第44話 天界ブラック疑惑
糖京都心。甘味宮殿。
玄関。
午後5時。
「俺、来ました。太陽のラー神といいます」
天界の馬車に乗って、ラー神さまがやって来た。
「いらっしゃいませ」
オレンジドレスのアンコリンが出迎える。
なるほど。オレンジの洗剤の香りがしてくる。
「神さま。お仕事が残っています。お早めにお帰りを」
「了解いたしました」
黒い長い髪のラー神さま。またオレンジカラーの道士服を着ている。天使より、礼儀正しい。
「ちょっといいか」
怒りを抑えた声で、オレンジジャケットのバーニさまが、馬車の御者の腕をつかむ。
甘味イケメン精霊たちが、次々と馬車の周りを取りかこんだ。馬車のタイヤを外して没収する。
「ど、どうしたのですか?」
ラー神さまは、驚いて、混乱する。
「あんた。働きすぎなんだよ。女の娘の気持ちを考えて行動を選べ。モテるだろ」
「天界は、ブラック企業ですよ。トップのあなたも悪いんですよ。わかりますか」
バーニさまに続いて、メイプルくんも目が怒っている。
第44話 天界ブラック疑惑
太陽のラー神さま。
父神オシリス。母神イシス。弟神ホルス。
若き天界の太陽神。
「天界には、当分の間はラー神さまが戻らないと伝えろ」
「今、メールを送りました」
オレンジシャツのメイプルくんは、ノートパソコンを閉じようとする。すぐ、返信が来る。
速い。
メールに目を通している天使がいるのだ。
「天界には、弟神のホルスがいますが、俺が働かなくてはいけません」
ラー神さまは、焦りがある。
「…一つ、確認していいか。太陽神」
「はい。何でも確認してください」
「誰かを好きになったことは、あるか?」
バーニさまとラー神さまは、目を離さない。
「誰かを好きになったことはありません。独りです」
ラー神さまは、直立不動で動かなかった。
反対に、誰かを唯一好きになれるのか。どうやるのか。
そう、問いかけてくる瞳だった。
この男は、孤独だ。
女の娘にモテるのだろう。すぐ、告白する娘にも会っているだろう。その上で孤独。
神さまだからか。
万人を愛せよと教わったか。
その場合、父神と母神に、疑問が移る。
何故、一人を愛して生きることをしてこなかった。
だからこそ、孤独な天使に、あの娘に、チャンスがあるというのか。
先代甘味女王シュガーリーを、今も愛するバーニさまは、皮肉めいた笑みを浮かべる。
男ってヤツは、不器用だ。
本当に、どうしようもない、バカだ。
甘味女王アンコリン・オール。スア丸。
あの娘に、奇跡を起こせるか。
オレは、恋が叶うなんて、うまい話すぎると思ってる。
オレのことなんて、どうでも良い。
女王アンコリン。
あの娘の背中を押してあげてくれ。
女王応接間。
午後6時。
「あらためまして、私、女王アンコリン・オールよ」
「その婚約者のスア丸だワン」
「ホーホケキョ」
訳・右大臣のウグイスまめ子ですよ。
「左大臣の黄土きな子だべ」
「太陽のラー神です。よろしくお願いいたします」
直立不動で、お辞儀をするラー神さま。
「…カッコよすぎ」
離れて、天使ユズエルがつぶやく。
「今日は、ここの客室で過ごしてもらうわ」
「何故でしょうか。仕事でいそがしいのですが」
「ホーホケキョ」
訳・いいから、休め。
「休んでもらうだよ」
「休む時間はありません。帰らせてください」
「えーと」
アンコリン、ユズエルの様子を見る。
「言う!」
決心している。天使ユズエル。
「あの…神さま…言いたいことが」
「…仕事が大事なんです。後にしてください」
太陽のラー神さま。怒った顔をする。
「俺は、ヒマがありません」
盾をはられた。こばまれた。
「…うう」
そんなに、お仕事が大事なの。
何で、神さま。いつもみたいに優しくないの?
何で、微笑んでくれないの?
「うえーーん」
ユズエルは、泣き出してしまった。
純真なのだ。
「最低よ。何が、仕事よ!」
アンコリンは、ラー神さまを突き飛ばす。
「ユズエル…さん…?」
ラー神さまは、呆然としたまま腰を抜かす。
神さまが、女の娘を泣かせたのだ。重罪である。




