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悪姫恋聖  作者: ねじるとやみ
第3部 未知の大地
36/82

10.葛藤

※が付いてるセリフは東の国の言葉を表しています。

トレスト村を出てからの旅路は順調だったが、

一行の空気はずっと澱んでいた。

リンリからの話題に対して、アミアの返事は減り、

自然とリンリの発言も減っていく。

結局、場の空気を変えようとテルテが一番喋る事になった。

お互いの鎧を乗り換えるて戦う事についても、

村で話してから話題には出なかった。


それでも、戦闘となればそれぞれが自分の役割を果たし、

中型の群れや単体で現れた大型の妖魔だったら、

ほぼ無傷で対応出来ていた。


そして、2日ほど移動した時、遠くに大きな城が見えた。

以前行こうとしていた城塞都市だろう。


「城はミアンナに聞いた話だと妖魔に占拠されたようだが、

念の為様子を見てくるか?」


「どうだろう。

前の街は大型が何体も居たし、同じ結果にならないかな?」


大型数体と戦う事になるなら鎧の乗り換えをどうするか、

という話になるだろう。

その話題をここで始めるのは避けたい、とテルテは思った。


『念の為忠告しておく。

あそこには近寄らん方がいい』


突然耳元で声がしてビックリすると、

そこにはミルミの姿があった。

アミアもリンリも反応しないから、

今までと同じくテルテしか見聞き出来ない幻像だろう。


『強大な敵がいるって事?』


『忠告はしたぞ』


質問には答えずミルミはルミルに戻っていた。

悪魔が人間の心配をしてくれるとは思わないが、

ここまで一緒に来た故の優しさはあるかもしれないと思った。


「うちはわざわざ行く必要は無いと思うな。

ここら辺は妖魔との遭遇率も上がってるし、

大きな崩落跡も増えてきてる。

城が無事って事はまず無いだろう。

それに、ほら」


テルテが指さした方向には大型の飛行妖魔が城へ向かって飛んでいく姿があった。

何となく発見したのだが、いいタイミングだった。


「そうだな、時間も無駄になるかもしれないし、

余計な危険は避けた方がいいな。

少し南下しつつ東へ移動しよう」


アミアの発言で再び移動を開始した。

ちょっと気になってルミルの方を見たが、

相変わらずお気楽に飛んでいるだけだった。



「今日はここで休もう」


日が暮れ始めたので、アミアは森の中の草原を見つけ提案した。

少し前の戦いで見張りに使えそうなオーガは使役してあった。

神聖結界を張って、少し石などをどけ、拠点を作る。


「じゃあ先に寝るから」


リグムから降りるとすぐにアミアは寝床を準備し、寝てしまった。

村を出てからは常にこんな感じで、

リンリとは別に寝るようになっていた。


「リンリは食事する?」


「うん、たまには食べようかな」


リンリが少し寂しそうに答える。

二人の関係があの戦い以来微妙なのは分かるが、

アミアにはもう少しリンリを気遣って欲しいとテルテは思った。


「アミアのお姉さんってどんな人だった?」


食事をしながら気になっていたので聞いてみた。


「私も薄っすらとしか覚えてないんだ。

まだ聖教団に来たばっかりの頃だったから。

でも、孤立していた私に話しかけてくれて、

お菓子をくれて、歌も歌ってくれたなあ。

優しくて、美人で、温かい人、って印象は残ってる」


リンリは思い出しながら話す。


「いい人だったんだろうね。

生きていればアミアとリンリが聖教団で会っていた可能性もあるんだ」


「そうだね。

でも、アミアちゃんが騎士団に入ったら、

私とは仲良くなってなかったかも。

アミアちゃんは騎士団でもうまくやっていけそうだけど、

私は落ちこぼれだったから。

だから敵同士でもこうやって出会えたのは良かったと思う」


リンリは少しだけ笑う。

リンリにとってアミアは無くてはならない存在なのだろう。

再びアミアから手を伸ばすだけで関係は元に戻ると思えた。

明日、時間を見てアミアと話すか、とテルテは考えた。



翌日、森の中に綺麗な水場を見つけたので、

そこで給水の為に一旦休憩になった。

妖魔の反応も無いので、テルテは給水をリンリに頼み、

アミアを薬草採取を手伝って欲しいと言って連れ出した。


「わざわざ口実を作って二人きりになるって事は、

何か言いたい事でもあるのか?」


水場から少し離れたところでアミアが口を開いた。

アミアにはテルテの魂胆はバレているようだ。

ルミルは空気を読んでか付いて来なかった。


「ちょっとね。

このままだとこれからの旅に問題が出そうな気がしてね」


「移動も戦闘もうまくこなしてると思うけど、

どこに問題があるんだ?」


アミアの言葉はちょっと刺々しい。


「うちも別に仲良しで行くのがいいとは思ってないよ。

でも、あんまりにアミアの態度が変わり過ぎてるんで、

無理してるんならやめた方がいいかと」


口論はしたくないので、なるべくやんわりと言う。


「あたしは無理してなんて・・・。

ただ、リンリの好意を利用するような事はしたくないから」


それでアミアの気持ちが少しだけ分かった。


「うちは別にいいと思うけどなあ。

いつ死ぬか分からない状態だし、

嘘でもなんでもそれが一番うまく行く方法なら、

うちは迷わず行動するよ。

アミアだってリンリが嫌いじゃないんだろ?」


悩んでるって事はその時点でアミアにも好意はある。

余計な情報がアミアを惑わしているんだろう。


「あたしはテルテみたいに割り切れない。

でも、うん、そうだな。

こんな状態で誰かが死んで後悔はしたくないな。

もう少しだけ考えてみるよ。

ありがとうな、テルテ」


「いいって。

でも、口実だろうと、付いてきたからには、

薬草採りを手伝ってもらうからな」


「分かったよ」


アミアに少しだけ笑顔が戻った気がした。


===========================================================================


「難しいね、人間関係って」


小川で水を汲みながらリンリは何となくルミルに話しかけていた。


「みゅー?」


ルミルはよく分からない返事をする。


「なんか余計な心配をかけちゃったかなあ、って。

でも、アミアちゃんが少し距離を取ってて寂しいのは本当だよ。

だから、それを態度に出した方がいいのかなって」


リンリは独り言になっていると分かっていても喋り続けた。


「アミアちゃんは私を守りたかったのかなあ。

あと、自分であいつを倒したかったんだろうなあ。

でも、そんな調整なんて私は出来ないし、

うーん、やっぱり難しい」


「みゅー」


「ありがとう、ルミルちゃん」


何となくルミルが慰めてくれてる気がして、

リンリはお礼を言っていた。


===========================================================================


移動を再開してしばらくすると、

一行の空気は少し変わってきた。

アミアはリンリにたまに話しかけるようになり、

リンリからのちょっかいにも反応するようになった。

戦闘も今まで通りアミアが的確な指示を出し、

時にはリンリを指導するように戻ってきた。

夜の食事もアミアは参加するようになり、

普通に会話が盛り上がるようになった。

しかし、寝る時にアミアが一人で寝床を作るのは変わらず、

全てが今まで通りに戻った訳では無かった。



村を出てから1週間が経った。

東への移動の途中で寄った町や村は崩落して無くなったか、

妖魔に占拠されているかのどちらかだった。

生きている人間に会う事も無く、

真新しい人間と妖魔の戦いの跡も無かった。

村で聞いた情報は正しかったのだろう。

それに伴い東の国の話の信ぴょう性も高くなっていた。


『妖魔の群れの反応?

違うな、これは妖魔じゃない』


夕方、鬱蒼と茂る森を進んでいると、

リグムのセンサーに生物の反応が出た。

しかし、反応は妖魔でも鎧でもない、

別の正体不明の反応も表示していた。


『正体不明以外は人間みたいです。

どうする?このまま進む?』


一旦動きを止め、テルテにも停止の合図を出した。


「この先に正体不明の集団がいる。

話に聞いた、東の国で開発された鎧の可能性もある。

まずはあたしが魔法で見つからないギリギリまで近付いて、

何者か見定めてくる」


アミアは声に出して言った。


「了解です。

とりあえずテルテちゃんとここで待機してるので、

戦闘になった場合は念話か信号弾で合図してください」


「人間だったら交渉出来る可能性もある。

なるべく戦闘にならないようにしてみてくれ」


二人に送り出されて、アミアは反応のあった方へ進む。

反応の位置は変わらないので、そこに縄張りがあるか、

または夜になるので一時的な拠点を作っているのかもしれない。

敵が不死鎧と同等のセンサーを持っていたら、

こちらにすでに気付いている筈だが、今のところ動きは無い。

ただ、リグムとデュエナのセンサーが不死鎧、

神聖鎧の中でも優れているのは確かなので、

ここからは透明化と消音の魔法をかけて進む事にした。

これで相手が探索系の魔法をかけなければ更に近付ける筈。


隠密行動をしながら、アミアは久しぶりの単独行動になったので、

別の思考が浮かび上がってしまった。


(もう少しリンリに優しくするべきなのかな。

テルテに言われてこのままじゃ駄目だとは思ったけど、

適切な距離感が分からないな)


アミアは邪教団で親しい友人がいなかったので、

圧倒的に人間関係の経験が足りないと実感する。


(でも、リンリからくっついてきてたのを考えても、

今までが過剰な距離感だったからな。

正式な恋人同士でも無いし、

リンリの好意が可愛い物に対するそれだったのもある。

強さの関係が変わるかもしれない以上、

対等な女性として付き合いたいとは思うんだけど・・・)


いくら考えても正解が導き出されないと思うので、

そこで思考を止めた。


(もうすぐ目視出来る。

今はそっちに集中だ)


近付いてみて分かったのは、

正体不明の物体は4体で一切動かず、

不死鎧でいう休止状態にあると思われる事、

人間が7人ぐらいで固まっている集団と、

離れて3人と、残り1人が定期的に動いて回っている事だった。

正体不明の物体を敵の鎧と仮定した場合、

4人は操縦者で、7人は同行している仲間、

もしくは捕えられた捕虜か。

1人だけ動き回ってるのは、鎧を休止させてるので、

妖魔の見張りを交代でしている、というところだろうか。

その考えだと気を付けるべきは見張りの一人で、

ギリギリまで近付ければ鎧に乗る前に奇襲も出来る。


(あ、出来るだけ交渉に持ってくんだったな)


どうも戦う事を前提に考え過ぎだとリンリは頭を切り替える。

そもそも想定が間違っている可能性もあるので、

やはり目視で状況を知る必要がある。

魔法の残り時間も数分になったので、

アミアはリグムを一気に近付けた。


(うーん、想定通りだけど、これは・・・)


アミアは目視で見た状況に嫌悪感を覚えた。

正体不明の物体は予想通り東の国の物と思われる鎧だった。

ただ、形は神聖鎧、不死鎧とも大きく違い、

全体的に小さく、構造上繭が無く、

別の手段で動かすようだった。

見た目も2種類あり、一つは多重装甲を手、足に付け、

頭部も立派な飾りがあるパワー型に見える。

もう一つは更に小さく、装甲も最低限で、

頭部も飾りが無く、色も目立ち辛い黒系で、

スピード型のようだ。

そしてその搭乗者と思われるのは不潔そうな、

中年の4人の男性だった。

いかにも力が強そうな大柄の男が2人。

それと背が低い頭が禿げた男が2人で、

うち1人が見回りをしている。

この男達からは邪教団に属する、山賊紛いの連中を想像させた。

教団の掟でなるべくそういう輩との接触は禁止されてたが、

村の制圧などのタイミングで接触が必要になる事もあり、

その時の女性を舐めるようないやらしい視線を覚えている。

その癖、絶対的な強者である戦闘部隊には媚びへつらう。

アミアにとって碌な思い出は無かった。


そして、問題なのは残りの7人の集団だった。

どう見ても若い女性、というより殆どがアミアより年下の、

10代そこそこの少女というか子供だった。

全員が縄で縛られており、

顔や腕、足などの見える箇所には痣や傷がある。

決して仲間では無く、捕らえられているとしか見えない。

このままでは男達の慰み物になる未来しか見えず、

アミアはすぐにでも走り出したい衝動に駆られる。

が、その行動が今後東の国に接触した時に影響が出る事も分かっている。


(とにかく急いで一旦戻ろう)


相手には見つかってないようなので、

アミアは急いでリンリ達の元へ戻った。



「今すぐ助けに行こうよ」


状況を説明すると、リンリは分かり易い反応を示した。

まあ、普通の感性ならそうだろう。


「うーん、うちは会話は必要だと思うけどなあ。

敵を増やすような事は避けたいし」


テルテは悩んだ末の回答を出す。

今後東の国で保護してもらうなら、

相手がどんな人物でも争いは避けなければならない。

理屈はみんな理解しているが、

状況的には受け入れがたいといったところだ。


「万が一の可能性で、女性達が大事な物を盗んで、

追われていた、というのはあるだろう。

ただ、あたしが見てきた無法者と比較しても、

まっとうな者には見えなかったな。

あたしとしては魔法で意識を失わせて、

動きを封じてから話を聞く、でもいいと思う」


アミアとしては全て力で解決したいところを、

譲歩して案を出した。


「そうだな。

どっちにしたってうちらは余所者、判断に迷って拘束した、

って話なら少しはマシになるか」


「そうしよう」


意見が纏まり、あとはどう動くかを相談した。

鎧に乗っていない状態の魔法耐性がどれほどあるか分からないし、

自分達が知らない道具や魔法を使っている可能性もある。

リグムが先行し、先ほどと同じ隠密行動で奇襲で魔法をかけ、

デュエナはそれに見つからない距離で付いていき、

万が一敵の鎧が動き出したらそれに対処する。

そしてテルテは横から回り込んで待機し、女性側の方が敵だった場合、

逃げられないように道具で動きを封じる。

あとはテルテも含めて念話を通して随時対応する、とした。

ルミルには一応テルテに付いて行くように言っておいた。



『こっちは準備OKだ』


『じゃあ行くぞ』


『はい』


テルテから念話が来たので作戦を開始した。

リグムはギリギリの位置まで接近する。

まだ、相手はこちらに気付かない。

日は沈みかけてるので、状況は更にこちらに有利だろう。

森の中の開けた広場の端の方に鎧が並んでいて、

男達は中央に、女達は鎧の反対側に座らされたいた。

3人の男達は火を囲んで食事をしているようだが、

女性達は縛られたままだった。

見張りの男が3人の近くに来たところで魔法を発動させる。


(精神衝撃発動)


範囲は男達に絞ったので女性達には影響出ないだろう。

見張りの男が最初に倒れ、食事をしていた男も、

一人、二人と倒れていく。

が、一番大柄の男が食事の器を自分の膝に落とし、

その熱さで意識が戻ってしまう。


『リンリ、一人だけ失敗した!

出来るなら鎧に乗る前に捕まえて』


『はい!』


リグムは近付き、倒れている3人の男を魔法で地面に縛り付ける。

一人だけ意識のある男はリグムを見て何か分からない言葉を叫び、

近くにある鎧に乗り込もうとする。

デュエナは急いで駆けつけるが、どうしても距離が離れていたので、

間に合わず、男は鎧に乗り込んでしまった。

茶色いパワー型の鎧が立ちあがり、腰から細身の剣を抜いて構える。


「*************!!」


鎧から声が聞こえるが、何を言っているか二人とも理解出来ない。


『東の国の言葉だ。

鎧で言語解析が出来るんじゃなかったか?』


テルテに言われて、アミアとリンリは急いで言葉を翻訳する。


※「すぐに鎧を降りて降伏しろ!!」


男が叫んでいるのはそんな言葉だった。


『しょうがない、とりあえず交渉してみる。

リンリは敵に動きがあったら対応してくれ。

テルテは徐々に近付いて女性達の保護を』


『はい』


『分かった』


念話で指示してからアミアは翻訳機能を使って、

向こうの言葉で会話を試みる。


※「私達は旅の者だ。

少し話がしたい」


※「うるさい!

王国の騎士は何があろうと敵だ。

無抵抗の降伏以外許されない。

抵抗すれば『クロマ』の国全てを敵に回す事になるぞ!」


鎧の男は会話をする気が無さそうだ。

クロマというのが東の国の名前なのだろうか。


「助けて下さい!

私達は彼らに隷属させられ必死で逃げて来たんです」


そこで今まで黙っていた女性達の方から声が聞こえる。

話したのはその中で一番年上と思われる女性だった。

その言葉はアミア達と同じ王国の言葉だ。

そして、その発言は前に村長に聞いた話と一致する。


『女性達を助ける。

いいな?』


『はい!』


『いいよ』


アミアは決意を口にし、二人はそれに同意した。


『リンリは戦闘になったら女性達を守る事に専念してくれ』


『了解』


そしてリグムは一歩前へ出た。


※「降伏する気は無い。

こちらは2体だ。

大人しく鎧を降りろ」


※「だったら死ね!!」


男はそう言うと茶色の鎧でリグムに斬りかかってきた。


(速いな!)


縦に振り下ろされた斬撃はアミアの想像を超え、

避けたリグムの肩の装甲を断ち切っていた。

そして、すかさず横振りの2刀目が来る。

後退してリグムはそれを避けるが、

思ったより相手の細身の剣はリーチがあり、

腹の装甲に傷が付いていた。

力の差があれば相手を生きて捕らえるつもりだったが、

さすがにそんな事をしている余裕は無いと感じた。


※「おらああぁっ!」


男は気合を入れて更に踏み込んできた。

しかし、アミアも逃げてばかりでいる気は無い。

相手の斬撃は速いが、動き自体は分かり易い。

茶色の鎧が剣を振り下ろすより先に、

リグムのハルバードは相手の鎧の腹にめり込んでいた。

そのまま力任せに横に切り払う。

押されて相手の剣は空を斬り、茶色の鎧の前面装甲はひしゃげ、

乗り込んだ男へも確実にダメージが入った。

茶色の鎧は吹き飛んで動かなくなり、

腹部から鎧の液体か、男の血か分からない、

赤い液体が流れ出していた。


テルテは女性達の縄を切って開放し、

倒れている男達をその縄を使って木に縛り付け、

ひとまず状況は落ち着いたのだった。

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