第44話:強襲、無敵王子
“無敵王子”セルビオ・ガルシア。
サッカーの才能に恵まれて、幼いころにスペイン超名門クラブ“レアロ・マドリード”にスカウトされる。
その後はスペイン代表の各世代と、クラブで順調に成績を出していく。
10代の後半で異例のトップチームでプロデビュー。
その後はヨーロッパリーグとワールドカップで偉業を達成していくスーパースターの一人だ。
◇
「“無敵王子”セルビオ・ガルシア……だと」
そんな若き姿の降臨に、オレは思わずその将来の二つ名を口走ってしまう。
なぜ彼がこんな場所にいるのか理解できずにいた。
(そうかセルビオ・ガルシアは前世で31歳だ。だからオレと同い年なのか……)
混乱し過ぎて、そんな単純なデータも忘れていた。
あまりにも異次元の存在の選手だったから、同い年だと意識していなかった。
それほどまでに前世でのセルビオ・ガルシアは、超スーパースターだったのだ。
「おい、お前、オレたちのボールを返せよ!」
「ああ、言葉が通じなくても、意味分かるだろ? ボール、カムバック!」
そんな未来の超スーパースター様に向かって、無礼なことを言っている二人がいる。
いったい誰だ?
それは練習ボールを奪われた、リベリーロ弘前の二人。オレのチームメイトの6年生たちだった。
“カムバック”という間違った英語で、返却を要求している。
未来のスーパースターに向かって、何と強気な態度。
この時代のセルビオ・ガルシアは、まだ世界的には無名な12歳。チームメイトが知らないのも、仕方がないことなのだ。
『ヘーイ、カモン!』
それに対してセルビオ・ガルシアは、英語と指のジェスチャーで返事をする。
“ボールを返して欲しかったら、実力で奪いに来い”
小学生にも通じる挑発だ。
「なんだと⁉ 上等だ!」
「ねえ、ダメだよ……」
「止めるな、コータ! アレはオレの大事なボールだ!」
オレの制止も聞かずに、チームメイトはダッシュする。
あのボールは彼が祖母に買ってもらった大事な記念ボール。
セルビオ・ガルシアの足元にある、そのボールを奪いにいく。本気のスライディングを仕掛ける。
「くっ⁉」
だが、彼のボール奪取は失敗に終わる。
セルビオ・ガルシアの華麗なボール運びに、まったくついていけないのだ。
その後、何度も突進しても、回避されてしまう。
『ヘーイ、トゥー』
セルビオ・ガルシアが再び英語とジェスチャーをしてくる。
ボールを返して欲しかったら、2人がかりでかかってこいと。不敵な笑みを浮べている。
「2人がかりだと⁉ 上等だ!」
「ねえ、ダメだって……」
「止めるな、コータ!」
オレが止める間もなく、もう一人もダッシュしていく。
この二人はチーム内でも熱血漢な性格。
同年代に挑発されて、居ても立っても居られないのだ。
「くっ⁉」
「そんな⁉ クソッ⁉」
今度は二人がかり。
でもセルビオ・ガルシアに触れることも出来ない。いいように遊ばれていく。
(そんな……あの二人はリベリーロ弘前の守備の要なのに……)
目の前で起こっている光景に、オレは絶句する。
この二人はかなり上手い。チームでも5年生の時から、レギュラー選手であった。
去年の全国少年サッカー大会でも大活躍して、連覇の要となっていた。
はっきりと言って守備力だけなら、日本の同年代の中でも屈指であろう。
そんな二人がボールを奪うどころか、相手の身体に触れることすら出来ない。
圧倒的にテクニックが違いすぎるのだ。
『おや、もう終わりか?』
1対2の勝負はついていた。
セルビオ・ガルシアの圧倒的なテクニックに振り回されて、二人は倒れ込んでいた。
熱くなった二人が、息切れしてしまったのである。
『誰かオレと、もっと遊ぼうよ?』
セルビオ・ガルシアは暇そうに笑っていた。
その表情から悪意はないのであろう。本当に遊びたいのであろう。
オレは前世の仕事の関係上、スペイン語も日常会話ならマスターしていた。だからセルビオ・ガルシアの言葉が理解できていた。
彼はスペイン語で、周囲の者たちに挑発している。
だが誰も名乗りを上げない。
先ほどの1対2の圧倒的な光景に、他国の少年たちも絶句していたのだ。
(どうする……)
大事なチームメイトのボールが奪われたのだ。
取り返すのが人情である。
(でも、ここで騒ぎを大きくするはマズイ。それに相手はセルビオ・ガルシア……あの“無敵王子”だ……)
オレが最初から動けずにいたのは、後者が理由であった
スーパースターの“無敵王子”を目の前にして、足が動かなかったのだ。
仲間と助けなきゃいけない。
でも、その華麗なテクニックに、不覚にも見とれてしまったのである。
仲間を助けずに、足がすくんでいたのだ。
本当に悔しい……。
「でも、今のボクはリベリーロ弘前のキャプテンだ!」
震える自分の足を、拳で思いっきり殴りつける。
自分のほっぺたにビンタをかます。
仲間を助けるために、不甲斐ない身体に闘志を宿す。
よし、これで足は動く。
絶対に勝てるはずはない。
けど、セルビオ・ガルシアから、仲間のボールを取り返すんだ。
オレは闘志を燃やして、挑むことを決意する。
「おい、待て」
その時である。
動き出そうとしたオレの肩を、誰かの手が止めてくる。
「コータ、お前はキャプテンだ。ここはオレ様がいく」
「ヒョウマ君……」
窮地に駆け付けたのはリベリーロ弘前の9番。
オレたちのチームのエース
“皇帝”澤村ヒョウマが駆け付けてくれたのだ。




