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悪姫恋聖  作者: ねじるとやみ
第1部 出会い
11/82

11.ヒュドラ討伐

(久しぶりに一人きりになったけど、

こんなにも心細いんだな)


リンリは思う。

といっても丸一日前の巨人から逃げた時も一人きりだったので、

久しぶりというのは体感でしかない。

リンリは本当に自分がヒュドラを倒せるのだろうかと自問する。

アミアの作戦を聞いた限りではうまくいきそうだし、

ハルバードを使っての手ごたえは感じている。

が、これでアミアのように一人でジャイアントを倒せ、

と言われても出来る気はしない。

そんな自分がヒュドラを相手に出来るのか。


(でも、やらなくちゃ)


手にしたハルバードをぎゅっと握りしめると、

鎧越しなのに、アミアの温もりを感じる気がする。

そう、一人じゃ無理でも、アミアと一緒なら。

一番の大役を任されたのだから、

やるしかないとリンリは気持ちを引き締めた。



『そろそろ合流する。

オーク達を先に接触させるから、

予定通り岩陰まで移動で』


しばらくしてアミアから念話が入る。

センサーにもアミアのリグムが映り、

その後ろに大量のオークの反応もある。


『了解』


返答しつつリンリは気合を入れる。

ここからは時間との戦いになる。

指示はアミア任せになるが、即座に動けるようにしておかないといけない。


『お待たせ』


視界にリグムが映り、

その移動速度に合わせてリンリはデュエナを走らせる。


『うまくいったんだ』


『ああ、うまい具合にオークのメスを使役出来たんでね』


念話しているうちに予定の岩陰に到着し、二人は移動を止める。

後ろのオーク達はヒュドラのテリトリーに入ったので、

もうすぐヒュドラが動き出すだろう。


センサーの大きな表示のヒュドラがオークに気付いて動き出す。

ヒュドラのテリトリーなだけあって、

辺りは広い空間になっており、

アミア達が隠れている岩場以外はヒュドラから丸見えである。

オークの先頭はアミアが使役している3匹のメスのオークで、

少し遅れて数十匹のオスのオークの群れが続いている。


『じゃあ行くよ』


オークとヒュドラの接触寸前でアミアが移動の指示を出す。


『はい』


リンリのデュエナも気合と同時に走り出した。


そしてヒュドラの全貌が明らかになる。


『大きい・・・』


高く擡げた首は10mを超え、

鎧の2倍以上の高さにそびえる。

頭の数は8つで、数が多いほど成長した個体なので、

ヒュドラとしては若いといえる。


『オークをぶつける』


先頭を走るオークのメスがヒュドラの前に晒される。

テリトリーを犯した妖魔を確認したヒュドラは、

中央当たりの3つの首で、3体のオークをそれぞれ1体ずつ噛み砕いた。


「ウォーーーーッ!!!!」


それを見たオスのオークの群れが雄叫びを上げる。

オスのオークにとってメスは何物にも代えがたい存在だ。

それを殺したものはなんであろうと排除しようとする。


『強化魔法の詠唱を』


アミアの指示でアミアもリンリも魔法を唱え始める。

魔法耐性が高いであろうヒュドラに魔法をかけるのは難しいと判断し、

それぞれ自分の鎧に対する強化の魔法である。


『獣化』


アミアの暗黒魔法は不死鎧の機能とセットの魔法である。

アミア自身の感覚を野生動物に近付け、

かつ、不死鎧リグムの関節を軟化させ、

手足の先にカギ爪状の長い爪が伸びて出てくる。

神聖鎧には無い、不死鎧のみの力だ。


『硬化、ブレス耐性』


リンリは前のオーガ戦でも使った硬化の魔法と、

ヒュドラの吐くブレスのダメージを減少させる、

ブレス耐性の魔法を唱える。

硬化はスピードを減少させるが、

速度より防御力を取った選択である。


『行くよ』


アミアは全速力でリグムを走らせる。

デュエナも魔法の影響で速度が落ちつつも全速力でそれに続く。

ヒュドラとオークは全力で戦いを始めていた。

といってもヒュドラがブレスと噛みつきでオークを蹂躙しているだけではあるが。

オークの方も数の有利でひっきりなしにヒュドラの頭を攻撃するが、

オークの武器や突進では大したダメージにもならず、

即座に反撃されてしまう。

ヒュドラは8本の首を器用にぶつからないように、

オークを分担して攻撃していた。


(あいつだな)


アミアはヒュドラに対して左斜め前の位置に行き、

一番左でオークを咥えている首に狙いを定める。


(ダークジャベリン)


心の中で呪文を詠唱し、

リグムの肩から漆黒のエネルギーの槍が猛スピードでヒュドラの目を狙う。

魔法に気付いたヒュドラが瞬間目をつむった為、

瞼を傷付ける程度に終わったが、

ヒュドラの怒りがリグムに向いた事で、狙いは成功している。


そのままリグムはヒュドラの方に近付く。

近付いてきた対象に対してヒュドラが取ったのは首を動かしての噛みつき攻撃だ。

ヒュドラの頭はそれだけでリグムの上半身ぐらいの大きさであり、

まともに噛みつかれたらそれでおしまいだ。

大きく口を開けて迫ってくる首に対し、

リグムはそのまま相手に突っ込む。

衝突するかと思った瞬間、リグムは跳躍し、

そのままヒュドラの首の上に着地する。

リグムが手足のカギ爪を首に刺して乗っかると、

ヒュドラの首が重みで沈む。


『今だっ!』


アミアの指示が飛び、

横まで駆けつけていたデュエナはハルバードを大きく振りかぶる。

噛みつこうと勢いを付けていたヒュドラの首は即座に動けない。


『いけー!』


気合を入れてハルバードを頭近くの首に振り下ろす。

分厚い刃はヒュドラの首に食い込み、

骨を断ち、そのまま大地まで刺さる。

頭は転がり落ち、首はしばらくのたうったが、

やがておとなしくなった。


『1本目、よくやった!』


アミアは喜びの声を上げつつも、

ヒュドラが新たな2体の獲物を優先排除するべき対象にしただろうと警戒する。

予想通り、2本の鎌首がオークから2体の鎧を目標に変更し、

攻撃の準備をする。


『ブレスだ、

なるべく距離を空けろ!』


口先の炎を見つけ、

アミアが指示を飛ばす。

アミアもリグムをヒュドラの身体の方に走らせる。


そして2体の首の頭から炎と氷のブレスが飛び出す。

炎は距離をとっていたデュエナの方を狙って伸びていく。

デュエナはある程度距離をとってから、弧を描くように回避し、

魔法の効果もあり、ブレスによるダメージはほぼない。


一方氷のブレスに狙われたリグムだが、

あえてヒュドラの身体の方に移動する。

ヒュドラは首を内側に曲げにくく、また自分を攻撃したくないので、

ブレスを途中で止める事になり、リグムにダメージは負わせられなかった。


遠くの敵より懐の邪魔な存在を優先するのは当然のようで、

ブレスを止めた頭がリグムに噛みつく準備をする。

上から押しつぶすように噛みつこうと突っ込んできたが、

リグムは横に飛びのいて回避、地面に激突した首に飛び乗って、

首の上を走り始める。

構造的に自分の首の上の敵は攻撃し辛く、別の頭が狙う形になる。

炎のブレスを吐いていた頭が向きを変え、首の上のリグムを狙う。

リグムは今度は攻撃される瞬間に首から飛び降り、

空振りした首は虚空を斬ってそのまま直進する。


『左に進んでる首を狙え!』


アミアは即座に指示を飛ばす。

リグムの戦いを見ていたリンリは指示に従って、

左に伸びていく首にハルバードを構えて突き進む。


『たあああっ』


今度は宙に浮いてる首に対してデュエナがハルバードを振り下ろす。

が、首がまだ動いてる状態だった為、

勢いが足らず、ハルバードは首の骨で止まってしまう。


『すぐに抜け!』


アミアの指示が出るが、振り下ろす勢いだった為、

すぐに体勢を変更出来ない。

首にダメージを感じたヒュドラが、思いっきり首を振り回す。

デュエナはハルバードごと首にくっついた形になり、

ヒュドラに振り回され、思いっきり吹き飛ぶ。

デュエナは地面に激突し、転倒した。


『攻撃が来る、

すぐに立ち上がって退避だ!』


アミアの念話は聞こえているが、

地面に激突した衝撃がフィードバックされ、即座に反応出来ない。

目の前に猛スピードで接近するヒュドラの頭が見える。


(また駄目なのかな)


そんな考えが脳裏に浮かんだが、それは即座に払拭された。

リグムの飛び蹴りがヒュドラの頭に直撃し、

ヒュドラの頭はデュエナの横を進んでいく。


『守るって言ったろ。

だが、作戦中だ、

横の首を叩っ斬るぞ』


アミアの声でデュエナは体勢を立て直す。


(そうだ、一人じゃないんだ!)


ハルバードを構えると勢いを付けて横の首に叩き込む。

今度はヒュドラの首が伸び切ったところだったので、

綺麗に両断出来た。


『2本目、やりました』

『よし、次だ』


半分切れかかったヒュドラの首がすでに近くまで迫ってきていた。


===========================================================================


(鎧ってやつは凄いと思ったが、

ありゃ化け物じゃねーか)


ヒュドラのテリトリーギリギリの草むらで様子を見ていたテルテは

戦いぶりを見て驚いていた。

1撃で首を落とす神聖鎧も凄いが、

それよりヒュドラの攻撃を避け、

首の上を走る不死鎧は想像出来る動きを超えていた。


(そうだよな、あれはうちらとは違う人種だ。

人を殺す事に躊躇わず、

巨大な化け物も駆逐する、

悪魔のような存在。

同じ人間だと考えちゃいけないんだ・・・)


テルテ達掃除屋や一般人だって争いはするし、

何かのきっかけで他人を殺してしまう事はある。

が、進んで殺し合いをするわけじゃない。

一方鎧は殺し合う為の道具で、

中に乗る少女もまた、道具のようなもの。

人間と同じカテゴリーには入らないのだ。


(わかっちゃいるんだけどね)


ただテルテも直接彼女たちと会い、

話した事で、その考えが変わってきている事を感じていた。


(オークの数も減ってきたしそろそろかな。

合図があったらすぐに動けるようにしておくか)


テルテは立ち上がり、指定の位置へ移動する。

ここからうまくいくかは運次第な気もするが、

彼女達なら出来るのでは、と期待もしていた。


===========================================================================


(残り5本か。

想定内だがやっぱりキツイな)


アミアは協力して3本目の半分切断された頭を落とした後、

オークの残りが少ないのを見て思った。

テルテに合図を送る前にあと一本は落としておきたいところだ。

ヒュドラの関心も徐々に数の多いオークより

実際に首を落としている2体の鎧に変わってきている。

オークの相手をする首が2本になり、

他の3本は鎧を目標に変えていた。


『次のブレスは毒だ。

鎧には効かないからそのままで耐えろ』


3本のうちの一本が毒の息を吹き出す。

どちらの鎧も毒には強く、中の操縦者に影響はない。

アミアはブレスに逆らって吐いている頭にリグムで突撃をする。

獲物を狙っていた1本の首が近付くリグムに噛みつこうと横から猛スピードで迫る。

リグムは跳躍してその首に飛び乗る。


『あたしが乗った首を落とせ!』


アミアの声を待たずリンリは意図を汲んで走り出していた。

今度は首の動きが一旦止まるのを待ってから叩き斬る。

勢いを乗せたハルバードは見事にヒュドラの首を切断していた。

様子を見ていた3本目の首がハルバードを振り下ろしたデュエナに目掛けて突進する。

しかし、それをさせまいとリグムは魔法の砲撃で頭を横から殴りつけ、軌道を反らす。


『第2フェーズに入る』


頭が4つに減り、オークもあらかたいなくなったのでアミアは宣言した。


『了解です』


ハルバードを引き抜いたデュエナは念話を聞いて場所を移動する。

リグムもそれに続き、ヒュドラもオークが片付いた事で、

2機を追って移動を開始した。


移動した場所はヒュドラのテリトリーのオークが侵入したのと逆側の端。

ヒュドラの移動速度は想像以上で、

逃げる事は出来ず、追い付かれる。

頭3本に対して2体なら何とか出来たが、

4本、1機に対して2本では誰かがやられるのは明白である。

すでに頭の目標は決まったようで、

左の2本がリグム、右の2本がデュエナへと狙いを定めている。


『テルテに合図する』


ヒュドラの攻撃が始まる直前、

リグムの肩から魔法の閃光弾が天井に向けて放たれる。


『リンリ準備を』


『はい』


「パーーーンッ!!」


そしてテルテが準備した仕掛けが炸裂する。

ヒュドラのテリトリーギリギリの位置でその爆音は起こり、

そこから煙がモクモクと立ち上る。

ヒュドラの首の一つはその変化を無視出来ず、

目線をそちらに向け状況を確認する。


『行くぞ』


『はい』


リグムを先頭にデュエナがぴったりと後ろに付いてヒュドラに向かって走り出す。

頭の一つがそれに対して反応して正面から攻撃を繰り出す。


『今だ』


タイミングを合わせ、リグムは跳躍し、

デュエナは横にずれてハルバードを頭の正面に薙ぐ。

口を開けたところにハルバードは食い込み、

そのまま斜め上に勢いに任せてヒュドラの頭をスライスした。

煙を見ていた頭を除いて2体は鎧に注目していたので、

リグムとデュエナに対して、1本ずつ襲い掛かる。


空中にジャンプしたリグムに対し、

そのまま食らいつこうと頭が突進する。

噛みつかれるか、というタイミングでリグムの姿が消えて無くなる。

実際には消えたのではなく、魔法での急慣性をかけ、地面に急降下したのだ。


一方ハルバードを振りぬいたデュエナにも一本の首が噛みつきをかける。

しかし、噛みつく前にリンリは神聖防壁ホーリーオーラの魔法を唱え終わる。

噛みついた瞬間、ヒュドラの顎が物凄い力で押し返される。

神聖防壁は1回だけ敵の物理攻撃を完全防御するのだ。


攻撃を外した2本の首は怒り狂い、

煙を見ていた3本目の首も含めて攻撃に転じる。

今度は3本でまず鬱陶しいリグムを潰そうと動く。


「パーーーンッ!!」


そのタイミングで2発目の仕掛けが1発目と少し離れた位置で発生する。

攻撃態勢の3本の首だが、どうしてもそれを無視する事が出来ず、

1本がそちらを振り向く。


『最後の仕上げだ!』


『はい』


残る2本の首の一本が上空から雷のブレスをリグムに向ける。

リグムは素早く移動し、ダメージを最低限に回避する。

そこを狙ってもう一本の首が上から狙いを定めて噛みつこうとする。


(地中潜行)


アミアは地中に潜る暗黒魔法を唱える。

頭がリグムを捕らえる前にリグムは地中へと消えてしまう。

目標を逃した頭に対して、デュエナは突進し、

脳天をハルバードで叩き斬る。

頭頂から顎にかけてハルバードは食い込み、その頭も絶命する。


ヒュドラはもうなりふり構わず2本の頭を振り回し、

打撃を与えようと暴れだす。


『あとは頼んだぞ』


『はい』


リグムは地上に戻ると、頭に対して距離をとって、

回避に専念する。

ヒュドラはもう目標もろくに見ない状態で頭を振り回すだけなので、

リグムも何とか回避が行え、デュエナの動きには気付かない。


デュエナは首の攻撃範囲外をぐるっと回り、

ヒュドラの背中まで移動する。


『トドメです』


攻撃力増強の魔法をかけた後、

ハルバードはヒュドラの2本の首の根元を狙って振り下ろされる。

1回で1本の首が落ち、その動きに気付いて頭がデュエナを狙ってくる前に、

もう1本の首が落とされ、ヒュドラはついに動かなくなった。

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