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源氏名

 割とあっさり目と言うか本当に簡潔に面接を終えた俺は、そのまま店の中にある、テーブル席の1つに誠と2人で座り、あれこれと説明等を受けていた。


 「えっと……先ずは業界用語とか色々とあるけど、そう言うのは追々働いて行けば自然と覚えるから。俺もそうだったし。」


 と誠が言ってきた。俺は内心「こいつ頼って俺大丈夫か?」と少し思いつつも、まぁ前のアルバイトでやっていた居酒屋の時も、専門用語とかはアルバイトを続けていく中で自然と覚えていた事を思い出し。「まぁどこもそんなもんか。」と、割とあっさりと納得し直した。


 「それで仕事するのに必要になるのがあるんだよ。」


 そう誠に言われ。「何が必要?」と首を少し傾げて誠の次の言葉を待っていると。


 「お前さ名前ダサいじゃん。ハッキリ言って。」


 そう言って少し笑いながら聞いてきた。俺は自分の名前がダサいと初めて言われたので、自分の名前を頭の中に浮かべた。「近藤始。」ちょっとダサいかも?と思った。


 「それでさ、何かカッコいいホストっぽい源氏名を付けなきゃいけないと思う理由よ。」


 「源氏名って何?」


 と素直に疑問を誠にぶつけると誠は「そこからかよ……。」と顔に書いてあるような表情を浮かべて苦笑いを返してきた。


 「源氏名ってのは、夜のお仕事してる人達が名乗るカッコ良かったり可愛く見えたり綺麗に見える仕事用の名前の事。ほら、お前も知ってるだろ?居酒屋でバイトしてたなら、夜のお店で働くお姉さま方が偽名を使って働いてる事ぐらい。」


 そう改めて言われてそう言えばそうだよな。そう言うお店で働いてる人達は皆が皆、名前をそれらしい変わった名前にしてるな。と思い当たり誠の源氏名がお前にも必要。の言葉に納得してみせた。


 「それで、どんな名前にする?因みに俺の誠ってのも本名じゃ無いからな。何か無いなら俺が付けてもいいし、店長や若林さんに付けてもらってもいいし。」


 そう言われて俺は少しだけ考えた後に目の前に座る誠に。


 「カッコがそれなりに良ければ何でもいいのか?」


 そう聞くと。「まぁよっぽどじゃなきゃ大丈夫だろ。」そう返してきたので、俺は頭の中に浮かんでいた名前を誠に伝えた。


 「東堂(とうどう)……東堂聖(とうどうひじり)なんてどうだ?イケると思うか?」


 と誠に伝えると。どんな字を書くのかを聞いてきたので。


 「東にお堂の堂に聖と書いて、とうどうひじりと読む。」


 そう言ってどんな漢字で書くのかを説明した。

この名前は、好きな漫画家が書いてる2作品の主人公の名前と名字を合体させた物だった。


 「東堂聖か……うん悪くないんじゃないかな?東堂も聖もウチの店に被ってる名前の人は居ないから、そのまま使えるぞ。」


 そう言われて、安直だが何故かスッと自分の中に収まった名前がそのまま使える事に喜んだ。


 「それじゃ、お前は今日から東堂聖だ。いいか源氏名を初めて付けると慣れるまでは、名前を呼ばれても反応しないか、反応が遅れる。早くその名前を呼ばれたら自分が呼ばれていると言う事を認識出来るようになれよ。これからは俺もお前の事を、近藤じゃなく(ひじり)って呼ぶからな。」


 そう言った後に「ちょっと待ってろ店長と若林さんにお前の源氏名を伝えに行ってくるから。」と言って座っていた椅子から立ち上がり、店のカウンターがあった入り口の方に向けて、誠が歩いて行った。


 俺はそれを眺めながら心の中で何度も。東堂聖と言う今自分で決めたばかりの源氏名を繰り返していた。


 そして店長の元から帰ってきて誠は手にハンガーに掛けられている1着の黒色のスーツを持って帰ってきた。


 「聖、お前ちょっとこれ羽織ってみ。」


 そう言われて差し出された黒のスーツを受け取り、ハンガーから外すと着ていたデニムシャツを脱ぐとTシャツ1枚になり、スーツのジャケットを羽織ろうとした……。するとサイズが小さかった事により、袖を両方通す事が出来なかった。


 「あ〜小さいか……。誰だか忘れたが飛んだヤツのお古なんだが着れなかったか。お前スーツ持ってる?」


 俺は、成人式の時に着たスーツと就活で着ていたリク◯ートスーツの2着しか持ってない事を言うと。


 「買うしかないかなぁ……。まぁ安く売ってる店とか心当たりもあるから、上と下セットで1万も出せば買えるよ。」


 「成人式の時に着たスーツじゃ駄目なのか?普通のネイビーのシングルのスーツだけど?」


 そう言うと誠からは。


 「まぁ別に駄目じゃないけど、どうせならホストらしくお洒落なスーツ着てた方がいいだろ?お客さんのウケだって良くなるし。ほら、例えば俺が着てるみたいな、襟に刺繍がしてあるスーツとかさ。」


 そう言って俺に自分の着ている黒のスーツの襟の部分を見せてきた。確かに誠の言う通り、そのスーツの襟には何かの植物の蔦みたいな刺繍が入っていた。


 「いくらだと思う?」


 「え?それ?う〜ん……。10万とか20万とかぐらい?」


 俺はそんな刺繍が入ったスーツの値段など知る由もなかったから、お洒落だしそれなりには値段も張るのだろうなぁと漠然とした考えの元に値段を言うと、誠からは。


 「ブッブ〜!正解はその1/10ぐらい。」


 そう言って笑ってきた。俺には高そうに見えたスーツが1万か2万で誠が手に入れていた事に素直に驚くと。「こう言う夜のお仕事に着く人用の専門の店があるんだよ。そこは全部お手頃価格なの。俺達のように売り上げの無いホストや、お前のような夜の仕事が初めての奴等に向けて。」と教えてくれた。そして、その店に、明日のお昼に誠が連れて行ってくれると言う事になった。明日は午前中にATMに行って2万〜3万のお金を降ろしておこうと思った。


 そして、お店は開店時間近くになったのか、誠が。


 「それじゃ、今日はこのへんで。俺もこの後店の掃除しなくちゃいけないし、外販にも出なくちゃいけないから。また明日の昼前にでもRAIN通話かけるから。」


 と言われたので、誠と2人で席を立ち、入ってきた時と逆に店の外に向かう。その時にカウンターの中のタブレットの前に居た、マネージャーと紹介された若林さんと、カウンターの外の椅子に腰掛け、若林さんと何やら話しをしていた店長から。


 「それじゃ明後日からよろしくね。午後の17時にはお店に居るようにしててね。よろしくね東堂聖くん。」


 そう声を掛けられ、若林さんからも。


 「よろしくな聖。遅刻するなよ。」


 と言われて店の門をくぐり外に出た所で誠と2言3言の言葉を交わした後に別れて、俺は家路に着いた。


 


 


 


 

明日19時予約投稿済。ブクマしてね〜

作中で分からない業界用語が出た場合。感想を使い作者に聞いてくれたら答えます。

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