5.ご神木の森
翌朝、薬草の情報と森の位置、群生していそうな場所を聞いて、
ミアンナに見送られながら裏門から出発する。
「テルテさんの事は任せて下さい。
それじゃあお気をつけて」
「ああ、お願いする」
「行ってくるねー」
村の裏は山道になっていて、草木も少ない。
今は同行者がいないのでかなり速く移動出来る。
教えてもらった道を進むと鬱蒼とした森が見えてきた。
『あれだな』
『なんか薄気味悪いね』
森は侵入者を拒むように黒々としている。
下層の異形な植物ではなく、普通の木々なのだが、
雰囲気はそれに近いと感じてしまう。
『とりあえず妖魔の反応は無いな。
じゃあリグムを先頭に進むから、何か気付いたら教えてくれ』
『了解です』
そう言って森に一歩踏み出した途端、
今まで普通の木に見えていた枝がリグムに襲い掛かった。
『これがミアンナが言ってた奴か』
迫ってくる蛇のような枝をハルバードで斬り落とすと、
それは普通の木の枝として地面に落ちた。
しかし、四方八方から枝は襲ってきて、
鎧の力なら巻き付けられても引き千切れるが、
それもきりがなく、一向に進めそうにない。
『何か考えないとな』
アミアは一旦入り口に戻って突入方法を考える。
『暗黒魔法は地中に潜るのがあるよね』
『あれだと時間制限が短過ぎて無理だなあ。
透明化も木々に触らずに行くのは難しい。
だとすると、炎を纏う魔法で行くのは、
うーん、森が燃えるとマズイよな』
アミアも考えが纏まらない。
『!!
そうだ、風刃の魔法を使うのはどうかな』
『風刃か。
確かに風刃を全身に纏えば寄ってくる木は取り払えるな。
でも、それだと神力が結構消費されないか?』
『敵を切るわけじゃないから威力は抑えていいし、
全身に纏わせなくても、アミアちゃんが進行方向の斜め上、
私が後ろの斜め上に薄く広く魔法を使って、
背中合わせで進めば行けないかな?
枝は見た感じ上から来るし、下から来たのは足なら引き千切れるし、
大きい枝は武器で切り払えばいい』
『なるほど。
うん、それなら行けるかもしれない。
考えたな、リンリ』
『えへへ。
いつもアミアちゃんに考えてもらってるから、
たまには役に立たないと』
リンリの声は嬉しそうだ。
リグムは小回りの利く円形の刃の武器を両手に持ち替え、
デュエナも盾と聖剣は背中に付け、短剣を両手に装備する。
『じゃあ魔法を唱えて』
『はい』
お互い自分の斜め上に風刃の魔法を唱え、
背中合わせになってリグムから森へと再突入する。
結果は予想以上だった。
枝の妨害は知能を持った動きではなく、
ただ物量で上から襲って来るので、鎧に届く前に魔法で粉々になる。
心配していた下半身への攻撃は殆どなく、
背中合わせと入り組んだ森で歩みは遅くなったものの、
何とか中央らしい広い場所に出た。
すると今までの枝の動きが嘘のように収まり、
リグムもデュエナも魔法を解除する。
『あれが言っていたご神木か』
『大きいねえ』
広場の中央に高さ数十メートルありそうな、
立派な木が一本立っていた。
ミアンナの話では森の中央にご神木があり、
その裏の泉の周りに薬草が生えていると聞いた。
『力を持つ人よ。
私達を助けて下さい』
すると念話のような声が頭の中に響いた。
「リンリ、聞こえたか?」
「うん、女の人の声」
『私はこの森の大樹に宿った精霊です。
大樹は今、大蜘蛛に支配されています。
人間たちはか弱く、大蜘蛛に対抗出来ませんでした。
ですから、森を閉ざし、
力ある者がやって来るのを待っていました』
声の言っている事は本当だろうか。
ご神木に近付くと確かに茂った木の枝の中に複数の妖魔の反応があった。
「蜘蛛の妖魔を退治してくれって事か?」
『はい、大蜘蛛がいなくなればかつてと同じように、
人間と森が共存出来るようになります』
「アミアちゃん、やってあげようよ」
「そうだな、森が開放されれば村も助かるしな。
分かった。
蜘蛛を退治してやる」
『お願いします』
武器を構えてリグムとデュエナは更にご神木に近付いた。
レーダーの大蜘蛛の反応は10数体あった。
『!』
すると木の方から何か白い物が複数飛んでくる。
デュエナもリグムを避けようとするが、
数が多く、いくつかが機体に当たる。
するとその白い物体と地面がくっつき、身動きが取れなくなる。
『糸か!』
武器で斬ろうとすると、今度は武器とくっついてしまい、
そこへ追加の糸が襲って来る。
『大蜘蛛の糸は炎で燃えます』
すると精霊の声が助言をくれる。
『リンリ』
『はい!』
デュエナとリグムはお互いに炎の魔法を撃ち合い、
機体に付いていた糸を燃やした。
『一旦離れるぞ』
2体は糸の射程範囲から離れた。
『大樹の枝は丈夫です。
多少無茶をしていただいても問題ありません』
再び精霊から助言をもらい、アミアは作戦を考える。
『大蜘蛛は木から降りてこないだろう。
そこで二手に分かれよう。
あたしは木の上に登り、蜘蛛を殴ったり、
蜘蛛がしがみついてる枝を斬って下に蜘蛛を落とす。
リンリは地上で炎で糸を燃やしつつ、
落ちてきた蜘蛛にトドメを刺して欲しい』
『分かった』
リグムは余計な荷物を降ろし、先ほどと同じ円形の刃の剣を装備する。
デュエナも両手で聖剣を構える。
炎をお互い武器に宿し、リグムは獣化の魔法で、手足に鉤爪を生やす。
『じゃあ行ってくる』
『うん』
速度がが増したリグムが猛スピードで大樹に近付き、
近場の枝にジャンプした。
蜘蛛の糸はそれを追い切れず、地面に付着した。
デュエナは全身に炎を宿らせ、
なるべく蜘蛛の気を引くように大きく動く。
糸が炎で燃やされ、効果が無い事を蜘蛛が理解してか、
途中からデュエナに糸は飛んでこなくなった。
そして、数匹の蜘蛛が糸を垂らして木からぶら下がり、
デュエナを足で攻撃しようとする。
蜘蛛の大きさはデュエナと同等ぐらいだった。
『いただき!』
が、それはリンリにとっては好都合で、
剣で攻撃を防ぎ、反撃で蜘蛛を仕留める。
剣が蜘蛛に刺さると体内の糸に引火してか、
激しく燃えて蜘蛛は消し炭になる。
『リンリ、2匹下に落とした!』
『はい』
アミアの声が聞こえ、落ちた2匹の大蜘蛛と対峙する。
しかし、地上での攻撃はそこまで得意では無いようで、
大あごの毒でデュエナを攻撃するが、
逆にデュエナに真っ二つにされる。
もう1匹は足に噛みついたが、
そもそも足の装甲は厚く、大したダメージも無く、
毒はもちろん効かない。
すぐにデュエナに切り裂かれるのだった。
枝の上では大蜘蛛の方がリグムより動きが俊敏だった。
が、攻撃力に欠け、脅威となる糸は炎で無力化される。
リグムは追いかけつつ反撃してきた蜘蛛の攻撃を防いで落とす、
という作業に終始した。
そうして、徐々に木の上の蜘蛛も始末されていった。
『これが最後だ』
『はい』
リグムが殴って蜘蛛を落とし、それをデュエナが両断した。
と、木の幹の方から小型の蜘蛛が散り散りに逃げていく。
『小さいの逃げちゃう』
デュエナがそれを追おうとする。
それを遮るように再び頭に声が響いた。
『ありがとうございます。
小型の蜘蛛は私達の力で何とかなります。
森は再び人間に開放しましょう』
声が聞こえ、ご神木が白く輝く。
すると木の前に白い人型のようなものが浮かび上がり。
深々とお辞儀をして、消えていった。
『ルミルちゃんのお仲間かな?』
『うーん、違うんじゃないか』
消えた精霊を見ていたアミアには何か達成感があった。
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アミア達が大蜘蛛を退治したのと同じ頃、
トレスト村に一人の来訪者があった。
「止まれ、何者だ?」
村の入り口となっている道を上ってくる、
怪しい黒い大きな影を、見張りの老人が呼び止める。
「この村にアミアって子は来てます?」
「アミア?ああ、騎士様の事か。
という事は、あなたは騎士様のお仲間ですか?」
黒い影をよく見ると漆黒の機械の鎧だと分かり、
見張りの頭の中で話が繋がった。
「仲間・・・そう、アミアちゃんとは古くからの付き合いでね。
追いかけてきたら先に行っちゃっててー」
「そうですか。
それは失礼いたしました。
すぐに門を空けますので」
見張りは急いで降りていき、しばらくすると門が開いた。
中には先ほどの見張りと更に年老いた村長が立っていた。
「アミア様のお仲間の方とお聞きました。
遠路はるばる、ようこそおいで下さいました」
「アミアちゃんは?」
「アミア様はただいまリンリ様と共に森に行っております。
もうしばらくしたら戻ってくると思いますので、
それまでごくつろぎ頂ければ」
「そっかー。
それじゃそれまで楽しませてもらおっかなあ」
村長は黒い鎧の少女の言葉に本能的な恐怖を感じる。
しかし、気付くのが遅過ぎた。
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「わー、綺麗!!」
鎧から降り、泉まで来たリンリが歓声を上げる。
周りに妖魔の反応が無かったので、先ほどの精霊の言葉を信じて、
二人して薬草を探す為に泉まで来たのだった。
水があふれる泉はまばゆく光り、
色とりどりの花が咲き、鳥と蝶も舞っていた。
アミアもリンリもここまで美しい自然を見た事が無かった。
「水も飲めそうだな」
試しに手で水をすくって飲んでみる。
冷たく、透き通るような水が身体に沁みた。
「美味しいね」
リンリが満面の笑顔で言う。
昨日の温泉といい、この泉といい、
まるで戦いの日々が嘘のように感じてしまう。
「ちょっと水遊びしていく?」
「いや、テルテも待ってる。
まずは薬草を探して持ち帰ろう。
水遊びはテルテが回復したらテルテを連れて来よう」
「うん!」
リンリもその提案に納得したようだ。
薬草も少し離れた場所にすぐに見つかり、
必要だと言われた分だけ摘んでいく。
「それじゃあ戻るぞ」
「はーい」
リンリは名残惜しそうに泉から離れるのだった。




