始まる
少しだけ体育会系の香りがしないでも無い朝礼も済んで、いよいよお店は開店の時間を迎えようとしていた。俺はこの時間になり1つの疑問が頭に浮かんできたので、近くに立つ友人でもあり先輩ホストでもある、誠に声を掛けその疑問について尋ねてみる事にした。
「誠。ちょっといいか?朝礼に姫神さん居なかったようだけど、No.1のホストの人は朝礼に出なくてもいいのか?」
と疑問に思っていた事を聞くと、誠からの返答は。
「あ〜いや。No.1だろうと関係なく朝礼には出なくちゃいけない。今日だってさっき紹介して貰ったNo.2の早乙女さんも朝礼に出てたろ?ただし例外もあるんだ。姫神さん後は他にも2人〜3人ぐらいが朝礼に出席してないな。その人達は【同伴】出勤をしてくる人達なんだ。同伴を事前に内勤さんに連絡をしておくと、開店時間から1時間までは、遅れてお店に出勤すればいいんだ。同伴は意味は分かるか?」
と教えてもらいつつ聞かれた俺は。誠の説明を聞きある程度の理解をしていたので。
「姫様と一緒にお店の始まる前に待ち合わせをして、お店に一緒にやって来るって意味か?」
「正解。まぁ俺の説明聞けば大体は予想付くよな。これも明日か明後日か知らんが、聖の勉強会の時に説明してもらえるはずだから、その時に詳しい事や料金や自分にどうプラスするのか。その辺をしっかり聞いておけよ。」
その後は誠や売り上げの無いまたは少ない【掃除組】のホスト達で固まり、カウンター席に座ったり、カウンターに肘を着き寄り掛かったりして過ごすと。
きっと内勤さんの誰か決まった担当の人だろう、その人がUSENのスイッチを入れ、店内に落ち着いた雰囲気を醸し出す、ハウスモノと呼ばれるBGMを流し始めた。俺はそのBGMを聞き。「いよいよ始まるのか。」と物凄く緊張していると、誠から。
「取り敢えずは、このカウンター席に座ってるか、この近くに立ってたらいい。そして、隣の内勤さんが2名立ってるだろ?あそこで受け付けを済ませ、こちらに向かってくる姫様が居たら座っていたら立ち「いらっしゃいませ」と挨拶をしながら軽くお辞儀をしたらいいから。後は、呼ばれるまで取り敢えず待機が続くから。そして、多分だけど今日は、俺か聖と仲の良さそうな若手ホストと一緒に姫様の席を回る事が殆どになると思う。先ずは、お店の雰囲気に慣れような。」
そう言って、何か特別な接客用のマニュアルや講習等も特には無く、本当に【ぶっつけ本番】に近い状態で初日の営業が始まろうとしていた。
少し緊張をしながら所在なさげに何処に居たら1番良いのか?を自分なりに模索していた時に。開店前の掃除の段階から既にお店に来ていた内勤さんの、小林恭二さんとは別の【加藤公康】さんに声を掛けられた。
加藤さんは手に値段のそれなりに高そうな、デジタルの一眼レフカメラを持ち。
「東堂君。ちょっと悪いけど写真を何枚か撮らせてね。そうだね〜カウンター席に座って、僕の方を振り返って見るような視線で、前髪を右手で少しかき分けるよう感じのポーズを取ってくれるかな?」
と突然、なにかモデルか何かがするようなポーズの指定をされ戸惑っていると誠が俺の隣の席から外れ。「言う通りにポーズ決めて写真を撮ってもらえ。」と言ったので、注文されたポーズになるべく近付けようとポーズを決めて写真撮影に望むと、加藤さんから。
「う〜ん……東堂君は笑ってない方がシブくてカッコいいね。歯は見せないように唇を引き結んで、少しシニカルな感じを出そうか。」
と注文が来たのでその通りに歯を見せず少しだけ目を細めカメラを軽く睨むようにすると。そのポーズと顔で写真を撮られ。
「OK!良い写真が撮れたよ。ありがとうこれ使わせてもらうからね。」
そう言ってカウンターの中に戻りタブレットを使い何やら作業を始めていた。俺はそれを見て「なんだったんだろ?」と当然思う疑問を浮かべていると、誠から。
「今のは【男本】に使う写真の撮影してたんだよ。」
そう言われた。
「【男本】って何?」
そう言って分からない多分業界用語であろう言葉について尋ねると誠から。
「【男本】ってのは、まぁ簡単に言えばカタログみたいなもんよ。新規の姫様達が最初に受け付けに立つ内勤さんから「ウチのお店にはこんな感じのホストが在籍してますよ」と見せる為のカタログ。昔は本になってたらしいよ。今はタブレットを見せてるけどな。まぁこれも勉強会の時に説明されるよ。」
等と誠に分からない事等を聞いたり、雑談なんかをしていると開店から10分程の時間が経った頃に、お店の自動ドアが開き。1人の綺麗な女性がお店に入ってきた。俺はそれを見て。「本当に姫様が来店された。俺のホスト初日が現実の物になった。」と更に緊張を高めていった。
来店された姫様は、先ず受け付けを済ませると。受け付けをしていた内勤さん小林恭二さんが手にマイクを持つと、店内に響く声で。
「早乙女和哉リクエスト。VIP2番」
とこの店のNo.2である早乙女さんの事を呼び出した。そして直ぐに受け付け前のソファーに腰を下ろしている来店してきた姫様の元に、早乙女さんがやって来ると、姫様は満面の笑みを顔に浮かべて早乙女さんの腕に自分の手を絡ませて、2人並んで店内の奥に歩いて行く。俺は反射的に座っていたカウンター席から立ち上がり、誠に教えられた通りに。
「いらっしゃいませ。」
と声を掛けて、頭を少しだけ下げた。
いよいよ初日が始まった……。
明日19時予約投稿済。




