表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/157

第36話:国際試合の後

ピッピー!


 試合終了のホイッスルが、国際スタジアムに響き渡る。

 直後、満員の観衆から歓声が上がる。


「ふう……3対2か。何とか、勝てたな」


 スタジアムの大型掲示板を見ながら、ピッチにいたオレ感慨にふける。

 前半は0対2で負けていた。

 それを後半の45分間で、なんと逆転の成功したのだ。


「それにしても、凄い大歓声だな……」


 後半の見事な逆転劇に、観客は大興奮していた。

 果敢に攻め続けた日本代表に、称賛の声を送ってきた。


 何を言っているか、言葉は分からない。

 だがサッカーの熱気に国境はない。観客の称賛の声が、確かに伝わってくる。


「いや……それにしても、疲れた試合だったな……」


 オレは倒れ込みそうになる。それを気力で必死に抑える。


 後半の45分だけの出場だったが、自分の体力の全てを消費していたのだ。

 残り体力は2%といったところであろう。かなりキツイ。


 本当はこのまま芝生の上に、寝転がりたい。

 だが今のオレは世代別とはいえ日本代表。この胸の日の丸にかけて、無様に倒れ込む訳にはいかなった。


 それに、もうすぐやってくる“津波”に対抗するため、ここに倒れ込む訳にはいかないのだ。


「やったなー、コータ!」

「凄かったぞ、野呂!」

「マジよ、コータ!」


 きた!


 勝利に興奮したチームメイトが、駆け寄ってきた。

 立ち尽くしていたオレに、全力でダッシュしてくる。

 オレの背中と頭を、全力でバンバン叩いてくる。

 

 4歳も年上の中学生の力は、半端なく痛い。

 この叩く行為は、サッカー業界の祝いの儀式なのであろうか?

 いつもオレは叩かれていた。


「いてて……ボクは守備とパスを頑張っただけです。逆転できたのは、皆さんのお蔭です……いてて……」


 謙虚に答えても、祝いの儀式は容赦ない。

 チームメイトたちは興奮して、聞く耳をもたなかった。

 彼らもスタジアムの熱気に、影響されていたのかもしれない。


「み、みなさん、冷静に。整列をして挨拶を……」

「おっ、そうか!」

「よし、後でまたな、コータ!」


 試合後は観客や審判、関係者に向かって挨拶をしないといけない。

 オレの言葉にチームメイトは冷静に戻る。

 だが、その様子では、後でまた祝福の激があるのであろう。頑張って耐えないと。


「「「ありがとうございました!」」」


 試合後、両チームの選手は観客と、審判に向かって挨拶をする。

 その後は、この外国まで応援に駆けつけてくれたサポート団にも、挨拶に向かう。


 国際A代表とは違い、U-15世代別の日本代表はマイナー。応援に来てくれるサポートの数も、正直なところ少ない。


 それでもサポーターの応援は、このスタジアムに響いていた。

 彼らの日本語の応援があったからこそ、オレたちも最後まで戦えたのだ。

 日本代表のサポーターに向かってに、オレは深々と頭を下げる。


 ふう……これで試合は終わりか。

 ようやく少しだけ冷静になってきた。


『ヘイ、日本ジャパン14番!』


 そんな時である。

 日本代表でも14番な人……オレは英語で、誰かに話かけられる。


 いったい誰だろう?

 今ここには関係者と選手しかいないのに?


「あっ、君は……」


 声をかけてきたのは、相手のエースの選手であった。

 オレが後半45分間、ずっとマンマークに付いていた相手だ。

 

 もしかしたら怒っているのかな?

 オレとヒョウマ君の影響で後半、彼は無得点だった。そのせいで彼の国も負けてしまったのだ。


『ナイスプレイだった、14番。君の名前は?』

『ボクの名前はコータ・ノロです』

『コータか……ところで、コータは小さいけど何歳だ? まさか13歳か?』

『いえ、ボクは11歳です』

『オー、なんと⁉ ワンダーボーイだったのか⁉ そうだ、オレとユニフォーム交換をしてくれ!』

『ユニフォーム交換を? はい、ボクでよければ、どうぞ』


 こんな感じの流れで相手のエースの人と、ユニフォームをすることになった。

 身長差がありすぎて、大人と子どものサイズ差の交換会だった。


『また、いつか戦おう! コータ・ノロ!』

『はい、また!』


 相手の人は怒っていなかった。

 それどころか『ナイスプレイ!』と、オレのことを褒めてくれたのだ。


 やはりサッカーには国境の壁はないのかもしれない。

 思っていたよりも良い人だった。感動した。


 あっ!

 そういえばユニフォームにサインを、貰うのを忘れていた。

 

 あの人は将来的に、ヨーロッパリーグの有名選手になる予定の人だ。

 そんな凄い人のU-15時代の。しかも代表デビュー戦のユニフォームを、オレは貰ったのだ。

 

 サインがついたら将来的に、更に価値が上がること間違いない。

 サッカーオタクのオレにはよだれモノのお宝だ。


「あっ、行っちゃったか……もうサインは無理か」


 いつの間にか競技場から、去っていなくなっていた。

 またいつか出会う時があれば、サインを貰えるといいな。

 今度はサインペンをベンチに忍ばせておこう。


「おい、コータ……」

「お前、英語を話せたのか?」

「それにかなりペラペラだったぞ……」


 日本代表のチームメイトが驚いていた。

 オレがさっきの会話を聞いていたのであろう。


 前世で社会人だったオレは、海外の仕事も担当していた。そのお陰で日常英会話は覚えていたのだ。

 

 だが今のオレは地方の小学生5年生。これは失態だった。

 何とかしてごまかさないと……。


「えーと、ボクは海外のサッカー動画を見ていたら、英語は覚えました……」


 とりあえず、そう言ってごまかしておく。

 チームメイトたちは首をかしげるながら、納得していた。


 危ない、危ない。

 つい英語を使ってしまった。

 今度からは気を付けよう。


「よし、ロッカールームに戻るぞ!」

「「「はい!」」」


 監督から声が飛んできた。

 浮かれるのはここまでだ。


 今回の国際試合は明日からも、2日間続いていく。

 今日の反省会をしながら、次の試合に向けて準備をしていくのだ。



 その後のことである。

 ロッカールームで代表監督は上機嫌であった。

 後半戦の戦術変更とポジションチェンジについては、特に突っ込まれなかった。


 むしろ、見事なほどの作戦変更を、監督も褒めてきた。


「えーと、あれはチームメイトの皆で考えたお蔭です」


 監督には、オレの方から上手く説明をしておく。大人たちにはオレの作戦ことは、内緒にしておいたのだ。


 これはキャプテンや他の選手たちと相談したことだった。

 なんかあった時に“小学生5年生一人に責任を負わせない!”そんな年上の優しさに、オレは守られていたのだ。


「あと今回の勝利は、監督のお陰です」


 最後に監督にも、花を持たせておく。

 マスコミ的には今回の勝利は、監督采配ということにした。

 これで監督も更に上機嫌になる。


 日本サッカー業界の中では、監督も中間管理職である。

 逆転勝利という花を持たせてあげると、今後もやりやすいであろう。


「よし、明日以降の試合も、今日のシステムでいく!」

「「「はい、監督!」」」


 上機嫌の監督は、今日のオレの作戦を気にいってくれたようだ。

 大会の残り2試合も、同じシステムを採用してくれた。


(これで歴史が前より、良い方に変わっていくかな……?)



 オレのその予想は見事に的中していく。

 残りの2試合も、日本代表は勝利することができたのだ。


 前世ではこの大会では“0勝2敗1引き分け”だった。

 それを今世では“3勝0敗”という好成績に変えられたのだ。


 “初戦で勝てた勢い”+“この年代別の本来の力の覚醒”


 この強い二つの力で、“どん底世代”になる運命を回避することができたのだ。

 本当によかった。


「チョット、いいデスか?」


 三試合目が終わってホッとしていた、その時である。

 競技場のトイレか出てきたオレに、話しかけてきた大人がいた。

 片言の日本語で、いったい誰だろう?


「あ。あなたは」


 振り向いた先にいたのは、サングラスをかけた白人系の外人である。

 ヒゲも真っ白なおじいちゃんである。


「あなたは、去年の全国大会の……」

「オー、覚えてイタノデスカ? うれしいデス!」


 その人は去年の全国大会で出会った老人であった。

 閉会式の後に話をした人である。


「私はアナタの3日間のプレイに、感動シマシタ!」

「見ていたんですか? それはありがとうございます!」


 そういえば、この人はオレのファンだった。

 今回のU-15でのプレイのことを、凄く褒めてくれる。


「あなたのプレイのお蔭で、U-15ジャパンのプレイは大きく変わりマシタシタ! 選ンダ私の目に、狂いはナカッタデス!」


 かなりのサッカーマニアなのであろう。

 誰に気が付かない、オレの地味なプレイまで褒めてくれる。


 やっぱりヨーロッパのサッカーファンは、試合を観る目が肥えているのかもしれない。

 話しているだけで、オレも上機嫌になってきた。


「何か、困ったことがアレば、いつでも私に連絡してクダサイ!」

「メアド? はい、外国で困ったことがあれば、メールで相談します」


 老人はメールアドレスが書いた紙をくれた。

 オレも自分のアドレスを渡して、連絡先を交換する。

 サッカー選手たるもの、ファンも大事にしないといけない。


「じゃあ、ボクは戻るので。またね、オジイちゃん!」


 そろそろロッカールームに戻らないといけない。

 陽気なサッカーファンの老人に挨拶して、オレは戻っていく。


 それにしても、こんなU-15のアジア大会まで観戦に来るとは、本当にサッカー好きなんだろうな。

 サッカーについても詳しいみたいなので、オレも話しているだけで楽しい気分になる。


 あれ?


 でも、さっきのトイレは関係者以外は立ち入り禁止の場所。

 どうやって入ってきたのかな?

 あの人の後ろに、スーツを着た日本人の付添人がいたような気がするけど。


 それに『選んだ私の目に、狂いはなかったです』って言っていたけど、あれはどういう意味だったんだろう?

 もしかしたらサッカー協会の関係者だったのかな。


 それにサングラス下のあの顔は、どっかで見たきがする。

 前世のTV番組で視たような気がする……


 うーん。

 でも思い出せない。


 まっ、いっか。

 また、どこかのスタジアムで会えるかもしれない。

 その時にでも聞いてみよう。


 そんな感じでオレは代表メンバーに合流するのであった。



 そして月日は流れ11月になる。

 この月にもアジアで国際親善試合があった。

 

 連続してオレとヒョウマ君は召集された。

 前回の反省では二人ともスタミナ的に、まだ90分のフル出場をすることは出来なかった。

 だが親善試合でも後半の45分。オレたちは切り札として出場できた。


 こんな感じでU-15の新しいシステムは順調に進んでいた。

 国際試合で勝利を重ねて、選手たちにも自信が付いていく。


 すでに前世での泥沼による悪循環はもうない。

 連勝による好循環で、全員が大幅に成長していった。


 いつの間にか、このU-15は“サンシャイン世代”と呼ばれていた。

 歴史は大きく明るく変わっていたのだ。


 そんな11月の国際親善大会も、順調に終わろうとしていた。


「ふう、ヒョウマ君、お疲れさま!」

「ああ。コータ、お前もな」


 今日の試合も無事に勝てた。

 遠い異国の地でオレは、ヒョウマ君と勝利の美酒を分かち合う。


「ボクたちU-15は一応、今日の試合で終わりだよね?」

「ああ。来年はどうなるか、新監督次第だ」


 今年のU-15の全ての試合スケジュールは、先ほど無事に終わった。

 代表メンバーはここで一度解散となる。


 来年のU-15の監督は、新しい別の人が決定していた。

 オレとヒョウマ君が、世代別の代表に召集されるかは、今のところ不明。新監督のシステム次第だった。


「あそっ⁉ そういえば、ヒョウマ君。日本でも試合が終わっている頃だね!」

「県大会の決勝戦か? ああ、そうだったな」


 オレたちのチームのリベリーロ弘前ひろさきは、なんと県大会の決勝戦まで勝ち進んでいたのだ。


 先月の10月の地区大会は、無事に優勝していた。

 最後の難関。全国大会への切符を勝ち取るため今日まさに、県大会の決勝戦に挑んでいたのだ。


「ちょっと、メールを見てみるね!」


 父親から借りていた、タブレットを起動する。

 試合を応援に行っているオレ親から、県大会の結果の連絡が入っているはずだ。


「大丈夫かな……あおいたち……」


 ドキドキしながらメールを選択する。

 2ヶ月前のオレの予想では、チームが県大会で優勝できる確率は50%であった。

 

 オレとヒョウマ君抜きの試合結果を見るのが、本当に心臓に悪い。

 もしも負けていたら、どんな顔で帰国すればいいのか。


「大丈夫、コータ。仲間を信じろ」

「そうだね……チームの皆は、2ヶ月前から、何倍も成長していたからね!」


 ヒョウマ君の言葉に勇気を貰う。

 そうだ。リベリーロ弘前は本当に強くなった。

 オレは勇気を出してメールを開く。


「あれ? 文章が無いな? 添付写真が一枚だけ?」


 メールは無題の白紙本文だった。

 少し嫌な予感がする。

 オレは添付された1枚の写真を、更に開封する。


「あっ、これは……そういう、ことか。みんな、いい笑顔だね、ヒョウマ君」


 写っていたのは、チームメイトの集合写真だった。

 県大会の優勝のトロフィーと賞状を持って、満面の笑みを浮べている仲間だった。

 妹の葵が中心になって、全員で写っている。


「ああ。頼もしい仲間たちの笑顔だな」


 リベリーロ弘前は全国大会への切符を、無事に手に入れていた。

 ヒョウマ君とオレ抜きでも、県大会で優勝したのだ。


「さあ。我がチームに帰ろう、ヒョウマ君!」

「ああ、そうだな」


 こうして初の代表の日々は終了となる。

 日本で待っている仲間の元に、オレたちは戻るのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 前回の大会で優勝したから主人公たちの県は2チーム全国大会に出れるはずだよね? だから決勝で負けても別に大丈夫だからそんなに嫌な予感とかを感じたりしないような
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ