捨て子の「いい子」
### 1. 捨て子の「いい子」
「捨てられたくない」
それが、私の人生のすべてだった。
孤児院の窓から見る街の景色は、いつだって冷たい。手をつないで歩く親子。笑い合う大人たち。彼らがこちらに向け、ひそひそと話す声――それは「憐れみ」か、あるいは「蔑み」。
「私は、両親に捨てられたんだ」
その事実を理解してからは、自分を殺して生きてきた。大人たちの顔色を窺い、言われた通りに動く。便利で、静かで、手のかからない「いい子」。そうしていれば、もう二度と、暗い場所へ放り出されることはない。そう信じていた。頼りになるアラトを好きになるのは、私にとってあまりに自然なことだった。
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### 2. 八年前の「死刑宣告」
十歳の天啓の儀。それは私にとっての「死刑宣告」だった。
私は**【薬草摘み】**を授かった。世間が呼ぶ「底辺職」。
終わった、と思った。孤児院だって、大人になった底辺職をいつまでも養ってはくれない。私はまた、捨てられる――。そう絶望した私の手を、泥だらけのアラトが握った。
「俺を信じろ、リナ。腐らずにその仕事に励め。植物の声……いや、魔力の流れを見極めるんだ。それができれば、お前は世界を癒やすことも、壊すこともできる存在になる。……時が来たら、一緒に冒険に出よう。この孤児院の外、世界の果てまでな」
アラトもまた「ドブさらい」という底辺職だった。けれど、彼は頭がいい。彼が信じろと言うなら、私はどこへでも行く。アラトにさえ捨てられなければ、それでいい。その言葉だけを「命綱」にして、私は八年間、理不尽な嫌がらせにも耐え、泥を這うような薬草摘みの生活を完遂した。
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### 3. ステータスボードの「爆弾」
十八歳。孤児院を出なければならない期限。
慎ましい二人暮らしを夢見ていた私に、アラトはいきなり言った。
「リナ、俺とパーティーを組んでくれ!」
意味はわからなかったけれど、断る理由なんてない。二人の運命が重なったその瞬間、私の視界に、今まで見たこともない「ステータスボード」が浮かび上がった。
> **【リナのステータス】**
> * **レベル**: 1
> * **職業**: 薬草摘み(習熟度:**20 / 20 ※MAX**)
> * **経験値**: 81 / 1000
> * **能力値**: ちから: 5 / 耐久力: 8 / 素早さ: 12 / 知力: 20
> * **スキル**: 魔力感知、採取効率UP、魔力視(職業習熟特典スキル)
> * **魔法**: 無
> * **称号**: **恋する乙女**
「……っ!!?」
叫びそうになるのを、必死で喉で抑える。なによこれ、誰が付けたのよ!
心臓が口から飛び出しそうな私を余所に、アラトが私のボードを覗き込んで呟いた。
「ん? **恋する乙女?**」
「**これは!!! ち、違うの!!!**」
「そ……そうか……。まぁ、リナ、お前も職業の習熟度、MAXだな」
アラトの関心は、すぐに恥ずかしい称号から「数値」へと移ったようだった。少しだけ残念で、それ以上にホッとする。
アラトは知っているのだ。私がこの八年間、一度も腐らずに、ただひたすら薬草を摘み続けてきたこと。その一見無意味に見える「真面目さ」こそが、この理不尽な世界に抗い、二人で生きていくための、何よりも確かな力になることを。
アラトはボードを閉じ、私の目を見て、今までにない深刻な声で告げた。
「リナ。明日、この村を出るぞ」




