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悪姫恋聖  作者: ねじるとやみ
第2部 大断層
21/82

7.川を越えて

翌朝、一同は出発の準備を始める。

リグムは見た目はボロボロ、腕は繋がっているだけの状態になり、

ハッチも完全には締められないものの、本体とは接続された状態にはなった。

最低限の移動は出来るが、

それ以外のエネルギーは重要な部分からの修復を続けさせている。

持ってきた荷物は積めるが、それ以外に人を乗せたりするのは難しい。

欠けた装甲は代わりになりそうな神聖鎧の残骸からいくつか拾って持っていく。

色も形も違うが、やがて色も形状も本来のリグムの形に再生される。

アミアは久しぶりに生身での移動をする事となる。

エミンが置いていった装備がそのまま使えるので、

アミアもテルテと似たような恰好になる。


デュエナの方は切断された手足はくっつき、

リンリを乗せて動ける状態にまでは回復した。

しかし、エネルギーは回復しきっておらず、

装甲も修復中なので、激しい戦闘は厳しい。

ただ、神力の方は回復しているので、魔法は今まで通り使えるという事だ。

小型の妖魔と戦闘になった場合は今までと逆で、

魔法で追い払うのが主体になるだろう。


そしてテルテが見つけてきた食料や水はデュエナの方に積む。

残骸から集めた武器防具に関しては可変盾や今まで使っていた盾と比較的傷が無い盾を交換、

剣も今まで使っていた物は捨て、拾った聖剣と、

他にも傷が無い武器を何種かを積み、

可変槍は悪魔への攻撃で歪んだ為、捨てていく事にした。


「それじゃあ出発しようか」


もこもこの姿になったアミアが言う。

隊列はデュエナ、テルテ(とルミル)、アミア、リグムの順で進む。

リグムのセンサーの情報はアミアに伝わるようになっているので、

一応背後からの敵襲には最低限の対応は取れる。


(生身での移動になると思わなかったな。

こんな事ならもう少し体力をつけておけばよかった)


そうは思うものの、アミアは邪教団での厳しい訓練を乗り越えてきたので、

基礎体力でもテルテに負ける気はしていない。


しばらく移動して、アミアは久しぶりの生身での活動が、

予想より大変だと実感した。


(疲労するし、腹は減るし、用を足す必要もあるし、眠くもなる。

不死鎧がどれだけそういったストレスを排除していたかを思い知らされるな)


とはいえテルテはこの生活をずっとしていたんだし、

自分が不満を口になど出せない。

今後は鎧無しの活動を考えておかないと、とアミアの課題は増えていった。



日中進めるだけ進み、夜は見通しのいい場所で6時間の休憩を取った。

悪魔のテリトリーから離れるにつれ、今まで通りの穢れた森の景色になり、

中型妖魔の割合も増えてきた。

ただ、妖魔は縄張りを犯さない限り積極的に攻撃してくる事は少なく、

デュエナの魔法とテルテの妖魔避けの道具での対応で、

何とか戦闘は乗り切れた。

オークやリザードマンなど食料としてマシな味の中型妖魔が出るようになり、

数日エミンが消費した分と現在アミアが必要とする想定外の食料が、

備蓄以外から手に入るようになったのは良かったといえよう。

アミアは見張りと指示ぐらいしか出来ず、少し歯がゆさを感じていた。



悪魔のテリトリーから出て2日目、

半日ほど移動したところで、リンリが何かに気付いた。


「音がします、水の流れる音です。

先に川があると思います」


大断層の道中は下りだったので、一番下が川になっていてもおかしくない気はする。

ただ水がどちらの方向に流れているのかは分からない。

普通は山から海へと流れるんだけど、ここは地面が割れた断層の下。

断層の方が海面より低いのだから、

水は海から断層へ流れ込んでいくのでは、とリンリは思った。



「見えました、大きな川です」


数分歩くと、下った先に幅10メートルぐらいの川が見えてきた。

流れは思ったより速く、南から北、

つまり海岸側から陸地の方へ流れているから予想通りだった。


「北へ流れているという事は、

やがてはこの断層も水で満たされるって事かな」


テルテの言ってる事は確かな気がした。


「急がないと川幅が大きくなるって事?」


「いや、大崩落から大分経ってるのだし、それでもこの量という事は、

海から流れる水の量はこれ以上増えないんだと思う。

どこかで循環する仕組みが出来ているんだろう」


アミアの意見も正しい気がする。

結局、大断層の全体とか詳細が不明なのだから、

何が正しいかは分からないと思った。


「じゃあ、川をどうやって渡るか考えないとですね」


そう言ってデュエナで川に近付く。

と、川の水面が急に膨らんだ。


「何かいる、気を付けろ」


アミアが真っ先に気付く。

川から現れたのは巨大な蛇のような顔だった。

青く、周りに鱗が生えており、

顔だけで神聖鎧と同じくらいの大きさだ。


「ありゃ『水妖すいよう』だ。

リンリ、離れて」


テルテが叫ぶ。

と同時に水妖の口から液体が凄い勢いで飛び出す。

それは後退を始めたデュエナの足に当たり、

その装甲を溶かしていた。


「近くは危ない、アミアも離れて」


テルテの言葉に従ってアミアも川辺から離れる。

ルミルは危険を察知したのか、テルテの前を飛んで逃げていた。

その後をデュエナも追ってきており、背後から何かが飛んでくる。


「毒針だ。

刺さったら人間は即死だから気を付けて」


テルテは水妖について知識があるようだ。


「ここまで来れば大丈夫だから」


少し登った小高い丘でようやく足を止める。

デュエナも装甲を溶かされたものの、移動には支障はなく、すぐに追いついた。

川の方を見てみると大きな蛇のようなものが泳いでいる影が見える。

アミア達がさっきいた場所には大量の毒針が飛んできて刺さっていた。


「まさかこんなところに水妖がいるなんて。

あれは大きな湖とかで主と呼ばれる妖獣だ。

体長は15メートルから50メートル、

見た感じさっきのはかなり成長した水妖だと思う。

縄張りに侵入した敵を捕らえて食べて生きていて、地上では身動き取れず、

出てきても首が伸ばせる10メートルぐらいかと」


テルテが一気に説明する。


「戦わずして川を渡る方法はありそうか?」


「難しいね。

おそらくここら一帯が奴の生息地で、水の中で聞こえる音に敏感だ。

見えない位置で空を飛んで渡れるなら可能性はあるけど、

それは出来る?」


「デュエナだけなら川を渡るぐらいの空中移動の魔法は使えるけど、

リグムはどう?」


「今の状態だと無理だな。

安定した空中移動をさせるには1日ぐらい神力を貯める必要がある。

ここが安全か分からないし、1日も留まるのは危険だろう」


アミアの言葉で一同は戦闘は避けられない、という雰囲気になった。


「よし、たまにはうちに活躍させて欲しい。

作戦を立てるから、ちょい時間をくれ」


「そうだな、水妖の事を分かってるんだから、

何かいい案が浮かぶかもな」


「テルテちゃんお願いします」


テルテが考えている間、リンリは襲撃を考えてデュエナの中で待機、

アミアはリグムの損傷のチェックをしていた。


「川って事はここが一番低いから、多分折り返し地点だよね」


手持無沙汰からリンリが鎧越しに話しかけた。


「正確には分からないけど、多分そうだろう。

東側に悪魔がいない事を祈るだけだ」


アミアは作業を続けながらしゃべる。

ルミルがその上をふよふよと飛んでいた。


「アミアちゃんは邪神にお祈りするの?」


「教団にいた頃は形式的には祈ってた。

でも、本気では祈ってなかったな。

どれだけ祈ったって死ぬときは死ぬ。

祈る時間があるなら強くなる努力をする方が有意義だと思ってた」


「ふーん。

努力は置いといて、本気で祈ってないのは私と一緒だね」


リンリの言葉が気にはなったが、アミアは特に反応しなかった。

やがてテルテがやってきて作戦の説明に入った。


「つまり、リグムで水妖を釣り上げたところを、デュエナが攻撃する、

って認識であってるか?」


テルテの説明に対してアミアが確認する。


「まあ、簡単に言うとそうだ。

水中では水妖は無敵だ。

地上に出れば自由に身動き取れないし、弱点の火で攻撃出来る。

あとは持ってきた武器を投げて、直接戦闘しなくても倒せるって作戦」


「でもさっきの話だと、

指示を出すテルテちゃんが一番危なくないですか?

リグムは動けないし、誰も守ってあげられないですよ」


「奴は動いてるものを判別して襲ってくる。

じっとして、前面に毒針を防ぐ盾を置いておけば大丈夫」


「分かった、今回はテルテの指示で動くよ」


そして作戦の準備が始まった。

まず水妖から少し離れた上流、

実際は下流なのだけど流れとしては上流の南側へ移動する。

次にエサの作成。

リグムの魔法の発射装置の短剣にテルテが食料用に保管していたオークの肉を付ける。

肉からも飲み込んだ後の水妖からも短剣が外れないよう、

短剣の柄の部分に簡単な返しを付けておく。

そして釣り竿代わりの台。

ハルバードを地面に突き刺し、

その上にワイヤーを通す事で地面を引きずらない高さにする。

ワイヤーの発射装置はリグムの腕に付け、

あとはテルテの合図で引っ張るだけだ。

乗り込んで動かせないリグムでもこれぐらいは外から操作出来る。

デュエナはリグムの斜め前に陣取り、

地面に投擲用の剣や短剣、槍を刺してある。

テルテは少し離れた岩の上にリグムの盾を置き、その後ろに隠れている。

ルミルは的になるからと、リグムの後ろにいるように言い聞かせて、

今のところそれを守っていた。


『えーと、念話はこれで届いてる?』


リンリとアミアに念話が届く。

テルテが身に着けてるのはラーラから貰った鎧との念話用の魔法道具だ。

完全に特定の2台としか念話は出来ないものの、3人で会話するには十分だ。

エミンにばれるのが嫌で今まで使ってこなかったが、

そもそもテルテは今まで戦闘に参加してないので、特に使う出番も無かった。


『リンリです、届いてます』


『あたしも大丈夫だ』


アミアはリグムの外にいるが、リグムを起動させ、

念話が出来る状態にはさせている。


『じゃあ作戦を開始する。

まずはデュエナが川の中央付近にエサを投げて』


テルテの指示が飛び、デュエナが行動を始める。

地面に置いていたエサを持ち上げ、それを少し上流方向の川へ向かって投げ込む。

リグムは発射装置のワイヤーのロックを外し、エサは勢いよく川へと投げ込まれる。

オークの肉は川面に浮き、流れに乗って下流へと流れていく。


『うん、水妖の移動を確認、合図するまでそのまま、

5、4、3、2、1、ワイヤー引いて!』


アミアは発射装置のワイヤーを引き戻す。

川面からオークの肉が勢いよく移動を開始する。

それに向かって水妖が速度を上げてくる。

オークの肉は水面を抜け、空中へと浮かび上がり、それに水妖が食いついた。


『デュエナ、火炎攻撃!』


定位置に戻ったデュエナは火炎の魔法を地上に出てきた水妖に放つ。

水妖は食いつく為に勢いよく地上に出たので、

対応出来ず、顔面が燃え上がった。


『リグムはなるべくワイヤーを引っ張って、デュエナはそのまま投擲を開始、

首筋のえらの後ろを狙って』


顔面を焼かれた水妖はのたうち、リグムは凄い勢いで引っ張られる。

リグム自身は最低限の動作しかさせられないので、ほぼ引きずられ始めている。

デュエナは冷静に一本ずつ投擲を始める。

水妖から毒針が飛んでくるが、鎧に対しては無力だ。

剣が頭に刺さり、短剣がえらの後ろに食い込み、槍が首筋を捕らえる。

6本目の武器が水妖に刺さった時にはもう動かなくなっていた。


『やりました!』


リンリは喜びを隠せない。


『ちょっと待って、

剣で完全に首と胴体を切り離して。

まだ動くかもしれない』


テルテが冷静に判断する。

デュエナは慎重に近付くと、確かに毒針が数本飛んできた。

そのまま素早く近付き、剣で数回叩き斬り、水妖は完全に息の根を止めた。


『テルテ、やったな』


『ふう。

うまく行ってよかった』


テルテから安堵の声が聞こえた。



「本当は処理して色々素材を取りたいんだけどなあ」


テルテが残念そうに言う。

他にも水妖がいるかもしれないので、なるべく早く移動しようという事になった。

川の移動は水妖の胴体を橋代わりに出来そうだという事で、

まずデュエナが水妖の尾を持って空中移動で向こう岸に行き、

こちら岸の部分を魔法で固定し、魔法が発動している最中にその上を移動する、

という事になった。

胴体は滑りやすい為、先にテルテが薬品で滑らないように加工を始める。

ルミルは切り離された頭部の方を楽しそうに飛び回っている。


「じゃあ行きます」


デュエナが空中浮遊の魔法を唱え、尻尾の方を持って移動を始める。

一応向こう岸に他の生物がいない事は先に確認しているが、

予想外の展開を考えてデュエナは注意深く移動する。


『こちら側はOKです。

固定して渡ってきてください』


リンリの念話を合図にリグムの魔法を発動させ、

地面に切断面のある水妖の胴体を固定する。

川の上に一本の橋が出来上がった。

魔法が切れたら徐々に川に流れていくだろう。


「じゃあ、お先」


テルテが慎重に水妖の上を渡り始める。

川の流れから落ちたらお終いだろう。

ルミルは別に橋の上を飛ぶ必要はないのだが、

テルテの後を優雅に付いていっている。

アミアも水妖の上に乗り、後ろをリグムに付いてこさせる。

アミア自身は大丈夫そうだが、リグムのバランスが心配だ。

滑らないように足のクローを出して、一歩ずつ確実に進ませていく。

リグムの重量で橋は撓み、水面に付く。

反対側のデュエナが尻尾を引っ張り、バランスを取ろうと苦心する。


まずテルテが無事に到着。

リグムは中腹でバランスを崩し、

途中から四つん這いになって移動する事になったが、

何とか向こう岸まで到着した。


「よかった、途中で落ちちゃったらどうしようかと思いました」


「リグムに乗れさえすればこんなの楽勝なんだけどな」


アミアの乗ったリグムのバランス感覚はヒュドラ戦を考えれば、

確かに楽勝だとリンリも想像出来た。


少し離れた場所でテルテは新鮮な水妖の肉を料理し、

アミアと簡単な食事をとってから再度出発を開始した。


「リンリ、

ここからが大変だと思うが、頼んだぞ」


「はい、任せてください」


リグムにまだアミアは搭乗出来ない為、

ここからも私が何とかしないと、とリンリは思うのだった。

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