第27話 海上レストラン
人魚の流した涙は、砂糖になる。
甘い出会いを求める人魚。
甘い恋を夢見る人魚。
甘い結婚生活を望む人魚。
人魚は、世の中が、甘ければいいなと思っている。
それは、夢ですか?
本当のことになりませんか?
本当は、しょっぱいのが、海。
違う。
本当は、甘いのが、海になれば良い。
だって、海は、砂糖で出来てるんだから。
甘港区。海上レストラン。
「ここのお野菜カレーが美味しいんですよ」
佐糖さんが、微笑む。
くもり眼鏡の地味な印象の女性。
社会人で、アクセサリーは、涙真珠のネックレスだけ。
「海で、お野菜カレーって、良いわね」
「お野菜、大好きワン」
アンコリンは、ブラトップと短パンのラフスタイル。
スア丸は、ロングTシャツだ。
第27話 海上レストラン
海上レストラン。
桟橋を渡り、たどり着いた海の上のレストラン。
コック海崎の作るシーフードメニューは、地元民と観光客に大人気である。
スタッフも熟練ぞろい、店内は南国気分を演出している。
「私、お野菜カレーが良いわ」
「食べたいワン」
「全員で、お野菜カレーだな」
「そうですね」
お野菜学園を開放した影響で、アンコリンたちは、お野菜が、以前より大好きになった。
シーフードも頼みたいが、次の機会で良いだろう。
「今日も、来ていて欲しいんですけど…」
佐糖さんが、キョロキョロとしている。
「…いた!」
今度は、頭をメニューで隠してしまう。
「?」
「何か、ものすごいイケメンがいるワン」
「おお。あれは、海鮮の精霊サハギンじゃないか」
「本当ですね。サハギンさんですよ」
アンコリンたちは、目立つカウンター席に、海色の長い髪の青年を見つける。
海鮮の精霊サハギンさま。
海の幸の守護者。すさまじいイケメン。
透明感がある。
ウオ市場で働いている。
明らかに、女の娘を魅了する外見の男の人。
佐糖さんは、サハギンさまに、片想い中なのだ。
しかし、容姿にも、人格にも自信が無いため、いつも遠くで見ているだけなのだと言う。
「サハギンさま…。カッコいいです…」
消え入るような声でつぶやく。
大好きなのだ。だけど、言えない。海の精霊じゃないし、これといった接点も無い。
「サハギンは、独り身だって聞くけどな」
アロハシャツのバーニさま。
あまりにも、イケメン。あふれかえる想いを寄せる女の娘たち。誰一人として、サハギンさまを振り向かせたことは無いと言う。
「でも、竜宮城の精霊オトヒメさんを好きだと言うウワサがありますよ」
「言うなよ。メイプル」
空気を読めないメイプルくんの頭を、バーニさまが、押さえ込む。
「…」
佐糖さんは、黙り込んでしまう。
うつむく。落ち込む。
あんなカッコいい人は、美人を好きなんだろう。
わかっている。
でも、まだ決まっていない。
「…まだ、決まっていないじゃないですか」
小声で言う。
甘い夢が見たい。甘い恋がしたい。
絶対、泣かない。
この涙真珠が作れるくらい。
うれしい時に、泣いて、海を砂糖に変えるの。
「応援するわ。佐糖さん」
「好きになってもらうワン」
「…ありがとう」
佐糖さんは、口をへの字に変えて、お礼を言う。
「未来は、明るいものだぞ」
「すみません。不安にならないでください」
「…ええ。そうですよね」
特製お野菜カレーが、運ばれてきた。
ゴロゴロ野菜は、どれも新鮮で美味しかった。
名店と呼んでいいだろう。
カレーを皆んなが、食べ終えた頃。
「もしかして、甘味女王アンコリンでは…?」
海上レストランのスタッフが、アンコリンに気づく。
スタッフは、“魚介類の消費税減額”にお礼を伝える。
魚介類のオーダーが、とても伸びたと言う。
「甘味女王さまなんですか?」
驚きを隠せない佐糖さん。
「えへ。そうなのよ」
可愛く、明らかにする。アンコリン。




