第四話 " しんゆー "
…あったかい。
身体が何かに包まれているかの様な温かさ。で、全身に走る激痛。
これは洒落になってない。
ん?でも痛みがあるって事はまだ生きてるって事か? 俺は腹を貫かれてから、それで…全然思い出せない。
瞼を開き首が動く範囲で辺りを見回す。
真っ暗だ。よく分からない騎士達と戦ってたのが朝だったので、今が夜なのかも知れないと考えた。
しかし流石に暗すぎる。月どころか光すら見えない。抗太は真っ暗な空間に閉じ込められていると気付く。
(捕まった…いや、考えにくいな。捕まえるメリットなんて無いしその場で殺すだろう)
抗太は痛む身体に鞭を打ち何とか上半身を持ち上げ立ち上がろうとした瞬間、ゴンッと頭を何かにぶつけてしまった。
「あたっ!」
思わず頭を押さえ摩りつつ、涙目でそれを見上げる。
「なんだこれ、天井?随分低いな」
ぺたぺたと天井に触れながら壁を探すと、案外近い場所に存在していた。
「小さい所に閉じ込められてるんだな。何とか出れないか…んっ」
壁を少し押すと、少しずれ始めた。いける!と考えた抗太はそのまま壁を押し続けると、淡い光が隙間から射し始め顔を照らす。
「もうちっと!」
今出せる力で強く押し込むと壁に穴が空き外へと転げ出る抗太。
何とか脱出出来たと安心し仰向けに寝転がると絶句した。
閉じ込めていたのはとぐろを巻いたドラゴンだったのだ。
状況が理解出来ないまま呆然と見上げる。
(ドラゴンさんが俺をとぐろの中に隠してた?そんな事ある?いや、食糧にする為に他の魔物に襲われない様閉じ込めてたとか?それなら理解出来るけど…なんせ、また命拾いしたのだ。つくづく運がいいな俺)
外はまだ日が落ちる前で明るく、木々のざわめきや川のせせらぎが静かに耳へ入ってくる。
…川、そうだ。川へ入ればいいんだ。
もう殆ど力の入らない腕でずるずると身を引きずり川へと向かう。力を入れる度に筋肉や筋が悲鳴を上げ、思わず顔を顰めてしまうがそこは気合いで何とかし、やっと辿り着けばそのまま水へ浸かる。
流石にダメージが大きいのか直ぐに回復はしないが徐々に傷口や疲労、痛みが引いていく。
「今ドラゴンさんに起きられたら詰みだな。お気に入りの場所取っちゃってんだから」
一人で苦笑を浮かべフラグを張る抗太。そのフラグは丁寧に回収され、ドラゴンが目覚めたのかとぐろを解き伸びをする様に翼を左右に展開させた。
ひぇ〜…でかいし強そう。じゃない!どうする、逃げるか!? いや、逃げたら尚更追いかけられそうだ。ここは交流を図って、ダメだったら死ぬ気で逃げる。
伸び終わったドラゴンは抗太へ視線を向け、じっと見詰めている。
「は…はろー。まいねむいずこーた。ふろむ…いや、英語は駄目だ。ドラゴンの言葉…がお、ががおがおがお」
恥ずかしくて死にそう。何ががおーだよキモっ。
とは言え何もせずに食べられるのは死んでも嫌な為、何とか交流しようと様々な言葉を発するがどれにもドラゴンは反応を見せず見詰めるだけであった。
知ってる?気になってる人の事を5秒から7秒見つめる現象は一目惚れに近いらしいよ。
俺ドラゴンに一目惚れされてる?んな訳ない。ぱっと冴えない顔してるし特に突出した所もない平凡な男子高校生だよ?
もう話す言語も無い。逃げるしかない…と思っていた時、いきなりドラゴンが抗太へ顔を近付けてきた。
えっ、く、食われる!?
慌てて立とうとするがまだ足に力が入らない。万事休すかと強く目を閉じると、頬に生暖かい感触が与えられる。
ドラゴンの舌だった。
絶賛舐められ中です、抗太です。もう逃げられないから大人しく舐められる事にしました。味見してるのかどうか知らないけど、食おうとしたら頑張って殴ります。ごめんね、親友…。
しかし、食べる気配どころか何も敵意を感じない。これはもしやと思いドラゴンに目配せては頬に手を添えてやると、そこへ擦り寄ってきた。
は?クソ可愛いじゃん。何お前天使?ドラゴンの形した天使?
" 天使ではない "
あ、違うのか…。うん?
" 天使ではないと言っている "
うん。分かったよそこは。誰だ、俺に話しかけてるの。
キョロキョロと周りを見渡しても誰もいない。強いていえば騎士達が転がっている程度だ。
" 私だ。"
ぐるる、と喉を鳴らし口先で抗太の頬を押すドラゴン。
ドラゴンさん…?俺ドラゴンさんと会話で出来ちゃってるの?
" 君の思考から言語を学んだ。それだけだ "
いやハイスペック過ぎじゃない!?いや、ここは違う世界だしそう言う力があってもおかしくないか。
驚きを隠す事は出来ないが、一先ず敵では無いことに安心すると、身体から力を抜き川に大の字で寝そべる。
「あの〜、一つ質問いいか?なんで俺をとぐろの中に?」
" 君は私を助けてくれた。そのお礼だ "
ドラゴンって意外と人情深いんだな、と考えつつ会話を続ける。
「俺は3 三週間前からここにいるんだけど、気付いてた?」
" 否。私は呪いによって気配察知と嗅覚を奪われている。故に視覚と聴覚に頼るしか無い。聴覚も呪いを受けていて何とか聞こえる程度だがな。実質視覚だけ働いている "
だからあんな簡単に縛られていたのか。
「呪い…何か悪い事でも?」
" ドラゴンとは、悪いことをしていなくとも狩られるものだ "
酷い話だ。でも、俺の世界だって象牙を得る為に密猟とかする輩も居たし、多分そういう事なんだろう。
「えと、質問ばっかりで悪いんだけどこの川って何だ?明らかに普通じゃないんだけど」
" 龍脈と言うのを知っているか。ここはその類だが、中でもとびきり濃い龍脈でな。怪我や疲労などを回復出来る程に大地の恵の恩恵を受けている "
龍脈、聞いた事はある。詳しい事は分からないが、大地の血管みたいなものだと聞いた。
" この龍脈で呪いを解こうと思い三百年が経つが、未だに治る気配が無い "
「三百!? そんなに長く川に居ても解けないなんて…」
" 仕方がない。これは龍狩族の呪いだ。ドラゴン唯一の弱点であり、高い戦闘力を誇る民族だ。ここを察知されてしまったが、私はこの龍脈を護る使命がある。命に変えてもな "
全然話に追い付けないが、簡約するとドラゴンに対抗する術を持つ民族がこいつを襲ってきたって事か。
「 ドラゴンさんを狩って何の得があるんだよ…」
" 様々だ。私の身体は高く売れるだろうし、栄誉も手に入る。龍狩族にとって、私達を狩ることは成人の義の一環でしかないのだ "
成人でドラゴンを狩るとかめちゃくちゃな民族だな。でも、こいつらがその民族であれば狩りは失敗だ。
「失敗した場合は?」
" 死、あるのみ。故に精鋭しか残らぬ "
成程な。そいつらにとっちゃ生きるか死ぬかの儀式なんだな。血眼にもなる訳だ。
特に手負いのドラゴンともなれば狙う他ないだろう。
" 次は私からの質問だ。何故私を助けた "
「ん〜…気付かれてないとはいえ3週間も一緒に居たし、勝手に親友認定してたから気付けば飛び出してたよ 」
" しんゆー ? "
「ああ、親友だ 」
" しんゆーとは何だ "
「 知らねぇの?親友ってのは友達の最上級たる表現だ!」
キョトンと目を丸くした後、ドラゴンは大きな高笑いをして足踏みをし始めた。
「な、何だよ!何がおかしいんだ!」
抗太は顔を赤くしながらドラゴンをぷんすこと見上げる。
" 私をしんゆーなどと呼ぶ物好きは初めてだ!くははは!"
流石にイラっとしたのでガツンと爪を蹴るが、痛みは自分に跳ね返り足が痺れた。
" ふふ、悪い悪い。馬鹿にしている訳ではないのだ "
「じゃあなんだよ」
" 嬉しいのだ。我の事をそういう風に言ってくれる人間が存在したとはな 。
古来より私達は天の使いであり、天災をもたらすものと恐れ敬われてきた。
しかし近年ではドラゴンは悪いものだという風習が広がり、同族の数を減らし続けている。
戦うしか無かった私は何千何万もの人間を返り討ちにしたが、数の多さに疲弊した所に呪術を受けてしまった。
命からがら逃げた場所にこの龍脈があって助かったが、もうまともに戦えない私に存在価値など無い。…だが死ぬ勇気も無かった。
幸いここは誰にも知られていない場所だった故に、朝は狩りに出かけ魔物を喰らい腹を満たし、夜は龍脈で睡眠を取る。あわよくば呪いも解けると良かったが、そう上手くはいかない。
もうこのまま朽ちるのを待つだけだと思っていた私の前に、しんゆーと呼んでくれる者が現れたんだ。こんなに嬉しい事はない。心の底から嬉しくて思わず笑みが零れてしまった "
「まぁいいんだけどよ。で、呪いは解けそうなのか」
" 現状では不可能だ。この呪いは人間がかけたもの故に人間しか解くことが出来ないらしい "
「よし、じゃあ解いて貰おう。何処に行けばいいんだ?」
" だから諦めて…ん?今なんと… "
「だから、呪いを解くって言ってんだ 」
何を言っているこの男は…私の呪いを解く者などこの世に存在せぬ。
" む、無理だ…この姿では "
「 人型にはなれねぇの?」
" なろうと思えばなれる。しかし、角と尻尾は隠せないぞ!"
「なれるのかよ、流石ドラゴン様だな。角と尻尾は何かで隠せばいいだろ?」
" だ、誰も私の呪いなど解か… "
「 ごちゃごちゃうるせぇ! 」
今度は跳躍し、しっかりと腹を殴る抗太。その威力にぶはっと空気を吐き出すと腹を押える。
" な、何をするか… !"
「友達の為なら俺が解いてやる。何すりゃいいか検討もつかないけど、何とかしてやる」
" っ……"
首を項垂れさせながら、ちらりと抗太へ視線を向けて問い掛ける。
" 本当に解いてくれるか?"
「任せろ。俺は世界一諦めの悪い男だ。瀕死になったって絶対呪いを解いてやる 」
" ほ、ほんとのほんとか…!"
「おう、本当だ!」
にししと微笑み鼻を擦りながら頷く抗太の姿に、諦めた様子で鼻息を吐く。
" 分かった、お前を信じよう。ならば、私も出来うる限りお前の力になると約束する"
「はは、ドラゴン様が味方だなんて心強いな!あと、お前じゃない、俺の名前は 麻宮 抗太だ 」
" アサミヤ コウタと言うのか…コウタ、コウタと呼ぶぞ!あと、我はドラゴン様ではない。ル=ファルテだ"
「ル=ファルテ…かっけぇ名前。んじゃファルテって呼ばせて貰うぜ?」
" ファルでよい。同族は皆そう呼ぶ "
「んじゃファル、これから宜しくな?」
そっと手を差し伸べ握手を求める。
" …この姿のままでは握手もし辛いな "
ファルテの身体が光に包まれたかと思えば、どんどん形を変えて人型になる。
その姿は思わず目を惹かれる程に妖美であり、深紅の瞳に黒い角、漆黒の長い髪を腰まで垂らし艶めかしく微笑む。
" 宜しく、親友"
そっとファルテの手を握り返す。
「…取り敢えず服着よっか!」
大量の鼻血を流しながら、満面の笑みでそう告げる抗太であった。
読んでいただきありがとうございます。




