覚醒と、終わらないスパルタ
ドラグフ山脈を下りきった麓での休息中、俺は虚空に展開したステータス画面を見つめながらジセスに声をかけた。
「ジセス。お前、今なら『ハイエルフ』に進化できるみたいだが、どうする?」
「……え?」
ジセスは手渡された水筒を落としそうになりながら、目を丸くした。
「ハイエルフ、ですか……? それは、おとぎ話や神話の中だけの存在だと思っていました。エルフの国を最初に創り上げた始祖も、ハイエルフだったと言い伝えられていますが……」
「伝説だろうが何だろうが、条件は満たしてる。どうする? 進化するか?」
ジセスはコクリと唾を飲み込むと、決意を込めた瞳で力強く頷いた。
「はい。お父様たちの復讐を果たすためにも、私は強くなりたいです!」
「よし、決まりだ」
俺はステータス画面に表示された【ハイエルフへ進化】の項目を、躊躇いなくタップした。
――カッ!
次の瞬間、ジセスの全身から眩い光が溢れ出した。
光が収まると、体格や輪郭といった物理的な見た目の変化こそなかったものの、彼女の瞳は神秘的な金色へと輝きを変えていた。ただそこに立っているだけで、周囲の淀んだ空気が清浄化されていくような、圧倒的な神聖さを帯びている。
「おお、これはまた一層神々しくなったな」
俺が感心して頷くと、ジセスは自分の両手を見つめながら、その内側に満ちる凄まじい力の奔流に震えていた。
「これが、ハイエルフの力……。これで、さらに強くなれます。次は転職ですね」
ジセスは俺を見つめ、どこか縋るような声で言った。
「アラト様……私はこれで、この【荷運び】という不遇職から逃れられるのでしょうか?」
俺はその言葉に、思わず鼻で笑ってしまった。
「職から逃れる? 勘違いするな、ジセス。逃げるんじゃない。お前が『荷運び』だったからこそ辿り着ける、究極の高みを見せてやろうって言ってるんだ」
「荷運びでなければ、辿り着けない高み……」
「そうだ。ステータス極振りの最強アタッカーにしてやる」
ジセスの金色の瞳から、不安の色が完全に消え去った。
「アラト様……。このご恩、一生をかけて必ずお返しします」
「気にするな。それより、エルフの国に転職用の神殿はあるか?」
「はい。首都のアルフェイムに、最も大きな大精霊の神殿があります」
「よし、それじゃあまずはそこに向かおう」
「はい!」
ジセスが満面の笑みで立ち上がった、その直後だった。
――ドサッ!!
――ドゴォォンッ!!
「……へ?」
ジセスの足元に、俺の『無限収納』から吐き出された大量のワイバーンの死骸や、重い魔物の素材が次々と山積みにされていく。その総重量は、先ほどの囮作戦の時すらも上回っていた。
「さぁ、持て」
「へぇ……?」
「まだ『荷運び』の職業熟練度がMAXまで上がりきってないだろ? これを全部担いだ状態で、首都まで走って移動するぞ!」
「へぇぇっ!?」
俺は悲鳴を上げるジセスをよそに、ステータス125の素早さを活かして、凄まじいスピードで首都の方角へと走り始めた。
リナとウルも呆れた顔をしながら、俺の後を軽快に追ってくる。
「お、鬼ぃぃーっ! 待ってくださいアラト様ぁぁぁ!」
金色の瞳を涙目にさせながら、背丈の何十倍もある素材の山を担いだハイエルフの王女が、凄まじい地響きを立てながら慌てて俺たちの後を追いかけてきた。




