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悪姫恋聖  作者: ねじるとやみ
第3部 未知の大地
32/82

6.仇(かたき)

『起きんか、テルテ。

このまま死にたいのか?』


頭に声が響く。

ずっとぼんやりとしていた頭の中がすっきりし、

徐々に周りの景色が見えてくる。


『とりあえず声を出したり、むやみに動いたりするなよ』


そして声の主がミルミであり、

以前のように直接頭に語り掛けている事が分かった。


『ここは?

うちは今まで何を』


『とりあえず簡単に説明するから黙って聞いておれ』


ミルミの話から大断層を抜けて自分が倒れた事、

アミア達が必死に自分を助ける方法を探してくれた事、

トレスト村のミアンナという少女に出会い、

自分を助ける為に妖魔を退治して村に来た事、

アミア達が自分の毒を消す為の薬草を取りに行っている事が分かった。

そして目の前に見える村が無残に破壊され、

今も所々の家から火の手が上がっている事も。


『じゃあ、この目の前の惨状は?』


『わらわも詳しくは知らんが、

アミア達に因縁のある適合者が追ってきて、

暇つぶしに村を襲ってるようじゃ。

ミアンナがお主を命がけで村外れの、

この場所まで運んでくれたおかげで敵には見つかっておらん』


テルテは自分が今いる場所が村の様子が見下ろせる、

外れにある丘の上だと理解する。


『助けてくれた子は?』


『さあな。

ただ、見ての通り煙も多く、

そのまま寝ておったらお主が呼吸困難で死んでしまうので、

それではつまらんと起こしてやったのじゃ。

今は透明化の魔法もかけているから敵には見つからん』


テルテはようやく状況を理解出来た。

と同時に、この惨状が自分が原因で起きた事を知ってしまった。


『助けに行かないと!』


『死にに行きたいなら止めんよ。

が、生身で鎧に勝てない事は知っておろう。

ともかくアミア達が戻ってくるまでは大人しくしてろ。

と、戻ってきたようじゃな』


ミルミの視線の先を見ると、

村の入り口に差し掛かるデュエナとリグムの姿が見えた。


『わらわがわざわざ毒を一時的に抑えてやったのだから、

無駄死にするんで無いぞ』


ミルミはそう言うが、

テルテは事の顛末を見届ける必要があると感じていた。


===========================================================================


『アミアちゃん!』


『ああ!』


薬草を摘んで村に戻ってきた二人だが、

村に近付くにつれ、その様子がおかしい事に気付く。


『このタイミングで妖魔の襲撃か?

いや、それなら煙はここまで出ない筈。

人間?東の国とかなのか?』


疑問を口にするが、どれも納得出来ない。


『とにかく急いで戻ろう』


『そうだな。

戦闘中なら早い方がいい』


しかし、裏門を突破して見えた景色は、

二人の希望を簡単に踏み潰した。


『こんな事って・・・』


『酷いな』


道には人の死体が転がり、

家々の一部は崩れ、一部は燃えている。

女、子供、老人。

年齢性別に関係なく無慈悲に人が殺されていた。

燻ぶった煙からは人肉の焼ける嫌な匂いがする。

悪魔の仕業だろうか。

邪教団にいた頃は確かに任務で村を襲撃する事はあった。

しかし、その時は倒すべき聖教団がおり、

逃げ惑う一般市民を追ってまで殺したりはしなかった。

少し進んでも、すでに辺りに人の悲鳴すら無く、

全ては終わった後のように見えた。


『神聖鎧の反応が一つ。

こいつだな』


『そうだね』


センサーに映った反応を確認し、

二人は無言でそちらに進んでいく。



「遅いご到着だねー、お二人さん」


そこには漆黒の鎧が立っていた。

聞こえてくるのは微笑むような少女の声。

手にボロボロの何かを摘まんでいる。


「・・・テルテさんは無事です・・・」


漆黒の鎧の手の方から小さな声が聞こえた。


『・・・あれ、ミアンナちゃんだ』


リンリの念話でそれが人間で、

よく知っている少女である事が分かった。


『リンリ、ミアンナの回復を頼む!』


そう言ってリグムは黒い鎧に向かって駆け出す。

ハルバードをミアンナを掴んでいる腕に振り下ろそうとしたその時、

黒い鎧はそれを上空へと放り投げた。


『くそっ!』


リグムは急停止し、投げられたミアンナをキャッチしようとする。

が、目の前に黒い鎧が急接近した為、それに対応せざるを得なくなる。

素早い槍での一撃がリグムを襲う。

それをアミアは何とかハルバードで逸らした。

そして背後に『ドサッ』という物が落ちた音がした。


「あーあ。

急に来るから投げちゃった。

今ので死んじゃったかなー」


『アミアちゃん、ミアンナちゃんはもう・・・』


アミアは即座に攻撃に移る。

ハルバードを薙いで漆黒の鎧に打ち込む。

が、それは相手の槍に当たり、逸らされ、地面に刺さった。

一旦後ろにジャンプし、今度は正面からハルバードで突く。

しかし漆黒の鎧は瞬時に横に逸れ、空振りになる。

再び2機は離れ、睨み合う形になった。


「こんな事で激昂しちゃうんだ。

それでも元隊長なのかな。

部隊のみんなは振り回されて大変だったろうなー」


漆黒の鎧から聞こえる声はまだまだ余裕がありそうだった。


『アミアちゃん、私あの神聖鎧知ってる。

私が騎士団に入る前の騎士団長が乗っていた鎧によく似てる。

槍もその鎧が持っていた聖槍『イグル』だし、間違い無いと思う』


「お前は何者だ。

なぜあたしの事を知ってる」


「ようやくお話してくれるようになったかー。

まあ、直接会うのは初めましてだよね。

でも、アタシはあなた達の事をよく知ってるし、

アミアちゃんはアタシの事をよーく知ってると思うなー」


「その鎧『セレグス』ですよね。

どうして銀色じゃなくて黒くなってるんですか?」


リンリのその言葉を聞いた時、アミアの中で全てが繋がった。

邪教団である程度の地位に着いた時、

自分の姉の死因を情報屋に密かに調べさせた事があった。

姉は神聖鎧『セレグス』に乗っており、

当時の邪教団の戦闘部隊隊長に殺されたと。


「まさか、お前は『フラーネ』か?」


「だいせいかーい。

あなたの『リグム』の前の持ち主、

『フラーネ・ミハン』ちゃんでーす。

で、これはあなたのお姉さんの機体で、

アタシはその仇ってわけだ」


生きていた。

自分が不死鎧に乗る事になった原因。

全てを奪った元凶が。


「うおおおおおおおおおおおおお!!」


身体が動いていた。

怒りの感情が全てを包み込む。

奇襲の1撃が避けらる、が、2撃、3撃と休まず繰り出す。

漆黒の鎧は猛攻を最低限の動きでの回避と、槍での防御で防ぎきる。


『アミアちゃん、どういう事?』


『リンリ、お前は手を出すな!!』


会話するのも惜しく感じ、

ただ、本能のままに攻撃を繰り返す。


「だーかーらー、それじゃ駄目だってー。

なんでアタシが神聖鎧使ってるか分かってるんでしょ。

勝てるわけないじゃーん」


そう言いながら、漆黒の鎧、セレグスは反撃に移る。

地面に刺さったハルバードを踏みつけ、

リグムの顔面を左手で殴る。

リグムの顔の装甲はひしゃげ、吹き飛ばされて膝をついた。


「ちょっと冷静になってよー。

久しぶりに本気で戦えると思って期待したんだから。

待っててあげるから乗り換えてきて」


乗っているフラーネという少女があざ笑うように言う。

少しだけアミアは冷静になった。

そう、今のままでは勝てない。

相手と同じように神聖鎧に乗る必要がある。


「リンリ、デュエナから降りてくれ」


「え?どうして?」


「とにかく今は言う通りにしてくれ」


「・・・分かった」


聞いた事の無いアミアの怒声を含んだ声にリンリは従うしかなかった。

リンリがデュエナを降りると、

アミアも同じようにリグムから降りていた。

漆黒の鎧が襲って来る様子は無い。


「アミアちゃん・・・」


「すまない、今はあたしを信じて欲しい」


そう言いながらアミアはデュエナの繭に入っていく。

リンリは何が起こっているかまるで分からない。


「リンリ!」


「テルテちゃん!

大丈夫だったんだ」


テルテがルミルを連れてリンリの方へ駆け寄ってきた。


「ああ。

そっか、アミアはまたデュエナに乗るんだ」


「また?」


「黙っていて済まない。

前にケルベロスと戦った後、悪魔に襲われたんだ。

その時、アミアはデュエナに乗って、悪魔を倒したんだ。

今まで以上の力を発揮して」


なぜかテルテは浮いてるルミルの方を見たが、

ルミルは特に反応しなかった。

二人は黙ってデュエナを見守るしかなかった。



「デュエナ起動」


繭の中に充填液が満ちると、

前回と同じように全身に苦痛が走る。

が、今のアミアには大した痛みだとは感じなかった。

前にように過去の映像や問いかけは無く、

アミアはデュエナに同期する。

力が漲ってくる。

今アミアが最も欲している力が。

そして破壊衝動がアミアを包み込み、

アミアはそれが今の感情に最も適していると身を任せる。


デュエナの色が赤黒く変色し、装甲の意匠が不死鎧に近くなる。

地面に落ちているハルバードを手に持つと、セレグスに対峙した。


「そうそう、せっかく“最適化”出来るお仲間が見つかったんだ、

殺し合わなくちゃつまらないじゃん」


フラーネは嬉しそうだ。


「殺して二度と口がきけないようにしてやる」


アミアは憎悪のこもった声で応える。

アミアの中に冷静な部分は無くなり、

デュエナが与えてくる力をただ暴力へと変換した。


「うぁああーーーーー!!」


高く跳躍すると、魔力を使って急降下してハルバードを振り下ろす。

セレグスはギリギリで後退して避け、カウンターで槍を振り回す。

デュエナは反って避け、槍はデュエナの頭部すれすれで空振りした。


「はぁっ!」


デュエナは左手から氷の槍を発生させてそのままセレグスに向かって伸ばす。


「魔法は効かないって」


セレグスは自信を燃え上がらせ、氷の槍は届く前に溶けてしまう。

魔法を止めてデュエナは全速力で近付き、ハルバードを振り下ろす。

セレグスは槍で弾いて、その軌道を変えるが、

アミアはそれを織り込み済みで、デュエナの足に長い爪を生やし、

右足で蹴りを繰り出した。

セレグスは左腕の盾を使ってそれを防ぐが、力に圧されてやや後退した。


(速度は互角かそれ以上か)


アミアの中で怒りが燻ぶる。


「面白いねー」


何を思ったかセレグスは槍を投げ捨てる。

そして右手の甲から長い刃が生えてきた。


「ちょっとだけ本気だしちゃおう」


声と同時に剣が付き出される。

デュエナは回避が間に合わず、瞬間に左腕の装甲で防ごうとしたが、

剣は貫通し、左腕の先が地面に落ちる。


「再生する時間は与えないよー」


デュエナの視界からセレグスの姿が消えた。

右後ろに殺気を感じ、ハルバードでその方向を切りつける。

が、ハルバードは相手の刃に叩きつけられ空を切る。

破壊された左手の先から、

しなる刃を出してセレグスの身体の装甲を剥ぎ取るが、

刃はセレグスに引き千切られ、すぐに無力化される。

デュエナは思いつく動作は何でも出来るのだが、

相手も同様なので考える時間は取れず、

思い付きの行動では簡単に防がれるとアミアは理解させられた。


「うーん。

やっぱりダメダメだね。

怒りに身を任せてるだけじゃアタシは倒せないよ」


アミアは急いで距離を離そうと後退するが、

すでにセレグスの刃は目の前に迫り、

デュエナの胸の装甲が吹き飛んだ。

反撃に膝から刃を出して膝蹴りをするが、

セレグスは自分の膝の装甲を厚くし、それを簡単に防いだ。

アミアが即座に行動して動けるのは人間の時の記憶と、

不死鎧に乗って戦った時の記憶を基にしたものだ。

しかし相手はそれ以上の動きが身体に沁み付いていると感じられる。


「鎧は全身が武器で、防具で、道具だって理解しないと。

って、アタシはあなたの先生じゃないんだけどねー。

教団には持ち帰れって言われたけど、

まぐれで最適化出来ただけみたいだし、

殺しちゃってもいいよね」


アミアの怒りの感情に少しだけ恐怖が混ざり合う。

折角姉の仇に出会えたのに手も足も出ない。

パワーも速度も経験もすべてが足りない。

デュエナの全身が自動で再生されるのを感じるが、

解体される速度の方が早いと理解してしまう。


「ああ、先にあの娘たちを殺した方が楽しめるかなー」


その言葉でリンリ達の事をすっかり頭の隅に追いやっていたと思い出す。

何の為にここまで来たのか、今まで何をしてきたのかを。


「駄目だ・・・」


アミアの頭の中がかき回される。

思いがまとまらない。

それでも、このままでは全てが終わってしまうと感じていた。

デュエナの力は一つの方向に定まり、身体が勝手に動いていた。


「おおー!」


デュエナの全力の一撃がセレグスの右腕を切り落とした。

続けざまに相手の腹を狙う。

が、それだけだった。


「うーん、やるなら一気にやらないとねー」


セレグスの左腕から生えた刃がデュエナの右腕を斬り落としていた。

続いてデュエナの頭を吹き飛ばし、

反撃に出る前にさらに左足から出た刃が右足を斬り落とした。

アミアには反応出来なかった。

デュエナは片足を失い転倒する。


「まあ、どうしても先に死にたいっていう意思は汲んであげようかな。

どっちみち次にあの娘たちも死ぬんだけどね」


そう言ってセレグスはデュエナに刃を振り下ろした。

アミアは足から刃を出したりして何とかしようとするが、

全てセレグスに防がれる。

そして、再生速度より早くデュエナの装甲が吹き飛んでいった。


===========================================================================


「アミアちゃんが死んじゃう!」


リンリが悲痛の叫びをあげた。


「相手が強すぎる。

アミアが戦っている間にうちらは逃げた方がいいんじゃ」


テルテはアミアに無理ならどうにもならないと悟っていた。


「駄目だよ、絶対。

ねえ、アミアちゃんに出来たのなら私もリグムに乗れるのかな?」


テルテは自分だけに見えている横のミルミの幻像の方を見る。


『さあね』


幻像のミルミはテルテにだけ聞こえる声で答えた。


「うちは詳しい事は知らない。

けど、無理なんじゃないかな、と思う」


「だからって何にもしないわけにはいかないよ。

私がリグムを動かせなかったら、その時はテルテちゃんは逃げて」


「分かったよ。

とにかく頑張れ」


テルテは祈る気持ちでリンリを見送った。


『リンリも2重適合出来ると面白いんじゃがなあ』


『あの二人なら何とかしてくれるって信じます』


テルテは見ている事しか出来ない自分が歯がゆい。


『おぬしらが死んでも最後は看取ってやるよ』


妖精体のルミルはテルテの頭の上に乗っかった。

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