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素人おっさん、第二の人生でサッカーライフを満喫する 作者:ハーーナ殿下@青森県弘前市
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第54話:進路

《1月》

 年が明けた。
 正月の何日かは、チーム練習はお休みである。

 チームメイトたちはお年玉を握りしめて、デパートに行っていた。
 欲しかったゲームやオモチャを買うためである。

 一方でオレは正月の一人で自主練していた。
 精神年齢が31歳なオレは、お年玉でオモチャを買う欲がないのだ。
 今後のためにお金は全額貯金しておく。



 そんな正月休みも終わる。
 大人たちは仕事が始まり、いつも通りに出かけていく。
 オレたち雪国の小学生は、もう少しだけ冬休み中であった。

「コータ君のお父さん、お母さん。はじめまして。わたくしは横浜マリナーズの者です」

 正月明けの、ある日。
 横浜マリナーズのスカウトマンがやってきた。
 今回はちゃんとアポイントを取ってからの、正式な訪問である。

 場所はリベリーロ弘前ひろさきの事務所。
 今回はここを借りて、交渉の話し合いをするのだ。

 こちらの参加者はオレと両親2人と、リベリーロ弘前ひろさきのコーチ4人。事務所のテーブルに向かい合って座る。

「……以上が当方の提示する条件です。こちらに書類と正式な契約書があります。あと当クラブのパンフレットも差し上げます」

 スカウトマンは全ての条件を、丁寧に説明してくる。
 前回の全国大会の後に、オレが聞いた話と同じ内容であった。

 条件の主な要点としては

①横浜での全寮制の生活費などは、クラブが全額負担する。
②日本最高峰の育成環境を約束する
③後のジュニアユース、ユース、トップチームの所属に関する権利は、横浜マリナーズは優先権がある。

 こんな感じであった。

 特に①の金銭的な条件は、かなり破格であった。
 聞いていた両親とコーチも驚いていた。

 コーチの話では、普通はこんな好条件はあり得ないという。
 それほどまでに横浜マリナーズの誠意は本気なのであろう。

 先日のフライング・スカウトも本気だったからこそ、アポ無しで突撃してきたのであろう。

 その辺の勢いは、前世でサラリーマンだったオレにも分かる。
 グレーゾーンを突破してこそ、営業マンは成績が出せるのだった。

「何か質問はありませんか?」
「なんでボクにこんな好条件を? ボクは今までどこにもスカウトされていませんでした?」

 質問タイムとなり、オレは訪ねてみる。
 自分はそれほど特筆した才能のある選手ではない。今までも注目されたことは一度もなかったのだ。

「実は我々、横浜マリナーズは3年前の全国大会の時から、貴方に注目していました。今回のスカウトはU-12の監督からの推薦になります」

 なるほど、そういうことか。

 横浜マリナーズU-12の監督の推薦があったのか。
 あの人の率いるチームとは、全国大会で毎年のように激闘を繰り広げていた。
 その時に印象に残ったのであろう。

「お返事は急がなくても大丈夫です。我々、横浜マリナーズはコータ君をお待ちしています」

 全ての説明が終わり、スカウトマンは立ち去っていく。今回の対応は、かなり紳士的なビジネスライクであった。

 事務所にはオレと両親、コーチの4人が残る。

「コーチ、ボクは……」
「私もチームも、コータを束縛するつもりはない。自分の道は自分で決めろ」

 コーチに相談すると、そんな返事がきた。
 その眼は真剣であり、いつもの明るい調子ではない。

“自分で考えて、判断して動け!”

 コーチの眼は、そう伝えてきた。
 この言葉はリベリーロ弘前ひろさきのチーム方針の一つであり、コーチのもっとうであった。

 一見して放任主義に聞こえるが、実践するのは難しい。

 でも、その教えのお蔭で、オレたちは強くなれた。
 自分で考えて、行動してきたからこそ、全国大会で3連覇できたのだ。

「お父さん、お母さん……」
「お母さんはサッカーの難しいことは分からない。でも、コータの選んだ道は、全力で応援するから、大丈夫よ!」
「そうだな、母さん。別の道を選んでも、父さんと母さんに任せておきなさい!」

 両親も返事も、そんな感じであった。
 暖かい微笑みと共に、オレのサポートを誓ってくれる。

「うん、分かった。1週間だけ、考えさせてください、コーチ」

 横浜マリナーズとの窓口であるコーチに、そう答える。

 1週間後には、オレたち6年生の引退試合がある。
 その前日までに、自分の考えをまとめておくことにした。

 これで、この日の話し合いは終了となる。



 それから数日が経つ。
 チーム練習も始まり、オレたちはサッカー漬けの毎日が始まっていた。

 1月からのチーム練習は、3・4・5年生が主体となる。
 オレたち6年生は公式大会がないでの、サポートに回る。
 簡単に言うとオレたち6年生は、後輩のための練習相手になるのだ。

 これによって6年が抜けた後も、チームの総合力を維持できる。
 また6年生も進路先の練習が始まる前に、体力を維持できるのだ。

「よーし、休憩だ」
「「「はい!」」」

 そんなチーム練習の休憩時間となる。
 オレは水分補給をしながら、身体を休めておく。

「おい。そういえばオレ、例の中学校のセレクションが受かったぞ!」
「まじか⁉ オレもあのクラブチームに合格したぞ!」
「いいなー。オレなんて返事待ちだぜー」

 休憩時間、他の6年生の会話が聞こえてくる。
 話題は今後の彼らの進路についてだ。

 このチームでは小学校を卒業する前の1、2月で、多くの者は進路が決まる。
 選択肢としては

A:県内のサッカー強豪中学校のセレクションを受ける
B:近所の中学校に通いながら、地元のサッカークラブに入会する

 こんな感じの2選択であった。

 オレの街にはJクラブチームは無いので、今のところ強豪中学校が一番で人気である。
 だが強豪サッカー部に入るために、セレクション試験があるのだ。

「みんな聞いてくれ。オレたち山多やまた中学校のサッカー部に、受かったぜ!」
「受かったぜ!」

 そんな6年生の中でも、大金星が2人いた。
 例の守備の2人である。

 山多中学校サッカー部といえば、全国制覇もしたことがある、県内随一の強豪校だ。
 Jクラブのユースチームとも互角に戦える、全国でも数少ない部だ。

 リベリーロ弘前ひろさきの歴史の中でも、山多中学校サッカー部に受かった先輩は、数人しかいない。

「あれ、そういえば澤村のやつは? 今日の練習は休みか?」
「噂ではJリーグのスカウトマンと、話をしているみたいだぜ……」
「マジか⁉ すげえな! さすが澤村だな!」

 そんな進路話の標的が、休んでいるヒョウマ君に向かう。

 その6年生の噂によると、今日はJリーグのスカウトマンと話をしているらしい。
 場所はヒョウマ君の家で、お父さんの澤村ナオトが一緒だという。

(凄い! さすがはヒョウマ君!)

 その噂を聞いて、オレも内心で驚く。
 この手の噂話にオレは鈍いので、初めて聞いたのだ。

(でも、ヒョウマ君の成績なら当たり前か……)

 ヒョウマ君は全国少年サッカー大会で3年連続の得点王である。
 また去年は12歳にしてU-15日本代表に選出されて、アジア大会で5得点も決めていた。

 極めつけは今年の“U-12ワールドカップ”で、チーム優勝を牽引したエースストライカーなのだ。

 はっきりと言って今の日本の6年生の中では、トップクラスの選手である。
 だからJリーグのスカウトマンも、放っておく訳がないのだ。

(じゃあ……ヒョウマ君はやっぱり、Jジュニアユースに進級するのかな……)

 ハッと、そのことに気がつく。

 この県内にJクラブチームはない。
 入団するためには、引っ越しする必要がある。
 つまりヒョウマ君とオレは、離れ離れになってしまうのだ。

「どうした、コータ? そんなに青い顔をして?」
「そういえば、コータは進路どうするの?」
「そうだよな? 噂も聞いていないよな?」

 いきなり進路話がオレに向いてきた。

「えっ、ボク? ボクは近所の中学校に行こうかな……でも、チームはどうしようかな……?」

「マジか? 相変わらず不思議なやつだな、コータ」
「そうだな。呑気というか、たいしたキャプテンだったな! はっはっは……」

 何とか話を誤魔化せた。

 オレが横浜マリナーズにスカウトを受けたことは、誰も知らない。
 特別すぎる条件なので、まだ内密にしておいたのである。

「よーし、休憩、終わり!」
「「「はい!」」」

 休憩時間も終わる。
 オレたちはチーム練習を再開するのであった。

(でも、本当にどうしよう……)

 練習しながら、オレの心は揺れていた。
 チームメイトたちの進路を聞いて、更に悩むのであった。



 こうして更に数日が経つ。
 横浜マリナーズに返事する期限、その前日の朝になっていた。

「どうしよう……」

 練習場でリフティングをしながら、オレはため息をつく。
 今は早朝の4時半、まだ薄暗い時間帯だ。

 実はオレは悩み過ぎて、目が覚めてしまったのだ。
 もちろん練習場には、まだ誰もいない。

 一人でリフティングしながら、悩んでいたのだ。

「本当に、どうしよう……」

 悩んでいるのは、進路の件。
 横浜マリナーズのスカウトは魅力であった。

 だが地元に残りたいという想いがあった。
 地元のサッカーチームを解散の危機から救いたい……という想いがあった。

 そんな自分の中での悩みが、ずっと交差していたのだ。

「どうすれば……いいんだ…………えっ?」

 一人でリフティングをしていた、その時である。

 いきなり一個のボールが、オレに向かって飛んできた。
 反射的に足でトラップして、受け止める。

 一体何が起きたというのだ?
 今はまだ薄暗い早朝の4時半。
 ポルターガイスト現象でも起きたというのか?

「ん? あれは……?」

 練習場にやってきた人影を見つめて、オレは言葉を失う。
 ボールを蹴ってきたのは、幽霊ではなかったのだ。

「ヒョウマ君?」

 ボールを蹴って来たのは、ヒョウマ君であった。
 オレと同じように、チームのユニフォームに着替えていた。

 でも、今日の朝練は6時からだ。
 こんな早朝にどうしたのだろうか?

 しかもヒョウマ君の顔はこわばっていた。
 真剣な表情で、怖いくらいのオーラを発している。

「コータ、オレ様と真剣勝負をしろ!」
「えっ?」
「いくぞ!」

 まさかのことであった。
 誰もいない早朝の練習場。

 本気のヒョウマ君と、オレは対決することになったのだ。
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