銀狼の故郷と、死の山脈の越え方
騎士団長レジナルドが嵐のように去った後、俺はガロンに向き直った。
「実際、Bランクに上がるにはどうすればいいんだ? 試験とか、それ相応の期間が必要なんだろ?」
ガロンは俺たちの顔を一人ずつ見定めてから、深い溜息をついた。
「……実を言えば、お前たちがダンジョンで見せた実績なら、Bランクに上げることは今すぐにでも可能だ。さっき俺があいつにごねたのは、お前たちの意思を確認する時間を稼ぐためだ。望まない指名依頼に、無理やりお前たちを巻き込みたくはなかったからな」
ギルマスの不器用な優しさに、俺は少しだけ口角を上げた。
「悪いな。だが、もし上げられるなら今すぐBランクにしてくれ。ヴィンスのことも気になるし、どのみち亜人の国々には一度行っておきたいと思ってたんだ」
俺がそう言うと、隣でウルの銀色の耳が期待に震えた。
「ウル、お前は獣人の国に家族はいるのか?」
俺の問いに、ウルは少し視線を落とした。
「……わかりません。私たち銀狼族は、狼人族の中でも特に珍しく、昔から美しい毛皮を目当てに狩りに来る人間が絶えませんでした。私が住んでいた村も、何者かに襲われて……。お父さんもお母さんも、まだ小さかった弟も、その時に離れ離れになってしまいました。それからは、一度も会えていません」
「銀狼族も獣人には変わりない。もし無事に逃げ切れていたら、獣人の国に身を寄せている可能性は高いんじゃないか?」
「あ……」
ウルの瞳に、希望の光が宿る。
「よし。じゃあヴィンスのついでに、ウルの家族も探しに行ってみるか」
「アラト様……! ありがとうございます!」
ウルが感激したように俺の手を握る。その横でリナも「いいわね、目的が増えるのは大歓迎よ」と楽しげに頷いた。
「ガロン。ドラグフ山脈をこっちから越えて、最初に着く国はどこだ?」
「……エルフの国『アルフェイム』だ」
ガロンの表情は依然として険しい。
「エルフは人間以上に差別意識が強いぞ。自分たち以外の種族は認めない、不遜な連中だ。連中は長寿だからな、人間など瞬きする間に死ぬ羽虫程度にしか思ってない」
「それは厄介そうだな。……で、ドラグフ山脈自体の危険度はどうだ?」
「死の山脈と呼ばれる所以は、ワイバーンだ。奴らは集団で襲ってくる」
「ワイバーンの強さは?」
俺の問いに、ガロンは腕を組んで考え込んだ。
「……そうだな。ダンジョン30階層のボスより少し弱いくらいの敵が、数十体まとめて襲ってくると思えばいい。一国の騎士団でも壊滅しかねない脅威だぞ」
俺とリナ、そしてウルは顔を見合わせた。
「30階層のボスより弱いのが集団か。……大丈夫そうだな」
「ええ、全く問題ないわね」
「はい、今の私たちなら大丈夫です」
あまりの即答に、ガロンの顔が引きつった。
「……お前ら、どんだけ感覚が狂ってやがる。あんなバケモノの群れを『大丈夫』だと?」
「まぁいい、わかった。そこまで言うなら、お前らのダンジョンでの実績を踏まえて、今日からBランク昇格とする。特例中の特例だ」
ガロンは悔しそうに笑いながら、俺たちのギルドカードを受け取った。
「さっそく準備を整えて出発する。……ダンジョン素材の換金分、多めに用意しておいてくれよ」
俺は新しいランクの刻印を待たず、必要な装備と食料のリストを脳内で展開し始めた。
パーティーステータス(Bランク昇格時点)
【 アラト 】
レベル:15 / 種族:ハイヒューマン
基礎ステータス:ちから 92 / 耐久力 101 / 素早さ 97 / 知力 77
状態:Bランク冒険者へ昇格。亜人の国を見据え、交渉と殲滅の準備を開始。
【 リナ 】
レベル:14 / 種族:ハイヒューマン
基礎ステータス:知力 138 / 素早さ 88
状態:『天恵の慈雨』により、対ワイバーン戦での広域防御・回復の要。
【 ウル 】
レベル:14 / 種族:霊獣種:銀狼族
基礎ステータス:耐久力 125 / 素早さ 85
状態:家族探しの希望を胸に、銀狼としての本能が昂ぶっている。




