11.選択
「話を聞かせてもらってもいいかな?」
アミアは捕まっていた女性達のうち、
一番年齢が高い20代と思われる女性に質問した。
戦闘後、リンリが回復魔法で傷付いた女性達を癒し、
話を聞くなら男達は後にした方がいいだろうと、
縛っている男達は睡眠の魔法をかけて眠らせた。
妖魔の反応は無いが、夜になったので、神聖結界を張り、
それから二人は鎧を降りて話を聞く事にした。
鎧を降りたアミアを見ても特に反応しなかったのは、
小柄な鎧の搭乗者を見た事があったのかもしれない。
最初に偵察した時にも分かっていたが、
捕まっていた女性は一人だけ20代で、
他は10代前半もしくはそれ以下の子供だった。
「まずは助けていただきありがとうございます。
それに傷の手当までして頂いて。
わたしは少し先にあるネオンテの町で暮らしていた、
ディルイ・ズイトと申します。
ネオンテの町は2日前に東の国の者達に占拠され、
わたし達は何とかその直前に逃げる事が出来ました。
しかし、生身で戦闘も出来ないわたし達は森に隠れるのが精一杯で、
そこにいる残党狩りの連中に今日には見つかってしまい、
町へ連れていかれるところでした」
ディルイと名乗る女性は確かに鍛えているようには見えず、
子供達も妖魔と戦うのは難しいだろう。
「今までに町を襲われる事は無かったと?」
「いえ、折を見て攻めてくる事はありましたが、
そこまで重要視されてなかったのと、
町には王国騎士団の生き残りの方がいましたので、
何とかなっていました。
しかし、町の北東に崩落が起き、大型妖魔が出るようになって、
状況は一変しました。
妖魔を討伐する為に騎士団の方が外出する事が増え、
東の国は防衛拠点としてネオンテの町を占拠しようと動きだしたのです」
少し前までは人が生活している町があった事と、
それを守る騎士団も残っていた事に少しだけ喜びを感じる。
と同時に、騎士団を知っている彼女が不死鎧であるリグムに対して、
特に怯えも敵対心も無いのが不思議だった。
西側では邪教団がすでに滅んでいるのか、
それとも東の国に対抗する為に手を組んでいるのだろうか。
ただ、その疑問は本筋から外れるのでアミアは心に仕舞っておく。
「東の国の支配はそんなに酷いのか?
土地が軍事的に利用出来れば市民は守ってもらえる、
とかではないのか?」
邪教団が占拠した場合、市民を有効活用する為、
守ってやる代わりに食料か労働を要求していた。
反乱させない為には飴と鞭が必要だと理解している。
「彼らは自分達の民族以外はどうなってもいいと考えています。
隷属させられた村や町では、
男性はより過酷な環境に連れていかれ、
女子供や老人はその土地で奉仕させられます。
もちろん全ての東の国がそうとは限らないですが、
ここら一帯の絶対防衛ライン付近は、
彼らにとっても過酷な環境な為、
無法が許されていると聞きます。
『機械武者』の完成により、
力を手に入れた彼らはどこか狂ってしまったんでしょう」
『機械武者』というのがあの独自の鎧の名称なのだろう。
妖魔に対抗する手段を手に入れた先が他国への侵略とは、
なんて馬鹿らしいのだろう、と思いつつ、
聖教団と邪教団の争いも変わらないな、と気付いた。
「絶対防衛ラインとはどういう意味なんでしょう?」
テルテが気になったようで質問する。
「東の国は巫女の力により、
領土内の崩落を抑えられると聞きました。
ただ領土の外から妖魔はやってきます。
彼らは領土の境に砦を築き、
そこに機械武者を大量に配置する事で、
絶対防衛ラインという境界を作って、
妖魔の侵入を死守しているのです。
ただし大量の機械武者を維持する為の燃料が必要で、
それを集める人手を王国の民で補っているんです」
色々と知らない情報が出てくる。
しかし、その絶対防衛ラインが完全なら、
東の国の中は妖魔のいない理想郷になっていると思われた。
「本当にあの機械武者だけで妖魔の侵入が完全に防げるのかな?
大型だって悪魔だっているんだし、
どこかで突破されそうだけどなあ」
リンリが疑問を口にした。
アミアは直接戦ってみたが、
確かにあの位の鎧が沢山あったところで、
悪魔が複数現れたら、それでおしまいな気はする。
「完全ではないでしょう。
だから防衛ラインの外にも拠点を作って、
そこで時間稼ぎをしようというのもあると思います。
ただ、彼らは物量で圧倒しており、
達人ともなればそこにいる男達より数倍も強いと聞きます。
更に、彼らには巫女の乗る『神装』という鎧もあります。
その力は王国騎士団に匹敵すると言われています」
ディルイの言葉で一筋縄ではいかない、という事が感じられた。
「それで、逃げた先であなた達はどうするつもりだったのか?」
すこし厳しい質問だが、
思い付きで逃げ出したのでは死しかない。
何らかの希望があったのではと聞いてみる。
「正直行く当ても生き延びるすべもありませんでした。
それでも捕まれば地獄の日々か死しかありません。
わたしはある方と約束し、
この子達を生き延びさせる役目があります。
王国の生き残りや騎士団の生き残りがどこかにいるとも聞きます。
可能性があるなら、と必死に逃げたのです。
それにあなた達に巡り会えました。
逃げた事は無駄ではなかったと思います」
ディルイは嬉しそうな顔をする。
「そうだね、私も助けられて嬉しいな」
アミアが言えない分、リンリが代弁してくれるのは助かる。
情報という面でも防衛ラインまで何の知識も無く近付いたら、
捕らえられたか、殺された可能性もあっただろう。
民族で区別される以上、受け入れられる可能性は低い。
しかし、そうなると東側に来た意味が無くなってしまう。
「宜しければあなた達がどこから来たか教えて頂けますか?
王国騎士団の生き残りとは思えませんし、
最初に『旅の者』と彼らに名乗ってましたよね?」
ディルイは東の国の言葉も分かるようだ。
ミアンナの時のように騎士団と名乗るのはおかしいのだろう。
邪教団からも追われているので、ここで嘘をついても、
後でややこしくなるとアミアは思った。
「話していいか?」
「うん、私は任せるよ」
「うちもアミアに任せる」
言葉を匂わせつつ確認を取り、二人から了承は得られた。
全部ではなくとも真実を話してしまおう。
「あたし達は大断層の西側から来た。
向こうも酷い状況で、
東の国に妖魔に対抗出来る力があると聞いて、
そこでなら平和に暮らせると思って逃げてきたんだ」
「西側から!
向こうにも生存者はいたんですね。
そしてあの大断層を。
それは3人だけで?」
やはりディルイも驚いている。
周りの子供達もその話を聞いてざわざわと小声で話し始めた。
人数に加えられてない事に不満を抱いたのか、
ルミルが上の方で鳴いているが、とりあえず無視する。
「ああ、3人だけでだ。
まあ死ぬ思いを味わったから、
大断層はもう2度と渡りたくはないかな。
それで、東側に来て、人がいる村や町が無いか、
寄りながら来たけど、生きている人がいたのは、
断層近くのトレスト村だけだった。
そのトレスト村も妖魔に滅ぼされて、もう無い。
そうしてようやく出会ったのがあんた達だ。
東の国の男達と交渉しようとしたけど、
無理だったのは見てた通りだ」
教団を抜け出した事は省き、
また、トレスト村は妖魔に滅ぼされた事にしておいた。
追われている身だと今明かす必要は無いと思ったからだ。
「そうですか・・・。
やはり大断層に近い程、崩落の影響は大きいんですね。
そうなると、近くに逃げる場所は無いんでしょうね・・・」
ディルイは悲しそうな顔をする。
さすがに彼女達を安全な場所へ連れていく、
なんて事は出来ない。
そもそも安全な場所など無いのだから。
「本当に勝手ながら、お願いがあります。
町を取り戻す手伝いをしていただけないでしょうか?
今ならまだ男性達も移送される前の可能性が高いです」
ディルイが頭を下げる。
しかし、妖魔が襲っていたトレスト村の時とは話が違う。
敵は町を占拠している相手だけではなく、東の国全体なのだ。
奪い返して、すぐに大勢力で襲われれば無意味だ。
「手伝い、と言いましたね。
何か取り戻す策でもあるんですか?」
テルテが言葉の意味を確認する。
「それは・・・。
いえ、正直に話しましょう。
わたしは王国騎士団の世話係をしていました。
そして、この子達は騎士団の候補生達です。
全員が鎧に乗る資格を得ています。
そして町の地下にはこの子達が搭乗する為の鎧が隠してあります。
一時的でも敵を引き付け、町へ潜入する機会を頂ければ、
後はわたし達で中から敵を排除出来るかと」
「その子達の戦闘経験は?
そして、町の敵の規模は?
本当に勝算はあるんですか?」
アミアはあえて厳しい口調で言う。
「いえ、それは。
でも、このままでは終わってしまう。
少しでも可能性があるなら、それに賭けるしかないんです」
「そうは言っても、あなたはあたし達の戦力に期待している。
大断層を超えてきたと聞いてその考えは更に強くなった。
そもそも王国騎士団がいた時点で同程度の戦力があった筈。
それでも町が奪われたという事を考えれば、
今度はうまく行く、とはあたしは思えない」
「それは違います!
町を奪われた時は大型妖魔が近くに出ていて、
町には1機しか騎士団が居ませんでした。
まさかそのタイミングを狙って敵が来ると思っておらず、
あの時は逃げるしかなかったんです。
でも、逃げられない事を知り、わたし達は覚悟しました。
ここで町を取り戻せなければ本当に終わりだと」
彼女の覚悟は確かにそうなのだろう。
しかし子供達にその覚悟はあるのだろうか。
見た感じそこまで覚悟を決めた顔をしている少女はおらず、
どちらかと言うと戸惑っているか、怯えている。
教団でも初戦で命を落とす者は多かった。
訓練と実戦は違うのだから。
「少しだけ3人で話をしてくる。
その間に食事をしてくれ」
アミアはそう言い放つとリンリとテルテを連れて、
話を聞かれないところまで移動した。
「あたしは助けてあげたいな」
リンリの意見は何となく分かっていた。
「助けてもいいと思うが、その後はどうする?
うまく行ったとしても、その後もずっと町を守る為に、
あたし達が戦うのか?
ここはトレスト村とは違う。
妖魔の他に東の国の連中が常に襲って来る。
助けたとしても放置したら、すぐに村は取り返されるだろう」
アミアは厳しい意見だが、事実を述べる。
「そうだよなあ。
ただ、見捨てるのもどうかとは思うんだよ。
東の国には受け入れられないんだし、
うちらには進む選択肢は無くて、もう戻るしかない。
3人だけは気楽だけど、危険は高い。
町の人達を助けて、ここより安全な町に移動すれば、
少しはマシにならないかな?」
テルテが考えを述べる。
「途中で見てきた妖魔が占拠してる場所を奪う、って事か。
悪くは無いけど、町の人が同意するか分からないし、
移動は大人数になる。
それこそ東の国や妖魔の恰好の餌食になる気もするな。
まあ、町に留まるよりはいいとは思うけど」
「まずは助けてあげて、
本当に町が危険なのか様子を見るのはどうかな。
近くに崩落があったんなら、
東の国も町の事を諦める可能性もあるんじゃないかな」
リンリの助ける気持ちは変わらないらしい。
アミアも助けてあげたい気持ちはある。
ただ、その後の責任を感じているだけだ。
「うちも縁があったんだと思うかな。
もし出会わずに東の国に接触してたら、
酷い目にあったかもしれないし。
相手の規模が分からないから、
やるんならちゃんと作戦を立てる必要はあるけどな」
「分かった。
彼女達を信じて助けよう。
東の国の情報が増えれれば、
他にも選択肢が増える可能性もあるしな。
まずは情報収集と、作戦会議だ」
アミアも覚悟を決めた。
それに色々考えている間は、
心の中のモヤモヤも薄れている気がして、
そっちに集中したいという想いもあった。
「町を取り戻すのに手を貸そう。
ただし、あなた達を中心に動いてもらうし、
必要な情報は全部話してもらう」
「ありがとうございます。
わたしに出来る事は何でもやります」
ディルイの言葉を聞いてミアンナが思い浮かび、
アミアの胸は少し痛んだ。
次に東の国の男達から情報収集をした。
男達は王国の民と比べて色の濃い、
褐色の肌をしており、それが彼らの言う民族の特徴なのだろう。
彼らの魔法耐性は低かったので、暗黒魔法で尋問する事で、
欲しかった情報は大体得られた。
彼ら自体は東の国の中でも捨て駒的な、ならず者で、
危険の多い防衛ライン付近の仕事を宛がわれていて、
東の国自体の戦略や全体像は聞き出せなかった。
ただし町を占領している戦力や、
住人の隔離先などは聞けたので、
奪還作戦について必要な情報は得られた。
「これの動かし方は分かります?」
男達に何となくは聞いたのだが、説明が不足していたので、
テルテは機械武者の動かし方が分かるか、
ディルイに聞いてみた。
使える物は使うべきだと考えたテルテは、
無傷の機械武者に目を付けたのだ。
「はい、町では鹵獲した機械武者を使っていて、
わたしも一通り動かし方は覚えました。
わたしは鎧の同化が出来なかったので、
騎士にはなれませんでした。
その代わり出来る事は何でもしようとしていたので、
一生懸命覚えたんです」
そう言ってディルイは小さいタイプの機械武者に乗り、
起動を行う。
「動作は手、足共に自分の動きをトレースします。
コクピットの中に立って、自分で動くんです。
だから、戦闘は疲れるし、動くのに体力を使います。
視界も胸の上の透明な部分から、
自分の目で見える範囲だけなんです。
この距離感は身体で覚えるしかありません」
ディルイは機械武者で屈伸したり、
地面に落ちている物を拾ってみせる。
神聖鎧や不死鎧について知っている部分と比べても、
随分と不便そうだとテルテは感じた。
「あと、機械武者の燃料は『焔玉』と呼ばれる、
特別な球体の石を使ってるんです。
詳細は知りませんが、これは使い切りなので、
予備を含めて持っている分しか動けません」
ディルイは機械武者を降りて、コクピットの前に埋まっていた、
20センチぐらいの球体の石を持ってくる。
その石は紅く光っていて、中が燃えているように見えた。
「この灯が消えたら終わりです。
1個で丸1日動かせる事が出来ると聞いてます。
逆にこの球を取ってしまえば、
機械武者は動く事は出来ません」
ディルイのその言葉で、テルテはいい事を聞けたと思った。
「こっちの小型のが『軽鎧』で、
そっちの装甲が厚いのが『重鎧』という分類だそうです。
女性だと『重鎧』の方を動かすのは無理だと思います」
ディルイに言われて、実際にテルテは重鎧の方に乗ってみたが、
2,3歩歩くので疲れてしまった。
体力には自信があったが、これを動かすのは更に体格の大きい、
男性で無いと無理なのだろう。
「とりあえず、小さい方の機械武者2体はうちと、
ディルイで動かせる。
戦闘は無理でも陽動や騙し討ちには使えるだろう」
「分かった。
あとはあたしが明日までに作戦を考えておく。
他のみんなは休める内に休んどいてくれ」
アミアの言葉でテルテも女性達も寝る準備を始める。
ディルイから聞く事を聞いて、
テルテからも機械武者の情報が聞けたので、
作戦を立てる情報は揃っていた。
「私は元気だけど、手伝える事はある?」
一人だけリンリが残り声をかけてきた。
正直一人でじっくり考えたかったが、
たまには二人きりで作業するのもいいかと思った。
「じゃあ、あたしが言った事を地図やメモに書いてくれ」
「分かった」
それから考えながら浮かんだ事をリンリにメモを取ってもらい、
町の地図に駒を置いたりして、考えながら進めていく。
「うーん・・・」
考えに詰まりアミアは唸る。
「ちょっとリラックスしよ」
リンリはそう言うと座っているアミアの後ろに回った。
後ろから柔らかく抱き締められる。
久しぶりに近くでリンリの匂いを嗅いだな、
とアミアは思うのだった。
「アミアちゃんは凄いと思うよ。
こういうの私には考えられないし。
でも、一人で悩む事があったら少しは頼って欲しいかな」
リンリの囁く声で耳に息がかかり、くすぐったい。
「そうだな。
一人で考え過ぎるのもダメだよな」
言いながらアミアは後ろに体重をかけ、リンリに寄りかかる。
より、リンリの体温が感じられ心地いい。
二人はそのままの姿勢でしばらく過ごすのだった。




