第54話 あなたの好きな人
饅頭邸。食卓。
朝食時間。
「朝食は、まんじゅうであ~る」
マンジュさまは、箱から一つずつ、まんじゅうを置いていく。アンコリンとスア丸の前にも、だ。
「朝は、まんじゅうなんですか?」
「そうである」
万田さんの前に、まんじゅうを置く。
ボサボサ髪のマンジュさまは、美しい顔立ちで、朝から、シャキッとしている。
万田さんは、思わず見惚れてしまう。
この男の人は、朝から、カッコいいのだ。
良いな良いな。
カッコいいな。
とても喜ぶ万田さん。
この気持ちは、何と呼べばいいのだろう。
「朝から、まんじゅうが食べれるのね。スア丸」
「やったワン。アンコリン」
喜び合うアンコリンとスア丸。
「駄目です。糖質制限をしてください」
メイプルくん、すぐに没収する。
まんじゅうは、3時のおやつまで、我慢だ。
「マンジュさん。朝から、まんじゅうは、女王アンコリンとスア丸くんには出さないでください」
「マンジュ。オレも糖質制限してるんだ」
メイプルくんとバーニさまは、まんじゅうを箱に戻す。
「糖ニョウ病であるか。うっかりであ〜る。万田さんは大丈夫であるか?」
「わたし、予備軍です」
「な、なんてことである。まんじゅうは、3時のおやつだけにするである」
あわてるマンジュさま。
結局、朝食は、近くのコンビニの食パンになった。
第54話 あなたの好きな人
江糖区。マンジュまんじゅう屋。
「開店準備をするであ〜る」
「はい」
マンジュさまと万田さんは、仲良く開店準備。
「マンジュ。お元気ですか」
「…元気か」
開店早々、シュガーリーとソルトが訪ねてきた。
先代甘味女王シュガーリー。
砂糖色の長い髪の美女。
幼なじみソルト。
塩色の髪の寡黙な青年。
二人は近くに住んでいて、時折まんじゅうを買いに来る。
糖ニョウ病のシュガーリーは、3時のおやつどころか、甘いものをかなり制限されているが、ひと口の“あんこ”が欲しくて、ここへ来る。
「シュガーリー!」
マンジュさまは、笑顔で反応する。
「あ…」
見たことのない、喜び方をする。好きな男の人。
万田さんは、言葉を無くした。
マンジュさまは、すごく楽しそうにシュガーリーと会話をはじめた。
「シュガーリー。よく来てくれたであ〜る。あんこは控えないと駄目であるぞ」
「すみません。“あんこ”は、我慢できないんです」
「…止めても、あんこを欲しがるんだ」
「すみません。ソルト」
「来てくれるだけで良いのであ~る」
「…」
楽しそう。
万田さんは、寂しくなった。
マンジュさまが、とても楽しそうだ。
きっと、すごく好きな人なんだろう。長い時間。昔から、好きな人なんだろう。
わたしは、会ったばかり。
興味も持たれていないのだろう。
悲しくなった。
泣いていた。
「う…う…」
誰にも、見られたくないから、この場を去った。
「万田さんを紹介するであ~る」
マンジュさまは、万田さんを探す。
いない。
「あれ?さっきまで、いたである」
探す。
いない。
「どうしたのですか?」
「…どうした」
「シュガーリーに、紹介したい女性がいるのである」
いないのだ。
万田さんがいない。
アンコリンたちは、歯を磨いて、客室で休んでいる。
二人で、店番をすれば良いと言っていた。
アンコリンたちのもとに行ったのだろうか。
胸が、ザワザワする。
探しに行かなければいけない気がした。
精霊としての直感だ。
「シュガーリー、ソルト。店番を頼むであ〜る」
マンジュさまは、万田さんを探すため外に出た。
右か、左か、わかる気がした。
すごく呼ばれている気がしたからだ。
マンジュさまが、気になりはじめていた女性。
「どこである」
自分の身勝手な言動で、巻き込んでしまった、ごく普通の一般女性。
「万田さん、どこであるか」
自分は、勝手ながら、気になりはじめている。
いなくならないで欲しい。




