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第八話 " お節介上等 "

 

 世界最強と相対した二人は、一定の距離を保ったまま会話を続けていた。


「他の連中はどうしたのだ」


「あの方達は別の任務に赴いているんです。手が空いていたのは私だけでしたので、要請を引き受けました 」


 " コウタ、最悪だ。どう足掻いてもこやつには勝てん "


 念話でそう語り掛けるファルテ。


 " んなの分かってる。でも何とかするしか無いだろ "


 今更引くことなど出来ない。抗太は臆すること無く一歩前へ出た。


「重い税のせいで周りの人が困っていたんだ。俺はそれを見過ごせなかった」


「だからと言って乗り込んで地位ある者を殴っていい理由にはなりません。そういう事は然るべき場所を通して抗議するべきです」


「抗議したらあんた達は動いたのか」


 ピク、とほんの僅かにテミスの眉が動く。


「あの様子を見る限り、結構放置されてたんだろ?抗議の文書を通すにも辺境伯が邪魔をして通らなかっただろうしな。確かにあんた達は普段暇じゃないからこんな辺境にまで手を回せないかも知れない。だから辺境伯が必要なんだろ?でも、そいつらが悪巧みしているって気付いて俺は殴った。誰もしないからな」


「確かに、少し時間は掛かっていたかも知れません。ですが、私達は困っている人々を見捨てたりは致しません」


「だから、その困っている人々のお声があんた達に届かないって言ってるんだ。この頭の悪い辺境伯のせいでな」


「口を慎みなさい」


 とてつもない緊張感と威圧を抗太に向けるテミス。危うくチビりそうになるが、それでも話を続けた。


「これでも慎んでる方だ。村の人達はもっと言いたい事があるだろうよ。もしこの土地に魔物が押し寄せたりしたら、誰が助けてくれるんだ。辺境伯も当てにならないし、そういう時の為の税も私利私欲に使われているしな」


「どこの誰かは存じませんが、行き過ぎたお節介は自分の身を滅ぼしますよ」


 威圧を向けたまま忠告を述べる。


「お節介上等。俺は俺が決めた事を貫き通しただけだ。反省も後悔もない」


「…」


 威圧は殺意へと変化した。それをいち早く感じ取ったファルテは抗太を押し退ける。


「 コウタ、逃げッ 」


 ファルテがそう言葉を放った頃には、彼女の身体は身体が深く斜めに切り裂かれていた。抗太には何が起こったのか分からないまま、ただ親友が切り裂かれ血塗れになった身体を抱きかかえる事しか出来なかった。


「 ファ…ル? 」


 頭の中が混乱し、身体に負った致命傷を治療しようにも何も持ち合わせていない。傷口を押さえても血は止まらずに溢れ続ける。


「コウ…タ…すまぬ…… 」


 息も絶え絶えの中、血で染った手を抗太の頬に添えてそう述べるファルテ。


「な、何やってんだよ!」


 意図しない涙が零れ、ファルテの頬に落ちる。血は止まらない、何をしても止まらない。

 無力、そんな言葉が抗太の頭を過った。今まで諦めずに色々な事を成し遂げてきた。諦めなければ大抵どうにかなるものだ。


 そんな甘い考えは打ち砕かれ、目の前の親友一人助ける事が出来ない。


「短い間だったが…本当に楽しかった……ケホッ…嗚呼、もっと旅をしたかったなぁ…コウタと…ッ…」


 ごほっと血を吐き、涙を流しながら最後の力で抗太の服を掴む。


 「 もういい喋るな!すぐ止血して…」


「また出会えたら……しんゆーに……な…って 」


 服を掴む手はずるりと力なく地面へと落ち、鼓動は静かになった。


「ファル、ふぁる…おい…、起きろよファル!!!! 」


 何度肩を揺らしても反応は無い。その体が冷たくなるのを肌で感じても尚、それを認めたくなかった。


「これがお節介の行き着く末路です。あなたがたは愚かな選択を…」


「それ以上口を開くな」


 髪で表情が隠れたまま相手にそう告げると、今までに無いほどの激情に駆られながら、ファルテをソファーへと寝かせてテミスの方へと向き直った。


 テミスは何か違和感を感じながらも、抗太を真っ直ぐに見据える。


「安心して下さい、貴方もすぐにあちら側へと送って差し上げます」


 上記を述べた後、目の前の異分子へと白銀に輝く杖を向けた。


「よーく分かった。あんた達も結局は金と名声にしか興味のない人でなしなんだな」


 哀れむ様な視線をテミスに向け、歪んだ笑顔を見せる。


(そういう集まりだと知れて良かった。これで心置き無くぶっ潰せる。なぁ、ファル)


 ソファーで眠る彼女へと軽く視線を向けて心の中で呟くと、抗太は相手の方へと歩み寄り始めた。


「それ以上近付くと死にますよ。どの道生き残れませんが」


 そんな言葉など意に介さず距離を詰めていく。


「…仕方ありません」


 はぁ、溜息を吐き抗太へと呪文を放った。


風斬(ウィンドカット)


 風の中級魔法であり、初級魔法の風弾(ウィンドバレット)の上位互換である。そこら辺にいる魔物や人に向ければ命を絶つことなど容易い魔法であり、これで目の前の人間も息絶えると…そう思っていた。


 しかし、風の鎌は抗太の身体に当たった瞬間に弾け飛んだ。


「なっ…」


 それにはテミスも驚くが、すぐに冷静さを取り戻し無詠唱で風斬(ウィンドカット)を連発する。しかし全て弾き飛ばされてしまう。


(なんですかあれは…魔法?しかし魔力の流れを一切感じません。どう言う理屈で防がれているのでしょうか )


 初めての経験に僅かな隙を見せたテミス抗太は見逃さず、瞬時に懐へ踏み込むと腕を引く。


「アンタがどんな立場だろうと、俺の親友を奪ったのは許さない。これはファルの分と…俺の怒りが篭った拳だ」


 強く握った拳の周りには空気が歪む程のオーラが纏わり付き、それをテミスに向かって放つ。



 不味い、これを受けてはいけない。本能がそう感じている。



「ここまでにしましょう」


 テミスが杖を地面に付くと突然景色が真っ白になり、その眩さに思わず目を閉じてしまう。ある程度目が目が利く様になり薄らと瞼を開けば、お互いに顔を合わせた距離感へと戻っていた。

 抗太は何が起こったか理解出来ずに、呆けた表情を浮かべる。


「何が起こって…」


「コウタッ!」


 聞き覚えのある声と背後から服を掴む手の感覚。それはついさっきまで共にここまで来た仲間のもので間違い無かった。


 何故、どうして。聞きたいことや疑問に思う事は山ほどあり思考が纏まらないが、感極まり後ろを振り向くと温もりのあるファルを抱き締めた。


「 きゃぁ!?い、いきなりどうしたのだ!?」


 林檎の様に真っ赤になった彼女を他所目に力強く抱き締め続ける。何かを察してなのか、ファルは少し大人しくなるとやんわり抗太の背に腕を回し返す。


「…大丈夫だ、私はここに居るぞ」


 軽く背を叩き安心させるようにそう告げる。きっとあの女に何かされたに違いない。と、睨むような視線を向けた。


「貴様、何をした」


「少し精神を支配しただけです。結果は私の予想とは違いましたが」


 聖杖のテミスの能力、天司(ドミナティオ)はこの世のありとあらゆるものを支配する破格の天護(スキル)だ。その汎用性は多岐に渡り、精神を支配するのは勿論、未知の魔法にすら精通しているという噂もある。天五星会の中でも頭一つ抜けている存在だ。


「そんな事は分かっている!精神世界でこやつに何をした!」


 分かりやすい怒りをぶつけるファルテに対して、それを仲裁する様に前へ立った。


「してやられたよ。あんな恥ずかしい姿を見られて…羞恥心で人を殺すつもりか?」


「無駄な殺生は好みません。私はいつもああして罪人を確かめるのです、反省の色はあるかどうか。ですが貴方は臆せず立ち向かって来た。本当に後ろめたい事があるなら逃げ出すのですが、貴方は自分の信念を貫いた」


 精神世界で逃げ出した者は、天司(ドミナティオと)の力で精神を縛られテミスに抗えなくなってしまう。だが抗太が行った事は初めてのケースであった為、流石の第一位も隙を見せてしまった。


(…最後に見せた得体の知れない力。私としては余り関わりたくない力ですね)


 支配を司るテミスと言えど、先程の力が何かは理解出来なかった。ただ一つ分かったことは、あの拳を受ければ間違いなく何かが起こっていたと言うことだけだ。


「はっ、精神世界で親友をぶった斬るなんて趣味が悪すぎるだろ…」


「なにっ!ぶった斬られたのか私は…」


 現実世界ではものの数秒しか経っていなかった為、起きていた出来事を聞いたファルは何故かぷんぷんと怒り抗太をぽこぽこと叩く。


「私が風斬(ウィンドカッター)程度で傷つく訳なかろう!コウタは全然私を信用していないんだな!あほ、ばか!おたんこなす!」


「だ、だって第一位って聞いたから相当ヤバい奴だと思うだろ普通…つか悪口のオンパレードやめて!」

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