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素人おっさん、第二の人生でサッカーライフを満喫する 作者:ハーーナ殿下@青森県弘前市
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第56話:さよならリ、ベリーロ弘前・・・

 ヒョウマ君と真剣勝負をした日。
 オレはその日の午後に、横浜マリナーズに断りの返事をした。
 スカウトマンはかなり残念そうにしていた。

 オレの決断を、コーチと両親は暖かく了承してくれた。



 次の日。

「よし、それでは試合を始めるぞ! 両チーム、整列しろ」
「「「はい、コーチ!」」」

 リベリーロ弘前ひろさきの選手が、練習場に集合している。
 4年生から6年生までの選手コースの全員が集結していた。

「これから引退試合を始める。両チーム、礼!」
「「「よろしくお願いします!」」」

 今日はリベリーロ弘前の1月の最大の儀式、“6年生引退試合”の日で。
 つまりオレやヒョウマ君たちの引退の日だ。

 練習場には6年生の親たちが観戦に来ていた。息子たちの最後の花道を見に来たのだ。

「よーし、お前ら。下級生が相手だからといって、遠慮するなよー」
「「「はい、コーチ!」」」

 オレたち6年生チームは、笑顔でコーチに答える。

 ちなみにリベリーロ弘前の引退試合は毎年、
《6年生チーム(引退する側)》VS《4・5年生チーム(送り出す側)》
 の対決だった。

 昨年まではオレは送り出す側だったが、今年が逆の立場になる。

「お兄ちゃん。今日ばかりは、葵も遠慮しないからね!」

 5年生の妹のあおいは、送り出す敵チームである。
 妹以外にも下級生チームは、かなり手強い選手が揃っていた。

「では、引退試合……はじめ!」

 コーチの掛け声で、試合が始まる。
 いよいよ小学生時代での最後の試合がスタートしたのだ。

「よし、いくぞ!」
「今日こそ6年を倒すぞ!」

 下級生チームは気合が入っていた。
 開始早々、6年生チームのゴールに襲いかかってくる。
 敵ながら見事なパスワークだ。

「はん、甘いんだよ!」
「だな!」

 だが6年の例の守備2人組に、ボールを奪われてしまう。
 本番さながらの激しい守備チャージであった。

「ちょ⁉ 先輩たち大人げないぞ!」
「そうだ、そうだ!」

 下級生チームの控えから、ヤジが飛んできた。
 何しろ小学生年代での1才差は、かなりの体格差がある。しかも例年の引退試合は、半分くらいは遊び感覚だった。

 下級生からヤジが飛んでくるのも、仕方がないであろう。

「ばーか。海外にいけば、オレたち以上の同年代もいるんだぞ!」
「甘えるな!」

 フランスでの世界大会を経験していた彼らは、後輩たちに物申す。
 少し厳しい言葉であるが、これは後輩に向けての激励でもあった。

 なんかキャプテンのオレよりも、何か彼らの方が立派だぞ。
 というかガチな雰囲気である。

「よし、コータ。お前も可愛い後輩たちに、現実を見せてやれ!」
「えっ、ボクも?」

 そんな仲間からボールが回ってきた。
 なるほど、オレも後輩たちに世間の厳しさを教えたらいいのね。

 すぐさまオレは全力でドリブルシュートを放つ。
 少し大人げないけど、オレからの激励のシュートである。

「コータさんまで、マジかよ……」
「引退試合なのに、シャレにならいっすよ……」

 しまった、やり過ぎてしまった。

 オレのシュートで、引退試合の空気が一変する。
 本番さながらのピリピリした雰囲気になったのだ。

「みんな、私たちの力を、お兄ちゃんたちに見せるのよ!」
「「「おお!」」」

 葵が中心になりゲームが再開する。

 下級生チームも本気を出してきた。
 先ほどのよりも激しい攻撃をしかけてくる。

 その勢いの前に、6年チームは失点をしてしまう。

「やるな、みんな! よし、ボクたちも頑張ろう!」
「「「おお!」」」

 オレたち6年生チームも、更に気合いを入れる。
 引退試合とはいえ、後輩たちに負ける訳にいかない。

 6年生チームも更に本気を出して、攻め込んでいく。

「守備! コータさんを止めろ!」
「澤村さんのマークを外すな!」

 おっ。こちらの攻撃が、止められてしまったぞ。

 敵ながら下級生チームの守備陣は、見事な連携だった。
 何しろオレとヒョウマ君のコンビですら、簡単には突破できなかったのだ。

 後輩たちはいつの間に、こんなに成長していたのであろう?

 そう、驚くと同時に、オレは内心では安心していた。
 これなら6年生が抜けた後も、大丈夫であろう。

 4月からの新生リベリーロ弘前ひろさきは、間違いなく全国でも有数のチームになるであろう。



 その後も互いに本気を出した、引退試合が続いていく。
 激しい一進一退の攻防が続く。

 引退試合なので互いに選手を入れ替えて、全員が試合に出場していた。

 そんな試合をしながら、6年生は後輩たちに伝えていた。
 リベリーロ弘前ひろさきの魂を、バトンタッチしていた。
 それは言葉ではなく、プレイの中で寡黙に伝えていた。

 そして後輩たちも応えていく。
 先輩たちからチームの魂と想いを受け継いでいく。
 6年生の真っ正面から立ち向かっていくことで、応えていくのであった。

 これは言葉ではなく、プレイで通じる以心伝心だった。

(ああ……いいな。こういうの、いいな……)

 オレは試合をしながら、そんな感動的な光景に感動していた。

 Jクラブと違い、このチームは決してエリート集団ではない。
 入会しているのも地元の普通の小学生だけ。
 素質だけなら、決して優れているとはいえない。

 でも、“サッカーを好き”という気持ちだけは、どこのチームにも負けていなかった。

 なにしろリベリーロ弘前ひろさきのみんなは、毎日朝6時から自主練をしているのだ。
 これはコーチや先輩に命令されたからではない。
『サッカーが上手くなりたい!』という気持ちで、何時の間にか自主的に集まっていたのだ。

 更に試合の時の戦術とフォーメーションは、自分たち決めていた。
 練習の時はいつも皆で話し合いして、作戦を考えていた。

 時には大きいなTVのあるヒョウマ君家に集って、皆でサッカーの勉強会もしていた。
 そんな時もゲームで遊ぶ人は誰もいなかった。

“サッカーを好き!”と気持ちで、オレたちは結ばれていたのだ。

(本当に、このチームに入会して、オレは幸せだったな……)

 これまでを振り返り、改めて自分の幸せをかみしめる。

 小学生一年生からの六年間が、走馬灯のように思い出される。
 苦しい練習もあったけど、本当に楽しい六年間だった。



「コーチ、助けてください! 6年生チームが強すぎます!」
「そうです。戦力差がありすぎます!」

 いつの間にか引退試合は点差がついていた。
 6年生チームが勝っていたのだ。

 いけない。ついオレも本気を出し過ぎていた。

「よーし……それなら、6年のお父さん、お母さん方も、引退試合に参加してくだい! 最後は自分の子どもたちを倒しましょう!」

 コーチは観客席にいた親御さんに声をかける。
 ここから毎年恒例の、全員参加のバトルロワイヤル方式になる。

 ゴール数とボールも3個に増えて、何が何だか分からない混沌とした状況だった。

「よし! ヒョウマ君、みんな頑張っていくよ!」
「ふん、そうだな、コータ」
「オレたち6年の力を見せてやろうぜ!」

 敵の親チームが増えても、オレたちの士気は高い。
 引退試合がバトルロワイヤル方式に変化するのは、毎年参加しているから予測はしていた。

 6年チームは事前に考えていた、“対バトルロワイヤル方式にフォーメーション”に変更していく。
 このフォーメーションなら、相手が2チームいても負ける気がしない。

 オレはこう見えて負けず嫌い。引退試合も勝たせてもらうよ。

「どれ、息子の引退試合か。オレも最後くらいは参加しようか」
「えっ……ヒョウマ君の……お父さん?」

 最後にまさかの飛び入り参加者がいた。
 元Jリーガー澤村ナオト。

 日本代表の候補にも、名前が挙がったことのある凄い人が、親御さんチームに参加したのだ。

「さあ、いくぞ。ヒョウマ、野呂コータ!」
「ちょっと、ヒョウマ君のお父さん⁉ うわー!」

 バトルロワイヤルが始まる。
 澤村ナオトがドリブルで仕掛けてきた。
 オレとヒョウマ君は一瞬で、突破されてしまう。

 信じられないドリブルのキレであった。
 現役を引退して間もないとはいえ、今まで見たことがない迫力だった。

「コータ、気を付けろ。オレ様の父親は、今でもトレーニングを欠かしていない」
「そんな……」

 ヒョウマ君の話では、お父さんは今でも全盛期と同じ体力があるという。
 ベンチャー企業を経営しながら、ストイックに身体を鍛えているのだ。

 よく見ると澤村ナオトは一人だけ、サツカースパイクを履いている。
 一体いつの間に用意していたのであろうか。

 真の大人げない人というか、サッカーに関しては手を抜けない性格なのであろう。

「でも、みんな頑張ろう! 6年生チームの意地を見せてやろう!」
「そうだな、コータ!」
「オレたちの最後の力を見せつけてやろうぜ!」

 そんな逆境があっても、逆にオレたちは燃え上っていた。
 こうなったら敵チームの両方を倒してやるんだ。

「みんな、葵たちも負けないよ!」
「「おお! 今日こそ引導を渡すぞ」」

 一方で葵の率いる後輩チームも、燃え上っていた。
 先輩に引導を渡すために、本気で挑んできくる。

「よし、全員攻撃だ!」
「なによ!? こっちも本気をだすぞ!」
「よーし、ボールの数を増やすぞー」

 こうなったら引退試合は大混乱である。
 3チームでボールが4個で、大人と子供が合わせて40人位でドタバタ騒ぎである。

 もはや何でもアリの状態。
 最後の方は、もはやサッカーの試合ですらなくなっていた。
 仲間同士ですらボールを奪い合って、全員でボールをシュートしていた。

 とても全国大会を3連覇したチームの、引退試合とは思えない泥仕合だった。

 でも本当に楽しい試合だった。

 全員が腹を抱えて笑って、皆が全力で遊んでいた。
 誰もが純粋にサッカーを楽しんでいた。

 本当に心から楽しんだ、引退試合であった。



「よし、6年生、整列!」
「「「はい!」」」

 そんな夢のように楽しい引退試合も、あっとう間に終わる。
 試合後はコーチの一声で、オレたち6年生は練習場に整列する。

「中学に行っても、頑張れ!」
「はい! 今まで6年間ありがとうございました!」

 6年生に新品ボールが、コーチから手渡されていく。
 これは毎年恒例の引退試合の儀式である。

 コーチは数年間の思い出と共に、一人ずつ丁寧にボールを手渡していく。

「オレ、中学に行っても、サッカーを続けます!」
「今までありがとうございました!」
「コーチに、たくさん教えてもらいました!」

 同期の6年生たちは、コーチに向かって、自分の想いを伝えていく。
 いつもは見ていたオレも、ついに渡される側になったのだ。

「最後はコータか……」

 ついにオレの番になった。キャプテンである自分は最後の番だ。
 全員の注目がオレに集まる。

「コータに贈る言葉が、沢山ありすぎるな……とにかく、ひと言だと……『ありがと、コータ』」
「はい、コーチ……ボクも本当にありがとうございました」

 コーチから記念ボールを受け取る。
 オレは感極まって、上手くお礼が言えなかった。

 このコーチには、オレが2年生の時から世話になっている。
 当時から生意気だったオレに対して、コーチはいつも寛大だった。

 試合で勝手に作戦変更をしても、嫌な顔をしたことはなかった。
 オレたち選手の自主性を何よりも尊重してくれて、真摯になってサポートしてくれた。

 今だから断言できる。
 このコーチがいなければ、オレたちは全国制覇を出来なかった。
 3連覇をすることも不可能だった。

 それほどまでに最高のコーチだったのだ。

「みんな。引退した後も、いつでも遊びに来い。お土産はいらない。中学、高校生になって、成長した姿を見せるだけでいいぞ!」
「「「はい、コーチ……今までありがとうございました!」」」

 コーチから最後の激励をもらって、オレたち6年生は一斉に礼をする。
 中には感極まって涙を流している者もいた。

 みんな、コーチとチームのことが大好きなのだ。
 自分の巣立ちを喜ぶと同時に、別れの寂しさで、青春の涙を流していたのだ。

 もちろんオレも涙を流していた。

 でも、それは温かく、心地よい涙であった。



 全ての儀式は?










少し短かったですが、
〝6年生後半&進路編”が無事に終わりました。

次からは、いよいよ〝中学生編”がスタートします。
というか、〝中学生ドイツ留学編”がスタートしちゃいます!

まさかの中学生で海外留学しちゃう流れに、ボクも驚いていました。

あとヒョウマ君も海外留学するみたいなので、ヨーロッパ同士だと再会もありそうですね。
成長した同士の再会は、今から楽しみです!






たくさん方に読んでいただき、本当にありがとうございます。

ここまでの評価や感想などありましたら、すごく嬉しいです。お気軽にどうぞです。

今後も頑張っていきます!
ツギクルバナー
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