死の山脈での邂逅
ドラグフ山脈の空を覆っていたワイバーンの群れは、俺たちの格好の「経験値」と化していた。
ウルの【天命の守護】でヘイトを集め、リナの【ウィンドカッター】で撃ち落とし、俺がトドメを刺す。忍者のレンは索敵と死骸の回収(素材剥ぎ取り)に奔走し、完璧な効率で山を越えていった。
中腹を過ぎ、下山ルートに入ったところで、俺たちは自身のステータスを確認した。
パーティーステータス(ドラグフ山脈下山時)
【 アラト 】 レベル:17(+2) / 職業:【無名の器】 / ちから 105、素早さ 112
【 リナ 】 レベル:16(+2) / 職業:【不変の瞳(慈悲)】 / 知力 152
【 ウル 】 レベル:16(+2) / 職業:【静寂の盾(忍耐)】 / 耐久力 140
【 レン 】 レベル:12 / 職業:【忍者】 / 素早さ 85(隠密・縮地・空蝉)
順調なペースに息をつこうとしたその時、眼下の森から甲高い悲鳴が響き渡った。
「キャーッ!」
「……行くぞ!」
俺たちは即座に足場を蹴り、声のする方へと急行した。
***
薄暗い森の中。泥だらけのフードを被った小柄な影が、木の根にへたり込んでいた。
「チッ……やっと追いついたぜ。おい、あいつを捕らえろ」
身なりの良い奴隷商が息を切らしながら指示を出すと、雇われ兵が剣を抜きながらフードの人物へと歩み寄った。
「いやだ! キャーッ!」
フードの人物が顔を覆って叫んだ、次の瞬間。
ドシュッ!
鈍い音と共に、雇われ兵の首が宙を舞った。
「……へ? 視界がぐるぐる回る……」
頭を失った雇われ兵の体がどさりと崩れ落ち、その後ろから巨大な飛竜――ワイバーンが姿を現した。
「ワ、ワイバーン!? くそっ!」
奴隷商は悲鳴を上げ、商品すら放り出して一目散に逃げ出した。
しかし、上空から降下してきた別のワイバーンが、逃げる奴隷商の肩に鋭いかぎ爪を食い込ませた。
「うわぁーーーっ! 助けてぇーーー!」
ワイバーンは奴隷商を掴んだまま、山頂の方へと飛び去ろうとする。
そして、残されたフードの人物にも、血に飢えたワイバーンの顎が迫っていた。
(……お父様)
彼女はぎゅっと目を瞑り、死を覚悟した。
――ガキンッ!
激しい金属音が響き、顔にワイバーンの生温かい息が吹きかかる。
恐る恐る目を開けると、そこには、漆黒の短剣で巨大なワイバーンの牙を受け止める少年の背中があった。
「間に合った」
少年――アラトは短く呟くと、ワイバーンの顎を蹴り上げて跳躍し、そのまま首の隙間へ短剣を突き立てて切り落とした。
ワイバーンが轟音と共に倒れ伏す。
「ケガはないか?」
アラトが振り返り手を差し伸べると、フードの人物はコクコクと何度も頷いた。
そこへ、他の3人も合流してくる。レンの肩には、間一髪で『縮地』と『空蝉』を使ってワイバーンから奪い返した奴隷商が担がれていた。
「で、こんな所で何やってたんだ?」
アラトの問いに、腰を抜かした奴隷商が震えながら説明する。商品に逃げられ、追ってここまで来てワイバーンに遭遇したらしい。
「アラト様……この子、助けてあげられないでしょうか?」
奴隷としての過去を持つウルが、フードの人物を庇うようにしてアラトを見上げた。
「……リナ、念のため鑑定してくれ」
「わかったわ。……え? エルフ?」
リナが『真理魔眼』を通したステータスを共有する。
鑑定結果
種族:エルフ
職業:【荷運び】(不遇職)
レベル:1
ステータス:ちから 20 / 耐久力 8 / 素早さ 15 / 知力 9
スキル:【怪力】、【効率歩行】、【重量緩和】
種族特性:精霊感知
(エルフで荷運び? 将来性の塊だ。)
アラトは内心の興奮を抑えきれず、ニヤリと笑った。
「これは……仲間にしよう」
「そ、そうは言いましても、こいつも立派な商品でして……無料でというのは……」
奴隷商がもみ手をして口を挟む。
「命の恩人に向かってよく言うわね」
リナが冷ややかな視線で奴隷商を射抜いた。
「まぁまぁ、奴隷商といえど商売だからな。いくら払えばいい?」
「話の分かる旦那で助かります。エルフの奴隷ですから、金貨20枚……」
リナがスッと目を細める。
「……いや、金貨10枚……」
リナから微かな殺気が漏れる。
「くぅっ! このような身なりでもエルフなんです! これ以上は……金貨5枚で!」
今にも泣き出しそうな奴隷商を見て、アラトは苦笑した。
「リナ、あんまり虐めるな。金貨10枚払うよ」
「ありがとうございます旦那ぁ!!」
アラトはフードの人物に目線を合わせる。
「今日からよろしくな。名前は?」
「……ジセス……です……」
怯えながらも、彼女は小さな声で答えた。
その後、奴隷商の馬車が停まっている安全な場所まで護衛しつつ戻った。
「それでは、奴隷契約を行いますね。術式を……」
「その必要はない。首輪や足かせも全部外してやってくれ」
アラトの言葉に、奴隷商は目を丸くした。
「いいのですか? それでは縛るものがなくなって逃げられますよ?」
「奴隷として買ったわけじゃない。パーティーメンバーとして迎え入れたいんだ」
「……こいつの職業は【荷運び】ですよ? 荷物持ちには良いかもしれませんが、荷物持ちにしかなりません。後で返品と言われても困りますよ?」
「それでいいんだよ」
アラトの即答に、奴隷商は呆れたような顔をしてから「アラト様がそれでよいなら文句はありません。それでは失礼します」と逃げるように馬車を走らせて去っていった。
森の中に、アラトたち5人だけが残される。
ジセスは手首に残った鉄枷の痕をさすりながら、信じられないという目でアラトを見つめていた。
「さて、改めて自己紹介だ」
アラトは真っ直ぐにジセスの目を見て言った。
「俺たちは『約束の配信者』というBランクパーティーだ。もともとはレン以外、みんな不遇職だった。俺はジセスのことも、今までの境遇を吹き飛ばすぐらい強くすることができる。ジセスの意思を尊重するが、このパーティーに入ってくれないか?」
ジセスは少しの間俯き、やがて顔を上げて決意を込めた瞳で答えた。
「……私にはもう、どこにも行く当てがありません。そして、やらなければいけないことがあります。アラト様、宜しくお願いします」
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