがとうございました。
失礼ながら、質問させて下さい。
なぜ、敵国の巫女であるあなたが、
我々を助けて下さったのでしょうか?」
ネオンテの町の町長が質問をする。
6人の中で唯一の男性であり、髪は白髪だが、
しっかりした顔つきで、まだ老人というには若い風貌だ。
アミア達による奪還作戦はエリエの参戦により急速に収束した。
町を取り返した翌朝には最低限の防衛対策が取れたので、
こうして主要な人物が集まって情報のやり取りを始めたのだ。
「東の国の侵略の責任は我ら巫女にもありますので、
わたくしが手を貸すのは当然のものです。
ただ、今回の協力は別の使命によるものでもあります。
わたくしにはアミア様、リンリ様を手助けする使命があり、
その為に昨日町を訪れたのです」
今は紅白の巫女装束を着ている褐色の少女、エリエが応えた。
アミアにとって名乗る前から自分達の事を知っているのが謎であり、
何か裏があるのではと昨日から身構えている。
ちなみにアミア達が町の奪還の為に協力した事は、
ディルイから町長に説明され、素直に歓迎されていた。
「アミアさんもリンリさんもエリエさんとは初対面で、
面識は無いんですよね?」
会話の仲介役として参加しているディルイが確認を取る。
「まあ、話した通り、東の国に知り合いは居ないし、
名前を聞いた事も顔を見た事も無いな」
「私も初対面です」
「一応うちも初対面で、名前も知らないと言っておくよ」
アミアに続いて、リンリ、テルテが答えた。
「わたくしも皆さま方とは初対面です。
昨日も簡単にお話ししましたが、
わたくしは大巫女様の予言により、
昨晩、あの時間あの場所を指定され、参上致しました。
アミア様、リンリ様のお名前も大巫女様より聞いており、
お仲間に妖精と人間の少女がいる事も予言されております」
このエリエの言う予言がとても胡散臭い。
どうしてもこちらを信用させる為の嘘ではないかと、
アミアは疑ってしまう。
「あたしはまだあんたを信用出来ない。
聖教団か邪教団から情報を得て、
嘘を付いてる可能性もあるしな」
アミアはエリエを睨むが、エリエはにっこり笑って返す。
その笑顔には裏が無いように見えるのだが、
それを信じたら思う壺だと気を引き締める。
「私は助けてくれたのは確かだし、
言ってる事は信じられなくても、
エリエちゃんは悪い子じゃない気がするなあ」
リンリはやはり人を信じたいようだ。
リンリの勘は鋭い所もあるので、
同意したい気持ちも出てくる。
それにエリエが参戦した事で、
町の奪還がスムーズに終わったのは確かだ。
巫女の鎧を見た兵士達は一部は敬い、一部は畏れ、
結果として逃げ出す事を選択していた。
奪還が目的なので逃げる敵は追わず、
瞬く間に兵士達は町から離れていったのだ。
町人達の被害は最小限に留まり、
それもあり、異物であるエリエに対して、
町の人々も即座に追い出そうとはしなかった。
「うちは保留、
というか、東の国の情報を聞いて、そこから判断したいかな」
テルテはアミア同様慎重な姿勢を崩さない。
町長とディルイは顔を見合わせる。
どうする事がいいかお互いに考えているようだ。
「町長、わたし達にはやるべき事がまだ山のようにあります。
ここはアミアさん達に任せましょう」
「しかし、彼女らは皆外から来た人達で・・・」
「彼女達がいなければ町は終わっていました。
信頼するには十分です」
ディルイの言葉で町長も納得するしかなく、
お辞儀して二人とも部屋を出ていった。
「じゃあ、ちょっと質問させて欲しい。
あんたはあたし達に会って、どうするつもりだったんだ?」
アミアは仕切り直して質問した。
「予言ではアミア様達の旅に同行し、
力を惜しまず手助けをするように言われております。
行き先は自然と示されると。
また、わたくし自体にも予言の力はあり、
皆さまとの出会いを予感しておりました」
「随分曖昧な内容で、どうとでもなるように思えるなあ」
テルテが印象を述べる。
「巫女の予言とは元々完全に道を示すものではなく、
その言葉から真理を追究するものだと教えられております。
大巫女様は特別で、時刻、場所、
人物まではっきりと当てる事が出来るのです」
「その大巫女様ってのは誰なんだ?」
「『トワ』の国の巫女達を統べるのが大巫女様です。
現在の大巫女様は5年前、
13歳の若さで選ばれた『ナナ・クイン』様で、
その魔力、神装の技術共に巫女の頂点に相応しい方です」
エリエの表情はウットリとしていた。
「でも、大巫女様って偉いんだよね?
私達に協力するって予言をしたなら、
なんで王国の町への戦いを止めないの?」
リンリが素朴な疑問を口にする。
兵士達が巫女を畏れている所は確かに目にした。
そのトップの言葉なら大きな影響があるのは確かだ。
「申し訳ございません、これは我が国が未熟なのと、
我々巫女の力が足りない為です。
機械武者が我が国で開発されたのはご存知だと思います。
それにより妖魔を追い払ったまでは良かったのですが、
そこから権力者達は増長し、
国の帝の交代を境に裏から国を動かすようになったのです。
巫女達が気付いた時には遅く、
巫女は国に半分監禁されたような状態になり、
自由に動く事は出来なくなりました。
それでも、大巫女様の予言の力は偉大であり、
他の巫女達が危険を冒して、
わたくしとアイシンを城から逃がして下さったのです」
アイシンというのはエリエの鎧、神装の名前だろう。
しかし、大巫女の予言が本物だとしても、
なぜ、あたし達のところに寄こしたのだろう。
そこでアミアの頭にある事が思い浮かんだ。
「まさか王国の騎士団に巫女達の救出を手伝わせる為に、
あたし達に取り入ろう、とか考えてるんじゃないだろうな?」
「違います!
国の問題は国の中で解決させます。
その為にアミア様達を巻き込もうとなどとは決して考えておりません。
大巫女様の予言はこの世界の為のものです。
国や個人の思惑などの枠組みに囚われてはいないのです」
エリエは必死に訴える。
その姿はアミア達には無い、純粋な信仰の姿が垣間見えた。
「100歩譲って、あなたの言っている事を信じるとしよう。
それじゃあ巫女さんはうちらの為に何をしてくれるんだ?」
テルテが試すように言う。
「わたくしは皆さま方に助言をする事が出来ます。
今のままではこの町を守り続けるのは無理でしょう。
『クロマ』領主はこの町に固執し、
何度でも兵を送ってくるつもりですから」
「じゃああんたがそこで交渉してくれると?」
「いえ、わたくしはもう国を出た巫女です。
そのような力はございません。
でも、案を出す事は出来ます。
ここで防衛するのは無理でも、城塞都市を取り戻せば、
クロマの軍勢も簡単に手出しは出来ません」
エリエが提案したのは予想すらしていない方法だった。
「ちょっと待って。
あんたは城塞都市の現状がどうなってるか知ってるのか?
複数の大型妖魔が跋扈してて、
周りにも崩落跡がいくつもあるんだぞ。
取り返すにも、その後維持するにも無理がある」
「わたくしも巫女の端くれ、
崩落跡を封じる事は可能です。
それに大型妖魔ならわたくしとお二人の鎧があれば、
どれだけ現れようと問題無いと思いますが」
エリエはあっさりと答える。
冗談なのか本気なのか分からないが、
それだけ自身があるという事なのだろうか。
「うまい事言ってこの町を無傷で手に入れよう、
とかいう作戦?
東の国の中も1枚岩じゃなさそうだし」
「いえ、そんなつもりはございません。
お二人とも『2重適合』は済んでおりますよね?
でしたら大型妖魔を畏れる理由がわたくしにはよく分かりませんが」
その言葉を聞いて、テルテの顔が一瞬強張った気がした。
「『2重適合』って何ですか?」
リンリは聞いた事の無い言葉に反応する。
「お二人が使っている言葉と違いましたか?
ええと、アミア様がリンリ様の神聖鎧に、
リンリ様がアミア様の不死鎧に乗り、
同化する事を言っております。
これでお互いの本来の力の一部が、
使えるようになっていると思いますが」
エリエの言葉に二人は驚いた。
「あんたはあたし達の鎧の事についてどこまで知っているんだ?」
「基本的にわたくし達の神装も、
アミア様達の鎧も同じで、双子の神の力で作られたモノです。
見た目や能力、魔法の系統は異なっても、
静と動、2種の鎧が対になっている事、
その力の開放の為に鍛錬が必要な事には変わりありません」
エリエの言葉の意味を頭の中で整理する。
光の神アルデンと邪神デュガールが双子の神である事は、
どちらの教団でも教えている事だ。
その方向性の違いから争う事になった事も。
しかし、エリエは鎧が対になっていると言う。
お互い異なる鎧に乗る事自体、
あたし達が行った特別な例ではなく、
正しい行為だったのだろうか。
「じゃあ、あんたも敵対する勢力の鎧に乗ったのか?」
「敵対ですか?
いえ、双子の神は考えは違うものの、
敵対している訳ではありません。
巫女は静と動、2種類の神装を対で組むようにし、
神の言葉が聞けるようになるまで鍛錬を行います。
お互いの鍛錬が深まった時、
対になっている鎧に乗る事で見えなかった世界が広がり、
神装が持っている本来の力の一部が使えるようになるのです。
そこから更に鍛錬をする事でもっと力が発揮出来るのですが、
わたくしもまだ修行の身、その域まで達しておりません。
わたくしのアイシンは『動』の神装で、
大巫女様の『静』の神装に乗って鍛錬をしておりました。
アミア様とリンリ様もパートナーだとお見受けしたのですが」
エリエの言っている事に一同困惑する。
「もしかして、この町にあった候補生の鎧が、
神聖鎧と不死鎧3機ずつだったのも?」
「それについては詳しくは分かりませんが、
おそらく王国騎士団の方が、
対で鍛錬させようと残したんだと推測は出来ます」
「テルテ、3機ずつって?」
「ああ、アミア達は見ていなかったな。
町の地下にあったのは神聖鎧と不死鎧が3機ずつで、
6人の子供達はそれを動かしたんだ」
その言葉で、アミアがずっと気になっていた事が繋がった。
ミアンナが不死鎧を見ても気にしなかった事、
トレスト村でも不死鎧と神聖鎧、
2体が並んでいても何も言われなかった事、
そしてディルイ達も同様に不死鎧を受け入れていた事。
つまり、大断層の東側、王国騎士団では、
東の国と同様に神聖鎧と不死鎧は対の物としていたのだ。
「アミアちゃん、こっちでは教団同士の争いは無いんだね」
リンリも同じ結論に達し、少しショックを受けたようだ。
「そうだな。
じゃあ、あたし達の戦いは何だったんだろうな・・・」
そして姉の死も・・・。
思考が闇に陥りそうになり、
一旦気持ちを切り替え、今後どうすべきかを考える。
「分かった、エリエ、あんたの事はまだ信じられないが、
その情報については考慮する価値がある。
もし本当に協力するつもりがあるんなら、
知っている情報を詳細に聞かせて欲しい」
「はい、わたくしの知っている事は何でもお話いたします。
改めまして、今後ともよろしくお願いいたします」
エリエは少しだけ受け入れられたと感じたようで、
深々と頭を下げた。
アミアとテルテは町長とディルイに話の結果を知らせる為、
一旦部屋を出た。
「あそこまで話したんだから、
全部が嘘、って事は考えられないな」
移動しながらテルテと意識を擦り合わせる。
「だねえ。
しかし、大断層の西側は完全に情報が不十分で、
ほぼ崩壊してる、って事なんだよな」
しかし、そうだとしても別の疑問は出る。
「でも、王国騎士団が対で鎧を扱っていて、
あたしやリンリみたいな力が使えたんなら、
それこそ城塞都市を奪われたり、
東の国の侵攻に屈したりしなかったんじゃないか?」
「うーん、城塞都市にそれ以上の存在がいるとか、
東の国の物量や機械武者の性能が想像以上、
って可能性もあるかな。
それか、アミアとリンリの力が特別か」
やはり、今の情報でもまだ不足している。
エリエにもっと話を聞きつつ、
王国騎士団の事も調べる必要を感じたのだった。
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「ごめんね、エリエちゃん。
アミアちゃんもテルテちゃんもあんな感じだけど、
色々心配してるから強く言ってるだけなんだ」
二人きり(+ルミル)になったところで、
リンリはエリエに謝罪した。
「いえ、お二人の慎重な態度は良く分かります。
わたくしは頭では分かっていても、
勢いで行動してしまう事があり、よく大巫女様に怒られました。
ですので、お二人みたいな方は凄いと思います」
「私もそう!
難しい事考えるのは苦手だから、
こうかな、って思ったように動いちゃう。
アミアちゃんは優しいから私の事怒ったりしないんだけどね」
少しだけリンリは寂しそうな顔をする。
「お二人は恋人同士なのですか?」
「え!?どうして?」
突然そんな事を言われてリンリは驚いた。
「いえ、巫女の中では対になった者で、
恋人関係になる者も珍しくなかったので。
わたくしは大巫女様と対になりましたので、
尊敬はしておりますが、
そういった関係はお互いに望みませんでした。
それに、わたくしには理想の君がおりましたし」
「エリエちゃんは好きな人がいるの?」
「まだおりません。
しかし、現れる予感はあります」
エリエは夢見る少女の顔をした。
「ふふ、エリエちゃんって可愛いね。
恋人かあ・・・」
アミアの事は大好きだが、最近のアミアには明確な壁を感じ、
どうしていいか戸惑っている。
リンリは自分の気持ちはよく分からないな、と思った。
そんな二人の様子をルミルは面白そうに眺めていた。




