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あんこデラックス  作者: キノぴょ
3章 〈海は、砂糖で出来ている〉
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第32話 海を甘くする魔法

 甘港区。海兵ペンギン軍事学校。

 保健室。

 サハギンさまは、佐糖さんの瞳を見つめて言った。


「…佐糖さん。今度、ウオ市場に来ないか?」


 サハギンさまが、はじめて、“佐糖さん”と名前を呼んだ。

 うれしい。うれしい。

「ウオ市場…ですか?」

「甘味女王も連れて来て欲しい」

「あ、ああ。アンコリンちゃんと一緒ですか」

「よろしく頼む」

「ああ、はい。頼んでみます」

 アンコリンちゃん。あの娘、優しいから、きっと一緒に行ってくれる。


「佐糖さん。大丈夫?」

「無事ワン?」

 アンコリンとスア丸たちが、やって来た。

「おっと、やはりお邪魔だったかな」

「お二人でしたか」

 アロハシャツのバーニさまとメイプルくんは、空気を読み取る。これは、あるかもしれない。



 第32話 海を甘くする魔法



 甘港区。女王別荘。

 温泉。かけ流しの湯。

 女王別荘には、女湯と男湯がある。リッチだ。

 アンコリンたちは、疲れた汗を洗い流した。

「ああ、良いお湯ー」

 温泉は、にごり湯。疲労回復効果がある。

 外の暑さのように熱いから。身体を洗った後は、さっさとあがってしまう。

 だから、温泉は、ちょっとだけ楽しんだ。


 あがって、冷房。扇風機の前で涼む。休憩室。


「わたし、はじめて名前を呼んでもらえました」

 佐糖さんは、うっとりとしている。

 変なペンギンに付きまとわれたけど、サハギンさまが助けてくれた。看病もしてくれた。

 良いことばかり。

 涙真珠のネックレスは、恋のお守り。


「ホーホケキョ」

 訳・良かったね。頑張れ。告白すれば良いのに。

「何で、告白しなかっただよ」

 まめ子ときな子、話をせかす。

「こ、告白は、勇気が足りなくて…」

 甘い。甘いと言うものの、やっぱり、しょっぱい想像をしているからかもしれない。

「明日、早朝のウオ市場の朝市で告白すれば良いと思うわ」

 ポジティブなアンコリン。

 ウオ市場の朝市は、告白する場所なのか。

「ウオ市場の朝市で告白…」

 悩んでしまう。

 サハギンさまの仕事場…だと思う。

 お仕事の邪魔は出来ない。

「ホーホケキョ」

 訳・ひとまず、女王の視察だね。

「アンコリン。あだすたちも行くだ」

「そうね。皆んなで行けば、何とかなるわね」

 女の娘会議。

 告白は、一大イベントなのだ。



 翌日。早朝。

 アンコリンたちは、そろってウオ市場へ出かけた。

 外は、暑く。

 嫌な予感をさせる空模様だった。


 甘港区。ウオ市場。

「女王アンコリンさま。はじめまして」

 出迎えたのは、竜宮城漁業組合の代表オリヒメだった。

 黒い長い髪で、可愛らしい女の娘である。

 空は、ゴロゴロと雷の音がする。

「サハギンだ。女王の視察に感謝する」

 海鮮の精霊サハギンさまは、握手を求めてくる。

 アンコリンは、握手する。

 佐糖さんの一番大好きな人だ。

「アタシ。サハギンさまの婚約者なのよ。ね」

「あ、ああ…」

 オリヒメは、サハギンさまの腕を組む。

 その後も、これ見よがしに甘えた仕草を見せる。



「う、うう…」


 佐糖さんは、目を大きく見開いた後。泣き顔になる。

 しょっぱい涙の味がした。

 嫌だ。甘い恋がしたいのに。

 こんなの嫌だ。


「佐糖さん…!」

 アンコリンが何とかしようと考える。

「待て。アンコリン」

「見守りましょう」

 バーニさまとメイプルくん、微笑んでいる。

 アンコリンは、胸がいっぱいになる。

 スア丸が手をつないでくれる。

 もしかして…。

 もう、わかっているの?



 ぎゅ。



 気がつくと、サハギンさまが佐糖さんを抱きしめていた。

 オリヒメは、突き飛ばされていた。

 婚約を強要されていた。断わる理由が無かった。

「甘い…ことを、考えて良いんだよな」

 サハギンさまは、声をしぼり出す。

 はじめて会った時。ふわりと何かが届いた。


「好きに、なった…のだと思う」


 この世界。この糖京。この海。

 全てが、甘いとしたら、どうだろう。

 甘い恋がはじまると良いな。

 恋は、海を甘くする魔法なのだから。

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