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底辺職の下剋上 〜見捨てられた4人でパーティーを組んだら、理不尽な世界が崩壊し始めた〜  作者: yamayo8


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篝火の夜と、最初の血

1. 篝火の下での講義

村を脱出し、沈黙の聖域へと続く街道の脇。俺とリナは小さな篝火を囲み、野営をしていた。


「……リナ、自分のステータスボードをよく見ておけ。お前が八年間、薬草を摘み続けた成果がそこにある」


リナが空中に浮かぶボードを恐る恐る操作する。


【リナのスキル】

魔力感知: 周囲の魔力を気配として感じる。

採取効率UP: 素材の品質を落とさず回収できる。

【職業習熟度MAX特典】

魔力視: 魔力の流れを「色」や「形」として視覚化する。


「魔力感知は、ただ『そこに何かある』と分かるだけだ。だが『魔力視』は違う。世界の裏側に流れるエネルギーを直接見ることができる。……これが、後に伝説の『不変の瞳』へと進化するたねだ」


リナは不思議そうに瞬きを繰り返している。彼女には今、俺の身体から溢れるレベル2の荒々しい魔力が、ドブ色のオーラとして見えているはずだ。


「……アラト。この世界のこと、もっと教えて。なんで私たちは、ずっとレベル1のままだったの?」


俺は爆ぜる薪を見つめながら、リナに語りかけるように口を開いた。


「この世界の仕組みは、上位職イージーモードにとって都合よく作られている。下位職は、必要経験値が通常の数倍に設定されているんだ。しかも、弱い魔物がいる場所は騎士団や冒険者ギルドが独占し、俺たちが近づけば『不法侵入』で捕まる。……そうやって、下層民が力をつける芽を徹底的に摘み取っているんだ」


さらに俺は、将来的な目標についても触れた。


「聖域に行けば、俺たちは『美徳職』へと転職できる。それは、この世界の歪んだ正義……ヴィンスたちが持つ『光の加護』に対抗するための唯一の力だ。だが、その先にはさらに深い闇、この世界のバグそのものを受け入れる『大罪職』という領域も存在する。……俺たちはそこを目指す」



2. 遭遇、そして本能の拒絶

ガサリ、と茂みが揺れた。

リナの肩が跳ねる。俺も即座に立ち上がったが、次の瞬間、心臓が嫌な跳ね方をした。


暗闇から現れたのは三体のゴブリン。一匹は冒険者から奪ったのか、小汚いナイフを握っている。

(……分かってる。ゴブリンだ。DFなら、レベル1の初心者でも倒せる雑魚敵だ)


だが、画面越しではない「本物」は違った。

鼻を突く獣臭、濁った黄色い瞳、そして獲物を切り裂こうとする剥き出しの殺意。


「……ッ」


足が竦んだ。

指先が冷たくなり、ちから45、耐久力60という数値が、まるで自分のものではないかのように遠のいていく。


「ギギィッ!」


ナイフを持った一匹が、動けない俺を無視して、背後のリナへと飛びかかった。


「——っ、リナ!!」


思考より先に身体が動いた。俺はリナに飛びつき、そのまま地面を転がりながら彼女を庇う。

頬をナイフの切っ先が掠めた。鋭い痛み。熱い血の感触。

(……これは、ゲームじゃない。……俺たちが、今ここで死ぬか、生きるかの『現実』だ!!)



3. ステータスの暴力

「ふざけるな……ッ!」


俺は立ち上がり、一番近くにいたゴブリンの顔面に、無我夢中で拳を叩き込んだ。

ドォン!! という、生物を殴ったとは思えない破壊音が夜の森に響く。


「……え?」


殴られたゴブリンは、まるで見えないトラックに撥ねられたかのように、数十メートル先の巨木まで吹き飛んだ。木が激しく揺れ、ゴブリンは肉の塊となって崩れ落ちた。即死だ。


(……強すぎる。自分の力に、若干引くわ……)


だが、その一撃で頭が冷えた。

落ち着いて残りの二体を見ると、その動きが驚くほど「遅く」感じられた。

ゴブリンが棍棒を振り上げる軌道が、まるで見えるようだ。


「……当たる気がしねえ」


俺は素早く踏み込み、二体目の腹を蹴り上げた。

グシャリと嫌な感触が伝わったが、躊躇はしない。三体目のナイフを持つ腕を掴み、そのまま握りつぶしてナイフを奪い取った。

一瞬前までの恐怖が嘘のように消え、俺は手にしたナイフで最後の一体の喉を貫いた。



4. 初の戦利品と共有される成果

静寂が戻った森。

俺はゴブリンが持っていたナイフを確認する。


【装備:錆びた鉄のナイフ】

攻撃力: 5

状態: 劣化(小)

アラトが装備しました。


「リナ、大丈夫か?」

「……うん。びっくりした。アラト、あんなに強かったんだね……」


俺は奪ったナイフを使い、ゴブリンの胸元を裂いて小さな黒い石——「魔石」を取り出した。ドブさらいをしていた頃には、決して手に入らなかった換金アイテムだ。

ふと、視界の端でボードが輝いた。


【獲得経験値:30】

【パーティーメンバーに分配されます:アラト+15、リナ+15】


【ステータスボード】

名前: アラト 経験値: 15 / 2000

名前: リナ 経験値: 96 / 1000 (81+15)


「……たった三体でこれか。ドブをさらってた八年間のうちの、何ヶ月分かが一瞬で手に入ったぞ」


リナのボードにも、確かな成長の証が刻まれている。


「本当だ……。私、何もしてないのに、経験値が入ってる。これがパーティーなんだね」

「ああ。これが攻略の第一歩だ。……行くぞ、リナ。次は沈黙の聖域。そこで俺たちの『器』を完成させる」


俺は返り血を拭い、夜の街道の先を見据えた。

ハードモードの攻略は、まだ始まったばかりだ。



***



第四話:泥の中の反逆


1. 絶壁の踏破

ゴブリンとの初戦から数日。俺とリナの目の前には、垂直に切り立った巨大な岩壁、【死の断崖】がそびえ立っていた。頂上にあるのは、歴史から抹消された禁忌の地「沈黙の聖域」だ。


「アラト……これ、本当に登るの? 騎士様たちの馬だって無理だよ……」

「リナ、背中にしっかり捕まってろ。今の俺たちなら、これはただの『階段』だ」


俺はリナを背負い、岩肌に指をかけた。 耐久力 60、ちから 45。

指先が硬い岩を容易く砕き、足の筋肉がバネのように俺たちの体を上方へと弾き飛ばす。 八年間、重い泥を運び続けて鍛え上げた「下位職の基礎」が、レベル2という爆薬によって、圧倒的な機動力へと昇華されていた。

俺は重力を無視するように絶壁を駆け登り、わずか数分で頂上の聖堂へと辿り着いた。



2. 「謙譲」の座——無名の器

頂上に佇むのは、時が止まったかのような静寂に包まれた石造りの聖堂。

俺は祭壇の前に立ち、廃棄場で手に入れた「枯れた花の髪飾り(名もなき聖者の遺品)」を捧げた。

瞬間、聖堂が重低音を響かせて共鳴した。髪飾りが粒子となり、俺の胸の中央へと吸い込まれていく。心臓の奥に、無限に広がる「虚無の穴」が開いたような感覚。


【ステータスボード:転職完了】

名前: アラト

レベル: 2

職業: 無名の器(Nameless Vessel)

称号: 謙譲を歩む者


【統合スキル】

不浄なる循環アンピュア・サイクル

「自己治癒」「自己解毒」「不純物代謝」が統合。体内の毒や澱みをエネルギーへ変換する効率が極大化。


【新規スキル】

万物受容オール・アクセプト

物理・魔法を問わず、受けた衝撃の一部を「虚無」へ逃がし、無効化または蓄積する。さらに、取り込んだ事象を解析・習得する。

無限収納アイテムボックス

自身の内側にある無限の空白をアイテムボックスとして利用。


身体の芯が、無限の広がりを持つ「空白」になった。



3. システムエラーの排除

「——ようやく見つけたぞ」


土煙の中から現れたのは、白銀の鎧を纏った男——騎士団副長ヴィンスだった。


「久しぶりだなぁ、ドブネズミども!」


ヴィンスはアラトとリナを下卑た笑いと殺意の籠った目で見据えた。この国において、下位職が勝手にレベルを上げることは、支配構造を揺るがす禁忌として定義されている。


「ククク、アラト。お前を排除する大義名分ができた。下層の民が分を超えた力を持つことは許されん。俺の手で排除してやろう」


ヴィンスが腰の長剣を抜く。聖騎士にのみ許される、眩いばかりの「光の加護」を宿した名剣だ。


【ターゲット情報】

名前: ヴィンス

レベル: 35

職業: 勇者

状態: 圧倒的優位(光の加護)


「跪け。勇者の慈悲だ。痛みを感じる暇もなく、その首を落としてやろう」

「……慈悲か。ヴィンス、お前のその『正義』……八年前から一歩も進んでねえな」


俺は「無限収納」から、先ほど仕留めたゴブリンの錆びたナイフを、何もない空間から取り出した。


「……何をした? まあいい。消えろ、大罪人め」



4. 決戦、そして逃亡

閃光。レベル35の英雄が放つ一撃は、俺の予想を遥かに上回っていた。


(——速すぎる……ッ!)


避ける暇すらない。白銀の刃が俺の肩口を深く切り裂き、爆発的な衝撃が全身を襲う。


「が、はっ……!!」


激痛。だがその瞬間、身体が勝手に反応した。

新スキル【万物受容】が発動し、本来なら俺の半身を消し飛ばすはずだった衝撃の大部分が、内なる虚無へと吸い込まれ減算される。さらに、傷口からは不気味なほどの蒸気が立ち上った。統合スキル【不浄なる循環】が、受けたダメージを即座に修復し始めたのだ。


「なっ……!? なぜ死んでいない! ゴミが、私の剣を……!」


ヴィンスが驚愕に目を見開く。その隙を逃さず、俺は背後の少女に叫んだ。


「リナ、今だッ! その瞳で魔力の流れを見ろ!!」


リナは、小刻みに震えていた。彼女にとってヴィンスは、今でも共に育った大切な友人なのだ。戦いたくない、傷つけ合いたくない。その想いが彼女を縛る。

だが、血を流しながらも自分を守るアラトの姿を見て、彼女は涙を拭い、瞳をカッと見開いた。


リナの瞳が青白く輝く。職業習熟度MAX特典、【魔力視】。

彼女の視界の中で、ヴィンスを護る黄金の加護の、一番脆い「淀み」が露呈する。


「……そこ! 左肩のあたりの魔力が、薄くなってる……っ!」


戸惑いを含んだリナの声が響く。


「よくやった!!」


俺は今の全力を、リナが指し示したヴィンスの鎖骨へと叩き込んだ。ちから 45の重い一撃。


「ア、ガアアアアアッ!?」


加護による防護壁をぶち抜かれたヴィンスが、無様に床を転がる。白銀の鎧が砕け、彼の「英雄」としてのプライドが粉砕された。


「……殺す、絶対に殺してやる……アラト……リナぁぁ!!」


逆上し、形相を変えて飛びかかろうとするヴィンス。俺はとどめを刺そうと、奪ったナイフを逆手に握り、その喉元へ踏み込もうとした。


「ダメ!!!」


リナの叫びが聖堂に響き渡った。

俺は反射的に拳を止めた。刹那、足場の崩れたヴィンスは、バランスを崩して断崖の淵からずり落ちるように、闇の中へと消えていった。


「……ッ、リナ」


ヴィンスの憎悪に満ちた絶叫が遠ざかっていく。闇に消えたヴィンスの呪詛を聞き流しながら、アラトは内なる「空白」に意識を向けた。


先ほどヴィンスに切り裂かれた肩。そこから吸い込んだ「光の加護」の残滓が、虚無の中で激しく火花を散らしている。


『解析を開始します……』


脳裏に、前世の実況動画のログのような無機質な声が響く。


(……へへ、ただで殴られる俺じゃない。レベル35の勇者様が放った「正義」の術式、まるごと俺の血肉に変えてやるよ)


まだ完全ではない。だが、ヴィンスが誇った「光」の断片は、今やアラトという底なしの器の中で、新しい力の種へと変貌しつつあった。


「……はぁ、はぁ……行くぞ、リナ。ここからが、本当の『攻略』の始まりだ」


俺たちは夜の森へと消えた。

ドブの中から這い上がった二人の孤児。その反逆が、この世界の理不尽なルールを焼き尽くすまで、攻略おれたちのたびは終わらない。


【ステータスボード】

名前: アラト

レベル: 2

職業: 無名の器(Nameless Vessel)

称号: 謙譲を歩む者、勇者の天敵

HP: 110 / 110

MP: 45 / 45

ちから: 45

耐久力: 60

素早さ: 38

知力: 35


【保有スキル】

不浄なる循環アンピュア・サイクル

毒、澱み、受けたダメージをエネルギーへ変換し、自己修復を行う。

万物受容オール・アクセプト

物理・魔法を問わず、受けた衝撃の一部を「虚無」へ逃がし、無効化または蓄積する。さらに、取り込んだ事象を解析・習得する。

▶ 解析中:勇者の加護(光属性の防御膜)——解析度 8%

無限収納アイテムボックス

内部の虚無空間に物質を収納する。


第一章 完

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