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第五話 " 旅の始まり "

 

 晴れてドラゴンさん、もといル=ファルテと親友になれた抗太は新たな問題に直面していた。


 呪いを解くと豪語したのはいいものの、ル=ファルテはここを護る為に動けないのだ。


「ここから動けないとなるとかなり厳しいな。近くの街までどれぐらいあるんだ?」


「村ならば二時間程、街ならば徒歩で一週間はかかるぞ」


「げぇ、マジか」


 かと言ってファルに乗せて貰うなんて事は出来ない。

 早速詰んだかと思ったその時、正体不明の地響きが二人を襲う。


 抗太は驚きながら辺りを警戒するが、ファルは龍脈を一点に見つめて固まっていた。


「ファル!何だよこの地響き!」


「まさか…私も初めて見るぞ。龍脈の移動が始まる!」


「龍脈の移動!?」


 この世界の龍脈は定位置に留まらずに移動すると言う。しかしそれが怒るのは数千年に一度だとファルは説明した。


 今このタイミングで移動なんて都合が良すぎて逆に疑ってしまう。

 だが、これでここに留まる必要が無くなった。


「この龍脈は何処に行くんだ?」


「さぁの、私には分からん。しかし龍脈とは必ず龍が護るもの。案ずるな」


「ならいいけどさ?」


 二人は取り敢えず近くの村に移動する事に決定した。


 あわよくば食料と水を少し分けて貰いたい所だが。

 ファルはまだ俺の上着しか着ていない為、村の前で隠れて貰う事にして自分だけで行く。


 上着だけってのがまたアレだよな、アレ。男なら分かるだろ?

 俺には刺激が強くて直視出来ねえ。また鼻血出るわ。

 ファルは運んでくれると言ってくれたが、ここで目立つのは避けたい。

 龍狩族(ハント・ドラグ)を茂みに隠したもののバレるのも時間の問題だろう。

 少し手間だが歩いていくしかないな。


「ファル、二時間歩く体力はあるか?」


「誰に言うておる。人間体の方が燃費がよいからの、一年不眠でも動けるわ」


「ははっ、そりゃすげぇ」


 流石はドラゴン。幾ら弱ってるとはいえ普通の人間じゃ手も足もでないだろう。


「なぁ、ドラゴンにも種類はいるのか?」


「む?勿論だ。私は…ふ、普通のドラゴンだがな」


 あ〜、絶対何か隠してるわ。まあ乙女には一つや二つ秘密があった方がミステリアスでいいよな、うん。


「コウタは何者なのだ。ここらでは聞かぬ名だし、助けてくれた時見せたあの力は…」


「ん〜、俺もよく分かってないんだ。今分かってるのは、この世界に転生して筋トレしたぐらい…かな」


「転生者…」


 何かしら心当たりがあるのか、ファルは目を伏せて顎に手を当てる。


「かなり昔だが、その様な者がいると聞いた事がある気がする。その者は一騎当千と言われる程強く、どこぞの国の柱となっておったらしいぞ」


 俺と同じ転生者が過去に居た?定期的にこの世界へ転送されるのか?

 何の理由があって…


「その転生者って、死んだのか?」


「そりゃのう。幾ら転生者とは言えど歳には勝てぬ」


 大往生ってやつか。て事は何かの理由があって呼ばれているのじゃなく、気まぐれか。


「そっか、ありがと。じゃ、そろそろ行きますか」


「うむっ」


 二人は木々がお生い茂り道の無い森を歩き始めた。


 蚊みたいな虫が居なくて本当に助かった。ずっと野宿してたから刺され放題だったしな。


 ファルが案内をする様に少し前を歩いている。做しか楽しそうに見えるその背中に着いて行き、次いでにキノコ類を回収しポケットへ詰める。

 食料は少しでもあった方が楽だろう。


「なあファル。野草の中で滅茶苦茶苦いやつ知ってる?」


 例の絶望(エセゼンマイ)の事だ。


「そうじゃな、我が知りうる限りでは命刈草(メイガソウ)が一番苦かったのう」


「めいがそう?」


「嗚呼、生で食べたら人間は一分と持たずに命を落とすだろう。名の通り命を刈る草だからの。しかし薬としては最高級じゃ。その草一つで家が買える程じゃぞ」


「え"ぇ"!?」


 二つの意味で驚きだわ。即死級の草をいつの間にか食ってたのか…川の中じゃなければ本当に死んでたな。

 つか、それぐらいの価値があるなら捨てなきゃ良かった。


「龍脈の近くによく生えておる。コウタが居た周りにも生えていただろう?」


「うん、全部捨てちゃったけどね」


「何っ!?」


「だって知らなかったし!!」


 子供の様な言い訳をしながらそっぽを向く抗太。

 ファルは呆れた様に見つめつつも、直ぐに笑顔に戻る。


「ふふ、楽しいのう。私がまさかこうやって人間と出歩く事が出来るなんてな」


「連れ出した王子様には感謝するんだぜ?」


「王子など見当たらんわ。間抜けで諦めの悪い男しか知らん」


 そんな言い合いをしている内に、もう村が見えてきた。


「え、もう着いたのか?随分早いな」


「本当だのう、まだ半刻程度だと思っておった」


 お互いこの世界で沢山喋ったのは初めての経験だった。それは時間も早く過ぎるものだ。


「んじゃ、俺は村に行ってくるからそこら辺で大人しくしといてくれよ?」


 少し不貞腐れながらも渋々頷き木の上の茂みに隠れたファル。

 気を付けて行くのだぞ、と声を掛け手を振る。


 抗太もそれに応え軽く手を振り返すと村の前でもんを潜った。


「小さな村だな。食料はともかくせめて水ぐらい貰えたら嬉しいけどな」


 村を見渡していると、あることに気が付く。住民の殆どがかなり痩せこけており健康とは言えない状態だったのだ。

 それ故に元気も活気も感じられない。


 抗太が戸惑っていると、一人の女性が声を掛けてきた。


「…旅のお方ですか?失礼なのは重々承知しております…何か食べるものはございませんか」


 これは相当深刻だと悟る。


「今持ってるのはキノコしかありませんが、宜しければ」


 ポケットからキノコを取り出すと、その女性はぱっと笑顔を浮かべた。


「ありがとうございます!もう一週間も水しか口にしておりませんでした…」


「一週間!?なんでそんな…」


「この村の領地を持たれる辺境伯様が突然税を上げられたです。この村だけではありません、他の村も同じ事をされているようです。理由は答えてくれず、ただ指示に従えと。私達の食料は税で回収され食べる物は殆どありません…。子供達には不自由させたくありませんから、大人が我慢しなければならないのです…」


 成程、状況は理解した。こんな状況じゃ水すらも分けて貰うのは無理そうだ。ならばするべき事は一つだろう。


「その辺境伯さんの家ってどこにあるんですか?」


「え…あ、この村を出て東の場所に 」


「ありがとうございます」


 女性はキョトンとしながら抗太の背を見送る。


 どの世界にも搾取する側とされる側が存在するんだな。前の世界では俺は搾取をされる側だった。でもこの世界では違う。

 搾取しないし搾取される気も無い。

 突然重い税を課すなんて大きな理由があるに決まってる。


 村を出てファルの元へと戻る。器用に木から降りるファルは抗太を見上げると、薄く微笑んだ。


「する事は決まったみたいじゃな」


「ああ。まずはこの村…だけじゃない。他の村も救おう」


「見返り目当てか?」


「それもあるよ。ただ、理不尽は気に食わない。そんだけ」


「格好付けおって。ま、よい。親友(コウタ)が決めた事ならば私も仕方なくついて行こう」


 尻尾を軽く揺らしふふんと笑うファル。お前もやる気満々じゃねえか。



「さて、ちょっくら挨拶に行きますか。麻宮 抗太が来ましたよってな」

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