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素人おっさん、第二の人生でサッカーライフを満喫する 作者:ハーーナ殿下@青森県弘前市
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第2話:転生





「コータくん、いくよー」
「えっ⁉」

 死んだはずのオレは、いきなり自分の名前を誰かに呼ばれた。
 野呂コウタ。
 それがオレの名前。だから略してコータと呼ばれていた。

「いくよー!」

 名前を呼んだのは、目の前にいた女の子だった。
 どう見ても子供……幼稚園児くらいの小さな女の子である。

 まさかここは死後の天国なのか? 
 そしてこの幼児は天国の天使なのか?

 いや……それにしては変だ。
 この子は黒髪の普通の女の子である。こんな近所にいるような子が、神の使いのはずはない。

「シュート!」

 女の子はオレに向かって、何かを蹴ってきた。白黒のボールである。

 ボールはコロコロとゆっくりと、オレの足元に到達する。

「これは……サッカーボール?」

 小さなサッカーボールだった。
 子ども用の小さなゴム製のボール。
 でも、いったい何故?

 状況がつかめない。
 思わずボールを手に取り、確認する。

 もしかしたら、ここが天国なのか?
 オレは死後で、夢を見ているのかもしれない。

「えっ……オレの手が小さくなった⁉」

 ボールを持った自分の両手を見て、はっと気がつく。
 明らかに大人の手ではない。

 次に自分の全身を確認する。
 すぐ側にあった幼稚園のガラス。そこに映った自分の姿を確認する。

「あっはは……オレ……幼稚園児になってるぞ……」

 あまりの非現実的な光景に、思わず笑いがこみ上げてきた。

 信じられないことだった。
 ついさっきまで31歳のオッサンだった。そんなオレは今、幼稚園児になっていたのだ。

「夢なのか……痛っ!」

 夢かと思い、自分のほおをツネって確認する。
 だがそこには確かな痛みがある。

 これは夢ではなく現実の世界だった。

「でも、いったい何で……?」

 つい先ほどオレは、病で亡くなったはずだ。
 あの病院で意識を失って、自分の命の火が消えたのを覚えている。

「一度死んで……誰か他の人生に生まれ変わったのか? いや、でも、この姿と幼稚園は……」

 ガラスに映った自分の姿に、覚えがある。
 これは間違いなく幼い時の自分だ。

 それにこの幼稚園も覚えている。幼い頃に通っていた地元の幼稚園である。
 名前もさっき“コータ”と呼ばれていたし。

「つまり転生したのか……」

 ようやく自分の置かれた状況を把握する。
 ライトノベルで読んだことがある“転生”。
 それが自分の身に起きたのだ。

「ねえ、コータくん! サッカーは手でもっちゃ、ダメなんだよー!」

 向かいの女の子が怒っている。
 オレはサッカーボールを持ったまま、呆然としていたのだ。

「ああ……うん、ごめん……いくよ!」

 思わず出た大人の口調を、言い直す。
 今のおれは幼稚園児であり、それらしく振る舞わないと怪しい。

 とにかく今は幼稚園児らしくしよう。先生にも怪しまれないようにしないと。

 記憶によれば、午後には幼稚園バスで家に帰るはずだ。
 そこで改めて状況を確認。今後について考えていこう。



「コウちゃん、おかえりなさい」
「……ただいまー」

 午後2時なって、幼稚園バスで帰宅した。

 出迎えてくれたのは自分の母親である。
 歳はかなり若返っていたが、間違いなく自分の母親だ。

 オレはどう対応していいのか分からず、思わず動揺してしまう。

「ニイニイだ!」

 家に入ると小さな幼児が駆け寄ってきた。
 妹だ。

 オレの一歳下の妹のあおい
 幼稚園でオレは3歳の年少だったので、妹はまだ2才であろう。

「コウちゃん、手洗いとうがいをしてね。三時のオヤツがあるから」
「うん……」
「アオイも食べたい! おやつ食べる!」
「はいはい、アオちゃの分も、ちゃんと有るわよ」

 何気ない日常の会話である。

 オレは上の空のまま洗面所に行く。手洗いとうがいをする。
 まだ背が小さいので、子どもの用の踏み台に乗らないとダメだった。

「今日はパパも6時には帰ってくるから、晩ご飯はオムライスよ」
「アオイ、オムライス、大好き!」
「うん、オレ……僕もオムライス、好き」

 なぜだか未だに家族の実感がわかない。

 その後、三時のおやつを食べながら、三人で雑談をする。
 あおいが保育園で遊んだ話とか、母さんがパート先で失敗した話とか。
 そんな何でもない、何気ない話ばかりだった。

「あら、コウちゃん? 今日はなんか元気ないわね?」
「ニイニイ、元気ない!」

 オレは家に帰ってから、ずっと上の空でいたのであろう。二人とも心配してきた。

「うん……」

 オレは信じられずにいたのだ。
 子どもの頃に事故死した、母親と妹が生きていることが。父親ももうすぐ帰ってくることが。

 まだ実感がなかったのだ。

「うん……何でもない……僕は……元気だよ……」

 だが急に目頭が熱くなる。
 大粒の涙がボロボロと溢れ出してきた。

 幼稚園児の身体は、涙腺が緩いのかもしれない。滝のようにドンドン涙が溢れてしまう。

 怪しまれないように止めることも出来ない。心の奥底から、涙が込み上げてくるのだ。

「ニイニイ、泣いてる!」
「あらあら、どうしたの、コウちゃん? よしよし」

 母親に抱っこされて、オレは更に大泣きする。
 こんなに泣いたのは久しぶりだった。
 前世で家族と右足を失った時。あの日以来である。

「ううん……何でもない……」

 だが、今回の涙は暖かった。
 嬉し涙である。

 ようやく温かい実感が湧き上がってきた。

 全てを失ったはずの自分の人生。
 オレの新たなる人生が再スタートしたのだ。



「コウタ、今日の幼稚園は楽しかったか?」
「うん、面白かったよ……パパ」

 夕方6時になり、父親が帰宅する。
 その頃になると、オレもだいぶ落ち着いていた。

 四人で晩ご飯を食べて、お風呂にも入った。
 今は食後。居間でテレビを視てまったりしていた。
 何気ない時間だが、本当に幸せな雰囲気である。

『次のニュースです。地元のサッカーチームの試合がありました……』

 夜の地元のニュース番組。聞きなれたチーム名が聞こえてきた。
 オレが思わずテレビ画面を食い入る。

 そこに映っていたのは、結成して間もないアノサッカーチームの様子であった。
 まだ2年前に設立されたばかり。
 地方リーグで戦っており、小さいニュースの扱いである。

 そうか……今回の人生でもあのチームはちゃんとあるのか……。
 思わずほっと胸を撫で下ろす。

 と同時に胸が苦しくなる。
 何故ならこのままでいけば、28年後にチームは解散消滅するのだ。

 オレの右足と家族を奪った交通事故。あれは何とか防ぐことが出来るかもしれない。
 オレが家族の行動の歴史を変えていけばいい。

 だが地元サッカーチームの消滅はどうにもならないであろう。
 サッカー未経験の素人である自分。そんな小さな存在が介入しても、チームの存続をどうこうできる問題ではないのだ。

 オレはかかわらず、第二の人生を家族と幸せに過ごしていく……

“だが、それでいいのか……?”

 そんな疑問の声が込み上げてきた。
 オレは前世の悔しさを思い出す。

 地元のサッカーチームは、全てを失ったオレを救ってくれた。
 生きる屍と化したオレに、生きる希望を最後まで与えてくれた。

 あのチームがなければ、今オレは転生していなかったかもしれないのだ。

“こんな小さな存在の自分でも、あのチームのために何か出来ないか?”

 そんな想いが込み上げてきた。

 生まれ変わった自分だけ、幸せになるのはダメだ。
 どうせなら人生の全てを賭けて、あのチームを滅亡から救ってあげたい!

「そういえば、パパ。今日、幼稚園でサッカー教室があったんだ……」

 オレは覚悟を決めた。
 これを口にしたら、後には引き返せない。

「そうか。楽しかったか、コウタ?」
「うん……だから、ボク、サッカーボールが欲しいんだ」
「サッカーボールか? いいぞ、コウタ。明日の仕事の帰りに、買ってくるぞ」
「ありがとう、パパ……」

 今の自分は力も財力もない幼稚園児。
 だから覚悟を貫くためには、家族の協力が必要である。

 これから口にするオレの想い。その想いを実現させるために。

「あのね、パパ……ボク、サッカー選手になりたいんだ!」
「コウタが、サッカー選手に? それならパパも協力しないとな! はっはっは……」

 父親の協力が無事に得られた。
 オレの第二の人生の夢……

“サッカー選手になって、地元チームをJリーグまで牽引する”

 この夢が成功する可能性は、ゼロに近いかもしれない。
 なにしろオレはサッカーどころか、スポーツもまともに経験していない。子どもの頃の怪我で、スポーツが出来なかったのだ。

 だが、サッカーに対する想い……あのチームの存続に対する想い。
 これだけは絶対に誰にも負けない自信があった。

 それに秘策もあった。
 計画通り上手くいくか分からない。
 また長い年月の努力が必要となるであろう。

 計画ためには今日から一日たりとも、無駄な時間を過ごすはできない。
 文字通り“人生の全ての時間を賭けて”やり直す必要があった。

「絶対にサッカー選手になって、あのチームを救うんだ……」

 家族に聞かれないように、もう一度だけ自分の覚悟を口にする。

 こうしてオレのサッカー人生が始まったのだ。
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