↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
素人おっさん、転生サッカーライフを満喫する【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【ジュニア編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/157

第2話:転生

◇


◇


「コータくん、いくよー」

「えっ⁉」


 死んだはずのオレは、いきなり自分の名前を誰かに呼ばれた。

 野呂コウタ。

 それがオレの名前。だから略してコータと呼ばれていた。


「いくよー!」


 名前を呼んだのは、目の前にいた女の子だった。

 どう見ても子供……幼稚園児くらいの小さな女の子である。


 まさかここは死後の天国なのか? 

 そしてこの幼児は天国の天使なのか?


 いや……それにしては変だ。

 この子は黒髪の普通の女の子である。こんな近所にいるような子が、神の使いのはずはない。


「シュート!」


 女の子はオレに向かって、何かを蹴ってきた。白黒のボールである。


 ボールはコロコロとゆっくりと、オレの足元に到達する。


「これは……サッカーボール?」


 小さなサッカーボールだった。

 子ども用の小さなゴム製のボール。

 でも、いったい何故?


 状況がつかめない。

 思わずボールを手に取り、確認する。


 もしかしたら、ここが天国なのか?

 オレは死後で、夢を見ているのかもしれない。


「えっ……オレの手が小さくなった⁉」


 ボールを持った自分の両手を見て、はっと気がつく。

 明らかに大人の手ではない。


 次に自分の全身を確認する。

 すぐ側にあった幼稚園のガラス。そこに映った自分の姿を確認する。


「あっはは……オレ……幼稚園児になってるぞ……」


 あまりの非現実的な光景に、思わず笑いがこみ上げてきた。


 信じられないことだった。

 ついさっきまで31歳のオッサンだった。そんなオレは今、幼稚園児になっていたのだ。


「夢なのか……痛っ!」


 夢かと思い、自分のほおをツネって確認する。

 だがそこには確かな痛みがある。


 これは夢ではなく現実の世界だった。


「でも、いったい何で……?」


 つい先ほどオレは、病で亡くなったはずだ。

 あの病院で意識を失って、自分の命の火が消えたのを覚えている。


「一度死んで……誰か他の人生に生まれ変わったのか? いや、でも、この姿と幼稚園は……」


 ガラスに映った自分の姿に、覚えがある。

 これは間違いなく幼い時の自分だ。


 それにこの幼稚園も覚えている。幼い頃に通っていた地元の幼稚園である。

 名前もさっき“コータ”と呼ばれていたし。


「つまり転生したのか……」


 ようやく自分の置かれた状況を把握する。

 ライトノベルで読んだことがある“転生”。

 それが自分の身に起きたのだ。


「ねえ、コータくん! サッカーは手でもっちゃ、ダメなんだよー!」


 向かいの女の子が怒っている。

 オレはサッカーボールを持ったまま、呆然としていたのだ。


「ああ……うん、ごめん……いくよ!」


 思わず出た大人の口調を、言い直す。

 今のおれは幼稚園児であり、それらしく振る舞わないと怪しい。


 とにかく今は幼稚園児らしくしよう。先生にも怪しまれないようにしないと。


 記憶によれば、午後には幼稚園バスで家に帰るはずだ。

 そこで改めて状況を確認。今後について考えていこう。


◇


「コウちゃん、おかえりなさい」

「……ただいまー」


 午後2時なって、幼稚園バスで帰宅した。


 出迎えてくれたのは自分の母親である。

 歳はかなり若返っていたが、間違いなく自分の母親だ。


 オレはどう対応していいのか分からず、思わず動揺してしまう。


「ニイニイだ!」


 家に入ると小さな幼児が駆け寄ってきた。

 妹だ。


 オレの一歳下の妹の葵(あおい)。

 幼稚園でオレは3歳の年少だったので、妹はまだ2才であろう。


「コウちゃん、手洗いとうがいをしてね。三時のオヤツがあるから」

「うん……」

「アオイも食べたい! おやつ食べる!」

「はいはい、アオちゃの分も、ちゃんと有るわよ」


 何気ない日常の会話である。


 オレは上の空のまま洗面所に行く。手洗いとうがいをする。

 まだ背が小さいので、子どもの用の踏み台に乗らないとダメだった。


「今日はパパも6時には帰ってくるから、晩ご飯はオムライスよ」

「アオイ、オムライス、大好き!」

「うん、オレ……僕もオムライス、好き」


 なぜだか未だに家族の実感がわかない。


 その後、三時のおやつを食べながら、三人で雑談をする。

 葵(あおい)が保育園で遊んだ話とか、母さんがパート先で失敗した話とか。

 そんな何でもない、何気ない話ばかりだった。


「あら、コウちゃん? 今日はなんか元気ないわね?」

「ニイニイ、元気ない!」


 オレは家に帰ってから、ずっと上の空でいたのであろう。二人とも心配してきた。


「うん……」


 オレは信じられずにいたのだ。

 子どもの頃に事故死した、母親と妹が生きていることが。父親ももうすぐ帰ってくることが。


 まだ実感がなかったのだ。


「うん……何でもない……僕は……元気だよ……」


 だが急に目頭が熱くなる。

 大粒の涙がボロボロと溢れ出してきた。


 幼稚園児の身体は、涙腺が緩いのかもしれない。滝のようにドンドン涙が溢れてしまう。


 怪しまれないように止めることも出来ない。心の奥底から、涙が込み上げてくるのだ。


「ニイニイ、泣いてる!」

「あらあら、どうしたの、コウちゃん? よしよし」


 母親に抱っこされて、オレは更に大泣きする。

 こんなに泣いたのは久しぶりだった。

 前世で家族と右足を失った時。あの日以来である。


「ううん……何でもない……」


 だが、今回の涙は暖かった。

 嬉し涙である。


 ようやく温かい実感が湧き上がってきた。


 全てを失ったはずの自分の人生。

 オレの新たなる人生が再スタートしたのだ。


◇


「コウタ、今日の幼稚園は楽しかったか?」

「うん、面白かったよ……パパ」


 夕方6時になり、父親が帰宅する。

 その頃になると、オレもだいぶ落ち着いていた。


 四人で晩ご飯を食べて、お風呂にも入った。

 今は食後。居間でテレビを視てまったりしていた。

 何気ない時間だが、本当に幸せな雰囲気である。


『次のニュースです。地元のサッカーチームの試合がありました……』


 夜の地元のニュース番組。聞きなれたチーム名が聞こえてきた。

 オレが思わずテレビ画面を食い入る。


 そこに映っていたのは、結成して間もないアノサッカーチームの様子であった。

 まだ2年前に設立されたばかり。

 地方リーグで戦っており、小さいニュースの扱いである。


 そうか……今回の人生でもあのチームはちゃんとあるのか……。

 思わずほっと胸を撫で下ろす。


 と同時に胸が苦しくなる。

 何故ならこのままでいけば、28年後にチームは解散消滅するのだ。


 オレの右足と家族を奪った交通事故。あれは何とか防ぐことが出来るかもしれない。

 オレが家族の行動の歴史を変えていけばいい。


 だが地元サッカーチームの消滅はどうにもならないであろう。

 サッカー未経験の素人である自分。そんな小さな存在が介入しても、チームの存続をどうこうできる問題ではないのだ。


 オレはかかわらず、第二の人生を家族と幸せに過ごしていく……


“だが、それでいいのか……?”


 そんな疑問の声が込み上げてきた。

 オレは前世の悔しさを思い出す。


 地元のサッカーチームは、全てを失ったオレを救ってくれた。

 生きる屍と化したオレに、生きる希望を最後まで与えてくれた。


 あのチームがなければ、今オレは転生していなかったかもしれないのだ。


“こんな小さな存在の自分でも、あのチームのために何か出来ないか?”


 そんな想いが込み上げてきた。


 生まれ変わった自分だけ、幸せになるのはダメだ。

 どうせなら人生の全てを賭けて、あのチームを滅亡から救ってあげたい!


「そういえば、パパ。今日、幼稚園でサッカー教室があったんだ……」


 オレは覚悟を決めた。

 これを口にしたら、後には引き返せない。


「そうか。楽しかったか、コウタ?」

「うん……だから、ボク、サッカーボールが欲しいんだ」

「サッカーボールか? いいぞ、コウタ。明日の仕事の帰りに、買ってくるぞ」

「ありがとう、パパ……」


 今の自分は力も財力もない幼稚園児。

 だから覚悟を貫くためには、家族の協力が必要である。


 これから口にするオレの想い。その想いを実現させるために。


「あのね、パパ……ボク、サッカー選手になりたいんだ!」

「コウタが、サッカー選手に? それならパパも協力しないとな! はっはっは……」


 父親の協力が無事に得られた。

 オレの第二の人生の夢……


“サッカー選手になって、地元チームをJリーグまで牽引する”


 この夢が成功する可能性は、ゼロに近いかもしれない。

 なにしろオレはサッカーどころか、スポーツもまともに経験していない。子どもの頃の怪我で、スポーツが出来なかったのだ。


 だが、サッカーに対する想い……あのチームの存続に対する想い。

 これだけは絶対に誰にも負けない自信があった。


 それに秘策もあった。

 計画通り上手くいくか分からない。

 また長い年月の努力が必要となるであろう。


 計画ためには今日から一日たりとも、無駄な時間を過ごすはできない。

 文字通り“人生の全ての時間を賭けて”やり直す必要があった。


「絶対にサッカー選手になって、あのチームを救うんだ……」


 家族に聞かれないように、もう一度だけ自分の覚悟を口にする。


 こうしてオレのサッカー人生が始まったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 自分の人生をやり直すことを転生っていいますかね?転じてないから違和感があります。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。