2.少女の願い
「それで、テルテの事もあるし、
一旦こちらに来てから事情を聞かせてもらう事にしたんだ」
少女、ミアンナを連れてリンリのところまで戻ると、
二人とも鎧を降りて腰を下ろし、アミアは簡単に状況を説明した。
「仲間の方が大変になっているところをすみません。
騎士様には村を救って頂きたいのですが、
その前に仲間の方の病状を見せて頂いてもいいですか?」
ミアンナが思いもよらない提案をしてきた。
「え、あ、はい、お願いします」
「病気について詳しいのか?」
「えーと、まあ一般の人に比べればですが。
私の村は薬の売買で生計を立てていた薬師の村でして、
私は薬師ではないのですが、ある程度の知識だったらありますので」
そう言いつつテルテの方に近付いていく。
アミアもリンリもとりあえず信じて見守る。
ミアンナは上半身の鎧を脱ぐと、
テルテの頭や腹、のどなどを触り、音を聞き、病状を調べる。
ルミルは心配なのかなんなのか、その上をずっとグルグル飛んでいた。
「おそらくですが、毒素のある食べ物が消化しきれず、
体力を奪っているようです。
手持ちの薬で少しだけ症状を和らげる事が出来ると思います。
飲ませてもいいですか?」
「アミアちゃん、どうする?」
「ミアンナさん、お願いします」
アミアは少し考えて、ミアンナの診察を信じる事にした。
村を救って欲しいとお願いしている立場だ、嘘をつく事は無いだろう。
ミアンナは背負っていたリュックから薬を取り出し、
水と混ぜてからテルテの口に含ませる。
薬はテルテの喉を通り、身体に入っていく。
しばらく状況は変わらなかったが、段々とテルテの荒かった息は整い始め、
寝顔が若干安らかになった。
「これで数時間は安定すると思います。
ただ手持ちの薬は先ほどので全部でしたし、あくまで一時的な対応です。
毒を完全に取り除くには村の薬師に見てもらう必要があります。
そこでお願いがあるのですが」
「代わりに村を救って欲しい、って事か?」
「別に彼女を人質代わりにするつもりはございません。
少しだけ私の話を聞いていただけませんか?」
「アミアちゃん」
「ああ、あたし達も情報が欲しいところだ。
まずはそちらの話を聞かせてくれ」
ミアンナの話は以下のような内容だった。
大異変後、村は大断層に近いのもあり、
国に見捨てられ、騎士団の助けも一度も無かった。
ただ、薬師が魔物避けの薬を持っていた事と、
村自体が崖の上の自然の砦のような場所にあり、
妖魔からの侵攻は最小限に抑えられていた。
しかし、数か月前から村の下に大型妖魔率いる群れが縄張りを作り、
薬の原料がある森も妖魔に支配され、身動きが取れなくなっていたと。
助けを求めに出た若い男性は誰も帰って来ず、
今、村で一番戦士としての力があるミアンナが、
最後の希望として、騎士団を探しに旅に出たと。
「ただ、今夜は私も疲れていて、
夜は安全な場所に隠れる必要があったのに、
いつの間にか暗くなってしまい、
休もうと踏み込んだ先が妖魔の縄張りでした。
薬で数匹は追い払えたのですが、
結局3匹が付いてきてしまい、逃げていたところを、
騎士様に助けて頂いたという事です」
アミアは出会った時の状況に納得する。
それと同時に自分のリグムを聖騎士団の鎧だと勘違いしており、
デュエナを見た後でも違和感を感じていないのは、
鎧を見た事ないからだなと思った。
「村へ妖魔の群れに気付かれずに入る事は可能か?」
「騎士様の鎧はさすがに大きいので正門からだと、
妖魔に気付かれずに入るのは難しいと思います。
裏門へ行くには遠回りして森の方まで行くか、
崖を上るかなので、病気の方を連れていくのは厳しいかと」
テルテを救う最前の方法は村の近くにいる妖魔の群れを排除し、
正門から入る事なのだろう。
「他に人が住んでる村や町はここら辺には無いのか?
もう少し北東には城塞都市があった筈だが」
「騎士様は近くから来たのではないのですね。
城塞都市は真っ先に妖魔の手に落ちました。
どこまでの町が大丈夫かは分かりませんが、
ここから2,3日の範囲の村や町は全て滅ぼされたと聞いています」
ミアンナの話でテルテを救うには村へ行くのが一番だと分かった。
もちろん嘘をついている可能性はあるし、
ミアンナが知らないだけの可能性もある。
ただ、今ある情報の中からだと村へ行くのが一番妥当だった。
「アミアちゃん。
私はミアンナちゃんの村を救うのが、
テルテちゃんを救う唯一の方法な気がする」
「そうだな。
じゃあ、その前に簡単にあたし達の事も話そう」
今回ばかりはアミアもリンリと意見が一致した。
そしてミアンナに少しの真実を混ぜた嘘の話をする。
アミアもリンリも騎士団の命を受け、
魔物に詳しいテルテを連れ、西側から大断層を渡ってきたと。
「大断層の東側がどうなっているか、
調査する為にあたし達はここまで来たんだ。
なので生きている人間を探していた。
本当は東の蛮族の国まで行く予定だったんだが、
その前に仲間のテルテが見ての通り倒れてしまい困っていたんだ」
「あの大断層を?
本当にですか?」
信じられないのはその通りだろう。
「ああ。
一番下には大きな川が流れていて、蛇のような化け物がいたよ」
「はい、大変だったけど何とかここまで来れたんです。
この妖精のルミルちゃんも大断層で拾ったんです」
「みゅー」
リンリが撫でるとルミルが鳴く。
「だったら。
それだけお強いのなら村を救っていただけると思います。
まさか大断層を越えてくる人がいるなんて」
ミアンナは本当に驚いているようだ。
「でも、ミアンナちゃんも強そうですよね。
私より背も高いし、筋肉も凄いし。
その大きな槍を振り回すんですよね」
「私は頭が悪くて、薬の覚えも悪かったんです。
でも、たまたま力だけは強くて、
オークぐらいなら槍で退治出来るから、
村を守る事で役に立てるのは嬉しかったんです」
彼女が神聖騎士団に入っていたなら、
強敵になったのでは、とアミアは肌で感じていた。
真面目そうな性格から邪教団では無理だろうとも。
「あたし達には村を救う力がある。
村を救う事でテルテを助ける事が出来る。
だから村を救う事に決めたよ。
あと、一応自己紹介をきちんとしておこう。
あたしはアミアで、看病してもらったのがテルテ」
「私がリンリで、この子がルミルちゃんです。
よろしくねミアンナちゃん」
「はい、私に出来る事がありましたら何でもやります。
だから村の件はよろしくお願いします、
アミアさん、リンリさん」
ミアンナが深々と頭を下げる。
「それじゃあ夜が明けたら出発するから道案内は頼む。
夜は二人で見張りするから、しっかり休んでくれ」
「はい、お願いします。
夜は私では戦力になれませんので、
すみませんが休ませていただきます」
ミアンナはテルテの寝ている傍に寝床を作り、
静かに眠りに落ちていった。
『テルテちゃんが助かりそうでよかったね』
薬でテルテも落ち着き、ミアンナが傍にいるので、
アミアもリンリも鎧に乗って待機する事にした。
『まだ分からない。
もしかしたら村はすでに妖魔に襲われている可能性もあるし、
テルテの毒が本当に治せるかも分からないしな。
それでも可能性が出てきたのはあたしも嬉しいと思う』
アミアは素直な気持ちを念話で話す。
『ミアンナちゃんいい子だよね。
見た目は力強いけど、顔は可愛いし』
『一人でここまで来れたって事は妖魔に詳しいのを含めても、
それなりに強いと思う。
生身の勝負じゃ負けるかもな』
『テルテちゃんが起きてたら、
妖魔に効く薬の話で盛り上がってた気がするよ』
『そうだな』
そして少しだけ笑い合う。
ここに来て少しだけ余裕が出てきたのだと感じた。
『あたし達も少し休もう。
警戒モードで起動しておけば意識は寝てても大丈夫だろう』
『そうだね、お休みなさい』
『お休み』
お互い鎧を警戒モードにして精神は眠りに入っていった。




