第46話:予選リーグでの賭け
フランス3日目の朝。
“U-12ワールドカップ” がスタートする。
「まずはリーグ戦だ。初戦から全力でいけ!」
「「「はい、コーチ!」」」
オレたちリベリーロ弘前の選手は、試合前に円陣を組む。
気合の声と共にモチベーションをアップさせる。
「コータ、葵、頑張ってね!」
「皆もファイト!」
観客席から親たちの声援が飛んでくる。
何と数人のチームメイトの家族が、フランスまで応援にきてくれたのだ。
その中にオレの親もいた。
何でも給料がアップした父の、貯めていたボーナスを使って来たらしい。
それぞれの親は家族旅行と、子供の試合観戦を兼ねていた。
(いよいよ、予選リーグか……頑張らないと)
そんな親の声援に送り出され、オレを含む先発8名は、天然芝のピッチに駆けていく。
キックオフ前にオレを中心にして、最後の作戦会議をする。
「ここはフランスだけど、ボクたちはいつものようにプレイしていこう。みんな、いつもの倍は声を出していくよ!」
「おう、コータ!」
「守備陣は任せておけ!」
キャプテンであるオレの声に、皆が元気に反応してくれる。
特に昨日、セルビオ・ガルシアと対決した、守備の2人は気合十分だった。
正直なところ彼らはコテンパに負けたので、テンションダウンも心配した。
でも逆に闘争心に火が付いたみたいだ。
熱血漢だけど、単細胞な性格が幸いしたのかもしれない。
これなら守備陣は安心して任せる。
ちなみに昨日のいざこざは、コーチも黙認してくれた。
若気の至りと“国際交流”ということにしてくれたのだ。
大事にならなくて、本当によかった。
(さて、攻撃陣の方は……)
FWの葵とヒョウマ君に目を向ける。
特に冷静沈着だけど、実は繊細そうなヒョウマ君のことを、オレは少しだけ心配していた。
昨日の出来ごとが、プレイに悪影響を与えなきゃいいけど……。
「ふん。オレ様に心配など不要だぞ、コータ」
「あれ? 何のことかな、ヒョウマ君?」
「お前は顔にすぐ出るからな……オレ様は大丈夫だ」
どうやらヒョウマ君にはバレバレだったみたいだ。
彼はいつもの冷静さを取り戻していた。
よかった。
これならいつものプレイが出来そうだ。
「コータ、頼みがある」
「えっ? 急にどうしたの、ヒョウマ君?」
「今日の3試合は全部、今までより厳しいパスをくれ。オレ様にだけ、これまでよりもギリギリのパスをくれ」
ヒョウマ君は真剣な表情で頼んできた。
得点に絡むラストパスの質を、これまでと違うのに変更してくれと。
タイミングを更に早め、パスを出す先を更に1mも先にして、危険な密集地でもパスをくれ……と頼んできたのだ。
「でも、それじゃヒョウマ君が……」
パスを取れない危険が大きいのだ。
確かにギリギリのパスを出せば、敵の守備は突き離せる。これまで以上に強力な攻撃が出来るであろう。
でも失敗した時は、危険も大きい。
ボールを相手に奪われて、カウンター攻撃を食らう危険があるのだ。
「頼む、コータ。それに皆も、頼む。これはオレ様の更に“上”にいくための、挑戦なんだ……」
ヒョウマ君はチームメイトに頭を下げてきた。
彼はセルビオ・ガルシアを超えるために、更に上の次元を見ていたのだ。
驚いたことに、この予選リーグの3試合を使って、実戦的な経験値を積もうとしていたのだ。
「はっはっは……澤村が頼み事だなんて、明日は雪だな」
「でも、悪くないアイデアだな。コータ、オレたち守備陣は大丈夫だぞ!」
「そうだな、任せておけ!」
ヒョウマ君の危険な賭けに、みんなは笑顔で答える。
チームメイトの成長のために、仲間全員が危険に挑もうとしていた。
「ヒョウマ君、みんな……うん、わかった! コーチには後で、みんなで叱られようね!」
キャプテンであり司令塔なオレは、作戦変更を了承する。
また勝手に作戦を急に変更して、コーチからゲンコツを食らうのは、本当に痛い。
でも今は怖くはない。
何故なら自分の殻を破ろうとしている仲間の姿は、オレの心に強い闘志をくれたのだ。
「よし、じゃあ作戦変更だ。この3試合はいつもよりミスが多くなる。だから皆でカバーし合っていこう。悪いけど葵は、ヒョウマ君のサポートを」
「うん、分かった。葵はお兄ちゃんの作戦を信じる!」
本来は攻撃担当の葵を、ヒョウマ君のサポートに変更をする。
チームの攻撃力は格段に下がるが、オレは危険な賭けに選択したのだ。
「よし、作戦は決まった。みんないこう!」
「「「リベリーロ、ファイオー!」」」
最後にオレの声で、全員の気合いを最高潮にもっていく。
こうして予選リーグがスタートする。
オレたちは危険な賭けに挑戦するのであった。
◇
予選リーグ第1試合目がスタートした。
相手はアフリカの強豪国の代表チームである。
整列した瞬間に、相手に圧倒的された。
相手との体格が違ったのだ。
まるで大人と子供のような身長差である。
「足元に速いパスでいくよ! テンポよく攻めて! 守る時は、二人がかりで!」
試合中、キャプテンであるオレは、いつも以上に声を出す。
パワーとリーチ。空中戦では圧倒的に不利であった。
だからリベリーロ弘前が得意とする、チームワークで勝負を挑んだのだ。
“1対0”
その結果、僅差だったけど何とか勝つことができた。
オレと連携した守備陣が、何とか持ちこたえたのだ。
それに比べて攻撃の要、ヒョウマ君の調子はいまいちであった。
オレが出したギリギリのパスに、まだ反応できずにいたのだ。
でも1点を決めた時のヒョウマ君は、少し前と違う感じのオーラを発していた。
「おい、お前たち。私に内緒で何かやっていただろう⁉ まったく……どれ、私もアドバイスしていやる」
試合後コーチには怒られなかった。そればかりアドバイスもしてくれた。
コーチは子供たちの自主性を尊重してくれたのだ。
その的確なアドバイス乗っ取り、オレたちは次の試合で更に挑戦していく。
◇
休憩の後、予選リーグ第2試合目がスタートした。
相手は中東の強豪国の代表チームである。
身体能力とチームワークが、かなり優れた相手であった。
特に守備に関しては、オレたち以上の総合力を持っていた。
オレとヒョウマ君、葵の三人をもってしても、なかなか相手の守備を崩せずにいた。
「コータ、こい!」
「いくよ、ヒョウマ君!」
そんな中でオレの1本のラストパスが決まった。
前の試合では全く通らなかったギリギリのパス。
相手の守備陣の針の穴を殺す“キラーパス”が、ヒョウマ君に通ったのだ。
“1対0”
ヒョウマ君の決勝点を守りきり、何とか勝つことができた。
「だいぶ良くなったな。だが、次はもっとこうしていけ」
「「「はい、コーチ!」」」
試合後も全員でミーティングを行う。
チーム一丸となってヒョウマ君に協力していく。
◇
休憩の後、予選リーグ第3試合目がスタートした。
相手はヨーロッパ東欧の強豪国の代表チームである。
これまで一番の強敵であった。
さすがはサッカーの歴史があるヨーロッパ。全選手のスペックが高い。
凄まじい攻撃力で、攻め込んできた。
「守備の方は大丈夫、みんな⁉」
「心配無用だ、コータ!」
「そうだな、日本の連中の方が、ヤバかったぜ!」
それでも味方の守備陣は検討してくれた。
彼らが言うように、小学生では日本のサッカーのレベルは高い。世界の中でも高水準に達している。
こうして戦ってみると日本ジュニアは、世界の強豪国にも負けていないのだ。
“1対0”
チームメイト全員の健闘のお蔭で、3試合目も勝つことができた。
「やったね、ヒョウマ君! ナイス・シュート!」
「ああ、コータ。それにしても、さっきのあのタイミングは……」
決勝点を決めたヒョウマ君は、何やらブツブツつぶやいていた。
オレが本当にギリギリで出したタイミングのパス。何かを掴みかけていたのかもしれない。
試合後も集中していた。
◇
予選リーグの全試合が終了した。
朝から始まった予選リーグ。いつの間にか夕方になっていた。
「ボク、ちょっと、見に行ってきます」
オレは試合結果の掲示板を、一人で見に行くことにした。
(リベリーロ弘前は予選通過か……よかった)
オレたちは3戦全勝していた。そのお陰もあり予選を無事に通過していた。
それを反映して、明日のトーナメントに各国名が張り出されていく。
残ったのは8カ国……8チームで明日は準々決勝を。
更に勝ち残った4チームで準決勝を。
最後の2チームで決勝戦を行うのだ。
「そういえば、スペイン代表は?」
オレはトーナメント表を確認する。
その視線の先にあったのは、あのスペイン代表のチームである。
トーナメントは日本とは反対側のブロックであった。
「あれがスペイン代表の予選リーグの結果か? 凄い得点力だな……」
リーグ戦の結果を確認する。
彼らは『5対1、6対1、7対2』という大差をつけて、リーグ戦を突破していた。
圧倒的な得点差だ。
『ヘーイ、コータ!』
掲示板を見ていたオレに、スペイン語で声をかけてくる者がいた。その声には覚えがある。
『セルビオ・ガルシア……さん』
『セルビオでいいよ。コータ』
声をかけてきたのは、セルビオ・ガルシアだった。
気さくな雰囲気で話かけてきた。
朝とは違い、かなり陽気な雰囲気である。
そういえば前世でも彼は試合以外では、陽気な選手として知られていた。
子供の頃から性格は変わっていないのであろう。
『オレは全試合で、ハットトリックを決めた。そっちの調子はどうだい?』
なるほどスペイン代表の得点源は、やはりこの男だったのか。
それにしても全試合でハットトリックとは、規格外の攻撃力である。
世界中のジュニア代表が集まるこの大会でも、彼だけは別次元の才能なのであろう。
『ボクたちのエースのヒョウマ君は、毎試合1点ずつ。でも、明日はもっと取る』
オレはスペイン語でセルビオに答える。
うちのエースはまだ成長途中であると。明日には更に進化していると断言する。
『それは楽しみだ! 明日の決勝戦で遊ぼうぜ!』
オレの答えに、セルビオの顔が少し変わる。
朝のように獲物を見つけたような、不敵な表情。そして、再会を誓って去っていく。
「ふう……緊張したな……」
会話が終わった後に、オレは息を吐き出す。
何しろ相手は未来のスーパースター“セルビオ・ガルシア”である。
サッカーオタクであるオレは、会話が出来るだけで奇跡なのだ。
(そういえばオレの名前を“コータ”って呼んでくれていたよな……嬉しいな)
このまま進めば、決勝戦で敵同士になるかもしれない相手。
でも、セルビオと会話を出来ただけで、内心は歓喜ものだった。
こればかりは身に染みついた、サッカーオタクの悲しいサガなのかもしれない。
(ふう……さて、ヒョウマ君が進化しようとしている……)
深呼吸して、興奮した心を落ち着かせる。
ヒョウマ君はセルビオを倒すために、挑戦していた。
でもヒョウマ君だけは、あの人は倒せない。
そして今のままのオレも、セルビオには勝てない。
(そのためには、まずは相手の研究だな)
ここだけの話、オレはスペイン代表の3試合の録画を、父親に頼んでいた。
息子の予選リーグを見るのを諦めてもらい、スペイン代表の3試合を撮影してもらったのだ。
(前世のセルビオ・ガルシアと、今の12歳のセルビオ・ガルシアの研究か……)
前世のセルビオの映像は、脳内に残っている。
だから今日の動画を見ながら、オレは“12歳のセルビオ・ガルシア”を比較研究する。
あの圧倒的なテクニックを解明するためだ。
(そしてオレも、進化しないとな……)
明日の決勝戦まで、時間はまだある。
それまでにオレも新しい自分のプレイ……“進化”に挑戦するのであった。
◇
こうして次の日の朝になり、決勝トーナメントが始まろうとしていた。




