第49話:決勝戦の行方
“U-12ワールドカップ”の決勝戦が始まる。
オレたちリベリーロ弘前の先発選手8人は、天然芝のピッチに立っていた。
キックオフ前。オレを中心にして、最後の作戦会議をする。
「さて、コータ。今日はどんな変な作戦でいくんだ?」
「また奇策か? それとも奇襲でいくか?」
チームメイトがオレの発言に注目してくる。
これも仕方がない。この2日間は直前に、変な作戦変更をしていたのだ。
「えーと。作戦変更は無しだね。いつものボクたち……リベリーロ弘前の試合をしよう!」
オレは最後の作戦を伝える。
ここまでの予選リーグとトーナメントのことは、全部忘れていこう。
通常通りの作戦でいこうと伝える。
・ヒョウマ君と葵が攻撃のツートップ。
・オレが中盤でゲームメイクをする。
・他の皆は中盤のサポートと守備に専念する。
こんな感じのリベリーロ弘前スタイルだ。
「あれ? コータにしては珍しいな」
「ああ、そうだな」
「じゃあ、いつもの通りに、オレたちは頑張るとするか!」
チームメイトは首を傾げながら、了承してくれた。
作戦会議も終了して、自分たちのポジションに散っていく。
緊張感も解けて、その足取りは軽い。いい感じだ。
「コータ、どういうことだ? 何か考えがあるんだろう?」
そんな中でヒョウマ君だけは、作戦に真意に気が付いていた。
オレの作戦の裏を読んでいたのだ。
「さすがヒョウマ君だね。実はこの試合は、“ワンランク上のリベリーロ弘前”でいこうと思うんだ」
オレは予選リーグの3試合と決勝戦トーナメントの2試合。
合計5試合の中で、ある仕掛けをしていた。
それはチームメイトの皆に、いつも以上の負荷をかかるように、密かに試合を展開していたのだ。
フォーメーション変更と戦術変更は、そのための布石だった。
国際試合の緊張感の中での、皆は極度の負荷を掛けられていた。
そのお陰で予選リーグでは動きは重かった。
でも今日のトーナメントでは全員の動きが、見間違えるように良くなっていた。
全員が自分でも知らない内に、一段階レベルアップしていたのだ。
簡単に説明すると『これまでの5試合、全員に重りをつけて戦ってもらった。決勝戦は重りを外して、戦ってもらう』こんな感じだった。
「なるほど。お前はチームメイトにも魔法をかけていたのか、コータ?」
ヒョウマ君は何やら抽象的なことを言ってきた。
“魔法”か……前も思ったけど、ヒョウマ君は少し独特の考え方をしている。
「魔法っていうほどじゃないけど。でも、これでスペイン代表と互角に戦えるはず」
「オレ様とお前が、あのセルビオ・ガルシアを倒せば……だろ?」
「うん、そうだね!」
オレの見込みでは、エースを抜かした両チームの総合力は、今のところ互角である。
後は怪物セルビオを、オレたち二人がどうやって攻略するか? それが、勝利の鍵となる。
「それで、あの男を倒す、本当の作戦は?」
「それは……“セルビオ君が攻めてきた時は、ボクが1失点に抑える。攻撃の時はヒョウマ君がセルビオ君を抜いて2点を取る”……これが決勝戦の作戦さ!」
これはオレの最終的な作戦であった。
昨日との今日のイメージトレーニングでも、どうしてもあの怪物をから1点は取られてしまう。これは仕方がないであろう。
でも今日のヒョウマ君のキレと、オレのパスの出来なら、2点を取れるイメージが浮かんでいたのだ。
「お前、あの男を“たった1得点”に抑えられる自信があるのか?」
ヒョウマ君は真剣な表情で訪ねてくる。
あのセルビオ・ガルシアの今大会の平均得点は4点以上であった。
間違いなく今大会のNO1のプレイヤーである。
「たぶん、大丈夫。セルビオ君の弱点は、凄すぎるところ。チームメイトともレベルが違い過ぎる、ところだよ」
スペイン代表の中でも、彼は数段階も飛びぬけていた。
たぶん今まで同年代では負けたことが無いのであろう。
だから、あれほど“遊び”という言葉を使い、真剣勝負に飢えていたのである。
ライバルのいない孤独の天才の状態だ。
競い合う相手がいな選手は、逆境に弱くなる。
どんな天才でも若い時は、それが浮き彫りになってしまうであろう。
「それに比べてボクはこの5年間、凄いチームメイトと1対1の練習を積んできたからね」
リベリーロ弘前にも本物の“天才”はいる。
オレは小学生2年生の時から、その人物と切磋琢磨して練習してきた。
暇さえあれば常に1対1の勝負をしていた。
それも毎回が全力で、真剣勝負だった。
そのお陰でオレのマンツーマンの守備力は、向上している。生半可な逆境に対しても強くなっていた。
同い年のヒョウマ君に負けないように、オレは今まで努力してきたのだ。
「だからボクはセルビオ君には負けない。ヒョウマ君の名誉のためにも」
オレがセルビオに完敗した時。
それはヒョウマ君がセルビオよりも劣ること、を意味する。
だからオレは負ける訳にはいかなった。
たとえ相手が未来のスーパースターだとしても。
「バカげたな理論だな、コータ。だが実はオレ様も同じ気持ちだ。オレ様のチームメイトには、凄い奴がいた。だからオレ様もそいつの名誉のために、セルビオに勝つ!」
「ヒョウマ君……」
驚いたことにヒョウマ君も、オレと同じ気持ちだった。
1対1で練習していたオレのことを、ライバルだと認めてくれた。
オレたちは以心伝心……互いの誇りを守るために、互いに強敵に挑もうとしていたのだ。
「よし、いこう、ヒョウマ君!」
ライバルであるヒョウマ君から、熱い言葉をもった。
オレの闘志は今までにないくらいに燃え上っている。今ならどんなスーパースターにも負ける気がしない。
「そうだな、コータ。世界中にオレ様の……オレ様たちの力を見せてやろうぜ!」
「うん!」
こうしてオレたちの世界大会、最後の戦いが始まるのであった。
◇
“U-12ワールドカップ”の決勝戦がキックオフした。
序盤からスペイン代表は攻撃を仕掛けてきた。
セルビオ・ガルシアを中心にして、猛攻をしかけてきたのだ。
『いくよ、コータ! オレを楽しませてくれ!』
『それは、こっちのセリフだよ、セルビオ君!』
スペイン代表が攻めてくる時、オレがセルビオのマンマークに付く。
この危険な天才をフリーにしないように、必死で食らいついていく。
『へえ、やっぱり、凄いね、コータ! でも、これはどうかな?』
『くっ⁉』
本気を出したセルビオは圧倒的だった。
凄まじいキレのフェイントドリブルで突破してくる。
オレはついていくだけで必死だった。
悔しいけど身体能力と技のキレは、相手が圧倒的に格上。
オレが計算していた力より、本物のセルビオは何倍も凄かったのだ。
でも、ここで抜かれる訳にはいかない。
『くっ……これでも、抜けないだと? キミは何者だ、コータ?』
『ボクは、ただの普通の日本の小学生だよ』
でも、それでもオレが食らいついていた。
それには秘密のカラクリがあったのだ。
(セルビオ君、本当にヤバイ相手だ……でも、見えない相手じゃない!)
前世でプロになってから31歳までのセルビオ・ガルシアの動きは、オレの記憶の中に全てあった。
またこの大会での全5試合でのセルビオの動きも、撮影動画でチェックしている。
だから、その二つを加えて予測調整することによって、彼の先の動きを予測していたのだ。
(それにオレは全部の部分で、負けている訳じゃない!)
セルビオ・ガルシアに比べてオレは、ほとんどのサッカー能力……天賦の才能、身体能力、キック力、創造性、スピード、パワーにおいて負けていた。
(オレにも勝っている武器があったんだ!)
だが対峙して分かったことがある。
オレにも勝っている部分があったのだ。
それは瞬間的な“判断力と反射神経”と“視野の広さ”、そして“基礎技術”である。
(これは3歳の時からの地味なトレーニングのお蔭……かもしれないな)
オレは幼稚園の時から、サッカーのトレーニングを積んできた。
その中で特にこだわっていたのが、この3つである。
寝ている時以外は、常にスポーツビジョンと判断力のトレーニングを意識していた。
更に基礎のボールコントロールに関しては、授業中でもコソ練習をしていた。
(セルビオ君が動き出すコンマ何秒前に、オレが動きだせば!)
相手の動きを封じ込めることができる。
凡人であるオレが、これまで努力してきた力が開花した。この9年間の努力は無駄でなかったのだ。
『ちっ、未来が見えるのか、コータは⁉』
『そんな力はないよ。ボクもあったら欲しいよ、セルビオ君!』
この作戦は万能ではない。100%相手を止められる訳ではない。
でも明らかに相手は動揺していた。
圧倒的に才能が劣るオレに、何度も止められているのが信じられないのであろう。
その心の隙を更についていく。
『はっはっは……凄いね、コータは! オレはこんなにサッカーが楽しいのは初めてだよ!』
『くっ、ここから更に速くなるのか⁉』
だが相手も未来のスーパースターである。
一筋縄ではいかった。
未来予測の更に先をいかれてしまう。
まさに化け物のような相手だ。
危険なセルビオに振り切られ、フリーの状況にしてしまう。
「コータ、助太刀するぜ!」
「守備はオレたちにも任せろ!」
だがチームメイトの守備の2人が、サポーターしてくれた。
初日の騒動で全く歯の立たなかったセルビオに対して、彼らは必死で健闘していたのだ。
◇
こうして試合は進んでいく。
こちらが守る時は、オレが守備陣と連携して、セルビオ・ガルシアを必死で止める。
逆に攻める時はオレとヒョウマ君と葵の連携で、セルビオとスペイン守備陣に挑む。
未来のスーパースターは守備も半端なかった。
オレたち3人がかりでも、ようやく互角といったところだった。
こうした一進一退の攻防を繰り返し、時間は進んでいく。
そんな中で後半も進んでいき、得点は1対1となっていた。
セルビオの絶対に止められない1点を、オレたちは取られてしまった。
だがそこは予測の範囲内。
逆にオレとヒョウマ君の連携で1点を取って、同点に追いついたのだ。
◇
そして後半が終わろうとしていた。
試合終了まで、あと1分。
「お兄ちゃん!」
葵がスペインの守備陣を斬り裂き、オレに渾身のパスをくれた。
葵はそのまま倒れこむ。
まだ5年生で女の子の妹のスタミナは、限界を突破していたのだ。
葵の渾身のパスを貰ったオレは、フリーな状況。相手ゴールに攻め込もうとする。
『コータ……待っていたよ!』
だがオレの前方に、セルビオが立ちはだかっていた。
先ほどまで反対側の場所にいたはずなのに……。
信じられないことに、葵のプレイの先を読んでいたというのか?
それとも天才だけが持っている、“ボール嗅覚”とでいうのか?
とにかくオレたちの動きが、セルビオに読まれていた。
恐ろしいことに、この土壇場でスーパースターも覚醒していたのだ。
「くっ……」
オレの動きが止まる。
何故ならこの試合でオレは、セルビオを1度も抜けていなかったのだ。
セルビオ・ガルシアの野獣のようなプレッシャーが襲いかかってきた。
でも、この状況……1対1でオレが抜けなければ、最前線にいるヒョウマ君にはパスは出せない。
逆にオレが負けてボールが奪われたら、逆転されてしまう危険な状況だった。
でも、勝つためには、ここで退くわけにはいかない。
『いくよ、セルビオ君!』
『こい、コータ!』
オレは単身ドリブルで突撃していく。
1対1でセルビオ君を抜くために。
オレはあるフェイントをしかけて、相手を一気に抜き去ろうとする。
『また、その技を? でも、オレには通じないよ!』
セルビオは勝利の笑みを浮べる。
何故ならオレが発動したのはセルビオ・ガルシアの十八番のフェイント。
この試合でもオレは4回使って、4回とも防がれていた。
“それなのに、いったい、何故また使うのだ?”
“通じない技をまた使うのは、何故?”
観客席から見ている者は、誰もがそう思ったであろう。
だが……そう思わせるのが、オレの作戦だった。
『終わりだ、コータ!』
「いや、違う……これがボクの……必殺技だ!」
セルビオにボールを奪われる瞬間。
オレは更なる連続技を発動させる。
“野呂コータ・スペシャルターン”
これはオレが編み出したオリジナル必殺技。
既存には無かった技であり、未来にも無かった技である。
オレが今世の10年間のサッカー人生で編み出し、この大会中にようやく完成させた必殺技だった。
試合で4回とも失敗していたのは、この最後に発動させるための布石だったのだ。
『今のは……』
「ヒョウマ君!」
唖然とするセルビオを、オレは倒れ込みながら抜き去る。
そのままラストパスを出す。
このピッチ上でただ一人、オレの動きに反応して、走り込んでいた仲間に。
ヒョウマ君だけが、オレが抜くのを信じていたのだ。
「ああ、最高のパスだ、コータ!」
相手のDFを一気に抜き去り、ヒョウマ君はシュートを決める。
ボールがゴールネットに突きささる。
ピピー。
直後、試合終了の笛の音が鳴り響く。
2対1
こうしてオレたちはスペイン代表に勝利した。
“U-12ワールドカップ”で優勝することが出来たのだった。




