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第50話:世界大会の後

“U-12ワールドカップ”の決勝戦が終わる。

 その後はバタバタしたスケジュールだった。


 表彰式はそのままスタジアムで行った。

 オレたちリベリーロ弘前ひろさきは一番高い台の上で、メダルとトロフィーを受けとることが出来た。


 表彰式の後、チームは沢山のマスコミの取材を受けた。

 外国のTVやサッカー雑誌やネットニュースなど、ビックリするぐらいのマスコミ囲まれる。

 通訳は日本サッカー協会の人が担当してくれたので、何とかなった。


 チームで取材を受けた後は、個人的にインタビューに移る。

 特に受けていたのは、コーチと大会MVPのヒョウマ君、妹のあおいの三人だった。


 葵は大会に唯一の女性参加者で、優勝チームのレギュラーということでインタビューされた。

 更に日本の女の子で可愛らしい外見なので、外国の取材陣に人気なのであろう。



「ふう……また終わるのを待つか」


 チームキャプテンとして取材が終わったオレは、一人で待機していた。

 ちなみに個人的な取材は、自分には一切ない。

 今大会では個人表彰はされていないので、これも仕方がないであろう。


『ヘーイ、コータ』


 そんな時、スペイン語で誰かに声をかけられる。


『あっ、セルビオ君!』


 声をかけてきたのは、スペイン代表のユニフォームを着た少年。エースのセルビオ・ガルシアだった。

 オレは日常会話のスペイン語で答える。


『コータ、改めて、優勝おめでとう』

『セルビオ君も準優勝、それに得点王、おめでとう!』


 スペイン代表は惜しくも準優勝だったが、セルビオ個人は大会得点王で表彰されていた。

 2位のヒョウマ君に圧倒的な得点差をつけて、得点王を受賞したのだ。


『あれ? そういえばセルビオ君の取材は、もう終わったの?』


 得点王のセルビオは表彰式の後、マスコミから一番の取材を受けていた。

 何しろ決勝戦以外の全試合でハットトリック、という偉業を達成していたのだ。

 各国のマスコミが放っておくはずがない。


『ああ、後はチームのマネージャーがやっているよ』


 なるほど。

 彼の所属する名門チームともなれば、マスコミ用のマネージャーがいるのか。

 さすがはサッカーが盛んなスペイン代表である。


『コータは個人取材がないのか?』

『そうだね。ほら、ボクのプレイは地味な感じだから』


 ここだけの話、オレのプレイは華やかさがない。

 最近は基本的には守備をしながら、ゲームメイクをしていく感じだ。


 昔からシュートを打つのは嫌いじゃない。

 けどチーム内には、ヒョウマ君と葵という天性のストライカーが二人もいる。


 だからオレは4年生くらいから、地味なポジションに徹していた。

 太陽のように輝くヒョウマ君と葵の、サポートにオレは徹していたのだ。


『なるほど、そういう理由か。だがコータは凄い選手だよ! ヨーロッパの同年代でも、滅多にいない選手だ!』

『えっ……セルビオ君にそんなに褒められると、なんか照れるな……』


 未来のスーパースターからの、まさかの最上級の褒め言葉であった。

 オレの心臓はかつてないほどバクバク鼓動している。


『でも、コータ。キミは攻撃の才能が、もっとあるはずだ。なぜ本気を出さない?』

『えっ? そんなことを言われても、ボクは本気を出しているつもりだけど……』


 まさかの指摘に言葉を失う。

 オレは今までも、本気を出してプレイしていた。

 練習でも試合でも、常に全身全霊を出していたはずだ。


『なるほどね。コータは自分の本当の凄さに、気がついていないのかもな』


 セルビオ君はかなり真剣な表情であった。冗談を言っているようには見えない。


 でも、オレの本当に凄さか……。

 そんなモノが本当にあるのだろうか?


 オレは自分の右足をジッと見つめる。

 今世では頼りになる相棒である、自分の足を。


『ところで話は変わるけど、コータはいつヨーロッパに来るんだ?』

『えっ、ボクがヨーロッパに?』

『ああ、そうだ。キミほどの才能を伸ばすには、ヨーロッパのチームに入団した方がいい。それも早い段階で』


 まさかの提案だった。

 そんなことは夢にも考えていなかった。


 というか普通の日本のサッカー小学生が、ヨーロッパのチームに入団だなんて。

 この時代ではあり得ないことだった。


『なるほど……まあ、いいか。それじゃ、オレと交換をしてくれ』

『えっ……ユニフォームを⁉』


 まさかの提案の後に、更なる提案だった。

 試合後のユニフォーム交換を、セルビオから提案される。


 未来のスーパースターのジュニア時代の貴重なユニフォーム。それが今、オレの目の前に差し出される。


『うん! 喜んで!』


 オレは自分のユニフォームを脱いで、セルビオと交換をする。

 リベリーロ弘前ひろさきのユニフォームが、初めて海外に渡った瞬間だ。


『ありがとう、セルビオ君! あと、ここにサインを書いて欲しいんだけど』

『オレのサインだと? 書いたことないけど、名前でいいのか?』

『うん、名前でいいよ!』


 前回の教訓から、サインペンは常に持ち歩いていた。

 未来のスーパースターのセルビオ・ガルシアの初サインを、書いてもらう。


 ぎこちない手つきで、セルビオは自分の名前をユニフォームにサインする。


 うん。これはたしかに本物だ。


 前世の映像で見た大人のセルビオ・ガルシアのサインに似ている。

 まあ、書いたのは本人なんだから、似るのは当たり前か。


『じゃあ、コータ。オレはそろそろ戻る。これからスペインに帰って、また練習の毎日だ』

『そうだね。ボクも同じだよ』

『サッカー少年は世界のどこでも、一緒なんだな』

『そうだね、セルビオ君!』


 いよいよ別れの時間がやってきた。

 ユニフォーム交換をして、別れの挨拶をする。

 

それぞれは自分たちのチームに戻るのだ。


『また、どこかで遊ぼう……いやサッカーをしようぜ、コータ!』

『うん……また、サッカーしようね、セルビオ君!』


 日本とスペインとの距離は約1万km

 普通では再会することは難しい。


 でもサッカーは世界中で愛され、プレイされているスポーツ。

 互いに高みを目指して続けていけば、たどり着く先は決まっている。


 世界大会やワールドカップ、オリンピックで再会できる可能性がある。

 サッカーは誰にでも、平等な夢を与えてくれるのだ。


「ふう。さて、ボクもチームに戻るとするか……」


 ヒョウマ君やコーチの取材も終わっていた。

 オレはチームに合流することにした。


 たった二日間だったけど、本当に充実した“U-12ワールドカップ”が、こうして幕を閉じたのであった。



 その後もバタバタした。

 決勝戦の次の日は、1日間だけフリーの日となった。

 優勝したお祝い観光である。


 まずリベリーロ弘前ひろさきの12人とコーチで、パリ市内の観光をした。

 みんなでセーヌ川の川下りをして、エッフェル塔や凱旋門の見に行った。


 夕ご飯には美味しいフランス料理を食べた。みんなでナイフとフォークに苦戦した。


 その後はサッカー観戦に行く。

 場所は昨日、オレたちが決勝戦を行ったあのスタジアムである。


 試合はフランスのプロリーグ“リーグ・アン”のリーグ戦だった。


 5万人の熱狂的なサポートで埋まったスタジアムは、本当に凄かった。

 オレたちの試合の時とは、まるで別空間のようにスタジアムが震えていた。


 オレたちもレベルの高いリーグ・アンの試合に熱狂して、その後はホテルへと帰還する。

 仲間と過ごした、本当に最高の一日だった。



 次の日は、丸ごと移動日となる。

 帰りはチーム全員と家族の、一緒の行動となる。


 まず日本へ帰国するために、国際線の飛行機を乗り継いでいく。

 日本の羽田空港に到着して、お世話になったサッカー協会の人とは、ここでお別れとなる。


 次に国内線の飛行機に乗り換えて、地元の空港を目指す。

 地元の飛行場に到着したら、チームのマイクロバスが待機していた。


 マイクロバスで各自の家の前で降車して、無事に帰宅となる。

 帰りは両親も同行していたのだ、オレは家族4人での帰宅となる。


 パリから自宅まで、約1万kmの大移動は無事に終了となる。

 疲れ果てた妹の葵は、マイクロバスでずっと爆睡していた。


 明日からはオレたちは、また小学校に通わないといけない。

 両親がそのままあおいをベッドに運んでいく。



「ふう、ようやく終わったか……」


 オレも一息つきながら、懐かしの自分の布団の中に入り込む。

 寝る前の日課の自主練習とストレッチは、もちろん欠かしていない。


「ああ、本当に“U-12ワールドカップ”が終わったんだな……」


 布団に入りながら、優勝メダルを手にする。

 そこで初めて実感が出てきた。


 オレたちは国際試合の大会で優勝できたんだ。

 小学生の最後の年に、とんでもない経験が出来たんだと実感する。


(明日からは、また朝練して、学校に行って、放課後も練習して、週末は練習試合して……)


 そう考えていたら、いつの間にかまぶたが閉じていた。

 手には優勝メダルを持ったまま、夢の中に落ちていたのだ。



 こうして“U-12ワールドカップ”の全ての日程が無事に終わる。


 明日からまたオレの、新しいサッカーの日々は始まるのであった。









6年生U-12ワールドカップ編が無事に終わりました。

次からは6年生後半から、中学生1年生になるまで編がスタートします。





たくさん方に読んでいただき、本当にありがとうございます。


ここまでの評価や感想などありましたら、すごく嬉しいです。お気軽にどうぞです。


今後も頑張っていきます!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 流石に個人取材無いのはおかしい
[気になる点] 全国大会で優勝した時なんの活躍もしてないキャプテンがキャプテンというだけでインタビューされてたのに、キャプテンの主人公がインタビュー受けてないのはなんでですか。 不自然極まりない
感想一覧
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