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悪姫恋聖  作者: ねじるとやみ
第1部 出会い
12/82

12.地上へ

『やったよー!』


ドスドスとデュエナがリグムに駆け寄ってきて、

鎧のまま抱き付く。


『よく頑張ったな。

上出来だ』


アミアも嬉しくなり鎧のままデュエナの頭を撫でる。


『アミアちゃんが一緒にいてくれたから。

でも、こんなに頑張ったのは初めてかも』


リンリは素直に言う。


『あたしもここまで協力して戦ったのは初めてかな』


信頼し合って戦うのがこんなにも頼もしいものだとアミアは思っていなかった。


「すごいなー二人とも」


小走りでテルテがやってくる。

先ほどまでの煙はすでに始末してあり消えている。


「テルテも協力ありがとう。

うまくいってよかった」


アミアは素直に感謝を述べる。


「まあうちの仕事はこれからだから。

ちょっと気になる場所があるから着いてきて」


テルテは二人の横を通り過ぎ、

ヒュドラのテリトリーの中央付近へ向かう。


「何かあるの?」


リンリが気になって声をかける。


「ドラゴンは財宝を貯める性質があってな。

ヒュドラもそうじゃないかと」


凹凸の激しい地形を歩きつつテルテが答える。


「あそこだ」


そしてテルテが何かを見つけたように指をさす。

二人もそちらを見てみると、何やら小さな明りが見える。

テルテは走り出し、二人も追ってそこに到着する。


「綺麗・・・」


思わずリンリが口に出す。

ちょっとした洞窟状になった窪みには光を放つ石とそれに反射して光る金属、

宝石が積み重なっていた。


「あるある、貴重な石が。

なあ、あんたらの鎧はどれくらい積み込めるんだ?」


テルテが財宝を見つつ質問する。


「今は最低限の荷物しか持ってないから、

収納ラックにその半分は入ると思う」


「私の方も同じかな。

2機で全部持ってけるかと」


「そうか。

そうなるとあとはヒュドラ本体か。

うーん。

財宝の選別する時間は無さそうだし、

ヒュドラの方を最低限にするかー・・・」


ひとまず財宝を2機に分けて積み込み、

それからヒュドラの元に戻って解体作業に入った。


「リンリは頭から角、牙、目玉をなるべく傷付けずに取り出して欲しい。

アミアは本体の方をうちと一緒に解体だ」


最初にテルテがリンリに頭からの素材の取り方を教えてやり、

その後アミアとテルテで足の爪や体の中にある臓器や石を取り出す。

人間の身体だと時間がかかる解体作業も鎧を使う事で

テルテが思っていたよりも早く完了した。

本当は鱗も持って帰りたかったが、

テルテ自身のリュック、2体のウェポンラックを使っても

そこまでは無理と判断し、泣く泣く諦めるのだった。


荷物の整理を含めたエネルギー回復の時間の小休止を鎧に乗ったまま取った後、

一行は再度移動を開始する。

ヒュドラが退治された事が分かれば、周りの妖魔が動き出すし、

オークの巣の残りが帰ってこない仲間をいずれ探しにやってくるからだ。

機体のダメージ的には両者とも軽微で済んだので、

移動は出来るが、神力は両機ともほぼ使い果たした為、

魔法は使えない。

この状態で大型の妖魔と出会った場合はかなり危険な為、

あとは運を天に祈るばかりだ。


(まあ祈る神なんてもういないんだけどな)


とアミアは思う。

そういえば神に対して反抗的な行動をしている二人だが、

どうして鎧はまだ動かせるんだろう、とも思った。

そもそもアミアは鎧の動力についての知識はほぼない。

が、鎧に乗る前に暗黒神に対する信仰は散々詰め込まれた。

神を信じなければ動かせないと。

色々頭に疑問が沸いたが、

今は周囲に気を付けて移動する事に集中すべきだと頭から追い払う。


「ここだけど通れそうか?」


テルテが下層の壁に空いた穴の前に立って聞いてくる。

鎧の機能で穴の先の広さを確認する。

出てきた結果は狭い部分も這って行けば通れるという事だった。


「何とか行けそうだ。

妖魔はいるのか?」


「来た時は数回小型の妖魔がいて、

うまくすれ違って来た。

穴の大きさ的にも小型ぐらいしかいないだろうし、

それなら鎧で何とか出来るだろ?」


「そうだな、

じゃあ進もう」


先頭を道が分かるテルテが進み、次にアミアのリグム、

最後にリンリのデュエナが後方の敵に注意しつつ進んでいく。

穴の道中は鎧だとほぼ中腰か這う形で進む事になり、

鎧でもうっとおしく感じていた。

結局ゴブリンと1度遭遇したぐらいで、

鎧を見たゴブリンが自ら逃げ出したので戦闘にすらならなかった。

やがて、穴の奥から光が漏れて見える。


「出口だ」


テルテが嬉しそうに言う。


「ようやくか」


狭い通路だったので思ったより長く感じたが、

実際は1時間弱しか経っていなかった。

外はまだ日が射しており、暗くなる前に抜け出せたようだ。


「何とか無事に地上に出れましたね」


リンリも嬉しそうだ。

外に出てみると、そこは谷になっていて、

中央に細い川が流れている。

外から穴を見てみると、谷の底からは穴が見えるが、

谷の上はせり出した形の為、上から穴は見えないようだ。


「よくこんな場所見つけたな」


アミアは感心して言う。


「まあ、うちの情報網にしてみてれば

簡単な事さ。

という訳じゃないんだけどな。

ここを見つけたのは運が良かったからだ」


「近くに妖魔の反応も無いですし、

一回鎧から降りません?」


リンリの提案に一同は同意した。


アミアは鎧の繭から出ると深呼吸する。

久しぶりの地上の空気だった。

空は日が沈み始め、夕暮れが近付いている。

何故か教団の自分の部屋が恋しくなったが、

あそこへ戻る事はもう無いだろうとアミアは思っていた。


「地上の方が温かいね」


鎧から降りたリンリが話しかけてくる。

異変で季節感が無くなったとは言え、

実際は初秋の頃だろうから、本来は暑いぐらいなんだろう。


「そうだな」


アミアも鎧から降り、

テルテのいる方へ歩いていく。


「とりあえず軽く腹ごしらえとしますか」


軽装になったテルテが鍋を取り出し、

料理を始めていた。

アミアとリンリの二人はとりあえず料理が出来るのを待って、

のんびりとしていた。

谷底には野獣もおらず、妖魔の気配もない。

夜になれば霊体の妖魔が出てくるだろうから、

その前には移動を始める必要がある。


「それじゃあいただきます」


料理が終わったテルテが鍋を持ってきて、

軽い食事をする。

少し味付けは変えていたが、

基本は前日食べた材料と一緒だ。


「荷物の関係上食料はこれで終わりだから。

後は家に戻るか、町で買う必要がある」


テルテが食べながら話す。


「これから先の事を決めないとな」


アミアが頭の隅に追いやっていた話を切り出す。


「正直に話そう。

あたしもリンリも元の教団には戻れない」


「まあそうだろうと思ったよ」


テルテが相槌を打つ。


「さらに言うと、

あたしが生きてる事を教団に知られたら、

鎧を取り返しに奴らがやってくる。

操縦者はあたしでも、所有者は教団だからな。

リンリも同じ感じだろ?」


「うん。

鎧を持って帰れば殺されはしないだろうけど、

相当な罰は受けると思う。

鎧は教団の物だし、

知られたらアミアちゃんと同じで多分追ってくる」


「だから、教団の目が届かず、

生きていける場所があればそこを目指したい。

っていうのがうまい話過ぎるとはもちろん思ってる。

なので少しでもいい案があれば聞きたい」


アミアはテルテに頼み込む。


「うーん、まあヒュドラの件もあるし、

縁は無駄にしない主義なんで、

知ってれば教えるんだけど、

さすがにここら辺で教団関係が入らない、

人間の生存場所は無いなあ。

いっそ下層で暮らす、

ってのはどうだ?」


「冗談だとしても、

さすがにそれは・・・」


「だよね。

まあうちは知らないけど、

いい案が出せるかもしれない奴なら心当たりがある。

あんたらさえよければ紹介するよ?」


テルテの提案に二人は顔を見合わせ頷く。


「こちらもテルテを信用しよう。

教団に情報を売ってもろくな事にならないのは知ってるだろうし。

是非その人に会わせてくれ」


「お願いします」


アミアに続いてリンリも頭を下げる。


「ただ、ちょっと変人だから、

素直に会ってくれるかは運次第かなあ。

まあヒュドラの財宝もあるし、

多分会えるだろう」


テルテは少し能天気に答えた。


「しかし会うのならまずはその恰好をどうにかしないとな」


テルテは下着姿のアミアとローブ一枚のリンリを見る。


「服を取りに教団には行けない。

どこか街に寄れれば服ぐらい調達出来るかと思うが」


「その恰好で街に入るつもり?

鎧で入るわけにも行かないだろうし。

てなわけで、一旦うちに来てもらうけどいいか?」


「ああ、何とかなるならお願いしたい」


アミアはこうなるとテルテに任せるしかないと思った。


「私も、やっぱり下着は付けたいかな」


リンリも急に自分の恰好が心許なくなっていた。


「ここからなら歩いて半日もかからないし、

夜半には着くと思うよ」


テルテはなぜか嬉しそうに言った。

食事を終えた一行はすぐに移動の準備をし、

テルテの家へと出発した。


===========================================================================


その様子を谷の上から覗き見る一人の人影があった。

彼女は誰にも悟れず、3人の様子を見ていた。


「へー、下層から抜け出せる人間もいるんだ。

しかも神聖鎧と不死鎧、もう一人は生身って、

かなり面白い組み合わせだねえ」


その人物は興味深そうに笑う。


「最近退屈だったし、

マークしてみよっと」


そう独り言を言い、彼女は闇へと消えていった。

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