6.満身創痍
(うぅ・・・)
アミアは段々と意識が戻ってくる。
瞼が重く、頭が痛い。
そして頭の下の感触が温かく、懐かしい気がする。
何とか目を空けるとそこには微笑むリンリの顔があった。
(ああ、リンリと初めて会ったのもこの体勢だったな)
リンリの膝枕が心地いい。
意識がしっかりしてきてアミアの中で今がどんな状況だったかの整理が始まる。
「アミアちゃん、気分はどう?」
「すぐに身体が動かせそうには無い。
もう少しこのままでいさせてくれ」
「うん、いいよ」
リンリはそう言いつつ優しくアミアの頭を撫でる。
どうして自分がこんな状態かの理由と、
意識があった時の最後の記憶がようやく蘇った。
「悪魔は、倒せたのか?」
「うん、私もその時の記憶は無いんだけど、気が付いたら悪魔は消滅してて、
テルテちゃんに大まかな経緯を教えてもらったんだ。
テルテちゃんは今、周囲を見回りしてもらってる」
とりあえず悪魔が倒せた事にアミアはホッとする。
そしてこうしているって事はリンリも無事だったと。
「あたしの奥義で全滅出来たのか?」
「うん、まず私と戦ってた悪魔はデュエナを壊すのに夢中で、
油断してたみたいで、背中からまともに食らってそのままだったって。
デュエナは悪魔が間にいたのと、一番リグムから距離が離れてたから、
装甲の一部が溶ける程度で済んだんだ。
で、アミアちゃんが戦ってた悪魔は攻撃を食らった瞬間は耐えて、
リグムの右腕とかハッチとか壊したけど、
結局弱点の心臓がやられたからその後消滅したって聞いたよ。
本当に助けてくれてありがとうね」
「いや、リンリには無理をさせた。
あたしも悪魔があそこまでとは思わなかった。
今回勝てたのもギリギリだったみたいだしな」
アミアは話を聞いて、今回倒せたのは運が良かったからだと感じた。
身体能力も上、再生能力もあり、近距離で放った奥義でギリギリ倒せる。
1体ならまだしも、2体倒せたのは悪魔の油断があってこそだと。
そして、二人の鎧の損傷も大きい。
「デュエナはすぐに動かせそうか?」
「うーん。
斬られた手とかはくっつくし、動作に関するダメージは少なかったから、
動かす事は半日もすれば出来るかな。
ただ、装甲周りは完治するのに数日かかるかもしれない。
他の鎧の残骸があるから装甲自体には困らないけど」
とりあえず動かせるなら中型の妖魔までなら何とかなるだろう。
リグムの奥義を受けてその程度で済んだのは本当にラッキーだ。
リグムの方は奥義を使った為、しばらくはまともに動かないだろう。
不死鎧の奥義は全エネルギー、全神力を使い切り、
かつ、再度発動は1週間は行えない。
元々悪魔に受けていたダメージと先ほど聞いた、腕とハッチの損傷を考えると、
完治するのに下手すると10日以上かかるかもしれない。
「この状態だと、進むか戻るか考えないとな」
「そうだ、エミンさん逃げ出しちゃったって。
まあ、普通の人間が悪魔を見たら、そうだよね。
その代わりに、って来た来た」
リンリが話していると、結界の中にテルテが入ってきた。
「お、目を醒ましたな。
とりあえず周囲に生物は居なそうだ。
元々悪魔のテリトリーだったから、妖魔どもは逃げるか、殺されてたんだと思う。
小型の妖魔にしか出会わなかったのも、
悪魔に相手にされない連中だけ生き残ってた、って考えると納得いく。
まあ、1日ぐらいならここで休めると思う」
テルテが説明する。
が、アミアはテルテの右上に浮いている物体が気になってしょうがない。
「それは、なんだ?」
「ああ、悪魔と戦ってるのを見てる時、エミンが逃げ出した後に出てきたんだ。
いわゆる妖精だが、なんだか懐いたみたい」
「みゅー」
白い物体が鳴く。
「可愛いよね。
私も本で見た事あっただけだけど、
こんなに実物が可愛いと思わなかった」
「可愛いか?」
そう言ったアミアを妖精が睨んだ気がする。
アミアは丸々と太った白い物体が可愛いとは思えなかった。
「まあ、そいつの事はいいとして、今後の事を相談したい」
ようやくアミアは身体が動くようになり、上半身を起こす。
テルテも地面に座り、話し合いを始めた。
「ここがテリトリーだとしても、長居は避けたい。
かといって鎧は両機とも半壊状態だ。
2機とは言わずとも、1機が戦えるようになったら出発しようと思う。
問題は進むか、戻るかだ。
あたしとしてはここまで被害が出たら先に進むのは難しいと思う。
かといって、戻る途中で大型の妖魔や悪魔と出会わないとは言い切れない。
正直八方塞がりと思うぐらいだ」
アミアは自分の考えを素直に述べる。
「鎧の事はよく分からんけど、無理は承知で始めた旅だし、
うちはここまで来たら進むしかないと思うな。
もちろん戦うのはうちじゃ無いし、決断はそっちに任せるけど」
「私は、うん、戻っちゃいけない気がする。
あの悪魔だって二人で何とか出来たんだし、
もしかしたらこれ以上強い敵はここら辺にはいないかもしれないし」
リンリの考えはあくまで希望でしかない。
が、そういう考え方をしなければ先へは進めないのも確かだ。
「分かった。
とりあえず進む方向で考えよう。
ただ、鎧の状態の確認と、今後悪魔と出会った場合の対策は考えたい。
まずは半日、出来る事をやろう」
アミアはそう言って立ち上がろうとしたが、よろけてしまう。
「アミアちゃんはもう少し休息が必要かな。
本当は魔法で何とかしたいんだけど、
鎧の神力はなるべく機体の回復に回したいから、私が看病するよ」
「そっちは任せた。
うちはこの辺りから悪魔の情報や、
騎士団の持ち物とかで使えるものがないか調べてくる」
「くれぐれも気を付けてな」
アミアはそう言いつつも今の自分は鎧を動かす事も、魔法を使う事も出来ず、
それどころか生身の身体すら自由に動かせないんだと実感する。
「少し寝ようか」
そう言って二人は並んで寝転がり、リンリはアミアに腕枕する。
リンリの身体は柔らかく、温かい。
優しく抱かれるだけで、魔法ではなくても身体が回復している気がする。
「結局危ない橋を渡らせてしまったな」
アミアは小声で言う。
「私こそ、また助けられちゃった。
槍で頭部を攻撃した時は、倒せるかな、って思ったのに、
全然力不足だったよ」
その言葉に、もしかしたら最初からリンリに好きにやらせれば、
悪魔を倒せたかもしれないとアミアは考えてしまう。
戦う前は必死で、自分が何とかしてリンリを助ける、
その為にリンリがどう動けばいいかを考えていた。
が、その指示が本当に正しかったのかが分からない。
デュエナ自身が防御に重きを置いた機体だという事で、
リンリは守りを中心に動いた方がいいと思い込んでいる。
ミノタウロス戦で見せたデュエナの動き。
リグムを凌ぐ速さがデュエナに出せるなら、
そこを伸ばし、さらにリンリの戦い易い方法があるんだと思う。
「またなんか難しい事考えてるでしょ」
いつの間にかリンリがアミアの顔を覗き込んでいた。
「あっ、まあ、な」
「ひとまず頭も休めないと疲れが取れないよ。
私も疲れたし、一緒に寝よ」
「分かった」
リンリは自然とアミアに身体を絡ませ、アミアもそれを受け入れる。
リンリの温かさが心地いい。
精神が疲弊していた事もあり、アミアはすぐに眠りに落ちていった。
「私が何とかしないとなあ・・・」
リンリはぼそりと呟き、アミアの寝顔を見ながら、
一緒に眠りに落ちていった。
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リンリは夢を見ていた。
とても恐ろしい夢だ。
目の前でリグムが巨大な化け物になすすべもなく破壊されている。
自分はデュエナに乗っているのに身動きが出来ない。
『リンリ、早く逃げて』
夢の中でアミアが叫ぶ。
リンリはアミアを助けたいと思っている。
しかし、化け物には絶対敵わない事も分かっている。
助けるのか、逃げるのか。
『早・・く・・・』
怪物の角がリグムの腹を貫いた瞬間、リンリは目を醒ました。
腕が重い。
そうだ、アミアに腕枕しているからか、と気付き、
右手が少し痺れてると感じる。
これが悪夢の原因か。
それが分かった事でリンリの気持ちは一気に落ち着く。
しかし、夢の中の状況はいつやってくるか分からない。
アミアは自分よりずっと強いが、それより強い敵は存在する。
それは悪魔と戦ってみて身に染みた。
二人で力を合わせられればとも思うが、
常にそれが出来るとは限らないとも感じた。
なら、どうすればいいのか。
(もっと強く、もっとアミアちゃんの為に!)
逃げ出したり、アミアに頼っていた自分を戒め、変わらなくてはならない。
すぐには強くなれなくても、意識する事で変わるものがある筈、と。
そしてアミアに前に言われた、感じたままに動く、
という事も強さに繋がる可能性があるか、と頭によぎった。
そこまで考えて、リンリは自分が生まれて初めて、
自主的に行動しようとしているんだな、と思った。
他人の意見ではなく、自分の考えで。
それはリンリにとってとても不思議な感覚だった。
「あ、ごめん、
ずっと腕枕じゃ重かったよな」
考えているうちにアミアが目覚め、起き上がる。
「ううん、少しでもアミアちゃんの為に出来る事があれば、
私はなんでもやりたいから」
リンリも身体を起こした。
「うん、大分調子が良くなった。
魔力も戻りつつあるし、本当に助かったよ」
そう言われてリンリは素直に嬉しい。
「じゃあ、色々と確認しようか」
「そうだな」
珍しくリンリから言い出したので、アミアは少し驚いた。
が、この変化はいい傾向なのでは、と心の中で思うのだった。
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数十分後、戻ってきたテルテと3人で集まって状況の整理を行った。
簡単に各自の状況をまずは説明する。
「リグムは5日は確実に騎乗して戦えそうにない。
斬られた腕はいいとして、ハッチを壊されたのが問題で、
繭の重要な部分にも損傷があり、
乗り込んでの操縦がしばらく出来ない。
遠隔での移動や、外から発動する魔法ぐらいは使えるが、
戦力としてはしばらく無いものと考えて欲しい」
アミアがリグムの状況を告げる。
これはかなりの痛手と言える状況だった。
「じゃあ、デュエナの話を。
明日になれば装甲以外は修復完了になるので、戦闘が出来るようになります。
ただ、エネルギーは装甲の回復に引き続き使うので、
連続して激しい戦闘は難しいです。
魔法で小型、中型への対応なら出来ると思いますが」
リンリの話で、ひとまず、明日妖魔の襲撃に合っても、
大型で無ければ対処出来る事が分かった。
「最後にうちが調べてきた情報を。
近くの神聖鎧の残骸から使えそうな物は、
破壊されていない数本の武器と盾、携帯用の食料と水ぐらいだった。
あと、エミンが逃げる際に邪魔だったようで、
貸してた魔法のゴーグルと上着は近くに落ちてた。
なんで、もう生きていないだろう」
エミンとは数日一緒にいただけだが、
アミアは少しだけ寂しいな、と感じていた。
その後、悪魔に出会った場合の対策を話し合った。
頭や腕を狙ってもすぐに再生し、
弱点である心臓は分厚い胸の装甲の下で、そう簡単には届かない。
そうした情報を得られただけでも今までよりはマシだが、
そもそも今回は相手が油断していたので、ギリギリ勝てただけで、
現在の状況で出会った時点でお終いだろう、という結論にしかならなかった。
「それを踏まえてもやっぱり進むか?」
「うん」
「そうだな、うちも進むも戻るも危険なのは変わらないし、
だったら進む方を選びたい」
「分かった、だったら移動は早い方がいい。
悪魔がどういう生態をしてるか分からないが、
倒した奴らを探しに来るかもしれない。
明日の朝一で出発しよう」
アミアが決断し、二人は頷く。
「あ、そうだ」
「何かあるのか?」
「その子に名前を付けないと」
そう言ってリンリはテルテの周りをふわふわと浮いている、
妖精を指さす。
「名前?」
「テルテちゃん、名前付いてないんでしょ?」
「いや、喋れないし、付いてるか付いてないか分からん」
「でも妖精だとなんか味気ないし、名前を付けてあげた方が」
「みゅー」
言っている事が分かるのか分からないのか、
妖精はリンリの方へ近寄り上でくるくる回る。
「えーと、『ルミル』とかどうかな」
「え?なんでそんな名前に?」
テルテがやや驚いたように聞く。
「うーんと、何となく。
どう、ルミルちゃん」
「みゅー」
「うん、嬉しそう」
「これは喜んでるのか?」
アミアが首を傾げる。
妖精、ルミルは楽しそうにリンリの上を回っていた。
「まだ起きてるか?」
夜、アミアは横に寝ているリンリに声をかける。
「うん、どうかした?」
「いや、一応言っておこうと思って。
生きていてくれてありがとう。
ちゃんと守れなくてごめん・・・」
リンリの目を見て謝罪する。
「それだったら私こそ役に立たなくてごめんなさい。
結局アミアちゃんの方が酷い状態だし、
アミアちゃんがいなければどうにもならなかった。
だから、これはおあいこって事で」
リンリは優しく頭を撫でてくれる。
これで良かったとは思えない。
でも悩んでもリンリを苦しめるだけだとは思う。
「これから先リンリが戦う事になると思う。
あたしも出来る事はするけど、無理だったら逃げてもいい、
どうにか生き残ってくれ」
アミアは初めて自分からリンリを抱きしめる。
「逃げたりなんかしないよ。
一緒だよ、死ぬ時も。
でも、アミアちゃんがいれば大丈夫な気がしてきたよ」
リンリが抱きしめ返す。
二人は軽く頬を寄せ合い、微笑んで、眠りに落ちていった。




