最悪の囮(おとり)作戦
「レン、お前には別行動でエルフの国『アルフェイム』へ先行し、内情を探ってきてもらいたい。王の死と現在の権力構造についてだ」
「ハッ! 姫様のため、このレンめが必ずや有益な情報を持ち帰りましょうぞ! シュンッ!」
レンは意気揚々と一礼すると、忍者の『縮地』を用いて風のように山脈の先へと消えていった。
「さて、それじゃあ俺たちはジセスのレベリング(レベル上げ)だ。まずはパーティーの経験値配分で一気に底上げするぞ」
俺とリナ、ウルが連携し、上空から襲いかかってきたワイバーンを瞬殺する。
パーティー間で共有された莫大な経験値が、レベル1だったジセスへと一気に流れ込んだ。
――その瞬間だった。
『ビキッ……バキバキッ!』
「え……? あ、ぁぁっ……!」
ジセスの身体が眩い光に包まれ、骨や筋肉が軋むような異音が響き渡る。100年以上の軟禁生活による栄養失調と、不遇職ゆえの成長阻害。それらのデバフがレベルアップに伴う「肉体の再構築」によって、一気に解除されていく。
光が収まった後、そこに立っていたのは先ほどの小柄で泥だらけの少女ではなかった。
長身ですらりとした手足、神秘的な銀糸の髪、そして誰もが息を呑むほどの気品と圧倒的な美貌を備えた、超絶美女のエルフ。それが、本来の「第一王女ジセス」の姿だった。
「……はぁ。ウルだけでも可愛いのに、また厄介なライバルが増えたわね……」
リナが頭を抱えながら、ボソッと愚痴をこぼす。
自身の変化に戸惑うジセスをよそに、俺はゲーマーとしての次の布石を打つことにした。
「ジセス、お前の『荷運び』の職業熟練度を上げるために、限界まで荷物を持ってみてくれ」
「は、はい! アラト様のご指示とあらば!」
俺は『無限収納』を開き、先ほどまで狩りまくっていた大量のワイバーンの死骸や巨大な魔石、血肉の滴る素材を次々と取り出し、ジセスに持たせていった。
【重量緩和】と【怪力】のスキルが発動し、ジセスは自身よりも遥かに巨大な「ワイバーンの死骸の山」を軽々と持ち上げる。
だが、問題はその異様な光景だった。
山脈を進むワイバーンの群れの視界に、「自分たちの仲間の死体を嬉しそうに山積みにして運んでいるエルフ」の姿が映り込んだのだ。
『グギャアアァァァァッ!!』
同胞を惨殺された怒りに狂い、周囲の山々から数十頭のワイバーンが血走った目で一斉にジセス目掛けて急降下してくる。
「ひぃっ!? ア、アラト様!? なんだか私ばかり狙われている気がするのですが!?」
「気のせいじゃないぞ。ヘイト管理としては完璧だ!」
「わ、私、もしかしてお囮ですかぁぁぁ!?」
涙目で仲間の死骸の山を抱えるジセス。そこに殺到するワイバーンの群れ。
俺とリナ、そしてウルは、怒りで我を忘れてジセスに一直線に突っ込んでくるワイバーンたちを、背後や側面から面白いように狩り尽くしていった。
「職業熟練度も上がるし、敵は勝手に集まってくるし、経験値効率は最高だ! この調子で山を降りるまで狩り続けるぞ!」
「鬼! アラト様の鬼ぃぃぃ!」
ジセスの悲鳴とワイバーンの断末魔がこだまする中、絶え間ないレベリングは続いた。
パーティーでの討伐経験値が入り続けることで、ジセスのレベルは瞬く間に跳ね上がっていく。山を降り切る頃、改めて彼女のステータスを確認した。
パーティーステータス(ドラグフ山脈突破時・簡易表示)
【 ジセス 】
レベル:10(↑9UP)
種族:エルフ
職業:【荷運び】
基礎ステータス:ちから 98 / 耐久力 62 / 素早さ 91 / 知力 69
スキル:【怪力】、【効率歩行】、【重量緩和】
状態:肉体再構築完了。過酷な囮労働による極度の疲労と、アラトへの若干の不信感(すぐに解消予定)。
【 アラト 】
レベル:20(↑3UP)
種族:ハイヒューマン
職業:【無名の器】
主要ステータス:ちから 118 / 素早さ 125
状態:順調にレベル20に到達。新スキルの解析とジセスの育成方針に思考を巡らせている。
【 リナ 】
レベル:19(↑3UP)
種族:ハイヒューマン
職業:【不変の瞳(慈悲)】
主要ステータス:知力 168
状態:広域殲滅と回復を完遂。美しく成長したジセスを見て、さらなる対抗心を燃やしている。
【 ウル 】
レベル:19(↑3UP)
種族:霊獣種:銀狼族
職業:【静寂の盾(忍耐)】
主要ステータス:耐久力 155
状態:ワイバーンの猛攻を無傷で完封。ジセスの疲労を心配して寄り添っている。
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