5章 どうしたら
月曜日、またいつもの昼休み、教室の隅で俺は静奈ちゃんと向かい合う。
「響ちゃん、聞いて、ダーリンのことなんだけど……」
「だ、ダーリン!!」
俺はまた感激して泣いてしまった…… 男の夢、「ダーリン」。やったなタカシ!
「ダーリンと別れちゃった……」
(えっ……)
「な、何で……昨日のデートでなにかあったの?」
「うん、ダーリン酷いんだよ!」
(あいつ、なにやらかしやがった……)
「昨日はタカシくんがデートコース選んだんだよね。何したの?」
「スカイタワーで待ち合わせたの」
(お、悪くないじゃん。たしかプラネタリウムと水族館があったな……)
「そこから歩いて亀井天神に行って亀を2時間くらい観てたかなー、ダーリンが亀の説明してくれるの。ご飯は一郎ラーメンに連れてってくれた、大盛り頼んだらボリュームが多くてびっくりしちゃった」
(おい、おい……アホかあいつは……たしかに亀は可愛いし一郎ラーメンは俺の推しだけど……)
「全部食べたけどね。びっくりしたのは人気のない端田川の川沿いに連れていかれて、UFO呼ぼうって言われて二人でお祈りしたの、全然来なかったけど……」
俺はガクッと机に突っ伏した。だめだ、アイツは……UFO呼ぶのマジ楽しいけどな……
それ、前世の俺の週末のルーティンじゃないか……。
「それじゃあ静奈ちゃんつまらないよね。それで別れちゃったんだね」
「ううん、すっごく楽しかったの~」
「えっ!? じゃーなんで?」
「それから、私がカラオケ行こうって言って、行ったのね」
(カラオケか……苦手だな……)
「酷いんだよ! 私がAKBBの曲歌うから私のメンバーカラーのピンクのペンライト渡したのね。それでオタ芸やってって言ったのにやってくれなかったんだよ。頭にペンライト5本指して、両手に8本持つところまでやったら普通やるよね。酷いよ……」
(メンバーカラーって……頭にペンライトか地獄の光景だな……)
静奈ちゃんは涙ぐんでしまった。俺は慌てて静奈ちゃんに大丈夫と言った。
「しかも、ダーリン浮気したんだよ!」
(なにっ!……)
「ダーリンが『エヴァンゲロ』の歌を歌ってたら、画面にヒロインのアスカ・ランバ・ラルが出てきたのね。普通、隣に私がいるんだから目を逸らすよね。なのにずっと見たまんま歌ってたんだよ。本当にひどいよ……」
(それ、歌詞を見てただけじゃ……)
「私、耐えられなくなって『浮気者~』って叫んでダーリンに別れるって言っちゃった」
静奈ちゃんは泣いてしまった。俺は泣いている静奈ちゃんをただ見ているしか出来なかった。
◇
放課後、俺はタカシに昨日の出来事について聞き出そうとしたが、タカシは俺を見るなり逃げ出した。俺は追いかけ何とか人けのない校庭の隅に連れて行った。
重苦しい雰囲気の中タカシは俺に静奈ちゃんに振られたと報告した。
「やっぱり僕なんかが彼女を持っちゃいけないんです」
「そんなことないよ、タカシくんは恋愛に慣れてないだけだよ……」
「僕、女の子にどうしていいかわからないんです。女の子の考えていることがわからない」
「そ、それじゃあ私で練習する? デートの練習とかしてあげられるよ」
「響さん、僕なんかに気をかけてくれてありがとうございます。でももう女の子はいいです、僕は一人で生きていきます。恋愛なんか僕には無理です。一人のほうがいい……」
(やばいな……)
タカシは相当傷ついているみたいだ。このままでは、また死ぬまで孤独でいてしまう。俺はタカシに恋愛の素晴らしさを教えなければと思った。こうなったら、タカシに男の理想の恋愛を体験させよう。恋愛の幸福を味合わせるのだ。そうすれば、また女の子に興味を持つだろう。
俺は決心した、タカシの彼女になるのだ。それも理想の……
まずは理想の告白をしてタカシの彼女になろう!
「た、タカシくん! 好き! 私、前からタカシくんのことが好きだったの!」
タカシは突然の俺の告白に反応できず呆然としている。状況が飲み込めないようだ……
俺はタカシの胸に飛び込んだ。
「わ、私、タカシくんのお嫁さんになりたい!」
タカシはまだ硬直している
「私はタカシくんに会うために生まれてきたのかもしれない……」
「私の人生半分あげるからタカシくんの人生半分ください……」
「タカシくんがいないと私生きていけない……お願い、彼女にして……」
タカシは胸に飛び込んだ俺を抱くこともなくただ立ちすくんでいる。
「彼女にしてくれなかったら、今ここで舌を噛んで死にます……」
タカシがなにか焦った素振りをみせた。もう一押しだ……
「私じゃダメ……かな……」
タカシはビクッとした
「好き……だけじゃダメなの……」
「タカシくんを幸せにします……」
「お願い、うんと言って……」
タカシは俺の勢いに押されたのか小さい声で「うん」と言った。
「うれしい……ふつつかものですがお願いします……」
「アハ! 私、嬉しくて涙出て来ちゃった……」
タカシが焦る
「抱きしめて……」
胸の中にいる俺を震える手で少しだけ抱えるように抱いた。
「好きよ……」
「ご主人様……」
「響ちゃん!僕どうしたら……」
「いや……ひ…び…き…って言って…………学校以外で……」
(学校では付き合っていることは隠さねば……俺と付き合っていることがわかったら誰もタカシに興味を持たないだろう……)
こうして、俺たちは付き合うことになった。
校庭で抱き合う俺達を遠くからナナミちゃんが見つけてしまったとは知らずに……




