第40話:6年生になった
4月になる。オレは小学6年生になった。
6年生になったからといって、特に変わったことはない。
相変わらずサッカー漬けの毎日である。
「朝練に行ってきます!」
「葵も行ってきます!」
妹の葵と早朝6時に家を出て、チームの練習場に向かう。6年目となった日課となった朝練を、学校の前のするためだ。
「コータ、遅いぞ」
「ヒョウマ君、おはよう! それに他のみんなも!」
グラウンドにはヒョウマ君と、選手コースのチームメイトたちがいた。
オレの一人早朝練習が、いつの間にかチーム全体の練習となっていたのだ。
「コータキャプテン、おはようございます!」
「コータキャプテン、ヨロシクお願いします!」
選手コースの新4年と新5年生が、深々と頭を下げて挨拶をしてきた。
そういえば6年生になって、変わったことがある。
キャプテン……そう、オレはチームの責任者であるキャプテンになった。
今年の1月の引退試合の時に、全キャプテンとコーチから任命されたのだ。
「4年生のみんな、練習中は敬語はいらないから。このチームは部活じゃないから」
「はい! コータキャプテン、よろしくお願いいたします!」
“コータキャプテン”か……とても良い響きだ。
新鮮な呼ばれ方に、オレは思わずジーンとする。
「よーし。それじゃ、今朝はこの技に挑戦してみよう! ボクが手本を見せるから」
キャプテンとして後輩たちの前で、手本の技を披露しないと。キャプテンとしてチームの力を上げていかなといけない。
よし、今日はオレの知っている未来の技での一つにしよう。
実戦向きのテクニックを教えてあげたら、きっとチームの皆のためになるであろう。
「コータ。そんな高難易度の技は、4年生には無理だ。基本技から教えていけ」
「えっ、ヒョウマ君? そうか……たしかに、そうかもしれないね……」
ヒョウマ君に諭される。
確かに4年生たちは、選手コースに昇格したばかり。いきなりの難易度は、逆効果になるであろう。
「オレ様が5年生を指導する。野呂妹が4年生を。コータ、お前は6年を見てやれ」
「なるほど。ありがとう、ヒョウマ君!」
朝練の指導者案をヒョウマ君に教えてもらう。
たしかにその案なら効果的に朝練ができる。ヒョウマ君は指導者としての知識も、あるのかもしれない。さすがだ。
(それに比べてキャプテンのオレは……なんか空回りしてるな……)
任命されたものの、キャプテンという業務は予想以上に難しいものであった。
オレは前世でもキャプテンや主将など経験したことはない。
仕事においても上司や後輩はいても、プロジェクトリーダーの経験はなかった。
恥ずかしいことに、手探りでキャプテン像を探していくしかないのだ。
オレは焦らないように朝練を続けていくことしにした。
「そろそろ時間です。学校が遠い人から、登校してください」
「「「はい、コータキャプテン!」」」
朝練の時間もそろそろ終わりである。
このチームは色んな小学校から、みんな通っている。だから通学時間もバラバラなのだ。
「じゃあ、ヒョウマ君。みんな、また夕方の練習でね!」
「待って、お兄ちゃん。葵も一緒に行く」
楽しい朝練の時間は、あっとう間に過ぎていく。
オレは妹とランドセルを背負って、学校に行く。夕方になれば、またチーム練習がある。
それまでキャプテンについて調べておく必要がある。
◇
朝練からの、学校の授業が始まる。
オレは小学校では昨年と同じく、真面目に授業を受けている。
小学生6年生の4月まで、今のところ無欠席で無遅刻を更に継続中。昨年のU-15日本代表で休んだ時は、公休扱いにしてもらった。
(うーん、キャプテン……キャプテンか……)
そんな授業中にオレは頭を抱えていた。
図書館から借りた本を見ながら、“キャプテン”の単語の意味を調べていたのだ。
――――◇――――
《キャプテン(主将)とは》
チームを統率して、非常にリーダーシップが求められる役割。
サッカーにおいては監督と選手の間を取り持ち、試合が劣勢になった場合には味方選手を鼓舞する。またメディアやサポーターに対しては選手を代表するスポークスマンである。
――――◇――――
本に書いてあったキャプテンの意味は、こんな感じであった。
何となく分かるようで、よく分からない感じでもある。具体的に、何を、どうすればいいのだろうか知りたい。
(リーダーシップか……オレに足りないのは、リーダーシップかな?)
リーダーシップがキーワードなのであろう。その意味を更に本で調べていく。
――――◇――――
《リーダーシップとは》
集団をまとめながら、目的に向かって導いていく機能。
サッカーで理想とされるのは、部下にただ指図をする人ではない。チームをどうすれば勝ちに向かわせることができるか? それを戦略的に考え、一生懸命行動する人のことを示す。
――――◇――――
本に書いてあったリーダーシップの意味は、こんな感じであった。
こちらも分かるようで、よく分からない感じでもある。
『チームをどうすれば勝ちに向かわせることができるか?』の意味と、『試合に勝つ』ことの違いが分からないのだ。
(キャプテンか……そういえば、今まで深く考えたこともなかった問題だな)
オレは小学1年生の時に、リベリーロ弘前に入会した。
その時にも各学年にはキャプテンが必ずいた。
彼らはコーチの指示に従って集合をかけたり、合宿や遠征の時にも率先して行動していたような気がする。
飛び級でチームにいたオレは、いつも最下級生であった。だから、そんなキャプテンたちに甘えてきたのかもしれない。
(そう考えると、オレは甘ちゃんだったのかもしれないな……精神年齢は31歳だったのに、恥ずかしいな……)
やり直しのサッカー人生で、オレはずっとマイペースで生きてきた。
試合や練習に関しては、チームメイトたちとも協力をしてきた。
でも、一人の人間としては、まだ考え方が甘かったのかもしれない。
これからは、もっと積極的に頑張っていかないと。
自分らしいキャプテンになるために、何かきっかけが欲しい。
◇
「えーと、それでは次の連絡です」
いつの間にか授業も終わりかけていた。
先生がホームルームで連絡事項を伝えていた。
「6年生になったので、このクラスでも学級委員長を決めないといけません……立候補がなければ、また推薦ということになります……」
今日のホームルームの議題は、新学級委員長に関してだった。
これはクラスのまとめ役であり、けっこう面倒くさい。
毎年、誰もやりたがらないのだ。
(学級委員長……? つまり、リーダーシップが必要なポジション⁉)
その時である。
オレは頭の中が雷に打たれた。
自分に足りないモノは“リーダーシップ”。
だったら今世のサッカーのように地道に経験を積んで、リーダーシップを鍛えていくしかない。
そんなアイデアが頭の中に降臨してきたのだ。
「はい、ボクが立候補します!」
オレは挙手をして学級委員長に立候補する。
他に誰もいないので、このままでは自動的にオレが議長となるはずだ。
「えっ、コータ君? でも、コータはサッカーの方で忙しいし、学級委員長は……」
「やります! クラスに迷惑をかけないように、議長もサッカーも全力でやらせていただきます!」
オレに足りないのは覚悟であった。
これまでは学校のクラスの中では、一人でいた。
サッカーに邪魔なものとして、学校関係の時間を避けて生きてきた。
だが、それでは前世と同じく、人間として成長していかない。オレは人間として大きく生まれ変わらないといけないのだ。
「では、コータ君に学級委員長にお願いします。みなさん、大丈夫ですか?」
「はい、私たちもコータ君なら賛成です!」
「コータ君の学級委員長に異議なし!」
「賛成です!」
無事にオレは学級委員長に就任した。
学級委員長はけっこう忙しいと聞く。
これによりサッカーの自主練習の時間は、前より少なくなる可能性もあった。
(オレも変わらなきゃ……だ!)
でもオレは後悔をしていかなった。
自分に足りないモノを探すために、新たなる分野にも挑戦していくのであった。
こうして自分を高めるために、《リベリーロ弘前のチームキャプテン&学級委員長》という二足の草鞋に挑戦するのであった。




