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第七話 " 最悪じゃ "

 

 ポトラ辺境伯。ポトラ家は代々裕福な家庭であり伯爵の地位を賜る貴族である。

 その財力から賄賂などの犯罪も厭わず、殆ど金の力でのし上がったと言っても過言ではない。


 ポトラ家の長男であるポトラ・ベルテは自身の実力…な訳もなく、金とコネに物を言わせて無理矢理この地の辺境伯となった。


 理由は有り余るその資源と、ル=ファルテが龍脈に滞在する様になってからモンスター達は息を潜め過ごす様になった事。

 普通であればかなりのモンスターが棲むこんな危険な場所の辺境伯など誰も名乗り出ないが、モンスターが出難くなった事をいち早く知ったベルテは金の匂いに釣られて辺境伯に志願したのであった。


 目論見通りに事は進み、仕上げと言う段階で現れた異分子。


 茶髪、漆黒の瞳を持つ青年と黒髪、深紅の瞳を持ち輝く黒髪を靡かせる華麗な少女。


 二人の登場など知る由もないベルテと商人はあんぐりと口を開けたまま固まってしまった。


「話は聞かせてもらったぜ。アンタ、この辺りの村の住人に重い税をかけて自分だけが裕福になろうとしてるみたいだなぁ」


 少し間が開きつつ、ハッと我に返ったベルテは顔を真っ赤にして逆上し始めた。


「貴様ら、一体何処の馬の骨だ!!」


 近くにあった剣を持ち二人へと向けるが、怯む様子はない。寧ろその視線は敵意に満ち満ちている。


「お主の様な見た目も中身も醜い豚は久し振りに見たわい」


「豚に失礼だろファル」


 その会話に更に逆上したベルテはファルに切り掛るが、足に尻尾をかけられ派手に顔面から転んでしまった。


 両鼻から鼻血を垂れ流しながら起き上がるポトラ。肉の乗った一重で二人を睨み付けながら鼻血を拭いつつ、にまりと気持ちの悪い笑みを浮かべて言葉を述べ始める。


「儂にこんな事をして只で済むと思うなよ…。儂の後ろには天五星会(カエルム・ヴ・ドグマ) がついておる。要請を出せばいつでも駆け付けてくるぞ!!」


天五星会(カエルム・ヴ・ドグマ) じゃと…!?」


 ファルは驚いた様な表情を浮かべた。


天五星会(カエルム・ヴ・ドグマ)だって!?…何それ」


 ガクッとファルが体勢を崩して呆れた表情を浮かべて抗太を横目に見詰める。


「お主…そんな事も知らないのか。余程の田舎者だのう。 天五星会(カエルム・ヴ・ドグマ)はこの世界で最強の五人が集まった組織の名称じゃ。我が全盛期の頃、龍狩族(ハント・ドラグ)との戦いでかなり優勢だったのだが、その五人の介入で一気に劣勢になった程じゃよ…」


 思い出したくもないと首を横に振るファル。


 この世界で最強の五人、普通に気になるな。そんな人達が何でこんな奴のバックについてるんだ?


「ふふ、儂は天五星会(あそこ)にかなりの投資をしておる。儂の投資が無ければあやつらは組織を維持出来んからなぁ!」


 成程、つまり買収してるって訳か。つくづく屑な野郎だ。


「コウタ、どうする。バックにそいつらが居るなら相当厄介な事になってしまうぞ」


 どうやらファルもその組織と揉めるのが嫌に見える。だったら抗太の下す決断は一つだった。


「知らん。お前を殴ってここを潰した後に考える」


 今までの話を聞いていたのかな?と、抗太意外の三人は頭に疑問符を浮かべた。

 天五星会に楯突いた時点でこの世界からおさらばするのは確定事項だ。この辺境伯に意見するだけでも鳥肌モノなのに、あろう事かぶん殴る宣言をした抗太に言葉を放ったのはファルテだった。


「こ、コウタ…気持ちは分かるのだが、流石の私もあやつらを相手にする力はまだ無いぞ」

 

 「そん時は俺が守る。第一悪いやつが裁かれるのは当然だろ?カエルがドブだ、かなんだか知らないけど、話せば分かってくれるだろ」


 ファルテの心配を意に介さず、ぐるぐると腕を回し殴る気満々の抗太。そんな姿を見て、ファルテは気の抜けた笑顔を浮かべた。


 そうじゃったな。こやつは何事も諦めが悪く一度決めたら突き進む奴だ。そしてそんな奴に私は救われた。そしてこの呪いまで解こうと断言してくれたのだ…私が迷ってどうする、ついて行くと決めたのは私だろうに。


 どこか吹っ切れたのか、すすっと抗太の傍に寄り握り拳を握る。


 「もし話が通じん奴らだった場合どうするのだ?」


 「ぶっ飛ばす」


 短くそう返事をすると、にんまり口角を上げた。


 「仕方ない、地獄の果まで付き合うぞ!」


 抗太と同じ表情を浮かべながらキッとベルテに視線を向ける。


 「き、貴様ら、どうなっても知らんぞ!」


 耳まで真っ赤にしたベルテは躊躇なく机に設置されたボタンの様な物を押す。するとボタンが砕け、それは空中に舞い消えていった。


 「ぶっくっく、これは儂に何か非常事態が会った時に天五星会を呼び出せる代物だ!これでお前達も ミ“ッ !!!! 」


 (ベルテ)の戯言が終わる前に二人のグーパンがベルテの顔面を捉え、後ろに吹き飛んで壁にめり込む。その光景を見た商人は目が飛び出しそうな程見開きあんぐり顔で二人を見る。


 「お、お前達…何をしたか分かって マ“ッッ!!!! 」


 商人も同罪なので二人で腹に蹴りを(ファルテは尻尾)入れて壁にめり込ませておいた。


 「さーて、これで後戻りは出来ないな」


 「全く、先が思いやられるぞ… 」


 ふるふると首を振り呆れるファルテを他所目に、抗太はスッキリ顔で笑みを浮かべていた。


 「で、カエルはいつ来るんだ?」


 「名前の原型が殆どないぞ!?まぁすぐに来るだろうな 」


 二人を殴り飛ばしてからものの数分、何やらとんでもない雰囲気を放つ存在が中にはへと降り立った。

 それは離れていても心の臓を掴むような圧迫感のある存在。


 「お出ましか」


 姿が確認出来なくとも、近付いてくるのは威圧感だけでハッキリと分かった。ファルテはやはりまだトラウマがあるのか、抗太の背に隠れる様な体勢になっている。


 「…来る」


 ファルテがか細い声でそう呟くと、蹴破られたドアの向こうから純白の衣装を身に纏った少女が現れた。金色の長い髪を揺らし、頭には銀のティアラを付け、細い眉毛に大きな黄金の瞳、鼻筋はスラッと通っており薄いピンクの唇には誰もが魅力されてしまいそうになる。そして胸元で黒の十字架を揺らし、複雑な彫刻が施された杖を右手に備えていた。


 「これはどう言う状況でしょうか」


 天使の様に透き通った声で二人に声を掛ける少女。


 「…どうも何も、困っている人が居たから助けた。それだけだ」


 声色はいつも通りだが、額に冷や汗を滲ませている。これはファルテの比では無いほどの棘を感じていた。その棘は隙あらば自分達を刺し殺すであろう、無慈悲な棘だ。


 「何故…何故お前が!」


 ファルテは声を震わせながらその少女に問いかけた。


 「私のことをご存知で?」


 「当たり前であろう…この世界で暮らしているなら誰でも知っておるわ。天五星会、第一位…聖杖(せいじょう)のテミス!」


 かつて、正気を失った壊滅(エクシチウム)級のドラゴンが街を破壊しようと侵攻していた際、たった一人でそれを倒すという快挙を成し遂げた世界最強の存在。


 それが聖杖のテミス。その絶対的な力に、彼女を神の使いだと崇拝する者まで現れる程だ。


「…最悪じゃ」


ファルテは自分の不運を、抗太の背中へ顔を埋めて嘆いた。

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