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悪姫恋聖  作者: ねじるとやみ
第1部 出会い
13/82

13.隠れ家

テルテの家への道中は順調だった。

テルテの服装は霊体の妖魔を寄せ付けず、

鎧は両者とも霊体も小型の妖魔も軽く追い払える為、

下層にいた時よりはずっと楽な移動でテルテの家に辿り着いた。


「着いたよ」


テルテが案内した場所は人里離れた森の中の、

どう見ても廃墟としか思えない建物だった。


『ここが家なの?』


リンリが念話でアミアに話しかける。


『屋根も朽ちてるし、

人が住めるとは思えないな・・・』


「ああ、これは偽装というか、

見られてもいいところ。

そのまま着いてきて」


アミア達の反応に気付いてか、テルテが案内を始める。

テルテは建物をそのまま通り過ぎると、

近くの石が積まれた塀のような場所に移動した。


「せーのっ!」


テルテが塀の横の縄を勢いよく引っ張る。

すると今まで地面だと思っていたところがスライドし、

石造りの階段が現れた。


「鎧のままだと入れないな。

鎧はさっきの建物の中に布が置いてある部屋があるから、

そこに隠して来て」


テルテの家はこの階段の下なのだろう。

アミア達はテルテの言う通り、一旦鎧を隠し、戻ってきた。


「じゃあ着いてきて」


テルテはランプに火を点けて、階段を下り始める。

二人も続いて階段を降りていき、

途中でテルテが何かのスイッチを押すと、

先ほどの入り口が閉まっていった。


「元々はさっきの建物の地下倉庫だったんだよね。

誰も使ってないのを発見したから、

ここを家にしたんだ」


テルテは家の経緯を簡単に話す。

階段を最後まで降りきるとそこは廊下になっており、

左右と正面に一つずつ扉があった。

テルテは右の扉を開き中に入る。

テルテが指を鳴らすと天井の透き通った石で出来た照明に明りが灯る。


「魔法の照明?

これって貴重な物なんだろ?」


アミアも魔法の照明は持っていたが、

教団にいた時手に入れるにはそれなりの金額を払っていた。


「安く買えるコネがあってね。

ここは換気があまり良くないから、

火をなるべく使いたくないんだ」


「思ったより整った部屋だね」


リンリが素直に述べる。

中央には木のテーブルと椅子が一つ。

横に小さなソファーがあり、後は食器が入っている棚があるぐらいだ。


「ここはくつろげるように物を置かないようにしてるからね。

じゃあ服とか持ってくるから適当にくつろいでて」


そう言ってテルテは部屋を出ていく。


「テルテちゃんってあんな感じだから、

もっと金目の物がいっぱいあるとか、

妖魔の身体が並んでるとか、

そんな部屋かと思ったよ」


リンリはソファーに腰を下ろして言う。


「そうだな。

あたしの部屋とは大違いだ」


アミアは一通り部屋を回って見ている。


「アミアちゃんの部屋ってどんなだったの?

私の部屋はほんと何もなかったよ。

それでも鏡とかアクセサリーとか、

ちょっとは集めてたんだけどね」


「あたしは貰い物がとにかく多くて、

最終的には二部屋使ってたけど、

それでも片付ける気も無くて雑然としてた。

お金だけはたくさんあったから、

最初は贅沢してみたけど、それもあたしには合わなかった」


アミアは少しだけ教団にいた時を思い出す。

色々な思惑と裏切り、

戦闘以外で死んだ奴の方が多いと感じるぐらい殺伐とした記憶だった。


「服と下着持ってきたぞ。

うちのお古だけど、

洗ってあるから」


そう言いながらテルテが入ってくる。

テルテ自身も今までの服から青色のワンピースに着替えていた。

テルテは抱えてる服を机の上に広げる。


「まずはリンリはこれを付けて」


上下の下着を渡され、リンリは部屋の隅の方へ移動する。


「さて、アミアはどれが似合うかなあ」


テルテはニヤニヤして服とアミアを交互に見る。


「どれでもいいけど動きやすい奴にしてくれ」


アミア自身は服に興味が無さそうだ。


「じゃあちょっとこっち来て」


テルテはアミアを引き寄せると服をアミアに重ねて、

選びながら唸り始める。


「私も混ぜて」


すると下着を付けたリンリが戻ってくる。


「リンリもローブのままより他の服がいいだろ。

この中から気に入ったのを選んで」


テルテはアミアに着せようとしている服とは別の山をリンリに渡す。

結局テルテのアミアに対する着せ替えとリンリの服選びで小一時間かかり、

アミアはうんざりしていた。


「まあこんなもんかな」


テルテはようやく納得したようだ。

アミアは薄い緑色の上着と黄色い短いスカートを履かされていた。

スカートを途中まで拒否していたが、

テルテに加えてリンリもスカートの方がいいと言ってきて、

結局スカートを履く羽目になったのだった。

リンリは茶色い毛糸の上着にベージュの長いスカートを履いていた。

靴もサイズはぴったりとはいかないが、

とりあえず移動に問題ない物が準備出来た。


「うん、可愛い」


テルテのコーデにリンリも頷く。

アミア本人だけがどうでもいいと思っていた。


「じゃあ、今日は暗くなったし、

紹介するって言ってたやつのところに行くのは明日にしよう。

うちはご飯を作るから、その間に運んできた荷物を奥の部屋に移しといて」


そう言うとテルテは部屋を出て地上へ移動する。

二人も鎧に積んでいた財宝や素材を運ぶ為に地上に戻る。

日はすっかり落ち、辺りは真っ暗だ。

テルテからランプを借りて鎧のラックから持てる範囲の荷物を持って移動する。

量的に数回繰り返す必要がありそうだ。


転ばないように慎重に階段を降り、奥の部屋へと進む。


「えっ?」


扉を開けたアミアは変な声を上げてしまう。

さっきの部屋が普通だったので油断していたからだ。

奥の部屋は途轍も無い臭気を放ち、

そこかしこに妖魔の骨が転がっている。

隅にはよく分からない皮や角が折り重なって積まれ、

壁際の金属の台の上にのこぎりと肉片が置かれていた。


「うわー、こっちは凄いねえ」


リンリは感心したように部屋を見回す。

アミアは普段は鎧に乗った上で妖魔を斬っていたので、

生身で見る時とこんなにギャップがあるのかと思った。

そもそも妖魔の死体は死体でしかなく、金銭的な価値を感じない。


「やっぱり普通じゃないな、テルテも・・・」


「でも鎧も無しにこれだけ集めたんだから、

凄いんじゃないかなあ。

何に価値があるか分からないけど」


リンリは持っていた荷物を置いてから

棚に置いてある瓶に入ったよく分からない臓器のようなものを見ている。


「ほら、飯の前に荷物を運んでおかないと」


アミアはあまりこの部屋にいたいと思わず、

リンリを引っ張って荷物運びを再開する。

教団にいた頃は掃除屋を見下していた。

確かに妖魔の素材とかで材料が取れなくなった日用品を作るのは凄いと思ったが、

アミアはお金を使って、なるべく妖魔の素材を使っていない高級品を買っていた。

テルテには悪いがその考えはアミアにはまだ抜けそうになかった。


「飯が出来たぞ」


荷物運びが終わって、

気分転換に外の空気を吸っていると外で料理を作っていたテルテが鍋を持って話しかけてきた。

リビングに戻り、皿とかを用意して遅い夕飯を食べる。


「まあ保存しておいた獣肉やキノコとかのスープだけど、

味は自信あるぞ」


妖魔の肉ではないと聞いて少しホッとしてからアミアはスープを口に運ぶ。

前より薄味ですっきりして酸味があり、

なかなかの味だった。


「美味しい!

テルテちゃんは自給自足でここで暮らしてるんだよね。

凄いね」


「まあ香辛料とか穀物とかは買いに行ってるけど、

ここら辺は人が来ないし、妖魔も少ないから、

鹿とかキノコとか気軽に取れるいいポイントなんだ。

中型や大型の妖魔が住むようになったら移動しないといけないけどね」


テルテはちょっと自慢気に言う。

自分とさほど年齢が違わないのに一人で生きていけるテルテは純粋に尊敬出来るとアミアは思った。

そして、自分は戦う事しか出来ないな、とも。


「なんで一人で暮らそうと思ったんだ?

いや、言いにくい事なら言わなくていいけど」


「うーん。

まあ、人間嫌いなのかな、うちは。

元々住んでた村は妖魔に襲われて、

その時両親も逃げ遅れて死んだんだ。

うちの家は元々猟師だったけど、

妖魔が出るようになってからは命掛けだったし、

どのみち飢え死んでたかもとは思うよ。

で、町に行っても仕事は無くて、

たまたま知り合いが掃除屋やってたから、

生きる為に掃除屋になった。

でも、人間関係がうまく行かなくてさ、

貰えるお金も割りに合わなくて、

胴元と大喧嘩して追放同然に町を出た。

その町も今は妖魔に襲われて無くなってるけどね。

うちはしばらくしてこの家を見つけて、

飢えをしのぐ程度には生きられてたけど、

その頃は色々どうでもよくなってたんだ」


テルテは一呼吸置く。


「それでも生きる為には食べ物を探しに外に出る必要があった。

妖魔に出会ったら逃げるしかなかったんだけど、

ある日遠くから妖魔を見てると行動パターンがあるのに気付いたんだ。

奴らが絶対に行かない場所には特定の草があったり、

食事で頻繁に食べるキノコがあったりとか。

好物や嫌いなものが分かれれば、昔教えてもらった罠を使って、

妖魔を捕まえられるようになった。

妖魔の素材を売るようになって、

いかに妖魔を捕まえるか考えるのを楽しく感じてきた。

そこでうちの目標は妖魔が持ってる財宝を狙う、

トレジャーハンターになったって訳」


こんな時代でも自分の目標を持って生きている。

それはとても羨ましいとアミアは思った。


「まあそんな話は置いといて、

食事が冷めないうちに食べちゃおうぜ」


テルテは喋り過ぎたのか、

少し恥ずかしそうに誤魔化した。



「じゃあ、うちはソファーで寝るから、

二人はベッドを使っていいよ」


食事が終わり、片付けも完了するとテルテが言った。


「え、悪いよ。

ここテルテちゃんのうちだし」


「と言ったってソファーは二人で寝るには狭いし、

ベッドなら二人で寝れる。

たまには床じゃないところで寝たいだろ。

それともどっちかがうちと一緒にベッドで寝るかい?」


テルテがからかい気味に言う。


「そこまで言うならご好意に甘えさせてもらうよ。

それに、ヒュドラの件でまだあたしが雇い主だったりするしね」


アミアも冗談交じりに反撃する。


「そうだね、じゃあ甘えちゃおっか」


リンリも同意しアミアの手を引いて部屋を出ていった。


「なんかいいな・・・」


一人になったテルテはぼそりとこぼした。


「こっちの部屋も片付いてるね」


リビングの正面の部屋が寝室になっており、

ここも倉庫と違ってベッドとタンスと本棚が並んでるぐらいで、片付いていた。

倉庫があの有様だからこそ、他の2部屋はその反動で物を置かないのかもしれない。


「わー、教団にいた頃のベッドより立派だ」


元々屋敷にあった物と思われる、古くはなっているが、

しっかりしたいいベッドだった。


「じゃあ寝るか」


アミアは服を脱いで畳んで下着姿になる。

リンリも同じようにして下着姿でベッドに腰掛ける。

今までリンリはローブ一枚だったので、

下着姿を見ると思っていたより胸もお尻も大きく、

そこはかとない色気を感じる。

アミアは急に恥ずかしくなって急いでベッドの毛布に潜り込む。


「二人で入っても余裕あるね」


リンリも毛布に入ってきて横に寝る。

そのまましばらく沈黙が続いた。


「私たち地上に戻ってこれたんだよね」


リンリがつぶやく。


「そうだな。

下層に落ちる前の戦いがずっと昔みたいだ」


「あの時は悪姫に殺されるって必死だったっけ。

それが今じゃ横に寝てるんだもん。

不思議だよね」


リンリはアミアを見てほほ笑む。


「聖教団は敵だったからな。

あの時のあたしは命令を遂行する為のただの兵器だった。

でも、今はあの頃に戻りたいとは思わない。

よく分からないけどそんな気持ちなんだ」


「そうだよね。

アミアちゃんと同じ気持ちかは分からないけど、

私も教団で戦ってた頃に戻りたいとは思わないな。

あそこにはアミアちゃんもいないし」


アミアはリンリの言葉が嬉しかった。

リンリは兵器としての自分じゃなくて、

一人の人間としての自分を必要としてくれていると思えたから。


「あたしもリンリが傍にいてくれると嬉しいかな」


アミアは照れくさそうに言う。


「ふふっ大好き!」


毛布の中でリンリが抱き付いてくる。

アミアはされるがままに可愛がられ、

やがて抱き合ったまま眠りに落ちていった。

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