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第13話:全国大会

 全日本少年サッカー大会がスタートする。

 オレたちのチームも開催地に到着した。


「凄い! 人が沢山いる!」


 会場の熱気にオレは思わず興奮する。

 全国から集まった48チームの選手と関係者で、会場は賑わっていた。


 今年の全国大会の開催地は、鹿児島県のスポーツセンターで行われる。

 開催日が12月下旬の冬ということもあり、暖かい南国で開催されるらしい。


 東北地方のオレたちは、飛行機を乗り継いでやってきた。かなりの移動時間だったが、その疲れも興奮で吹き飛ぶ。


「見て、ヒョウマ君。イベントコーナーや出店があるよ!」


 全国大会の会場の周辺は、ちょっとしたお祭りである。

 大会スポンサーのイベントブースのテントが立ち並び、いろんな体験ができる。


 新作サッカースパイクの試着コーナーや、スポーツドリンクの試飲もできる。

 キックターゲットで遊ぶコーナーや、審判気分でオフサイド体験ゲームなんかもある。


 全てがサッカーで染まったお祭り気分で、最高な雰囲気だ。


「あまりハシャグなのよ、野呂コータ。オレ様まで子供ガキに見られる」


 そんなお祭り雰囲気でも、ヒョウマ君はクールであった。さすがは将来のプロ選手は意識が高い。


 あっ、それでも……新作のスパイクの試着を、一瞬だけどしたそうにいた。はやりヒョウマ君もサッカー少年ということなんだね。


「あっ、コータお兄ちゃんだ! 頑張ってね!」

あおい? それにお父さんとお母さんも!」


 会場で自分の家族を発見する。

 チーム移動のオレたちとは別の飛行機で、応援のために到着したばかりだ。


 オレの家族以外にも、チームメイトの家族の姿も見える。

 初の全国大会への出場ということで、どの家族も気合い入っていた。中には祖父母や親戚まで総動員の家族もいる。


 他にも周りを見ると、他のチームの家族もたくさんいた。

 自分の小学生の子どもの全国大会。どこのチームも気合いが入っているのであろう。本当に会場全体がお祭り雰囲気である。


「よし、お前たち、試合はもうすぐだ。それまでアップグラウンドで、身体を温めておけ!」

「「「はい、コーチ!」」」


 コーチからオレたち選手に激が飛ぶ。

 コーチも初の全国大会で気合が入っていた。


 何しろ全国大会で好成績を収めたら、チームの知名度がアップする。そして知名度のアップは、今後の会員の増強に繋がるのだ。


「アップは無理し過ぎるな。身体を温めるだけでいい!」


 コーチはオレたちに指示を出して、別の場所に向かっていく。

 何でもサッカー業界の先輩たちに、軽く挨拶に行くという。

 狭いサッカー業界では、人間関係の繋がりも大事なのであろう。頑張ってきて、コーチ。


「ヒョウマ君、ボクと一緒にアップしようよ」

「ちっ、仕方がない。オレ様とアップできることを誇りに思え」

 

 3年生同士で、アップグラウンドで練習する。

 周りには自分のチーム以外にも、他のチームもアップしていた。


 みんな試合前の緊張で、ピリピリしている。

 他の人は身体が大きくて、本当に上手そうに見える。邪魔にならないように気をつけないと。


 それにしても、いよいよ全国大会が始まるのか。

 本当にワクワクしてきた。



「おい。あいつ、澤村じゃねえ?」

「おっ、本当だ」


 ヒョウマ君とアップをしていた時である。

 横を通りかかった、他のチームの3人が急に立ち止まる。どうやらヒョウマ君のことを知っているようだ。


「気にするな、野呂コータ」

「おい、澤村! 無視すんなよ。元の先輩に失礼だろう?」


 会話からヒョウマ君の前のチームメイトみたいだ。

 体格的に小学生5年くらいであろう。オレとヒョウマ君よりも、頭一つ分は身長が大きい。


「澤村、今はどこのチームにいるんだ? リベリーロ弘前?」

「聞いたことあるか?」

「いや、知らない名だな。どうせ田舎の弱小チームだろう」


 凄く嫌な感じの三人組だ。

 元チームメイトのヒョウマ君のことを、明らかに馬鹿にしている。


 一方でヒョウマ君は聞こえないふりをして、無視を決め込んでいた。オレとのパス練習でアップしている。


「おい、無視するなよ、澤村。どうせ親の七光りで、前みたいにサッカーやっているんだろう?」

「はっはっは……そうだな」


 おい、おい……今、なんて言った。

 ヒョウマ君に向かって、今なんて言ったんだ。


「ちょっと、待て!」


 オレの堪忍袋の緒が、ぶちっと切れた。


 思わず叫んでしまう。


 だがオレはそれ程までに許せなかったのだ。


「ヒョウマ君は親の七光りなんかじゃない! 本当に凄いサッカー選手なんだから!」


 オレは三人の目の前に進んで行く。


 ヒョウマ君はまだ3年生なのにレギュラーだし、テクニックも凄い。それに最近では蔭で自主トレを必死でする、努力の人だ。

 絶対に親の七光りなんで、サッカーをしていない。


 そんなチームメイトを馬鹿するのは、オレは絶対に許せない。


「お、おい、なんだ、このチビは? お前、何年生だ?」

「ボクは野呂コータ。ヒョウマ君のチームメイトで3年生だ!」


 相手は歳上で、身体も大きいが、絶対に負けられない。

 すごんできた相手を、負けずににらみ返す。


「澤村と同じ、3年生だと?」

「おい、アナウンスだ。そろそろ、試合だぞ」

「ああ、そうだな」


 試合開始のアナウンスが流れる。相手の三人は立ち去っていく。


 ふう……。


 張り詰めていた空気が、少しだけ和らぐ。


「おい、コータ。どうした?」

「あっ、キャプテン……実は……」


 駆け付けたチームのキャプテンに、事情を説明する。悪いのは相手だから、隠すことはなにもない。


「そうか、そんなことが……だが、さっきのアイツ等は横浜マリナーズの連中だぞ」

「えっ、横浜マリナーズの……」


 キャプテンの口から出たチーム名に、思わず言葉を失う。


“横浜マリナーズU-12”

 それはJリーグの下部組織アカデミー小学生ジュニアチームである。


 Jのジュニアでは将来のJリーグプレーヤーの輩出を目的とした、一貫指導が行われていた。

 その影響もあり、今のJリーグの選手はJジュニア出身者が多くを占める。


「横浜マリナーズU-12……昨年の全国チャンピョン……」


 大会パンフレットには、昨年の優勝チームの名前が記載されていた。

 さっきの人たちは前年度優勝チームの、名門のJジュニアチームだったのだ。



「さあ、第一試合に向かうぞ!」

「「「はい、コーチ!」」」


 試合前のアップが終わる。

 いよいよオレたちの第一試合が迫ってきたのだ。


 1回戦の相手はボクたちと同じように、初出場の街のサッカーチームである。

 でも油断は出来ない。全力で頑張らないと。


「それにしてもヒョウマ君は、横浜マリナーズU-12にいたんだね? 凄いね。でも、なんで辞めて、このチームに入ったの?」


 先ほどから暗い表情のヒョウマ君に、オレは尋ねる。 


 何しろ横浜マリナーズU-12といえば、名門中の名門チーム。彼ほどの才能があるなら、そのまま在籍してもレギュラーであろう。


 そして将来的にはジュニアユース→ユースと年齢を上げていって、Jリーガーも間違いなかったであろう。


「あそこのJジュニアチームはつまらない。オレ様は合わない」

「そうだったんだ……」


 天才すぎる悩みがあるのであろう。

 ヒョウマ君は先ほどのことを、あまり気にしている様子はない。


 もしかしたら悲しいことに『親の七光りが!』と妬まれるのは、慣れてしるのかもしれない。


「それにJジュニアチームに在籍してなくても、プロ選手にはなれる。知らないのか、野呂コータ?」


 ヒョウマ君の話によると、この全国大会で活躍すれば、Jリーグのスカウトマンの目に止まる。

 そこからJリーグの中学生ジュニアチームに入ることも出来るという。


「それに全国大会で優勝しなくても、スカウトはくる。全国大会の出場は、あくまでも道筋にすぎない」

「えっ……? もしかしてヒョウマ君は、この全国大会で優勝したくないの?」


 これまで会話から何となく、そんな感じがした。

 ヒョウマ君は自分の活躍には、どこまで貪欲である。


 だがチームの勝利に関しては、どこかドライな一面もあったのだ。


「このリベリーロ弘前も悪くはない。だが全国の他のチームは、それの何倍も選手の質が高い。オレ様をもってしても、今年はベスト16が限界だな」


 やはりヒョウマ君はドライで冷めていた。

 父親が有名Jリーガーのために、生まれた時からプロに囲まれてきた。名門ジュニアチームを渡り歩き、全国レベルの世界を知っている。


 そのために勝利に対して、客観的すぎるのだ。悪い意味で、自分チームのことを観てしまうのだ。


「ヒョウマ君……たしかにこのチームは、Jのジュニアじゃない。でも凄いチームだよ! 頼もしい先輩たちもいるし、何よりヒョウマ君がいるんだ! 絶対に優勝を目指そうよ! サッカーが好きなんだから!」


 オレはがらにもなく、思わず熱くなってしまう。

 自分には才能はないかもしれない。


 でもサッカーに対する情熱だけは、誰にも負けない自信がある。

 死んだ後に、また生まれ変わるくらいに、サッカーをしたかった……その想いだけは、世界のトッププレイヤーにも負けない自信があった。


「野呂コータ……お前……」

「さあ、いこう、ヒョウマ君!」

「ああ、そうだな」


 なんか身体の奥底から、ヤル気があふれてきた。

 もしかしたらコレは“闘気”とでもいうのもしれない。武者震いまでしてきた。


「絶対に優勝をする……」


 今までのオレは何となく、自主練とチームで練習をしてきた。

 自分の技と身体を磨くために。それだけのために必死で努力してきた。


 だが今は違う。


 この全国大会で絶対に最後まで勝ちたい。

 無謀かもしれないが“優勝”したかった。



 こうしてオレたちの全国大会への挑戦が始まった。


 初戦は3対2で何とか勝つことができた。

 チームメイトの全員が緊張して、前半のプレイがガタガタだった。


 だが相手も同じく緊張していた。

 最終的には地力が勝っていた、オレの方が競り勝ったのだ。


 ちなみに得点はヒョウマ君が2点で、オレが1点だった。

 チームの先輩たちの献身的な守備のお蔭で、オレたち3年組は攻撃に専念できたのだ。



 それ以降の試合も、何とか無事に勝ち進んでいく。

 チーム内の初戦の緊張も、だんだんと無くなっていた。


 だが2回戦以降は相手も強豪チーム揃い。

 オレは全身全霊で、相手のエースを止めることに専念した。


 その隙にヒョウマ君が見事に連続ゴールを決める。

 この連携パターンが、見事に決まっていったのだ


「やったな、野呂コータ」

「えっ? うん、ヒョウマ君!」


 そういえば急にヒョウマ君のプレイの質が、変わったような気がした。

 チームの勝利のために、全力を尽くしていたのだ。


 前までの自分アピールのプレイの質は明らかに違う。

 自分を押し殺す地味な、献身的なプレイも増えてきた。


 もしかしたら彼の中でも、何かに火が着いたのかもしれない。

 だとしたら、これほど嬉しいことはない。



 こうしてオレたちは何と、準々決勝進出まで進むことができた。

 コーチと応援の家族たちも大喜び。まさにお祭り騒ぎ。

 初出場でまさかの大躍進に、大人たちは歓喜していた。


「でも、ヒョウマ君、次の対戦相手は……」

「ああ。アイツ等だ」


 だがオレたち子どもたちは、トーナメント表を確認して息を飲む

 

 次の準々決勝の相手は、横浜マリナーズU-12。

 ヒョウマ君の元チーム。そして昨年の全国優勝チームと対戦するのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 自分の小学生のころの地元のサッカーチームにも二年生で入ってきてめっちゃうまい子がいたのを思い出しました、三年生の頃には五年生と一緒に地元チームを都大会優勝に導いてました。そんな彼も今では日本…
[気になる点] 誤字脱字 あっ、それでも……新作のスパイクの試着を、一瞬だけどしたそうにいた。はやりヒョウマ君もサッカー少年ということなんだね。
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