捨て駒の価値
1. 資産を「未来の不沈艦」へ投じる
「……囮、を探しに行く?」
宿を出た道すがら、リナが不思議そうに首をかしげた。
「ええ。囮職って、戦場で真っ先に魔物の標的にされて、死ぬまで攻撃を受け続けるだけの……一番、命が軽いって言われている不遇職よね?」
「世間一般の認識ではな」
俺は、王都の端にある薄暗い「奴隷商」の石造りの建物を指差した。
「だが、リナ。世の中で『ゴミ』と呼ばれているものの中には、使い方を間違えているだけの『最高級の部品』が混ざっていることがある。例えば、ただ熱を吸い込むだけの板でも、その熱を『圧力』に変換する仕組みを組み込めば、それは最強のエンジンになるだろ?」
知力95のリナは、俺の拙い例え話を一瞬で咀嚼し、その瞳に驚愕を浮かべた。
「……まさか、その『仕組み』をアラトは知っているの?」
「ああ。この世界の理不尽なシステムには、極端に弱いものほど条件を満たすと化ける『隠しルート』がある。俺の頭の中には、その『設計図』が入っているんだ」
2. 檻の中の「静寂な憤怒」
奴隷商の内部は、獣の臭いと絶望の気配が沈殿していた。
「へへっ、いらっしゃい。丈夫な荷物持ちか、あるいは夜のお相手……おや、お連れ様は極上の…」
下卑た笑いを浮かべる商人を無視し、俺は一番奥の、光すら届かない檻を指差した。
そこには、ボロボロの布を纏い、うなだれた一人の狼獣人の少女がいた。名はウル。
身体中には、囮として無理やり戦わされてきたであろう無数の傷跡。その瞳からは完全に生気が失われ、ただ「次の死に場所」を待っている抜け殻のようだった。
・商品名:ウル
・種族:狼獣人
・職業:【囮】
「……この子だ。いくらだ?」
「お目が高い、と言いたいところですがねぇ。そいつはもう心が壊れていて、囮としても役に立ちませんよ? 銅貨数枚で結構ですわ」
商人が檻を開けた瞬間、ウルの瞳が微かに動いた。だが、それは希望ではなく、「新しい飼い主もまた、私を肉の壁にするのか」という諦念の光だった。
3. 救済の定義:囮ではなく「守護者」へ
俺はウルの前に跪き、泥に汚れた彼女の手を静かに取った。
「ウル。俺は、お前に囮になってほしいわけじゃない。俺たちの隣で、誰も突破できない『最強の盾』になってほしいんだ」
ウルの肩がビクリと震えた。
「……たて? 私は、ただ、噛まれて……死ぬだけの、デコイ……」
「違う。お前の中に溜まったその理不尽な『怒り』は、やがて世界を叩き潰す力になる。そして俺が、お前のその痛みをすべて受け止める。お前はもう、一人で耐えなくていい」
俺の手首に巻かれた「不浄の短剣」が、彼女の持つ潜在的な憤怒と共鳴し、黒い火花を散らした。
リナもまた、そっと彼女の背中に手を添えた。
「大丈夫よ、ウル。アラトの言うことは、いつだって『正解』だから」
少女の瞳に、初めて小さな、だが消えない灯火が宿った。
4. 身支度と「ダンジョンへの招待状」
商人に代金を叩きつけ、俺たちはウルを連れて宿へ戻った。
リナが甲斐甲斐しく彼女を風呂(お湯を運んでもらった特別室)に入れ、汚れを落とし、俺が買ってきた丈夫な革の重装歩兵用装備を着せると、そこには見違えるような凛々しさを湛えた少女が立っていた。
「……身支度は整ったな。次はリナの転職だ」
俺たちが向かうのは、王都からほど近い『始まりの深淵』と呼ばれるダンジョン。その最深部には、知力95のリナをさらなる高みへ導く転職アイテム【真理の宝玉】が眠っている。
「ウル、お前の初仕事だ。俺たちの『前』ではなく、『隣』でその力を試してみろ」
「……はい。ご主人様、いえ、アラト……。私、守ります」
彼女の職業【囮】が、いずれ世界を震撼させる【憤怒鬼】へと至る隠しルート。その第一歩を、俺たちは踏み出した。
--------------------------------------------------
現在のステータス
【 アラト 】
・レベル:2
・解析度:24%
・装備:不浄の短剣、野牛の革の胸当て
・状態:三人目の「ピース」を確保。転職アイテムの入手に向けて戦略を練っている。
【 リナ 】
・レベル:2
・知力:95 / 素早さ:42
・スキル:魔法最適化(青炎球、水圧刃、他)
・装備:鹿革のベスト、賢者の糸のミサンガ
・状態:ウルを「妹」のように可愛がっている。転職への期待で魔力が昂ぶっている。
【 ウル】
・レベル:1
・職業:【囮】
・スキル:挑発、物理耐性(微)、痛覚鈍化
・装備:重装歩兵の革鎧(中古だが頑丈)
・状態:アラトに「盾」として必要とされたことで、微かな生存意欲が芽生えている。
--------------------------------------------------




