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素人おっさん、第二の人生でサッカーライフを満喫する 作者:ハーーナ殿下@青森県弘前市
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第32話:仲間たち

 コーチからU-15日本代表の話をされてから、3日が経つ。
 招集を受けるかどうか、オレはまだ悩んでいた。

「どうしよう……」

 練習場でリフティングをしながら、ため息をつく。
 今は早朝の5時。まだ薄暗い時間帯だ。
 実はオレは悩み過ぎて、目が覚めてしまったのだ。

 もちろん練習場には、まだ誰もいない。
 一人でリフティングしながら悩んでいたのだ。

「本当に、どうしよう……」

 悩んでいるのは、スケジュールのブッキングの件である。
 本当ならU-15日本代表の話は、是非とも受けたい。

 だがリベリーロ弘前と、代表とスケジュールが重なっていた。
 しかも、よりによって一番大事な地区と県大会。この二つにブッキングしていたのだ。

「オレとヒョウマ君の2枚抜きで、チームが地区と県大会に挑むか……」

 リフティングしながら、脳内でシュミレーションする。
 リベリーロ弘前ひろさきの現在の戦力と、今後の成長率を計算。
 地区と県内のライバルチームのデータを、今年度の練習試合から算出していく。

「くそっ……厳しい戦いになるな」

 リフティングしながら、顔をしかめる。
 地区大会なら80%位の確率で、優勝できるかもしれない。

 だが、その後の県大会は強豪そろい。50%位の確率で優勝を逃してしまう計算なのだ。

「やっぱり、どう考えても得点力が足りない……」

 ここ1年間のチームの得点力を計算していく。
 エースのヒョウマ君とオレの二人で、チーム総得点の7割を占めていた。
 つまり二人が抜けた状態では、攻撃力が7割も激減してしまうのだ。

 この状況ではどう計算をしても、県大会で優勝するのは難しい。
 つまり全国大会に出場することが、難しい計算だったのだ。

「じゃあ、U-15日本代表の招集を断るか……?」

 それは最終手段であった。
 何しろ年代別代表を断った後、どうなるか想像もできないのだ。
 もしかしたらサッカー協会の偉い人たちを、怒らせてしまうかもしれない。

 またリベリーロ弘前にも、迷惑をかけてしまう可能性もある。この時代のサッカー業界は、狭くて厳しい世界なのだ。

「U-15日本代表に参加しながら、大会の時だけ戻ってくる? いや、距離的に無理だ……」

 いろんな可能性をシュミレーションしてみる。
 だが、どんな作戦も絶対に不可能であった。

 それほどまでに運が悪く、スケジュールはブッキングしていたのだ。

「それならチームを見捨てて、全国大会を諦めるか? 来年に向けて頑張ればいいのか?」

 来年のリベリーロ弘前は、今年以上に総合力は上がっているであろう。
 それなら無理をしないで、来年に賭ける案もありかもしれない。

「いや……キャプテンたち6年生は、今年が最後の大会。来年はもういないんだぞ!」

 自分の愚かな策を、すぐさま頭から消し去る。
 今の6年生たちには本当にお世話になっていた。
 オレが小学1年生でチームに入会した時から、本当に世話になってきた。

 それに先輩たちがずっと努力してきたことを、オレは知っていた。

 ようやくレギュラーになれた時に、泣いていたことを見ていた。

 生意気な後輩のオレのことを、試合中はいつも守ってくれた。そのことも背中で感じていた。

「そんな先輩たちの夢を、諦める訳にはいかないよ……」

 今年の全国大会も絶対に諦めない。
 それならば他の策を考えないといけない。

 全員が後悔のないように、戦える道を探さないといけない。

「考えろ……考えろ……」

 考えるんだ、野呂コータ。
 お前は何のために、今までサッカーに生きてきたんだ。
 前世のサッカーの記憶と、経験から道を導きだすんだ。

「くそ、これもダメだ……くそっ、こっちもダメだ……」

 いろんな可能性を模索していく。
 でも、ことごとく計算が失敗してしまう。

 やはり、どうすることも出来ないのか?
 全国大会に今年のメンバーで行くのは、諦めるしかないのか?

「うっ……」

 つまずいて、リフティングに失敗してしまう。
 ボールを落とし、そのまま膝から崩れ落ちてしまう。

 立ち上がって、また考えないと。

 でも身体が鉛のように重くて、立ち上がれなかった。
 心が折れかけていた。

 模索する全ての可能性が、全て無くなってしまった。
 ぞくに言う“詰み状態”になったのだ。



「くそっ……えっ?」

 悔しさに泣き崩れようとした、その時である。

 いきなり一個のボールが、オレに向かって飛んできた。
 反射的に足でトラップして、受け止める。

「えっ? えっ? えっ? えっ?」

 更にビックリした。

 ボールが次々と飛んできたのである。
 オレは立ち上がり、逃さないようにトラップしていく。

 一体何が起きたというのだ?
 今はまだ早朝の5時だぞ。

 オカルト現象が起きたというのであろうか?
 幽霊がサッカーボールを蹴ってきた?

 突然のことに思考が追いつけなかった。

「ん? あれは……?」

 そんな時。練習の周囲に人影を見つめて、オレは言葉を失う。
 ボールを蹴ってきたのは、幽霊ではなかったのだ。

「キャプテン……先輩たち……それに、みんなも?」

 ボールを蹴って来たのは、チームメイトであった。
 選手コースの4年生から6年生までの、全メンバーである。

 早朝練習はまだ1時間も後なのに、何でみんな集まっているのであろう?

「コータ、お前……U-15日本代表の特別選手枠に選ばれたんだってな?」
「えっ、キャプテン……?」

 キャプテンの発言に、思わず言葉を失う。
 この話を知っているのは、オレとヒョウマ君とコーチの三人だけ。親にもまだ言っていない。

「代表とチームのスケジュールが重なって、悩んでいたんだろう?」
「えっ……なんで、そのことを……キャプテン」

 更に言葉を失う。
 悩んでいたことを、オレは誰にも相談はしていない。
 コーチやヒョウマ君にも、まだ相談していなかった。

「コータは1年生の時から、すぐに顔に出るからな」
「バレバレだっちゅの」
「そうだったな。本当に馬鹿正直で、嘘がつけない後輩だったなー」

 先輩たちは苦笑していた。
 オレが悩んでいたことは、とっくにバレていたのだ。
 ポーカーフェイで過ごしていたのに、一瞬で見抜かれていた。直そうとしてクセだったのに、全然直っていなかったのだ。

「コータ、行ってこい! 澤村と二人で、日本に行ってこい!」

 キャプテンたちは全てを察していた。
 オレがスケジュールのブッキングで、悩んでいたことを。地区と県大会を、どうすればいいか悩んでいたことを。

「えっ……でも、キャプテン……」
「ばかやろう! 地区と県大会くらい、残るオレたちだけで勝ち抜く! 絶対に優勝してやる。だから、お前は安心して行ってこい!」

 キャプテンの言葉には重みがあった。
 その瞳には強い意志が籠っていた。本当に眩しいくらいの感情だった。

「先輩……」

 オレの中に巣くっていた迷いの闇を、先輩たちが照らしてくれる。
 彼らの言葉と想いに、自分の心が震えてきた。
 チームメイトを信じてやれなかった、自分が恥ずかしくなってきた。

「ありがとうございます……」

 オレは先輩たちに深く頭を下げる。
 同時に何とも言えない、暖かい感情が込み上げてきた。

 いつの間にか流れ落ちていた、自分の大粒の涙。仲間の熱さが伝わってきたのだ。

「オレ、日本に行ってきます」
「ああ。行ってこい。そして暴れてこい。オレたちの分まで」
「はい、キャプテン。それにみんなも!」

 駆け寄ってきたキャプテンと、握手を交わす。
 先輩たちとも握手を交わす。

 5年生の同期生と4年生の後輩たちとも、駆けつけてくれた全員と握手する。
 あまりにも力が入り過ぎて、右手が折れそうになった。

 でも、その痛みすらも、今は心地よかった。
 この右手がジンジンするのは、仲間を信じる想いの熱さなのだ。



「さて、いつも通りに朝練を始めるか、コータ?」
「はい、キャプテン。それから、ヒョウマ君も、本当にありがとう」

「……ちっ、オレ様に気がついていたのか、コータ」

 朝練する前に、隠れていたヒョウマ君に声をかける。
 練習場の陰から、オレたちのことを見守っていたのだ

 今回の仕掛け人は、きっとヒョウマ君だ。
 スケジュール問題のことを、キャプテンたちに教えたのであろう。
 迷って悩んでいたオレのことを、ヒョウマ君は心配してくれていたのだ。

「あと、葵も、ありがとね。連絡してくれて」
「えへへ……やっぱり、お兄ちゃんにはバレていたのか」

 同じく隠れていた妹のあおいにも、声をかける。
 葵は照れくさそうに出てきた。

 今朝5時前に、オレが家をフラフラと出てきたのを知っていたのは、この妹しかいない。
 きっと心配して父母会のラインメールで、キャプテンたちに緊急連絡をしてくれたのであろう。

「葵、留守は任せたよ」
「地区と県大会は、葵たちに任せて! お兄ちゃんのためにも、葵は点を取るから!」

 葵はポンと胸を叩いて、笑みを浮べる。本当に頼もしい笑顔だった。

 幼稚園のころは、あんなに小さかった妹が……いつの間にか、こんなにも頼もしい選手になっていたのだ。

「ありがと。ボクも葵のために、代表で頑張ってくるから!」
「やったー、嬉しい!」

 感動のあまり葵は、抱きついてきた。
 大人になってきたけど、こういうところは、まだまだ子供だった。
 それにチームメイトの前で抱きつかれるのは、少し恥ずかしい。

(キャプテン……先輩たち……みんな……それに葵も。本当にありがとう……)

 オレは心の中で、もう一度、つぶやく。
 頼もしいチームメイトたちに感謝した。

 よし。
 これで残していくチームの、心配はなくなった。

 それどころかチームメイトの皆から、オレの方が勇気と力を貰えた。
 この力があれば、どんな相手にも負ける気がしない。

「さて、代表か。楽しみだな、コータ」
「そうだね、ヒョウマ君! 頑張っていこうね!」

 こうしてオレは無事に、U-15日本代表に合流することになったのだ。
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