第37話:【閑話】将来ヨーロッパでプレイするアジアの15歳の選手カルロの話
《将来ヨーロッパでプレイするアジアの15歳の選手カルロの話》
U-15のアジア選手権の三試合が終わった。
私の祖国のチームは2勝1敗という好成績を収めていた。
初戦の日本代表との戦いに勝っていれば、3戦全勝だとう関係者もいた。
だが、あの日本相手に善戦しただけでも、私は満足していた。
「やあ、カルロ。ナイスプレイだった。お疲れさま」
カルロは私の愛称……試合後の私に話しかけてくる男がいた。
彼はヨーロッパの有名クラブのスカウトマンである。
アジア担当のこの男は、1年くらい前から私に接触してきたのだ。
「今年のU-15のアジア大会は、これで終わりだ。契約通りに、うちのチームに入団する準備をしておいてくれ、カルロ」
「はい、分かりました」
1年前に私はこの男にスカウトされていた。
祖国のU-14で成績を出した、私の才能を見出してくれたのだ。
契約によると今回の代表デビューを機に、私はヨーロッパのチームに移籍となる。
夢だった大舞台のビッグクラブに、いよいよ私は入団できるのだ。
「カルロは今大会でも好成績だったので、クラブの幹部も納得してくれるであろう!」
スカウトマンは私のプレイを高評価してくれた。
祖国の代表デビューでは、私は3試合で合計6得点を上げていた。
「欲を言えば初戦の日本との戦いも、あのまま2対0で勝ってくれたら、私のスカウトボーナスも上がったのだか……はっはっは……これはジョークだ」
スカウトマンは軽いジョークで笑い声を上げる。
彼らの仕事は、世界中に眠っている未発掘のサッカー少年を見つけ出すこと。
実際のところ彼のチームは、歩合制だと噂で聞いている。
「でも、初戦の日本代表に勝つのは難しかったです。なぜならアノ14番がいたから」
「日本の14番……? 誰だ? 覚えていないな」
私のつぶやきに、スカウトマンは首を傾げる。
彼も今大会は全て見ていたはず。
だが日本の代表には印象に残る選手はいなかったという。
「日本人は礼儀正しくて、扱いやすい。だが我がクラブでは通用しない! はっはっは……」
この男の所属するクラブは、個人技や攻撃力を重視していた。
だから初めから日本代表のことを、あまり注目していなかったのであろう。仕方がないことだ。
「あえて選ぶとしたら、日本の11番……ピューマ・サムライだったかな? 彼は面白いと思う。将来的にはヨーロッパのどこかのクラブに、スカウトされる確率は高いかもしれない」
スカウトマンは日本の11番の方がお気に入りだったという。
11番ヒョウマ・サワムラか……彼も14番と二人で、後半の45分間、私のマンマークついていた選手だ。
たしかに彼も素晴らしい才能の選手であった。
おそらく本来は攻撃のFWが本職なのであろう。
だが、それにもかかわらず14番との見事な連携で、後半の私にまったく仕事をさせなかったのだ。
更に最後には11番は逆転ゴールまで決めていた。彼には私と同じ天性の才能を感じた相手だった。
スカウトマンの評価と同じく、彼の評価も私はかなり高い。
「でも私は14番の方が評価は高いです。将来、彼はとんでもない選手になると思います」
それ以上に私が14番に対する評価は高い。
これは45分間、ずっと密着マークされていた私だからこそ、言える評価だ。
14番の身体能力はそれほど高くはない。才能に関しても私や11番にも及ばないであろう。
だが対峙した瞬間に私は感じた。
『14番は恐ろしい選手』だと。
彼は私の全ての動きを先読みして、攻撃手段を封じ込めてきた。
予知能力に近いほどの反射神経で、私のパスを全てカットしてきた。
更に時おり繰り出してくる不思議なフェイント……あんな技を私は見たこともなかった。
対峙していただけゾッとする選手であった。
そしてプレイしているだけで、心が踊る相手であった。
その上まだ11歳のジュニアだと言うのだから、馬鹿げた話である。
14番が成長していったら、どんな化け物に完成するか想像もできない。
「また14番か? 映像が残っていたら、見てみるよ。はっはっは……」
スカウトマンはまたジョークで高笑いしていた。
この分では映像を探すことすらしないであろう。
まあ、私を見出してくれたことには感謝している。これ以上は何も言わないでおこう。
(そうだ。彼のユニフォームは、大事にしておこう)
初戦の試合後にユニフォーム交換をしてもらった。
私がユニフォーム交換をしたのは、人生で初めてであった。
それほどまでに、14番のことが凄い選手だと敬意を払っていたのだ。
(彼とは、また戦うことがあるだろう……)
14番は各スカウトマンたちの目に止まりにくい選手である。
だが、いつかは世界の大舞台に出てくるであろう。
その時、彼と対戦できることを、私は楽しみしておくのであった。




