第50話:世界大会の後
“U-12ワールドカップ”の決勝戦が終わる。
その後はバタバタしたスケジュールだった。
表彰式はそのままスタジアムで行った。
オレたちリベリーロ弘前は一番高い台の上で、メダルとトロフィーを受けとることが出来た。
表彰式の後、チームは沢山のマスコミの取材を受けた。
外国のTVやサッカー雑誌やネットニュースなど、ビックリするぐらいのマスコミ囲まれる。
通訳は日本サッカー協会の人が担当してくれたので、何とかなった。
チームで取材を受けた後は、個人的にインタビューに移る。
特に受けていたのは、コーチと大会MVPのヒョウマ君、妹の葵の三人だった。
葵は大会に唯一の女性参加者で、優勝チームのレギュラーということでインタビューされた。
更に日本の女の子で可愛らしい外見なので、外国の取材陣に人気なのであろう。
◇
「ふう……また終わるのを待つか」
チームキャプテンとして取材が終わったオレは、一人で待機していた。
ちなみに個人的な取材は、自分には一切ない。
今大会では個人表彰はされていないので、これも仕方がないであろう。
『ヘーイ、コータ』
そんな時、スペイン語で誰かに声をかけられる。
『あっ、セルビオ君!』
声をかけてきたのは、スペイン代表のユニフォームを着た少年。エースのセルビオ・ガルシアだった。
オレは日常会話のスペイン語で答える。
『コータ、改めて、優勝おめでとう』
『セルビオ君も準優勝、それに得点王、おめでとう!』
スペイン代表は惜しくも準優勝だったが、セルビオ個人は大会得点王で表彰されていた。
2位のヒョウマ君に圧倒的な得点差をつけて、得点王を受賞したのだ。
『あれ? そういえばセルビオ君の取材は、もう終わったの?』
得点王のセルビオは表彰式の後、マスコミから一番の取材を受けていた。
何しろ決勝戦以外の全試合でハットトリック、という偉業を達成していたのだ。
各国のマスコミが放っておくはずがない。
『ああ、後はチームのマネージャーがやっているよ』
なるほど。
彼の所属する名門チームともなれば、マスコミ用のマネージャーがいるのか。
さすがはサッカーが盛んなスペイン代表である。
『コータは個人取材がないのか?』
『そうだね。ほら、ボクのプレイは地味な感じだから』
ここだけの話、オレのプレイは華やかさがない。
最近は基本的には守備をしながら、ゲームメイクをしていく感じだ。
昔からシュートを打つのは嫌いじゃない。
けどチーム内には、ヒョウマ君と葵という天性のストライカーが二人もいる。
だからオレは4年生くらいから、地味なポジションに徹していた。
太陽のように輝くヒョウマ君と葵の、サポートにオレは徹していたのだ。
『なるほど、そういう理由か。だがコータは凄い選手だよ! ヨーロッパの同年代でも、滅多にいない選手だ!』
『えっ……セルビオ君にそんなに褒められると、なんか照れるな……』
未来のスーパースターからの、まさかの最上級の褒め言葉であった。
オレの心臓はかつてないほどバクバク鼓動している。
『でも、コータ。キミは攻撃の才能が、もっとあるはずだ。なぜ本気を出さない?』
『えっ? そんなことを言われても、ボクは本気を出しているつもりだけど……』
まさかの指摘に言葉を失う。
オレは今までも、本気を出してプレイしていた。
練習でも試合でも、常に全身全霊を出していたはずだ。
『なるほどね。コータは自分の本当の凄さに、気がついていないのかもな』
セルビオ君はかなり真剣な表情であった。冗談を言っているようには見えない。
でも、オレの本当に凄さか……。
そんなモノが本当にあるのだろうか?
オレは自分の右足をジッと見つめる。
今世では頼りになる相棒である、自分の足を。
『ところで話は変わるけど、コータはいつヨーロッパに来るんだ?』
『えっ、ボクがヨーロッパに?』
『ああ、そうだ。キミほどの才能を伸ばすには、ヨーロッパのチームに入団した方がいい。それも早い段階で』
まさかの提案だった。
そんなことは夢にも考えていなかった。
というか普通の日本のサッカー小学生が、ヨーロッパのチームに入団だなんて。
この時代ではあり得ないことだった。
『なるほど……まあ、いいか。それじゃ、オレと交換をしてくれ』
『えっ……ユニフォームを⁉』
まさかの提案の後に、更なる提案だった。
試合後のユニフォーム交換を、セルビオから提案される。
未来のスーパースターのジュニア時代の貴重なユニフォーム。それが今、オレの目の前に差し出される。
『うん! 喜んで!』
オレは自分のユニフォームを脱いで、セルビオと交換をする。
リベリーロ弘前のユニフォームが、初めて海外に渡った瞬間だ。
『ありがとう、セルビオ君! あと、ここにサインを書いて欲しいんだけど』
『オレのサインだと? 書いたことないけど、名前でいいのか?』
『うん、名前でいいよ!』
前回の教訓から、サインペンは常に持ち歩いていた。
未来のスーパースターのセルビオ・ガルシアの初サインを、書いてもらう。
ぎこちない手つきで、セルビオは自分の名前をユニフォームにサインする。
うん。これはたしかに本物だ。
前世の映像で見た大人のセルビオ・ガルシアのサインに似ている。
まあ、書いたのは本人なんだから、似るのは当たり前か。
『じゃあ、コータ。オレはそろそろ戻る。これからスペインに帰って、また練習の毎日だ』
『そうだね。ボクも同じだよ』
『サッカー少年は世界のどこでも、一緒なんだな』
『そうだね、セルビオ君!』
いよいよ別れの時間がやってきた。
ユニフォーム交換をして、別れの挨拶をする。
それぞれは自分たちのチームに戻るのだ。
『また、どこかで遊ぼう……いやサッカーをしようぜ、コータ!』
『うん……また、サッカーしようね、セルビオ君!』
日本とスペインとの距離は約1万km
普通では再会することは難しい。
でもサッカーは世界中で愛され、プレイされているスポーツ。
互いに高みを目指して続けていけば、たどり着く先は決まっている。
世界大会やワールドカップ、オリンピックで再会できる可能性がある。
サッカーは誰にでも、平等な夢を与えてくれるのだ。
「ふう。さて、ボクもチームに戻るとするか……」
ヒョウマ君やコーチの取材も終わっていた。
オレはチームに合流することにした。
たった二日間だったけど、本当に充実した“U-12ワールドカップ”が、こうして幕を閉じたのであった。
◇
その後もバタバタした。
決勝戦の次の日は、1日間だけフリーの日となった。
優勝したお祝い観光である。
まずリベリーロ弘前の12人とコーチで、パリ市内の観光をした。
みんなでセーヌ川の川下りをして、エッフェル塔や凱旋門の見に行った。
夕ご飯には美味しいフランス料理を食べた。みんなでナイフとフォークに苦戦した。
その後はサッカー観戦に行く。
場所は昨日、オレたちが決勝戦を行ったあのスタジアムである。
試合はフランスのプロリーグ“リーグ・アン”のリーグ戦だった。
5万人の熱狂的なサポートで埋まったスタジアムは、本当に凄かった。
オレたちの試合の時とは、まるで別空間のようにスタジアムが震えていた。
オレたちもレベルの高いリーグ・アンの試合に熱狂して、その後はホテルへと帰還する。
仲間と過ごした、本当に最高の一日だった。
◇
次の日は、丸ごと移動日となる。
帰りはチーム全員と家族の、一緒の行動となる。
まず日本へ帰国するために、国際線の飛行機を乗り継いでいく。
日本の羽田空港に到着して、お世話になったサッカー協会の人とは、ここでお別れとなる。
次に国内線の飛行機に乗り換えて、地元の空港を目指す。
地元の飛行場に到着したら、チームのマイクロバスが待機していた。
マイクロバスで各自の家の前で降車して、無事に帰宅となる。
帰りは両親も同行していたのだ、オレは家族4人での帰宅となる。
パリから自宅まで、約1万kmの大移動は無事に終了となる。
疲れ果てた妹の葵は、マイクロバスでずっと爆睡していた。
明日からはオレたちは、また小学校に通わないといけない。
両親がそのまま葵をベッドに運んでいく。
◇
「ふう、ようやく終わったか……」
オレも一息つきながら、懐かしの自分の布団の中に入り込む。
寝る前の日課の自主練習とストレッチは、もちろん欠かしていない。
「ああ、本当に“U-12ワールドカップ”が終わったんだな……」
布団に入りながら、優勝メダルを手にする。
そこで初めて実感が出てきた。
オレたちは国際試合の大会で優勝できたんだ。
小学生の最後の年に、とんでもない経験が出来たんだと実感する。
(明日からは、また朝練して、学校に行って、放課後も練習して、週末は練習試合して……)
そう考えていたら、いつの間にか瞼が閉じていた。
手には優勝メダルを持ったまま、夢の中に落ちていたのだ。
◇
こうして“U-12ワールドカップ”の全ての日程が無事に終わる。
明日からまたオレの、新しいサッカーの日々は始まるのであった。
◇
6年生U-12ワールドカップ編が無事に終わりました。
次からは6年生後半から、中学生1年生になるまで編がスタートします。
たくさん方に読んでいただき、本当にありがとうございます。
ここまでの評価や感想などありましたら、すごく嬉しいです。お気軽にどうぞです。
今後も頑張っていきます!




