8.苦悩
鎧から降りた二人は魔力も体力も限界のボロボロの状態だった。
リグムとデュエナの鎧の状態はそれぞれが乗り込む前に戻り、
神力が残っていた事は幸いだった。
リンリが魔法で二人の体力を回復した事で、
とりあえず二人とも動く事は出来た。
テルテが戦闘が終わったと同時に再び倒れてしまったので、
まずは二手に分かれて対応する事にする。
アミアはまだ燃えている村の鎮火と生きている村人の捜索、
リンリは取ってきた薬草を使ってテルテを看病する事にした。
リグムに乗ってアミアは水の魔法で燃えている家を消して回り、
瓦礫の下などに生きている人がいないか探した。
色々な事があり過ぎたので、こうした作業に没頭出来る事は、
アミアにとって救いになった。
「火は全部消したよ。
残念ながら村の中に生存者はいなかった」
一通り回ってきた後、アミアはリンリのところに戻ってきた。
「そっか・・・。
薬草は効いたみたいで、テルテちゃんの顔色は良くなったよ。
一回意識は取り戻したけど、少し寝るって」
リンリの横に布を敷いてテルテは眠っていた。
ルミルもその横に座っている。
「じゃあ寝ているうちに死体を片付けるか」
「そうだね。
村の上の方に墓地があるから、その横に穴を掘って埋めよう」
リンリもデュエナに乗り、手分けして死体を墓地へ運んだ。
人がいなくなった村で動いているのは2体の鎧だけだった。
死体の片付けが終わった頃には日が沈み始めていた。
結局村に戻ってくる人もいなかったので、
テルテ以外皆殺しにされたのだろう。
ひとまず休憩する為に、被害が少なく、
一番大きい家を借りる事にする。
家の周りに神聖結界を張ったので、
一晩ぐらい妖魔の襲撃も抑えられるだろう。
その頃にはテルテも目を醒ましていて、
身体の方も大分調子が良いとの事だった。
なので、今まであった事について3人で話をする事にした。
「うちが倒れている間にそんな事が。
色々してくれてありがとう」
テルテはミルミに聞いた話も初めて聞くように振る舞い、
素直に感謝の言葉を述べた。
3人は借りた家の1階の食卓を囲んで座っている。
ルミルはその上を適当に飛んでいた。
「いいって。
今までテルテには十分助けられたし、
その恩返しの一部が出来ればと思っただけだから」
「うん、テルテちゃんがいたから大断層を超えられたんだし、
助けるのは仲間として当然だよ」
それから森での出来事、
テルテが目覚めてから見た景色についてお互い話す。
「ミアンナちゃんがテルテちゃんを逃がしてくれたんだよね。
いい子だったのに・・・」
「うちも直接お礼が言いたかったな・・・」
「あたしが判断ミスをしなければ」
アミアは助けられる可能性が殆どなかったとは分かっていても、
自分の行動が直接死因に繋がったと感じている。
「無理だよ、あんなの。
それで、フラーネって子の事、教えて欲しいかな」
リンリが今回の元凶についての話を切り出す。
「わざと黙ってた訳じゃないんだ。
これはあたしの過去の事だと思ってたから、
今まで話さなかったんだ。
あたしに姉がいた事は前に話したと思う。
ただ、姉が聖騎士団の団長をやっていた事は言ってなかった。
あたしにとっても忘れたい過去だったからな」
アミアは二人の顔を見つめ、話を続けた。
「姉が死んだ時、あたしは姉がどこで働いていたか知らなかった。
突然死を告げられ、姉と二人暮らしだったあたしは、
すぐに叔母の家に引き取られた。
そこからは邪魔者扱いされ、いい所があるからと、
絶縁同然に邪教団に入れられた。
まあ、そこからは生きる為に必死に隊長まで上り詰めたんだけど、
あたしは自由になるお金が増えたんで、
自分の姉の死の原因を情報屋に秘密裏に調べさせた。
そして、姉が聖騎士団長をやっていた事、
邪教団の隊長に殺された事を知ったんだ」
「もしかしてお姉さんってフィニアさん?
でもアミアちゃんと苗字が違うよね」
リンリが疑問を口にする。
「聖教団に居ればそりゃ知ってるか。
そう、姉の名前は『フィニア・イデムス』。
あたしのロドテックって苗字は叔母に引き取られた時に変わったんだ。
で、話は戻るけど、姉は当時攻撃部隊の隊長だったフラーネに倒され、
乗っていた神聖鎧、セレグスごと邪教団に連れ去られた。
連れ去られた後に死亡しているんだけど、
どういう死因かの情報は残ってなかった。
まあ、想像で拷問の末に死亡とか予想は付くけど」
「そっか・・・。
私、聖教団に引き取られた頃フィニアさんに会った事あるよ。
すっごく綺麗なお姉さんだったなあ」
リンリは記憶の中のフィニアとアミアを見比べようとしたが、
フィニアの顔ははっきりとは思い出さなかった。
ただ、凄く綺麗で優しかった印象だけは残っていた。
「リンリも姉さんと面識があったのか。
うん、あたしにとって最高の姉さんだった。
事実を知った時、あたしはもちろんフラーネを探した。
ただ、フラーネも姉が死んだ時から邪教団内では死亡扱いになってたんだ。
こっちも事故死としか記録が残っておらず、
暗殺でもされたんだと思ってたけど、そうじゃなかった。
あいつは姉の神聖鎧、セレグスに乗って生き延びたんだ」
「アミアがデュエナに乗ったみたいに、
そいつもうまく同化したんだろうけど、
それは普通に出来るものなのか?」
テルテが質問する。
「分からない。
『最適化』ってフラーネは言ってたな、
違う教団の鎧と同化する事を。
どういう経緯であいつが姉の鎧に乗ろうとしたのか、
それが簡単に出来たのかは分からないな。
それに奴の肉体はもう存在してなかった。
そうだよな、リンリ」
「うん、充填液が漏れても動いてたし、
あの鎧の繭の中にはいなかったと思う。
でも動いてたって事は鎧と一体化したとかかなあ」
「鎧に長時間乗っていると魂が結び付いて、
鎧と一体化するって話をどこかで読んだ事がある。
多分そうなんだろう。
あたしの姉は10歳上だから生きてたとしたら26歳、
フラーネも同じぐらいの年齢だろう。
肉体があったら鎧との同化条件から外れてる筈。
つまりもう彼女の肉体は無いか、
あってもどこかのタイミングで魂と切り離されたんだろう」
「そういうもんなのか。
ところで二人とも身体は大丈夫か?」
テルテは疲労が見える二人を心配そうに見つめる。
「あたしは、まあ、前よりは大丈夫だと思う。
それより、リンリに聞きたい。
リグムに同化する時に何か見えなかったか?」
アミアはリンリが自分と同じような経緯を辿ったのか知りたかった。
「えっと、快楽を感じたのは聞いていた通りだった。
で、その後に昔の映像が流れて、
えーと、『戦う理由』を聞かれたから答えたんだったかな」
「なるほど、あたしも同じだ。
お互い違う教団の鎧に乗ると、映像を見せられ、
問いかけをされるのは同じなんだな。
あと、あたしは2回目の今日はその過程は飛ばされて、
すぐに同化出来た」
テルテは二人の話を興味深そうに聞き、
横目でルミルを見たが、特に反応はしなかった。
「何回も交代が出来るんなら今後強敵が出てきたら、
交代して乗った方がいいよね」
「いや、それは駄目だ。
まだ詳しい事は分からないし、何回も乗るうちに、
フラーネみたいに鎧と融合してしまうかもしれない。
それに体力も魔力も降りた時にはギリギリになるから、
その後連戦する必要があったら死ぬ可能性もある」
リンリがお気楽に考え過ぎてるように感じ、
アミアはやや強い口調で否定した。
「うーん、でも悪魔とかフラーネとか来たら、
今までの戦い方だと勝てないのは変わらないよね。
奥義を発動してその後のデメリットが大きいし、
その後も普通に動ける方がいい気がするけどなあ」
リンリの言っている事は正論だ。
ただ、どうしてもアミアは腑に落ちない。
「今回みたいに乗り換えるのを敵は待ってくれないだろうし、
乗り換えての同化がいつも出来るかは分からない。
今後どうするかは少し考えた方がいいと思う。
それに今日は疲れてる。
もう休もう」
「そうだな。
うちは奥の部屋で休ませてもらうよ」
テルテもこのまま話していても埒が明かない事を分かってか、
即座に同意し、席を立った。
ルミルもそれに続く。
「うん、休もう。
温泉は壊れず残ってたけどどうする?」
「今日は気分じゃない。
リンリ、済まない。
今日は一人で休ませてくれ」
アミアはとにかく今は一人になりたいと思った。
「え?
あ、うん。
分かった。
じゃあ私は真ん中の部屋で寝るね」
リンリは少し寂しそうに言って2階へと上がっていった。
「ふーっ」
ようやく一人きりなり、アミアは息を吐き出す。
アミアは部屋に入るとベッドに倒れ込んでいた。
色々な事があり過ぎた。
未だに頭の中が纏まらない。
村が壊されたのがショックだった。
助けた筈のミアンナが目の前で殺されたのがショックだった。
でも、何より姉の仇が生きていた事。
そして、姉の乗っていた鎧を奪い取っている事。
それは姉の死を侮辱されている気がした。
だから怒った。
本気で殺そうと思った。
出来なかった。
自分は思っていたより弱かった。
そしてもっとショックだったのはリンリの事だ。
デュエナの中でずっと見ていた。
リンリが自分よりうまくリグムを使い、
自分が敵わなかった相手を翻弄していたのを。
自分が怒りに任せて戦ったのに対して、
リンリが的確に動けていたのを。
守ってやると言ったのが馬鹿みたいだった。
もちろんリンリに才能があるとは思っていた。
でも、自分は努力でそれを常に上回れると信じていた。
そんな考えは簡単に崩れ去る。
そして、どこかでリンリを下に見ていた自分を知って、
物凄い自己嫌悪に陥る。
ミアンナを救う事も出来ず、仇を討てるチャンスも不意にした。
仲間を守ると大言を吐きながら、
結局助けてもらったのは自分だった。
一人きりのベッドは少しだけ広く感じた。
あたしはリンリの事が好きだったのだろうか。
それともただ守ってあげる事で、
自分の存在意義を証明したかっただけなのか。
今の自分はリンリの顔を真っ直ぐ見れない事だけは事実だった。
考えはまとまらないが、徐々に疲労感は押し寄せ、
眠りは全てを消し去ってくれた。
『ピピッ、ピピッ』
指定した時間にアラームがアミアの頭の中に鳴り響く。
疲労からの頭痛を感じ、全身はまだだるく、
目覚めは最悪だった。
一階に降りると、すでにテルテが料理の準備をしていた。
「おはよう。
もう大丈夫なのか?」
「ああ。
温泉で朝風呂も浴びさせてもらった。
まだ食事までに時間がかかるからアミアも行って来ればどうだ?」
「そうだな、今日にはここを出るかもしれないし、
行ってくるか」
テルテに勧められて何となく行く事に決めた。
リンリも誘おうかとも思ったが、
昨日の感じから何となく顔を合わせ辛く、
一人でそのまま家を出た。
朝の村は静まり返り、空気は澄んでいた。
でも、昨日ここが大惨事だったのは事実だ。
焼け焦げ、崩れた家はもちろんそのままで、家の住民はもう居ない。
リンリとこの村に住もうかと話してたのも遠い昔のようだ。
無事に残っていた脱衣小屋で服を脱ぎ、
布をいくつか持って浴場へ入る。
辺りを湯気が覆い、人影は無い。
軽く全身を洗ってから、手近な温泉に入った。
少し熱いと感じたが、疲労している身体にはいい気付けになる気がした。
「アミアちゃーん」
しばらくするとリンリが入ってきた。
「ここだ」
「テルテちゃんに聞いたら温泉に行ったって。
私も誘ってくれればよかったのに」
少しだけリンリが不満を漏らす。
リンリが以前と変わらないのでアミアはホッとした。
「疲れてて頭が回らなかったんだ」
「うん、私もこんなに疲れたのは久しぶり。
気が付いたら眠ってたよ」
リンリは身体を洗っている。
先に温泉を出るのは何か悪いと思い、
リンリが来るのをアミアは待っていた。
「私はちょっと嬉しかったんだよ、
アミアちゃんを助けられて」
「そうだな、ありがとう。
リンリが来てくれなかったらあたしはあのまま終わってた」
アミアはまだ言っていなかった感謝の言葉を述べる。
「ううん、今まで何度も助けてもらったし、
今後は出来る限り私もアミアちゃんを助けたいな」
嬉しい筈のリンリの言葉が今はアミアに突き刺さる。
だからアミアは黙っているしか出来なかった。
「よいしょっと。
ちょっと熱いけどいいお湯だね」
リンリがアミアの横に浸かった。
今までの自分だったら頑張ったリンリを褒めていただろう。
それが素直に出来ない自分が惨めだった。
「お姉さんの事考えてる?」
リンリが様子が違う自分を心配している。
「それもあるけど、
ちょっと昨日は色々あり過ぎた。
村の事も、姉の事も、あいつの事も。
正直整理出来てないんだ」
リンリの事が一番整理出来ていないなんてな、
とアミアは思う。
「うまく行かないよね。
折角村も森も救ったのに。
邪教団に多分ここの事もバレちゃったし、
このままここにいるのは駄目だろうしねえ」
アミアはそんな事を考える余裕も無かったが、
確かにそれは出来ないだろう。
「それじゃあそろそろご飯も出来てそうだし戻ろうか」
しばらく無言が続いた後、リンリが切り出し、
ようやく温泉からアミアは出た。
少しだけ頭痛は解消していた。
「じゃあ、予定通り東の国を目指すという事で」
朝食の後、今後の予定を話し合った。
テルテには村で聞いた情報を全て話した。
東の国が危険だとしても、
それが今のアミア達にとっての危険かは分からない。
結局自分達の目で見なければ真実は分からない。
おそらく邪教団にアミア達の情報は知れているので、
また追っ手が来る可能性もある。
とにかく東を目指そう、という結論になったのだ。
午後に出発するという事で、午前中は各自行動、
テルテは薬師の家に残った薬や書物で使える物を探し、
アミアは食料をかけ集め、
リンリは水と使える日用品などを探す事にした。
途中、セレグスが持っていた聖槍『イグル』が転送されず、
残っていたのをリンリが見つけた。
リグムにはハルバードがあるので、デュエナが予備武器として、
持っていくのがいいだろうという結論になった。
「薬師のおばあさんと話したかったなあ」
テルテは時間ギリギリまで漁るのを止めず、
見つけた大量の薬を見てアミア達にぼやいた。
結局用途不明の薬は置いていくしかなかった。
村はいずれ妖魔達のものになるだろうと考え、
せめてもと墓地の周りにだけ柵を作っておいた。
テルテが積んできた花を新しく出来た墓に飾る。
リンリが聖教団の祈りの言葉を述べ、
3人と1匹で祈りを捧げるのだった。
ご神木の森の精霊に村の事を伝えるかとも話し合ったが、
精霊が出てきてくれるかも分からないし、
精霊ならいずれ気付くだろうという結論になった。
「じゃあ、行ってきます」
村の入り口でテルテと2体の鎧は振り返って出発の言葉を述べた。
「みゅー」
ミルミもそれに倣ってか、一言だけ鳴いた。




