第36話:国際試合の後
ピッピー!
試合終了のホイッスルが、国際スタジアムに響き渡る。
直後、満員の観衆から歓声が上がる。
「ふう……3対2か。何とか、勝てたな」
スタジアムの大型掲示板を見ながら、ピッチにいたオレ感慨にふける。
前半は0対2で負けていた。
それを後半の45分間で、なんと逆転の成功したのだ。
「それにしても、凄い大歓声だな……」
後半の見事な逆転劇に、観客は大興奮していた。
果敢に攻め続けた日本代表に、称賛の声を送ってきた。
何を言っているか、言葉は分からない。
だがサッカーの熱気に国境はない。観客の称賛の声が、確かに伝わってくる。
「いや……それにしても、疲れた試合だったな……」
オレは倒れ込みそうになる。それを気力で必死に抑える。
後半の45分だけの出場だったが、自分の体力の全てを消費していたのだ。
残り体力は2%といったところであろう。かなりキツイ。
本当はこのまま芝生の上に、寝転がりたい。
だが今のオレは世代別とはいえ日本代表。この胸の日の丸にかけて、無様に倒れ込む訳にはいかなった。
それに、もうすぐやってくる“津波”に対抗するため、ここに倒れ込む訳にはいかないのだ。
「やったなー、コータ!」
「凄かったぞ、野呂!」
「マジよ、コータ!」
きた!
勝利に興奮したチームメイトが、駆け寄ってきた。
立ち尽くしていたオレに、全力でダッシュしてくる。
オレの背中と頭を、全力でバンバン叩いてくる。
4歳も年上の中学生の力は、半端なく痛い。
この叩く行為は、サッカー業界の祝いの儀式なのであろうか?
いつもオレは叩かれていた。
「いてて……ボクは守備とパスを頑張っただけです。逆転できたのは、皆さんのお蔭です……いてて……」
謙虚に答えても、祝いの儀式は容赦ない。
チームメイトたちは興奮して、聞く耳をもたなかった。
彼らもスタジアムの熱気に、影響されていたのかもしれない。
「み、みなさん、冷静に。整列をして挨拶を……」
「おっ、そうか!」
「よし、後でまたな、コータ!」
試合後は観客や審判、関係者に向かって挨拶をしないといけない。
オレの言葉にチームメイトは冷静に戻る。
だが、その様子では、後でまた祝福の激があるのであろう。頑張って耐えないと。
「「「ありがとうございました!」」」
試合後、両チームの選手は観客と、審判に向かって挨拶をする。
その後は、この外国まで応援に駆けつけてくれたサポート団にも、挨拶に向かう。
国際A代表とは違い、U-15世代別の日本代表はマイナー。応援に来てくれるサポートの数も、正直なところ少ない。
それでもサポーターの応援は、このスタジアムに響いていた。
彼らの日本語の応援があったからこそ、オレたちも最後まで戦えたのだ。
日本代表のサポーターに向かってに、オレは深々と頭を下げる。
ふう……これで試合は終わりか。
ようやく少しだけ冷静になってきた。
『ヘイ、日本14番!』
そんな時である。
日本代表でも14番な人……オレは英語で、誰かに話かけられる。
いったい誰だろう?
今ここには関係者と選手しかいないのに?
「あっ、君は……」
声をかけてきたのは、相手のエースの選手であった。
オレが後半45分間、ずっとマンマークに付いていた相手だ。
もしかしたら怒っているのかな?
オレとヒョウマ君の影響で後半、彼は無得点だった。そのせいで彼の国も負けてしまったのだ。
『ナイスプレイだった、14番。君の名前は?』
『ボクの名前はコータ・ノロです』
『コータか……ところで、コータは小さいけど何歳だ? まさか13歳か?』
『いえ、ボクは11歳です』
『オー、なんと⁉ ワンダーボーイだったのか⁉ そうだ、オレとユニフォーム交換をしてくれ!』
『ユニフォーム交換を? はい、ボクでよければ、どうぞ』
こんな感じの流れで相手のエースの人と、ユニフォームをすることになった。
身長差がありすぎて、大人と子どものサイズ差の交換会だった。
『また、いつか戦おう! コータ・ノロ!』
『はい、また!』
相手の人は怒っていなかった。
それどころか『ナイスプレイ!』と、オレのことを褒めてくれたのだ。
やはりサッカーには国境の壁はないのかもしれない。
思っていたよりも良い人だった。感動した。
あっ!
そういえばユニフォームにサインを、貰うのを忘れていた。
あの人は将来的に、ヨーロッパリーグの有名選手になる予定の人だ。
そんな凄い人のU-15時代の。しかも代表デビュー戦のユニフォームを、オレは貰ったのだ。
サインがついたら将来的に、更に価値が上がること間違いない。
サッカーオタクのオレには涎モノのお宝だ。
「あっ、行っちゃったか……もうサインは無理か」
いつの間にか競技場から、去っていなくなっていた。
またいつか出会う時があれば、サインを貰えるといいな。
今度はサインペンをベンチに忍ばせておこう。
「おい、コータ……」
「お前、英語を話せたのか?」
「それにかなりペラペラだったぞ……」
日本代表のチームメイトが驚いていた。
オレがさっきの会話を聞いていたのであろう。
前世で社会人だったオレは、海外の仕事も担当していた。そのお陰で日常英会話は覚えていたのだ。
だが今のオレは地方の小学生5年生。これは失態だった。
何とかしてごまかさないと……。
「えーと、ボクは海外のサッカー動画を見ていたら、英語は覚えました……」
とりあえず、そう言ってごまかしておく。
チームメイトたちは首をかしげるながら、納得していた。
危ない、危ない。
つい英語を使ってしまった。
今度からは気を付けよう。
「よし、ロッカールームに戻るぞ!」
「「「はい!」」」
監督から声が飛んできた。
浮かれるのはここまでだ。
今回の国際試合は明日からも、2日間続いていく。
今日の反省会をしながら、次の試合に向けて準備をしていくのだ。
◇
その後のことである。
ロッカールームで代表監督は上機嫌であった。
後半戦の戦術変更とポジションチェンジについては、特に突っ込まれなかった。
むしろ、見事なほどの作戦変更を、監督も褒めてきた。
「えーと、あれはチームメイトの皆で考えたお蔭です」
監督には、オレの方から上手く説明をしておく。大人たちにはオレの作戦ことは、内緒にしておいたのだ。
これはキャプテンや他の選手たちと相談したことだった。
なんかあった時に“小学生5年生一人に責任を負わせない!”そんな年上の優しさに、オレは守られていたのだ。
「あと今回の勝利は、監督のお陰です」
最後に監督にも、花を持たせておく。
マスコミ的には今回の勝利は、監督采配ということにした。
これで監督も更に上機嫌になる。
日本サッカー業界の中では、監督も中間管理職である。
逆転勝利という花を持たせてあげると、今後もやりやすいであろう。
「よし、明日以降の試合も、今日のシステムでいく!」
「「「はい、監督!」」」
上機嫌の監督は、今日のオレの作戦を気にいってくれたようだ。
大会の残り2試合も、同じシステムを採用してくれた。
(これで歴史が前より、良い方に変わっていくかな……?)
◇
オレのその予想は見事に的中していく。
残りの2試合も、日本代表は勝利することができたのだ。
前世ではこの大会では“0勝2敗1引き分け”だった。
それを今世では“3勝0敗”という好成績に変えられたのだ。
“初戦で勝てた勢い”+“この年代別の本来の力の覚醒”
この強い二つの力で、“どん底世代”になる運命を回避することができたのだ。
本当によかった。
「チョット、いいデスか?」
三試合目が終わってホッとしていた、その時である。
競技場のトイレか出てきたオレに、話しかけてきた大人がいた。
片言の日本語で、いったい誰だろう?
「あ。あなたは」
振り向いた先にいたのは、サングラスをかけた白人系の外人である。
ヒゲも真っ白なおじいちゃんである。
「あなたは、去年の全国大会の……」
「オー、覚えてイタノデスカ? うれしいデス!」
その人は去年の全国大会で出会った老人であった。
閉会式の後に話をした人である。
「私はアナタの3日間のプレイに、感動シマシタ!」
「見ていたんですか? それはありがとうございます!」
そういえば、この人はオレのファンだった。
今回のU-15でのプレイのことを、凄く褒めてくれる。
「あなたのプレイのお蔭で、U-15ジャパンのプレイは大きく変わりマシタシタ! 選ンダ私の目に、狂いはナカッタデス!」
かなりのサッカーマニアなのであろう。
誰に気が付かない、オレの地味なプレイまで褒めてくれる。
やっぱりヨーロッパのサッカーファンは、試合を観る目が肥えているのかもしれない。
話しているだけで、オレも上機嫌になってきた。
「何か、困ったことがアレば、いつでも私に連絡してクダサイ!」
「メアド? はい、外国で困ったことがあれば、メールで相談します」
老人はメールアドレスが書いた紙をくれた。
オレも自分のアドレスを渡して、連絡先を交換する。
サッカー選手たるもの、ファンも大事にしないといけない。
「じゃあ、ボクは戻るので。またね、オジイちゃん!」
そろそろロッカールームに戻らないといけない。
陽気なサッカーファンの老人に挨拶して、オレは戻っていく。
それにしても、こんなU-15のアジア大会まで観戦に来るとは、本当にサッカー好きなんだろうな。
サッカーについても詳しいみたいなので、オレも話しているだけで楽しい気分になる。
あれ?
でも、さっきのトイレは関係者以外は立ち入り禁止の場所。
どうやって入ってきたのかな?
あの人の後ろに、スーツを着た日本人の付添人がいたような気がするけど。
それに『選んだ私の目に、狂いはなかったです』って言っていたけど、あれはどういう意味だったんだろう?
もしかしたらサッカー協会の関係者だったのかな。
それにサングラス下のあの顔は、どっかで見たきがする。
前世のTV番組で視たような気がする……
うーん。
でも思い出せない。
まっ、いっか。
また、どこかのスタジアムで会えるかもしれない。
その時にでも聞いてみよう。
そんな感じでオレは代表メンバーに合流するのであった。
◇
そして月日は流れ11月になる。
この月にもアジアで国際親善試合があった。
連続してオレとヒョウマ君は召集された。
前回の反省では二人ともスタミナ的に、まだ90分のフル出場をすることは出来なかった。
だが親善試合でも後半の45分。オレたちは切り札として出場できた。
こんな感じでU-15の新しいシステムは順調に進んでいた。
国際試合で勝利を重ねて、選手たちにも自信が付いていく。
すでに前世での泥沼による悪循環はもうない。
連勝による好循環で、全員が大幅に成長していった。
いつの間にか、このU-15は“サンシャイン世代”と呼ばれていた。
歴史は大きく明るく変わっていたのだ。
そんな11月の国際親善大会も、順調に終わろうとしていた。
「ふう、ヒョウマ君、お疲れさま!」
「ああ。コータ、お前もな」
今日の試合も無事に勝てた。
遠い異国の地でオレは、ヒョウマ君と勝利の美酒を分かち合う。
「ボクたちU-15は一応、今日の試合で終わりだよね?」
「ああ。来年はどうなるか、新監督次第だ」
今年のU-15の全ての試合スケジュールは、先ほど無事に終わった。
代表メンバーはここで一度解散となる。
来年のU-15の監督は、新しい別の人が決定していた。
オレとヒョウマ君が、世代別の代表に召集されるかは、今のところ不明。新監督のシステム次第だった。
「あそっ⁉ そういえば、ヒョウマ君。日本でも試合が終わっている頃だね!」
「県大会の決勝戦か? ああ、そうだったな」
オレたちのチームのリベリーロ弘前は、なんと県大会の決勝戦まで勝ち進んでいたのだ。
先月の10月の地区大会は、無事に優勝していた。
最後の難関。全国大会への切符を勝ち取るため今日まさに、県大会の決勝戦に挑んでいたのだ。
「ちょっと、メールを見てみるね!」
父親から借りていた、タブレットを起動する。
試合を応援に行っているオレ親から、県大会の結果の連絡が入っているはずだ。
「大丈夫かな……葵たち……」
ドキドキしながらメールを選択する。
2ヶ月前のオレの予想では、チームが県大会で優勝できる確率は50%であった。
オレとヒョウマ君抜きの試合結果を見るのが、本当に心臓に悪い。
もしも負けていたら、どんな顔で帰国すればいいのか。
「大丈夫、コータ。仲間を信じろ」
「そうだね……チームの皆は、2ヶ月前から、何倍も成長していたからね!」
ヒョウマ君の言葉に勇気を貰う。
そうだ。リベリーロ弘前は本当に強くなった。
オレは勇気を出してメールを開く。
「あれ? 文章が無いな? 添付写真が一枚だけ?」
メールは無題の白紙本文だった。
少し嫌な予感がする。
オレは添付された1枚の写真を、更に開封する。
「あっ、これは……そういう、ことか。みんな、いい笑顔だね、ヒョウマ君」
写っていたのは、チームメイトの集合写真だった。
県大会の優勝のトロフィーと賞状を持って、満面の笑みを浮べている仲間だった。
妹の葵が中心になって、全員で写っている。
「ああ。頼もしい仲間たちの笑顔だな」
リベリーロ弘前は全国大会への切符を、無事に手に入れていた。
ヒョウマ君とオレ抜きでも、県大会で優勝したのだ。
「さあ。我がチームに帰ろう、ヒョウマ君!」
「ああ、そうだな」
こうして初の代表の日々は終了となる。
日本で待っている仲間の元に、オレたちは戻るのであった。




