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素人おっさん、第二の人生でサッカーライフを満喫する 作者:ハーーナ殿下@青森県弘前市
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第38話:3回目の全国大会

 日本に帰国してから月日が経つ。
 季節は5年生の12月下旬の冬になっていた。

「うわー。相変わらず、凄い人の数だね!」

 一年ぶりに訪れた全国大会の熱気に、オレは今年も興奮する。
 そう……今年も全日本少年サッカー大会がスタートして、オレたちのチームも開催地に到着したのだ。

「やっぱり鹿児島は12月の冬でも暖かいな」

 今年も開催地は鹿児島県のスポーツセンター。
 全国から集まった、48都道府県のチームの選手と関係者。総勢千人以上の人の熱気で、会場は賑わっていた。

「おー、今年は新しいブースがあるのか? おお、あのボールは限定品かな? 欲しい!」

 全国大会の会場の周辺は、今年もお祭り雰囲気である。
 スポンサーのイベントブースのテントが立ち並び、いろんな体験コーナーがある。

 今年で三回目の参加。サッカー少年でありサッカーオタクであるオレには、夢のような空間だ。

 オレはそんな夢の空間を通り過ぎて、チームの皆と一緒にアップグラウンドに向かう。
 ここで試合前に身体を温めておくのだ。

「おい、あれは……?」
「ああ、そうだ……」
「昨年の……」
「リベリーロ弘前ひろさきだ……」

 アップグラウンドに到着した時である。

 ん?

 何やら周りの人たちから、視線が集まっているぞ。
 それにヒソヒソ話で、何か言われているような気がする。

 もしかしたらオレが恥ずかしい行為でもしていたのかな?
 鳥のフンが付いていないか、背中を一応確認してみる。

「コータ、お前じゃなくて、チームが注目されているんだ」
「あっ、キャプテン。そうか、そういうことか」

 忘れていたが、オレたちは昨年の全国大会の覇者である。
 だから周りのチームの注目を浴びていたのであろう。
 鳥のフンじゃなくて良かった。

 それにしても、こんなに周囲から注目されるのは初めてだ。
 Jリーグの名門ジュニアチームまで、こっちを見ている。

 他のチームのみんなは、試合前で気合が入っていた。かなり険しく緊張した空気だ。

 注目の視線が、針のように突き刺さってくる。ざわつきが雑音となり心を乱してきた。

「うっ……」
「なんか……やりづらいな……」

 リベリーロの皆は、その険しい空気に息を飲んでいた。
 全国大会の独特の空気に、飲まれてしまっていたのだ。

 これはマズイ状況である。
 試合前にこんなにプレッシャーなら、集中力が擦り減ってしまう。

 何とかしないと。

「おい!」

 その時である。
 一緒にいたヒョウマ君が口を開く。
 同時に練習用にゴールに向かって、勢いよくボールを蹴り込む。

 ボールはそのまま凄い勢いでゴールポストに当たり、ヒョウマ君の足元に跳ね返ってくる。

「す、すげえ、シュート力だ……」
「まだ、ポストが揺れているぞ……」
「それにコントロールも見たか? やばいぞ……」
「バカな……狙って蹴ったのか……?」

 グランドの注目が一気に集まる。
 それほどまでにヒョウマ君のシュートは凄かった。

 金属製のゴールポストは震わせる、強烈なシュート力。更に狙って戻ってくる、正確なコントロールだったのだ。

「あいつが前回の得点王の澤村ヒョウマだぞ……」
「小学生なのにU-15日本代表に選ばれた……
「国際試合で合計5得点も入れた……」

 ヒョウマ君の凄まじいシュートに、周りの選手たちは言葉を失う。
 たった一発のシュートで外野を黙らせたのだ。

「さあ、キャプテン。アップをしようぜ」
「ああ。ありがとな、澤村。よし、みんないくぞ!」
「「「はい、キャプテン!」」」

 ヒョウマ君のお蔭で、チームはいつもの雰囲気に戻る。
 全国大会で注目されたプレッシャーから、無事に解放されていた。

 この分なら皆は本来の力を発揮できるであろう。本当によかった。

「皆のために、ありがとう、ヒョウマ君。相変わらず、凄いね!」
「ふん。オレ様がやらなくても、コータが何かやっていたんだろう?」
「えへへ……バレていたか」

 オレもチームメイトをプレッシャーから解放するために、動こうとしていた。
 どうやらヒョウマ君にはバレていたようだ。

 何しろ極度の緊張感の中では、サッカーは本来の力を発揮できない。
 国際試合を経験したオレはその怖さを、身をもって知っていたのだ。

「ところで、コータ。今回の全国大会は連覇できると思うか?」
「連覇? えっーと……」

 パス練習をしながらヒョウマ君に聞かれる。
 オレは練習しながら、周りの他チームを観察していく。

 さすがは全国大会まで勝ち抜いてきた各チーム。
 どこもかなり強そうに見える。

「うーん、よく分からないかも。でも、楽しんでいこう」

 正直なところ今年の全国大会は、事前の情報収集をしていなかった。
 オレは日本代表の方に手一杯で、一生懸命だったのだ。
 むしろ自分たちチームが地区大会と県大会に挑む時の方が、緊張していたかもしれない。

 県大会を終えて、日本代表から帰国してから、この1ヶ月間。
 オレはチームメイトたちと自主練習と、チーム練習を純粋に励んできた。
 まるで無心のように練習してきたから、情報収集を忘れていたのだ。

「『よく分からない』か。だが、その方がコータらしいな」
「うん、そうかもね。今回はリラックスして楽しめそうな気がする」

 去年の全国大会では常に緊張してきた。
 強敵を決勝で倒すという目標に燃えていた。
 その分だけ気合は入っていたが、サッカーを楽しむ心が少なかったようが気がする。

「今年はチームのみんなも成長しているし、楽しいサッカーが出来ると思うよ」

 今年のチームの仕上がりが、事前の予想以上であった。
 アップ練習しているチームメイトたちを観察していく。



 まず主力であるキャプテンたち6年生は、全国クラスの守備力を身に着けている。
 更に県トレセンにも3名も選ばれて、個人技も高い。

 次に5年生。
 オレたち以外の5年生も、かなり成長していた。
 彼らはレギュラーとして数人がベンチ入りしている。
 個人技も高く、来年は地区か県のトレセンの候補にも挙がっているらしい。

 最後に4年生。
 後輩たちも頑張っていた。
 先発レギュラーはまだ誰もいないが、全員が4月から急激に成長していた。
 今回の全国大会でも、勝ち試合には4年生も経験のために出す作戦だという。
 来年に向けて、今年からすでに動いていたのだ。

 こうやって見ると、リベリーロ弘前ひろさきの総合力はかなり高い。

「ねえ、お兄ちゃん! 今のあおいのパス見た?」

 そういえば4年生の中でも、別格な選手を一人忘れていた。

「うん。凄いね、葵」

 アップグラウンドでキレのあるシュートを放った、妹の葵のことだ。
 女の子で4年生でありながら、リベリーロ弘前の不動のレギュラー選手である。

「えへへ……お兄ちゃんに褒められちゃった。葵、試合でもチームのために頑張る!」

 葵はこの2ヶ月間では信じられない位に、急成長していた。
 以前の葵はどちらかといえば、個人プレイが多かった。

 だが今では攻撃だけではなく、ゲームメイクもできるようなっていたのだ。
 オレとヒョウマ君が代表で、いなかった時期のチームの穴。それを必死で埋めようとした意識的な効果であろうか。
 チームのために献身的にプレイをするようになっていたのだ。

「あっ、でも一番はお兄ちゃんのために頑張る!」

 どうやら甘えん坊なところは、まだ直っていなかったようだ。
 オレがいると、どうしても子供っぽくなってしまう。

 でも、オレが司令塔に戻ってきた分だけ、葵は攻撃に専念できる。
 今回の全国大会でも華麗なプレイで、得点を量産してくれるであろう。


「おい、コータ。よそ見をするな!」
「ごめん、ヒョウマ君。ん? 今のパスは……?」

 練習していたヒョウマ君から、何か凄いパスがきた。
 一見すると普通のパスなんだけど、ヒョウマ君から意志が伝わってきた。
 次のプレイをボールに乗せた、完璧に近いパスだったのだ。

「ふん。国際試合では、パスも大事だったからな。パスでもコータには負けない」
「なるほど、さすがはヒョウマ君だね」

 そういえばリベリーロ弘前で一番すごい選手を、忘れていた。
 こんな感じで才能に溢れているのに、誰よりも負けず嫌いな、影の練習魔。
 チームのスーパーエースの“皇帝カイザー”こと澤村ヒョウマ君のことを。

 ちなみにオレの能力のことは自分では分からないので、今回も戦力考察から除外しておく。
 オレはいつものように全力でプレイするしかない。

「今年も一生懸命にプレイして、楽しんで……連覇しようね!」
「コータ。相変わらず、図太い神経だな。ああ。軽く蹴散らしてやるか」

 こんな、いい雰囲気のままオレの3回目の全国大会はスタートした。



 全国大会は48チームによる予選リーグ。
 それを勝ち抜いた16チームにトーナメント戦の戦いである。

 合計で3日間の激戦を勝ち抜いた、最後の2チーム……4日目の決勝戦への切符を手にすることができるのだ。

 そんな中。
 オレたちリベリーロ弘前ひろさきは無事に勝ち進んでいた。
 そして遂に決勝戦まで駒を進めていくのだ。

ピッピー!

 決勝戦の試合終了のホイッスルが、芝生のピッチに響き渡る。

 試合結果は3対1でリベリーロ弘前の勝利。

 オレたちは全国大会を連覇することができたのだった。

 終わってみると、あっとう間の4日間。

 でも激戦ばかりが続いて、本当に大変な4日間だった。
 本当に楽しい毎日だった。

「ふう……今年は本当に、色んなことがあったな……」

 オレは決勝戦の競技場で冬の空を仰ぐ。

 チームの新年度態勢と初めての後輩たち。
 初めてナショナルトレセンの合宿に参加。
 そして極めつけはU-15日本代表への召集と、国際試合への挑戦

 今思い返しても、本当に濃い1年間だった。

「来年は4月から、ボクも6年生か……早いものだな……」

 こうして今年最後の試合、全国大会を有終の美を飾ることができたのだ。
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