旅立ちと影
翌朝、『白い燕亭』のナナをはじめ、王都でお世話になった人たちに短い挨拶を済ませた俺たちは、冒険者ギルドへと向かった。
ミーナの窓口へ向かうと、彼女はすでにずっしりと重い皮袋を用意して待っていた。
「アラトさん、査定終わってますよ。これが今回の報酬です」
そこへ、背後からギルマスのガロンが歩み寄ってきた。
「少し色を付けておいたぞ」
「悪いな。ありがたく受け取っておく」
袋の中身を確認すると、ダンジョンで集めた素材の換金分だけでも一生遊んで暮らせるほどの額面になっていた。そこにヴィンス捜索の『前金』も加わり、もはや使い道を悩むレベルの富だ。
ミーナやガロンに別れを告げ、俺たちは朝日が照らす王都の正門を抜けて、ドラグフ山脈へと歩みを進めた。
***
同刻。王都の中心にそびえる騎士団本部の、最も豪奢な騎士団長室。
朝から騎士団長レジナルドのもとへ、一報が届けられていた。
「冒険者ギルドからの使いが見えています」
「通せ」
入室してきたギルドの使いは、深く頭を下げて報告した。
「本日、アラト一行がヴィンス捜索に出発致しました」
「あぁ、思ったより早かったな。頭の固いギルマスも、私の命令には抗えなかったか。ククク」
ワイングラスを揺らしながら、レジナルドは下卑た笑みを浮かべる。
「あの冒険者たち、本当にヴィンス様を見つけられるのでしょうか?」
傍らに立つ副官の問いに、レジナルドは鼻で笑った。
「ん? 見つけられるわけないだろ。ドラグフ山脈に入った瞬間、ワイバーンの餌になって全滅するだろうね」
「それではなぜ、あの者たちに指名依頼を?」
「ヴィンスが孤児院出身の底辺だと知る者は、少ないほうがいいからね。まぁ、ドラグフ山脈で死ぬ前に、少しでも情報を持って帰ってこれれば儲けものだよ。死ぬ運命には変わりないだろうけど」
その言葉を聞いたギルドの使いが、恐る恐る口を開いた。
「恐れながら申し上げます。アラト一行ですが、実力ありと認められてBランクに昇級したようです。なんでも、ダンジョン30階層ボスの魔石を非常に綺麗な状態で持ち帰ったとか。他にも、高ランクの魔物の素材を大量に持ち込んでおりまして……」
「ふん。底辺職が集まったところで大したことはできない。運よく拾ったか、強い奴の荷物持ちにでもなって付いて行って、そいつが死んだか背後から殺したかしたんだろう」
「しかし……!」
「たかがギルド職員が、私に口答えする気か? あいつらが死ぬのはもう確定しているんだよ! さっさと失せろ!」
「も、申し訳ございません! それでは私はこれで失礼致します!」
使いが逃げるように退出すると、レジナルドは忌々しげに舌打ちをした。
「まったく、調子に乗りやがって。……まぁ、念のため1人偵察を付けておくか。戦闘はからっきしだが、偵察しか能がない奴がいただろ? 東の島国からの流れ者の奴だ」
「はい。レンですね。あいつは聞いたことのない『ニンジャ』という職業だと言っておりました」
「知らん職業だが、隠密や偵察が得意だと言っていたんだろ?」
「はい」
「そいつを呼べ」
数分後。
コンコン、と扉を叩く音と共に、奇妙な装束を身に纏った男が入室してきた。
「失礼致しまする! 拙者の名はレン。泥中に咲く蓮のごとく、裏社会の澱みに身を置きながらも、主君への忠誠にのみ殉ずる影にござる!」
芝居がかった大仰な口上で、男は床に膝をついた。
「はぁ……。ゴホン、喜べレン、お前に初任務だ」
「は! 何なりとご命令ください!」
「ヴィンス捜索を依頼したアラトという冒険者3人組が、ドラグフ山脈を目指している。おそらく山脈に入ってすぐに死ぬとは思うが、その顛末を見届けて報告しろ。行け!」
「は! ……シュンッ!」
謎の擬音を口で言い残し、レンの姿が煙と共に忽然と消え去った。
「……どこ行った!?」
レジナルドの怒声だけが、静かな騎士団長室に虚しく響き渡った。
パーティーステータス(ドラグフ山脈出発時)
【 アラト 】
レベル:15 / 種族:ハイヒューマン
職業:【無名の器】
基礎ステータス:ちから 92 / 耐久力 101 / 素早さ 97 / 知力 77
装備:【深淵の黒外套】、【死を退ける指輪】
解析状況:勇者の加護(光属性防御):85%、腐食:40%、神聖魔法(基礎):5%
硬化、分身、毒牙:習得済み
【 リナ 】
レベル:14 / 種族:ハイヒューマン
職業:【不変の瞳(慈悲)】
基礎ステータス:ちから 55 / 耐久力 67 / 素早さ 88 / 知力 138
装備:【叡智の銀首飾り】
スキル:真理魔眼、静謐の聖域、不変の愛、【天恵の慈雨】
【 ウル 】
レベル:14 / 種族:霊獣種:銀狼族
職業:【静寂の盾(忍耐)】
基礎ステータス:ちから 72 / 耐久力 125 / 素早さ 85 / 知力 61
装備:【白銀の騎士盾】
スキル:天命の守護、金剛不壊、銀狼の祝福




