9章 別れ
金曜日の昼休み、リョウがまた俺のところにやって来た。
すっかり、あいつは俺にゾッコンのようだった。
日曜日に映画に行こうと言われたがその日はタカシとデートの約束をしていた、ついに普通デートだ。俺はおばあちゃんが死んだことにして断った。
「おばあちゃん……響……もう一度だけ会いたかった……」
「リョウくん抱きしめて……」
リョウはドギマギしながら俺をハグした。
「ふふ……リョウくんっておばあちゃんみたいに抱いてくれるのね……」
「ごめんね、映画行けなくて……本当は行きたいの……リョウくんと……」
リョウが教室に戻ろうとすると、俺はリョウを呼び止めた。
「待って、目にまつ毛ついてるよ」
俺はリョウの目にフッと息を吹きかけた。
リョウは顔を赤くして帰っていった。たまには断って焦らすのも手だ。
◇
その日の放課後、
タカシが帰ろうとする俺を呼び止めた。俺たちは校庭の隅に移動した。
「響さん、僕やっぱり響さんとは釣り合わないと思います。響さんがなぜ僕に目をかけてくれるのかわからないけど、響さんはリョウくんとお似合いだと思います」
(えっ……)
「静奈さんから聞きました。響さんはリョウくんと幸せになってください」
「まって、リョウくんとはなんでもないの……」
「いいんです。僕は……今までありがとうございました」
そう言うとタカシは去って行った。俺は突然タカシに振られて頭が真っ白だった。だが、よく考えたら静奈ちゃんとタカシが付き合うために都合が良かった。
後から分かった事だが、感の良い静奈ちゃんはやはり俺たちの関係を疑っていた。そこで、タカシにあることないことを吹き込んでいたのだ。
タカシは日曜日のデートは俺ではなく静奈ちゃんと行くことになった。俺はそのことを知らない。静奈ちゃんは俺にデートの話は内緒にしていた。
◇
月曜日の昼休み。今日、教室の隅で俺と机を挟んで座っているのはナナミちゃんだった。
「タカシくんと別れちゃった……」
「えっ! なんで?」
「タカシくんに振られた……」
「響ちゃん可哀想……あんなにタカシくんのこと好きだったのに」
「いいの、静奈ちゃんとタカシくんが付き合ったらいいなって思ってるから」
あっけらかんとしている俺の表情を見て、ナナミちゃんは疑いの目をし、意を決したように真剣な顔を見せ俺に問いかけた。
「ごめんね……か、確認したいことがあるんだけど、響ちゃん、リョウくんと何かあるの?」
そういえばナナミちゃんはリョウのことが好きだったな……もしかして俺がリョウをたぶらかしてるのを知られたかな?
「全然、何にもないよ~。ここだけの話だけどタイプじゃないし」
「良かった~、実は静奈ちゃんが響ちゃんがリョウくんと浮気してるって言ってたから」
(静奈ちゃんが噂を振りまいてたんだな……まぁうまくタカシと別れられたからいいか……待てよ、リョウと俺が何もないとするとナナミちゃんがリョウにアプローチしちゃうかも……できたらナナミちゃんとタカシが付き合うのがベストだから……)
「実はね、リョウくんが私のこと好きみたいで(実際そうだが……)」
「えっ!」
「私は恥ずかしいからって言ってるのに急におんぶしてきたり、教室で突然抱きしめてくるのよ。私にいつもネクタイ直させたり、ホットパンツ渡して、これ着て試合見に来いだって、それで『次の試合君のためにゴールするよ』とか言って来るの……困っちゃうな……」
ナナミちゃんは涙目になってしまった。可哀想だがワンチャンのため、ナナミちゃんはフリーにしておかねば。
「ナナミちゃんはタカシくんはどう?」
突然の俺の質問にナナミちゃんは反応できない。
「静奈ちゃんがタカシくんに日曜日にデート誘うっていってたから。タカシくんモテるんだね」
「タカシくん、響ちゃんから静奈ちゃんに乗り換えたってことかな?」
「静奈ちゃんは私とタカシくんが付き合ってたの知らなかったから。タカシくんは私とは合わないって思っただけだよ、仕方ないな」
俺は笑顔をみせた。やはりその態度にナナミちゃんは怪訝そうな顔をした。
俺の知らないところでは、タカシと静奈ちゃんはまた付き合うことになった。
タカシ良かったな! 頑張れよ!ワンチャン、ナナミちゃんもまだあり得るけどな。
俺はリョウへの罠でしばらく楽しませてもらおうと思っていた。リョウが俺に来れば来るほどナナミちゃんはリョウを諦めるだろう。
俺はまた悪魔的な笑いをしてしまった。




